「熱闘」のあとでひといき

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中央大学 vs 日本大学(2012.10.27)の感想

2012-10-28 10:45:42 | 関東大学ラグビー・リーグ戦
[キックオフ前の雑感]

今シーズンのリーグ戦グループの主戦場は京王線沿線に移動し、過去多くの試合が開催されていた熊谷は最初の2週間のみ。上柚木、キャノングランドが3回で本日の味スタ西競技場は飛田給。電車の乗り換えを間違えて遅刻しそうになったり、歩いていて道に迷ったりといろいろあったが、今は新宿から目をつむっても京王線の3番ホームに行ける。慣れとは恐ろしいものだ。でも、考えてみれば、法政、中央、日大、拓大の各チームは熊谷や秩父宮よりも遙かホームからの移動距離が短い。ファンだって大学の近くで試合がある方が足を運びやすいはずだ。ただ、今日の味スタ西は、陸上トラック付きでピッチまでが遠く、視界に入るテントがどうしても気になってしまう点が残念。キャノングランドのような球技専用スタジアムがもっと増えてくれればいいのにと思ったりもする。

さて、この試合のプレビューで日大と中央の相性(因縁対決)のことを少し書いた。記録と記憶を辿ってみると、実は日大の中央に対する苦手意識はまだまだ残っている。去年、日大が快勝したのでついつい忘れていたが、加藤HC就任1年目では勝てる試合を落とし、2年目もミス多発であと1本が決められずに勝利を逃している。「中央に勝ちきれない日大」はどっこい健在なのである。さらに、今シーズンは関東学院戦での圧勝に象徴されるように中央の仕上がりが例年になくいい。拓大にやっとのことで逆転サヨナラ勝ちを収めた日大と比べると、明らかに分がよさそうだ。組織力や基礎技術の確かさは日大の方が上回っているが、個々の強さでは中央に軍配が挙がる。

日大は小川主将の卓越したキャプテンシーのもと、ほぼ不動のメンバーでここまで来ている。拓大戦も苦戦はしているが、緒戦の関東学院戦で披露したFWとBKの連携のよさにさらに磨きがかかった印象だ。東海大戦にしてもゼロ敗は喫しているが、アタックの内容(魅力)では日大の方が上回っていた。この試合ではさらに進化した姿を見せてファンの前で勝利を収めたいところ。中央に比べるとパワー不足に感じられる点はあるものの、拓大戦で自信を掴んだ(ように見えた)マイケルへの期待が高まる。一方の中央も負傷者が居る関係でなかなかベストメンバーを組めない状況だが、過去数シーズンに比べたらベストの陣容と言える。注目選手はもちろんFB羽野だが、山北と高橋拓で組むCTBコンビも魅力十分。このトリオのタテ突破は日大とって脅威になるはず。この試合も「実力伯仲の中位集団」を象徴するような僅差の戦いになることを期待してキックオフを待った。

[前半の闘い]

やや強い風がメインスタンドから観て右から左に吹く中、風下に陣を取った日大のキックオフで試合開始。序盤からキックを交えたオープン展開合戦が繰り広げられる。ただし、中央はBKのサイズを活かしたタテ突破に特徴があり、逆に日大は細かい連携を重視したヨコへの展開に特徴があるといった具合にタイプが違うチーム同士によるボールが大きく動くラグビーは戦いは見応え十分。やはり、秋の青空には弾けるような展開ラグビーがよく似合う。それにしても、タテに前に出る時の中央の破壊力には凄まじいものがある。このゲームの最初の得点はそんな中央の持ち味が活きる形で記録された。7分、日大陣10m/22m付近でのラインアウトから中央はオープンに展開しタテ突破の継続で最後はFB羽野がタックラーを弾き飛ばしながらゴールラインを越えた。GKは失敗したものの、決めるべき人が決めた中央が幸先よく5点を先制した。

エースの心強い得点に勢いに乗るかと思われた中央だったが、日大も負けていない。CTBマイケルを除けば強力なタテを武器とした選手はいないものの、日大には柔軟性のあるヨコへの繋ぎがある。そして、日大の攻撃を観ていると、両チーム間には組織力に明らかな差があることもわかる。後で考察することになるが、年数を重ねた積み上げの有無がここまではっきり出るのだろうか?と思えるくらい。中央のアタックは確かに脅威ではあるのだが、初期段階でしっかり止められたらすぐに手詰まりになってしまう。去年ほど顕著ではないにせよ、すぐにBKラインに並んでいるのはFWの選手ばかりというミスマッチになってしまうのだ。逆に日大はフェイズを重ねても陣形がほとんど乱れない。また、形が崩れかけてもFWがしっかり体制を立て直すので破綻がない。SH小川が縦横無尽に動いてテンポよくボールを動かし、日大のアタックにリズム感を持たせる形がいよいよ完成したようだ。観ていて楽しいし、ピッチ上の選手達はそれ以上かも知れない。

12分、日大は中央陣22m手前でラインアウトのチャンスを掴む。FWがサイドアタックでボールを動かした後オープンに展開。そこにブラインドサイドからライン参加したWTB瀧水がボールを受け取って中央DFを切り裂きゴールラインに到達。GKも成功し、日大が7-5と逆転に成功した。日大の攻勢は続く。14分の中央陣22m内でのラインアウトのチャンスはボールの捕獲に失敗するもののボールを拾った小川が巧みに前に出てラックを形成。FWのサイドアタックで攻め続けゴールラインを越えたかと思われたがノットリリースを取られてチャンスを逸す。普段はBKへのボールの供給に徹する小川だが、いざとなれば密集でも巧みな身のこなしでボールを前に運ぶことが出来る。相手にとっては1プレーで局面を変えることができる厄介極まりない選手だと思う。

テンポよくボールを繋ぎ続ける日大のペースで試合は進む。FWとHB団の連携と思い切ったオープンに展開。加藤HC体制になってからの日大が目指していたスタイルだが、ようやく開花したと言うべきか。根底にあるのは小川の巧みなコントロールもさることながら、FWの選手達のパワーアップと連携による意思統一が上手く行くようになってきたことが大きい。ここで大きいのはNo.8高橋の存在。判断がいいためか動きに無駄がない。相手が蹴ってきそうな状況になれば、さっと後ろに下がるなど、SH小川をかなり助けている面もあるように思われた。まだ2年生だが既に日大FWの核として機能している。ただ、日大が圧倒的な攻勢にあるなか、中央も身体の強さを活かしたディフェンスで対抗する。組織的に網が張られた整った形ではないものの、気迫で止めている感じ。日大は球出しが遅れたところでの反則が目立つ。

日大がなかなか追加点を奪えない中で、中央にチャンスが訪れる。27分、日大が自陣で犯した反則をきっかけにタップキックで速攻を仕掛けて一気に日大ゴール前へ。スクラムからサイドアタックを繰り返しあと一歩でゴールラインを越える状況となるものの、日大もここは粘りのディフェンスを見せる。日大が何とかピンチを凌ぎキックを使ってボールを中央大陣まで戻したところで中央に痛い連携ミスが出てしまう。中央大陣22m内でのこぼれ球を日大のCTB徳留が拾って一気にゴールラインを越えた。GK成功で14-5とようやく得点板が動いた。日大は畳みかける。HWL付近からのアタックでラインブレイクに成功しラックから素速くオープンに展開。パスを受けたCTBマイケルがチップキックでウラを狙いボール捕獲に成功してそのままゴールラインを越えた。日大にとってもっともブレイクして欲しい選手は(ボールが渡ったときに上がった歓声をため息に変えることが多かった)マイケル。その原因は精神的な部分にあると観ていたが、拓大戦でのトライでようやく自信を掴んだ感がある。そのことを証明するのがこの試合では?と思っていたのだが、小技を使ったとは言え確信を持ったプレーぶりによりしっかり確認できた。その後もマイケルはディフェンス面だけでなく、ロングキックや攻撃面でもひと皮むけたことを示していた。

38分の追加点で21-5と日大のリードがさらに拡がった。このまま前半が終了するかと思われたが、中央は41分にWTB高橋が右中間30mのPGを決めて3点を返す。鮮やかな連続攻撃を見せてボールを支配し続けた日大だったが、リードは2T2Gで逆転されてしまう13点。このあたりがラグビーの不思議なところであり、面白いところ。中央にとって、この3点は後半に逆転の望みをつなぐ意味でも大きい。何と言っても中央にはタテ連発の怖さがある。

[後半の闘い]

後半開始早々、気持を入れ替えて臨んだ中央が持ち味を存分に発揮したダイナミックなオープン展開を見せる。一気にそのままゴールラインまで行ってしまうと誰もが思ったのだが、惜しくもスローフォワードがあり日大は命拾いといった感じ。しかし、中央の勢いは止まらない。自陣に攻め込まれてもターンオーバーでボールを取り返して前へ。HWL付近のラインアウトからオープンに展開したところで日大がたまらず反則を犯す。ここで、中央は間髪入れずタップキックから仕掛けてFL徳永が一気にゴールラインを越えた。GK成功で15-21と中央のビハインドは1T1Gで逆転可能な6点に縮まる。日大の華麗な連続攻撃に見とれている時間帯が多いはずなのに、点差は僅かに6点。一発の怖さとも言えるがラグビーはなかなか理不尽で面白いスポーツだ。

しかし、中央が元気よくせめることが出来たのもここまでだった。後半は風下に立ったこともあり、日大のたくみなエリアマネジメントの前に、殆どHWLを越えることが出来ない劣勢に陥ってしまう。日大のSH小川は本当に前がよく見えている。拓大戦ではPKを再三ノータッチにしてピンチを招いていたが、本日のキックは完璧なコントロールでことごとく絶妙なタッチキックとなり、中央を自陣に釘付けにしてしまう。21分には中央陣で得たPKの場面でショットを選択し24-15とリードを9点に拡げる。拓大戦では果敢なギャンブルで勝利を呼び込んだ小川だったが、本日は至って慎重。状況から見てもここは確実に点差を広げるという判断だったのだろう。ホームラン性の一発(羽野の突破)がある中央とは言っても、自陣から連携してインゴールまでボールを持ち込む組織的な継続性は(残念ながら)持ち合わせていない。中央がなかなかHWLを越えられないまま時計はどんどん進む。同じ9点差(前節の拓大が日大に対してリードしていたときの点差)でもこんなに違うものなのか。

試合終了に近づいた38分と40分に日大はダメ押しとなる2トライを重ねる。1本目は中央ゴール前ラインアウトからサイドアタックでボールを中央付近まで運び、ラックから右オープンに展開してWTBがゴール右隅に決めた。また、2本目も継続攻撃から右タッチライン際をマイケルが快走して余裕を持ってトライ。右隅からのGK(ボールをプレース下位置は10mライン付近だった)を小川が鮮やかに決めて勝利に華を沿えた。中央は鮮やかなタテ突破で印象的なプレーを見せたものの、日大の巧みなボールコントロールとエリアマネジメントの前に完敗を喫してしまった。もし、ラグビーが得点だけでなく採点も加味されて勝敗を決めるスポーツだったら点差は倍以上になっていただろう。日大の4年間の積み上げの成果を感じずにはいられない戦いだった。

[試合後の雑感]

ここまで今シーズンのリーグ戦の試合を11試合観たが、今リーグ戦グループで一番観ていて楽しいラグビーができているチームは日大であると断言できる(ちなみに次点は拓大)。小川という名スキッパーが居ることもあるが、とにかく面白いようにボールが繋がり、それが変幻自在のアタックに繋がっているのだ。ただ、まだどうしても個々のパワー不足の面があり爆発的な得点力を得るには至っていない面があるが、マイケルがブレイクしたことでそれも解消されるはず。阿多監督時代のような個々が魅力的に輝く日大の時代は終わったが、組織力が整備された中で個が活きる日大もなかなか魅力的ではないだろうかと思うようになってきた。加藤HCというとどうしても東海大のラグビー(選手が組織を意識するあまり雁字搦めになって個性が活きないことが多かった)を連想させる。でも、東海大での立場はあくまでもコーチだ。当然監督とは思い描くラグビーも違ったはず。4年間をかけて選手に意識改革を成し遂げただけでなく、自身の理想とするチームを作り上げることに成功しつつあるのかも知れない。どうも加藤HCに対しては誤解している部分があったのかなという想いをこの試合からは抱かざるを得ない。

対する中央は今のままならここまでが限界という気がする。大学ラグビーの宿命とは言え、毎年毎年がリセットになる面は仕方ないが、経験に基づいて積み上げていくべき部分もあるはずだ。日大にも中央にも同じ4年間が与えられているのだが、日大は劇的とも言えるくらいにチームが進化している。得点差には表れなくてもゲーム内容を見れば一目瞭然だ。もちろん中央が努力をしていないということではなく、努力の方向性の違いが現れているということ。ラグビーの内容で日大との差を埋めるのは、今から改革に取り組んでも(東海大の例を見るまでもなく)日大より多くの年数を擁することになるだろう。しかし、中央の選手達がもし後で試合をした拓大のラグビーをじっくり観ていたら、希望を持つことが出来るはずだ。自分たちよりも体格面で恵まれておらず、シーズン当初はダントツの最下位候補と観られていたチームが東海や流経大と堂々と渡り合っているのだ。それも、基礎練習とチームの意志統一の徹底といったけっして難しくない方法で。佳きライバル達をいいお手本としてチーム力アップに取り組んで欲しいところだ。
コメント (1)
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