「熱闘」のあとでひといき

「闘い」に明け暮れているような毎日ですが、面白いスポーツや楽しい音楽の話題でひといき入れてみませんか?

東海大学 vs 関東学院(2012.10.28)の感想

2012-10-31 01:51:31 | 関東大学ラグビー・リーグ戦
[キックオフ前の雑感]

音楽用語だとばかり思っていたら、最近は(でもないか)スポーツ界でも頻繁に使われるようになった「リスペクト」という語。なかなか日本語でどんぴしゃの単語にぶち当たらないが、何となく意味することは判るし、便利だから使ってしまう。スポーツなら「リスペクト」は強いチームへの憧れ、そして尊敬の念と考えるのがしっくりきそうな気がする。

関東大学ラグビーのリーグ戦グループにあっては、関東学院は「リスペクト」を集める存在の筆頭と言っていいだろう。本日対戦する東海大にとっても「目指せ!大学日本一」のスローガンのもとに1部復帰を果たした時から常に目標であり続けたチーム。何度チャレンジしてもはね返され続けた大きな壁であると同時に、「リスペクト」の対象であったことは間違いない。挑戦を受けた関東学院にしても、力の限りチャレンジャーを叩きのめすことで「リスペクト」に応え続けてきたように思う。今の東海があるのは関東学院があったから。関東学院を倒すことで目標とする日本一の一歩手前まで近づくことができた。

でも、「リスペクト」とは、「力の象徴だけ」に留まるものなのだろうか? 長年ラグビーに親しんできたいちファンはそう考える。単純な話、力を失ったらリスペクトも失われてしまうのだろうか? チームとしてラグビーに対峙する姿勢、求めるクオリティが変わらない限り「リスペクト」は簡単に失われてしまうものではないはずだ。

果たして、両チームのメンバー発表。東海大はLO三上の復帰やルーキー(WTB石井)の初起用といったお試しに近い部分はあるにせよ、基本的にはベストの布陣。ここからの3戦は、過去4戦での反省点も踏まえつつ、チームを完成させるためにとても重要な戦いになる。中でも大事な一戦は本日の関東学院戦であるはずだ。関東学院の今シーズンの不調は十分に認識していても、「リスペクト」していたチームは当然現状でのベストメンバーで戦いに臨んでくるはずという希望も込めて。

しかしながら、関東学院のメンバー表を見て愕然とした。「これは(失礼ながら)まちがいなく3桁行くだろう。」と瞬間的に思った。なぜここまでして?という思いを禁じ得ない。東海大の関係者や選手達が受けた衝撃はそれ以上だったのではないだろうか。その時点で「リスペクト」は精神面で崩壊したものと察せられる。「なぜ、このメンバーなんだ!」と。もちろん、選ばれた選手達に責任はない。彼らを送り出した首脳陣にははっきり結果がどうなるかが判っていたはず。相手チームの力を冷静に分析することも大切な仕事のはずだから。

メンバーを知った段階で正直秩父宮に行く気持ちが萎えてしまったことは否定できない。日大と拓大が楽しいラグビーを見せてくれたとなるとよけいにそうなる。でも、しっかり「歴史」は見届けなければならない。いつもは東海大サイドを選ぶがこの日は関東学院サイドに座った。

ほどなくして両チームのメンバーが登場。いつもながらだが、試合が始まる前から東海大のメンバーは立派だ。相手の校歌が流れている間も直立不動。方や、じっとしていることが出来ない選手が半数。もちろん、大きな試合場でしかも強豪相手に試合をした経験がない選手達に落ち着けと言う方に無理がある。でも、相手に敬意を表することは最低限のマナーではないだろうか。

[前半の闘い]

さて、注目のキックオフは東海大。関東学院がボールを確保し損ねたところから東海大は一気にオープンに展開。案の定というか、関東学院の選手達はタックルにも行けないままにボールはWTBまで回りあっという間のノーホイッスルトライ。この1プレーがこの試合のすべてだった。精神面だけでなく、物理的な部分でも東海大の関東学院に対する「リスペクト」は僅か22秒で失われてしまった。「マイボールを確保したらオープンに展開するだけで簡単に取れてしまう」という現実が明らかになった時点で、東海大の選手達はモチベーションをどうやって保てばいいか悩む事になったはずだ。

関東学院の学生達が陣取った応援席の様子も異様。「ちゃんとタックルしろ!」という檄も空しく響くだけだ。選手達はそんなことは百も判っている。行きたくても行けないのは観ていても十分にわかる。そんなことは、送り出している側も判っているはずなのに何故?という想いを禁じ得ない。

観戦メモは取っているのだが、確実に東海大の得点が増えていく中で、書けることが殆どない。東海大も個人で行けてしまう分、どうしても連携や精度が甘くなる。しかし、選手達に気を引き締めろと言う方が酷だと思う。前半は8トライ6ゴールの52点で完全に3ケタペース。まだ、あと40分も残っているのだ。

[後半の闘い]

後半も前半同様にどんどん東海大側の得点板の数字が増えていく。関東学院も時折FWでボールを前に運ぶことはできているし、そういった練習を積んでいることは伺われる。だが、攻めれば攻めるほどラインに立つ人数が減っていく悪循環は免れない。そして、ターンオーバーされたらどこからでも一発で取られてしまう。ディフェンスでタックルできないのは、組織的に立ち向かわなければならない相手に個人でバラバラに対応しなければならない状況になっているから。やはり、ディフェンスは急造メンバーでは難しい。

試合終了まで残り3分を残した段階で東海大は遂に3ケタ得点を達成。記録用紙のトライを記録する欄も使い切ってしまったのは初めてだ。スコアが112-10となったところで試合は終了した。体調不良や怪我があるとは言え、ここまでチームを崩壊させる必要はなかったはずという想いを禁じ得ない。緒戦から何かおかしかった。せめて、春シーズン(交流戦)後半のメンバーを中心にして、戦術を固めてチームを熟成していけばこんなに失点することはなかったのに...

試合終了後、両チームのメンバーが挨拶を終えたところで、いつもなら東海大の主将が副将2人を引率して相手ベンチに挨拶に赴く。ところが、この試合に限ってはそんな光景は(私自身が観ていた範囲では)見られなかった。この場面がすべてを物語っているように感じた。東海大の「リスペクト」はやはり失われてしまっていたことを。

[試合後の雑感]

今回は、本当の感想文になってしまった。とにかく関東学院は失われつつある「リスペクト」を取り戻すことが急務だと思う。部員たちが陣取る応援席から飛んでくる声からも感じられたことだが、関東学院は力を失うと同時に大切な仲間(味方だけとは限らない)のサポートも失いつつあるようだ。ここ10数年に限ってもきら星が如くのOBがいる関東学院だから、彼らの支援を受けるだけでもチーム力は確実に上がるはず。だいいち母校のために一役買いたいと思っているOBが居ないと考える方が不自然だ。「創業者」が孤軍奮闘での再建に拘っている限り、チーム状態はますます混迷の度を深めていくような気がしてならない。

リーグ戦のひとつの歴史が終わってしまうのを観るのは忍びないし、それはとても哀しいことだ。
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流通経済大学 vs 拓殖大学(2012.10.27)の感想

2012-10-29 01:23:17 | 関東大学ラグビー・リーグ戦
[キックオフ前の雑感]

今シーズンの拓大の試合を観るのは春シーズンの立教戦も含めて今日で6試合目。巡り合わせの面はあるにせよ、ここまで観たら、相手が「熱闘」のルーツ校である流経大であっても情が移らないと言ったらウソになる。また、このチームは実にその期待に応えてくれるので観に行かないわけには行かなくなる。ある高名なジャズミュージシャンが「あなたがベストと思うアルバムはどれですか?」と問われて、「次に出るヤツだ。」と答えたという逸話がある。同じ事は拓大にも言えそうだ。それくらい1試合1試合での進化をはっきりと観ることが出来るのだ。ここまでの拓大のベストゲームは先週の日大戦。ここでようやくBK展開で取る形を見せてくれた。勝てた試合を落としたことに対する落胆はあったかと思うが、気持を切り替えてさらに魅力的なラグビーを見せて欲しい。本日のメンバーも右WTBの入替とリザーブメンバーの1名変更があったものの(ほぼになったが)完全固定状態が継続していて期待は高まる。

一方の流経大だが、ここまで4連勝できているとは言うものの、まだチーム状態は盤石ではないようだ。もともとは主力メンバーの卒業に起因するFWメンバーの大幅入替など、チーム再構築の年になっているから致し方ない面はある。しかしながら、春シーズンの帝京戦で見せた(それまで落胆を隠せなかったリーグ戦グループ関係者に救いをもたらしたとも言える)大健闘で期待は大いに高まったのだった。だから、伸びしろを考えると先行する東海大を上回るチームが出来るかも知れないとの期待を持っている。法政に薄氷を踏む思いで勝利を収めたというような状況に対しては、どうしても不安感を抱いてしまうのだ。BKメンバーの固定が急務なように思われる。

春シーズンではSOはオペティが担っていた。FW第3列にボールキープ力の高い辻と高森が居る状況ならFW周辺で確実にボールを前に運ぶラグビーで相手を圧倒することも可能という意味ではよい選択だった気がする。一方で、流経大にはWTBにリリダムという切り札中の切り札になり得るフィジアンが居る。彼の特徴を活かすならば、素速いオープン展開と言うことになるだろう。となると留学生の出場人数が限られる中で、SOは展開重視タイプにしたい。また、BKにはCTBとFBをこなせる矢次が居る。そんな状況もあり、流経大は先発SOをオペティにするか合谷するかという選択肢を持つことになったようだ。だが、FWのメンバーが殆ど替わった中で、流経大は2つのチームを起用に使い分けることが出来るのだろうかという疑問点にも突き当たる。

数試合を経て、結局SOのファーストチョイスは合谷になったかっこうだが、先発WTBリリダムに期待されたほどのトライが生まれていないという現実がある。高森や辻に加えてFL今野、LO日暮、そしてHO植村と言った走力のある選手をFWに揃えた流経大だから、相手のFW次第では彼らだけで取れてしまうことで、なかなかWTBで取る形が出来ていないのも無理からぬ事。時期的に観ても、流経大はそろそろ戦術を固めなければならない時期にきているので、この試合では合谷からWTBまで巧くボールを繋いで決める形を確立したいところ。拓大も本来は持ち味のオープン展開で勝負する形が見えてきている。この試合も第1試合に劣らずボールがワイドに動く展開となることを期待したい。

[前半の闘い]

第1試合と同様、やや強い風がメインスタンドから観て右から左に吹く中、風下に陣を取った流経大のキックオフで試合開始。拓大のキックオフのキャッチングは一人の選手がジャンプしてボールを捕獲し、すぐにサポートが入ってモールにするというもの。東海大戦までは成功していた方法だが、日大戦では相手に研究されて対策を立てられた。さらに、流経大には長身かつ手が長いリリダムが居て簡単にはボールを確保させてくれないという現実に突き当たった。しかしながら、開始2分で拓大は流経大陣22m付近でラインアウトの絶好のチャンスを掴む。こうなれば拓大のやることはただひとつ。最後尾にウヴェを配する形でモールを組んで前進しトライを取る。だが、ボールを確保できずにあえなく失敗する。

しかし、ピッチ上だけでなくゲームの流れにも拓大にフォローの風が吹いている。3分にも流経大陣22m内でラインアウトのチャンス。今度こそウヴェでと思いきや、拓大は果敢にオープンに展開してきた。そしてフォローしたLO森田がゴールラインを越えて先制トライ。ウヴェではなくオープン展開のトライは意表を突くものだったが、実はこれこそが拓大が目指す形であることはその後すぐに分かることになる。さて、問題はプレースキック。日大戦は1/7という散々な結果だっただけに観客はこの日のキッカーとして指名されたSH岩谷が蹴ったボールの行方を固唾を呑んで見守る。見事に成功! このことで拓大応援席は安堵するとともに、複雑な空気も流れる。なぜ日大戦で起用しなかったのかという思いを誰もが抱いたはずだから。

それにしても、本日の拓大はしっかり気持を切り替えることが出来ているようだ。いや、それどころか前年度覇者を相手にしても堂々たる戦いが出来ている。つい1ヶ月半前に観たどこか自信なさそうに見えたチームとは完全に別のチームになっている。それと戦術面でも、今日はまるで去年までの拓大を彷彿とさせるような目の覚めるようなオープン展開で攻める。拓大はやっぱりこのラグビーがやりたかったのだということに気付かされた。最初はFW中心でボールキープを続けながら手堅く前にボールを運ぶラグビーに徹し、自信を掴んだところでオープン展開に対する封印を解く。ここまで実戦を通じてのチーム作りのプロセスが上手くいった例を見たことがない。これは流経大にとっても想定外だったかも知れない。

前年度優勝チームと最下位チームの対戦とは思えない互角の展開の中で17分、流経大がようやくトライを返す。拓大陣10m/22mでのラインアウトを起点にSO合谷が巧みなステップでウラに抜けることに成功。いい形でボールが渡ればリリダムを止めることは難しい。卓越した個人能力で流経大が1トライ返した。合谷のGKも成功して7-7となり試合は振り出しに戻った。ルーキーながら合谷のプレースキックは安定している。その後も合谷は難しい位置からもキックを決め続ける。

しかし、拓大の勢いは止まらない。26分、流経大ゴール前でのラインアウトからモールを経てサイドアタックで前進して流経大ゴールに迫る。そして、最後はウヴェが決めた。さて岩谷のGKは? またしてもポスト中央に吸い込まれる完璧なキック。あまりにも見事なキックだけに拓大応援席の「何で?」の思いは強まる。これで拓大のリードが再び7点となる。直後の30分にも拓大はオープン展開から流経大ゴールを脅かすが、ゴール目前でタッチに押し出されてしまう。拓大の時間帯はまだまだ続く。37分、流経大が自陣22mライン手前で犯したペナルティに対して拓大がクイックリスタートで攻めてゴール前でのラックからオープンに展開。ここで完全なオーバーラップができ、そのまま行ってもよし、DFを引きつけてラストパスでもよしという状況が生まれた。

そして100人中95人が1トライ追加と思った瞬間大きなため息が観客席から漏れた。何とパスは山なりとなって受け取るはずだった選手の後方に転々と転がりタッチを割ってしまった。ちなみに95と言う数字は隣で観戦していた友人が「95%トライだったのに惜しい!」と言ったことで出たものだ。しかし、このプレーには同情を禁じ得ない。何せ、過去4戦(すべて観戦)でこんなにきれいな形でオープンにボールが回ったのは皆無だったから、プレーヤーは慎重を期したのかも知れない。またしても拓大の試合記録に大きな「残念!」の文字が記載された。

このまま拓大が7点リードのまま前半が終わるかと思われた41分、流経大は自陣22m付近でのスクラムから(王者の意地を見せるが如くの)怒濤の連続攻撃を見せてあっという間に拓大陣22mまでボールを運ぶ。ここで拓大に痛い反則があり、合谷がPGを確実に決めて14-10と拓大が4点をリードする形で前半が終わった。それにしても、1試合ごとに確実に進化を遂げる拓大は恐ろしいチームだ。前年度覇者に対して気後れするどころか堂々と戦いを挑んでいる。ただ、流経大もこのまま攻められ続けて終われないはず。後半はよりヒートアップした試合を観ることができそうだ。

[後半の闘い]

拓大の想定外とも言えるオープン展開を主体とした真っ向勝負の前にタジタジとなった前半の流経大。おそらくハーフタイムで相当にネジを巻かれたのだろう。後半はキックオフから闘志をたぎらせる形で反撃に転ずる。キックオフから僅か2分、流経大はHWL付近のラインアウトから得意のモールを組んで拓大FWの塊をおしこむ。10mラインを越えた当たりで拓大に反則があり、合谷が40m近い距離のPGを鮮やかに決めた。これで拓大のリードは僅か1点に縮まってしまった。流経大も中位グループに仲間入りかと思わせるくらいの緊迫した好ゲーム。主役は間違いなく拓大だ。アタックだけでなく、ディフェンスでも低いタックルをダブルでといった形で流経大にいい形を作らせない。

流経大に勢いが出てきた中で拓大も渾身のディフェンスで応えるといった、流経大優位ながらも膠着した展開の中で18分、ようやく得点板が動いた。口火となったのはエースのリリダム。怒濤の突破に続く形でフォローしたFL辻、No.8高森といった流経大の看板選手達が豪快に前にボールを運びFB廣瀬がゴールラインを越えた。GK成功で流経大は20-14と遂に逆転に成功する。といっても点差は拓大が1T1Gで逆転可能な6点差。ここから、逆転を目指した拓大の怒濤の攻撃が始まる。27分には22m付近でのラインアウトを起点としたオープン展開の連続でゴールを目指すが目前でノックオン。拓大は、逆転まで間近なのにゴールラインの最後の数mを越えられない。

流経大も後半22分からはリリダムに替えてオペティを投入し、攻め続けながらも逃げ切りを図る。そして、試合はいよいよインジュリータイムに。拓大に1発逆転サヨナラの可能性が残されているだけに、観客席も興奮の坩堝と化す。昨年度最下位のチームが同優勝チームを破る歴史的瞬間に立ち会えるかも知れないのだ。しかし、流経大は慌てない。苦戦は強いられても、前年度覇者のプライドがある。終了間際の42分に合谷がゴール正面40mのPGを決めてリードを9点に拡げ、激戦に終止符を打った。なかなかノーサイドのホイッスルが吹かれない中で、何とか1トライ返そうと拓大の気迫のこもった攻めが続く中、45分が経過したところで試合終了となった。場内からは拓大の大健闘に対して熱い拍手が贈られたことは言うまでもない。つい1週間前の選手達の背中は確かに泣いていたが、今日は笑っているように見える。今日は、あと一歩のところで勝利を逃した悔しさよりも自分たちのやりたい形で強豪相手に堂々と渡り合えた満足感が選手達には充満していたのかも知れない。本日の拓大のオレンジは1週間前よりもさらに輝きを増したように見えた。

[試合後の雑感]

本文中にも書いたが、拓大の短期間での急速な進化には驚きを感じずにはいられない。春の段階では今年も入替戦行きが有力視されていたチームが、優勝候補に肉薄するところまで来た。残りは2試合で少し時間が空く。ようやく手に入れた(取り戻したとも言える)自分たちのスタイルにさらに磨きをかけて思う存分戦い、大学選手権への出場切符を手にして欲しい。第1試合で素晴らしいパフォーマンスを見せた日大とともに、全国のラグビーファンに観てもらいたいチームだから。

流経大はけして受けてしまったわけでは無い。拓大の攻守にわたる健闘を讃えるべき試合。むしろ気になるのは冒頭でも指摘したとおり、流経大のチーム作りの遅れだ。当初構想のBKで司令塔他を使い分けるオプションがどっちつかずになっている印象もあり、また、FW3列に強力な選手を持つことがかえってチームの纏まりよりも個人で勝負せざるを得ない形になっているような印象も受ける。残り1ヶ月、固めるべき所はしっかり固めてチームを熟成させて欲しいところだ。
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中央大学 vs 日本大学(2012.10.27)の感想

2012-10-28 10:45:42 | 関東大学ラグビー・リーグ戦
[キックオフ前の雑感]

今シーズンのリーグ戦グループの主戦場は京王線沿線に移動し、過去多くの試合が開催されていた熊谷は最初の2週間のみ。上柚木、キャノングランドが3回で本日の味スタ西競技場は飛田給。電車の乗り換えを間違えて遅刻しそうになったり、歩いていて道に迷ったりといろいろあったが、今は新宿から目をつむっても京王線の3番ホームに行ける。慣れとは恐ろしいものだ。でも、考えてみれば、法政、中央、日大、拓大の各チームは熊谷や秩父宮よりも遙かホームからの移動距離が短い。ファンだって大学の近くで試合がある方が足を運びやすいはずだ。ただ、今日の味スタ西は、陸上トラック付きでピッチまでが遠く、視界に入るテントがどうしても気になってしまう点が残念。キャノングランドのような球技専用スタジアムがもっと増えてくれればいいのにと思ったりもする。

さて、この試合のプレビューで日大と中央の相性(因縁対決)のことを少し書いた。記録と記憶を辿ってみると、実は日大の中央に対する苦手意識はまだまだ残っている。去年、日大が快勝したのでついつい忘れていたが、加藤HC就任1年目では勝てる試合を落とし、2年目もミス多発であと1本が決められずに勝利を逃している。「中央に勝ちきれない日大」はどっこい健在なのである。さらに、今シーズンは関東学院戦での圧勝に象徴されるように中央の仕上がりが例年になくいい。拓大にやっとのことで逆転サヨナラ勝ちを収めた日大と比べると、明らかに分がよさそうだ。組織力や基礎技術の確かさは日大の方が上回っているが、個々の強さでは中央に軍配が挙がる。

日大は小川主将の卓越したキャプテンシーのもと、ほぼ不動のメンバーでここまで来ている。拓大戦も苦戦はしているが、緒戦の関東学院戦で披露したFWとBKの連携のよさにさらに磨きがかかった印象だ。東海大戦にしてもゼロ敗は喫しているが、アタックの内容(魅力)では日大の方が上回っていた。この試合ではさらに進化した姿を見せてファンの前で勝利を収めたいところ。中央に比べるとパワー不足に感じられる点はあるものの、拓大戦で自信を掴んだ(ように見えた)マイケルへの期待が高まる。一方の中央も負傷者が居る関係でなかなかベストメンバーを組めない状況だが、過去数シーズンに比べたらベストの陣容と言える。注目選手はもちろんFB羽野だが、山北と高橋拓で組むCTBコンビも魅力十分。このトリオのタテ突破は日大とって脅威になるはず。この試合も「実力伯仲の中位集団」を象徴するような僅差の戦いになることを期待してキックオフを待った。

[前半の闘い]

やや強い風がメインスタンドから観て右から左に吹く中、風下に陣を取った日大のキックオフで試合開始。序盤からキックを交えたオープン展開合戦が繰り広げられる。ただし、中央はBKのサイズを活かしたタテ突破に特徴があり、逆に日大は細かい連携を重視したヨコへの展開に特徴があるといった具合にタイプが違うチーム同士によるボールが大きく動くラグビーは戦いは見応え十分。やはり、秋の青空には弾けるような展開ラグビーがよく似合う。それにしても、タテに前に出る時の中央の破壊力には凄まじいものがある。このゲームの最初の得点はそんな中央の持ち味が活きる形で記録された。7分、日大陣10m/22m付近でのラインアウトから中央はオープンに展開しタテ突破の継続で最後はFB羽野がタックラーを弾き飛ばしながらゴールラインを越えた。GKは失敗したものの、決めるべき人が決めた中央が幸先よく5点を先制した。

エースの心強い得点に勢いに乗るかと思われた中央だったが、日大も負けていない。CTBマイケルを除けば強力なタテを武器とした選手はいないものの、日大には柔軟性のあるヨコへの繋ぎがある。そして、日大の攻撃を観ていると、両チーム間には組織力に明らかな差があることもわかる。後で考察することになるが、年数を重ねた積み上げの有無がここまではっきり出るのだろうか?と思えるくらい。中央のアタックは確かに脅威ではあるのだが、初期段階でしっかり止められたらすぐに手詰まりになってしまう。去年ほど顕著ではないにせよ、すぐにBKラインに並んでいるのはFWの選手ばかりというミスマッチになってしまうのだ。逆に日大はフェイズを重ねても陣形がほとんど乱れない。また、形が崩れかけてもFWがしっかり体制を立て直すので破綻がない。SH小川が縦横無尽に動いてテンポよくボールを動かし、日大のアタックにリズム感を持たせる形がいよいよ完成したようだ。観ていて楽しいし、ピッチ上の選手達はそれ以上かも知れない。

12分、日大は中央陣22m手前でラインアウトのチャンスを掴む。FWがサイドアタックでボールを動かした後オープンに展開。そこにブラインドサイドからライン参加したWTB瀧水がボールを受け取って中央DFを切り裂きゴールラインに到達。GKも成功し、日大が7-5と逆転に成功した。日大の攻勢は続く。14分の中央陣22m内でのラインアウトのチャンスはボールの捕獲に失敗するもののボールを拾った小川が巧みに前に出てラックを形成。FWのサイドアタックで攻め続けゴールラインを越えたかと思われたがノットリリースを取られてチャンスを逸す。普段はBKへのボールの供給に徹する小川だが、いざとなれば密集でも巧みな身のこなしでボールを前に運ぶことが出来る。相手にとっては1プレーで局面を変えることができる厄介極まりない選手だと思う。

テンポよくボールを繋ぎ続ける日大のペースで試合は進む。FWとHB団の連携と思い切ったオープンに展開。加藤HC体制になってからの日大が目指していたスタイルだが、ようやく開花したと言うべきか。根底にあるのは小川の巧みなコントロールもさることながら、FWの選手達のパワーアップと連携による意思統一が上手く行くようになってきたことが大きい。ここで大きいのはNo.8高橋の存在。判断がいいためか動きに無駄がない。相手が蹴ってきそうな状況になれば、さっと後ろに下がるなど、SH小川をかなり助けている面もあるように思われた。まだ2年生だが既に日大FWの核として機能している。ただ、日大が圧倒的な攻勢にあるなか、中央も身体の強さを活かしたディフェンスで対抗する。組織的に網が張られた整った形ではないものの、気迫で止めている感じ。日大は球出しが遅れたところでの反則が目立つ。

日大がなかなか追加点を奪えない中で、中央にチャンスが訪れる。27分、日大が自陣で犯した反則をきっかけにタップキックで速攻を仕掛けて一気に日大ゴール前へ。スクラムからサイドアタックを繰り返しあと一歩でゴールラインを越える状況となるものの、日大もここは粘りのディフェンスを見せる。日大が何とかピンチを凌ぎキックを使ってボールを中央大陣まで戻したところで中央に痛い連携ミスが出てしまう。中央大陣22m内でのこぼれ球を日大のCTB徳留が拾って一気にゴールラインを越えた。GK成功で14-5とようやく得点板が動いた。日大は畳みかける。HWL付近からのアタックでラインブレイクに成功しラックから素速くオープンに展開。パスを受けたCTBマイケルがチップキックでウラを狙いボール捕獲に成功してそのままゴールラインを越えた。日大にとってもっともブレイクして欲しい選手は(ボールが渡ったときに上がった歓声をため息に変えることが多かった)マイケル。その原因は精神的な部分にあると観ていたが、拓大戦でのトライでようやく自信を掴んだ感がある。そのことを証明するのがこの試合では?と思っていたのだが、小技を使ったとは言え確信を持ったプレーぶりによりしっかり確認できた。その後もマイケルはディフェンス面だけでなく、ロングキックや攻撃面でもひと皮むけたことを示していた。

38分の追加点で21-5と日大のリードがさらに拡がった。このまま前半が終了するかと思われたが、中央は41分にWTB高橋が右中間30mのPGを決めて3点を返す。鮮やかな連続攻撃を見せてボールを支配し続けた日大だったが、リードは2T2Gで逆転されてしまう13点。このあたりがラグビーの不思議なところであり、面白いところ。中央にとって、この3点は後半に逆転の望みをつなぐ意味でも大きい。何と言っても中央にはタテ連発の怖さがある。

[後半の闘い]

後半開始早々、気持を入れ替えて臨んだ中央が持ち味を存分に発揮したダイナミックなオープン展開を見せる。一気にそのままゴールラインまで行ってしまうと誰もが思ったのだが、惜しくもスローフォワードがあり日大は命拾いといった感じ。しかし、中央の勢いは止まらない。自陣に攻め込まれてもターンオーバーでボールを取り返して前へ。HWL付近のラインアウトからオープンに展開したところで日大がたまらず反則を犯す。ここで、中央は間髪入れずタップキックから仕掛けてFL徳永が一気にゴールラインを越えた。GK成功で15-21と中央のビハインドは1T1Gで逆転可能な6点に縮まる。日大の華麗な連続攻撃に見とれている時間帯が多いはずなのに、点差は僅かに6点。一発の怖さとも言えるがラグビーはなかなか理不尽で面白いスポーツだ。

しかし、中央が元気よくせめることが出来たのもここまでだった。後半は風下に立ったこともあり、日大のたくみなエリアマネジメントの前に、殆どHWLを越えることが出来ない劣勢に陥ってしまう。日大のSH小川は本当に前がよく見えている。拓大戦ではPKを再三ノータッチにしてピンチを招いていたが、本日のキックは完璧なコントロールでことごとく絶妙なタッチキックとなり、中央を自陣に釘付けにしてしまう。21分には中央陣で得たPKの場面でショットを選択し24-15とリードを9点に拡げる。拓大戦では果敢なギャンブルで勝利を呼び込んだ小川だったが、本日は至って慎重。状況から見てもここは確実に点差を広げるという判断だったのだろう。ホームラン性の一発(羽野の突破)がある中央とは言っても、自陣から連携してインゴールまでボールを持ち込む組織的な継続性は(残念ながら)持ち合わせていない。中央がなかなかHWLを越えられないまま時計はどんどん進む。同じ9点差(前節の拓大が日大に対してリードしていたときの点差)でもこんなに違うものなのか。

試合終了に近づいた38分と40分に日大はダメ押しとなる2トライを重ねる。1本目は中央ゴール前ラインアウトからサイドアタックでボールを中央付近まで運び、ラックから右オープンに展開してWTBがゴール右隅に決めた。また、2本目も継続攻撃から右タッチライン際をマイケルが快走して余裕を持ってトライ。右隅からのGK(ボールをプレース下位置は10mライン付近だった)を小川が鮮やかに決めて勝利に華を沿えた。中央は鮮やかなタテ突破で印象的なプレーを見せたものの、日大の巧みなボールコントロールとエリアマネジメントの前に完敗を喫してしまった。もし、ラグビーが得点だけでなく採点も加味されて勝敗を決めるスポーツだったら点差は倍以上になっていただろう。日大の4年間の積み上げの成果を感じずにはいられない戦いだった。

[試合後の雑感]

ここまで今シーズンのリーグ戦の試合を11試合観たが、今リーグ戦グループで一番観ていて楽しいラグビーができているチームは日大であると断言できる(ちなみに次点は拓大)。小川という名スキッパーが居ることもあるが、とにかく面白いようにボールが繋がり、それが変幻自在のアタックに繋がっているのだ。ただ、まだどうしても個々のパワー不足の面があり爆発的な得点力を得るには至っていない面があるが、マイケルがブレイクしたことでそれも解消されるはず。阿多監督時代のような個々が魅力的に輝く日大の時代は終わったが、組織力が整備された中で個が活きる日大もなかなか魅力的ではないだろうかと思うようになってきた。加藤HCというとどうしても東海大のラグビー(選手が組織を意識するあまり雁字搦めになって個性が活きないことが多かった)を連想させる。でも、東海大での立場はあくまでもコーチだ。当然監督とは思い描くラグビーも違ったはず。4年間をかけて選手に意識改革を成し遂げただけでなく、自身の理想とするチームを作り上げることに成功しつつあるのかも知れない。どうも加藤HCに対しては誤解している部分があったのかなという想いをこの試合からは抱かざるを得ない。

対する中央は今のままならここまでが限界という気がする。大学ラグビーの宿命とは言え、毎年毎年がリセットになる面は仕方ないが、経験に基づいて積み上げていくべき部分もあるはずだ。日大にも中央にも同じ4年間が与えられているのだが、日大は劇的とも言えるくらいにチームが進化している。得点差には表れなくてもゲーム内容を見れば一目瞭然だ。もちろん中央が努力をしていないということではなく、努力の方向性の違いが現れているということ。ラグビーの内容で日大との差を埋めるのは、今から改革に取り組んでも(東海大の例を見るまでもなく)日大より多くの年数を擁することになるだろう。しかし、中央の選手達がもし後で試合をした拓大のラグビーをじっくり観ていたら、希望を持つことが出来るはずだ。自分たちよりも体格面で恵まれておらず、シーズン当初はダントツの最下位候補と観られていたチームが東海や流経大と堂々と渡り合っているのだ。それも、基礎練習とチームの意志統一の徹底といったけっして難しくない方法で。佳きライバル達をいいお手本としてチーム力アップに取り組んで欲しいところだ。
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第8節(10/27 & 28)の試合予定&みどころ

2012-10-27 02:22:15 | 関東大学ラグビー・リーグ戦
○第8節の試合予定

 10月27日(土) 日本大学 vs 中央大学 12:00 味スタ西競技場
 10月27日(土) 流通経済 vs 拓殖大学 14:00 味スタ西競技場
 10月28日(日) 東海大学 vs 関東学院 14:00 秩父宮ラグビー場

折り返し点を通過しいよいよ終盤戦に向かうリーグ戦グループ。2強にほぼ絞られた感がある優勝争いもさることながら、それ以上に熾烈を極める中位争いが展開されており、俄然盛り上がりを見せています。第8節も非常に重要な一戦が組まれていて、週末の楽しみは当分終わることはなさそう。その一戦とは、ズバリ言うと日大と中央のマッチアップ。拓大に辛くも1点差で逆転勝利を収めた日大は、ここで勝利すると3位以上に大きく前進することになりますが、それは中央もまったく同じ。中央が勝てば日大は振り出しにもどる形となり、まるで双六のような戦いになっています。

前節に僅か1点差で涙を呑み、中位グループ内で一歩後退となった拓大は流経大にチャレンジします。その流経大は目下4連勝中ですが、うち一つは法政を相手に挙げた薄氷を踏む思いの1点差での逆転勝利。気持の切り替えが出来ていればですが、拓大の仕上がりの良さを考えると、まさか?が起こる可能性がないとは言いきれません。ということで、問題は日曜日の秩父宮ということになります。本来はリーグ戦グループの看板カードとなるはずの試合が緊急事態を迎えています。それはさておき、中央と日大のどちらに勝利の女神が微笑むか? 流経大はまたしても冷や汗を掻かされるのか、それとも貫禄をみせつけるのか? 関東学院の命運はいかに? といった形で、どのカードも見どころ満載の第8節となりそうです。

【中央大学 vs 日本大学】

なぜか中央を相手にすると苦戦を強いられる日大といった相性の問題は昔話となった感がある昨今。しかしながら、今シーズンは中央が出足から好調と言うこともあり、どちらが勝つのかまったく予想がつきません。両チームとも基本的にはBKに展開して取ることを目指してはいますが、スタイルは異なります。中央がCTB2人にFB羽野を加えたトライアングルを中心としたタテ突破を特徴としているのに対し、日大はFWとBKのコンビネーションでヨコへの拡がりを活かしながらボールを繋いでいくのが特徴。お互いの持ち味が発揮された戦いになるのか、それともそれを消し合う戦いになるのかまったく予断を許しません。ただ、ひとつ確実に言えることがあります。それは「肝心なところでミスをした方が負ける」ということ。チームの完成度が問われる戦いとなりそうです。

【流通経済大学 vs 拓殖大学】

連覇を狙う流経大が優位にあることは間違いありませんが、チームの完成度では上回っている拓大に付け入る隙は十分にありそうです。過去4試合ではリザーブを含む22人が完全に固定されていた拓大は、左WTBに松崎が起用されて山谷がリザーブに下がったものの盤石の布陣であることは変わりありません。日大戦ではBK攻撃によるビッグゲインを見せるなど攻撃の幅を拡げている拓大が流経大の堅陣をどこまで崩せるかが一つの見どころ。対する流経大は、先発SOを合谷に決めたようですが、まだBK(強いて言えばWTBのリリダム)で取る形が確立されていないようです。リーグ戦も終盤に差し掛かったところでチーム完成に向けて確実に一歩を踏み出したいところですが、拓大はなかなかしぶとい。流経大が本来目指している形でトライの量産体制を築けるのか、それとも拓大のアタックにさらなる選択肢が加わるのか? 第2試合も興味が尽きません。

【東海大学 vs 関東学院大学】

関東学院と法政が2強として君臨していた頃は、両チームに完膚なきまでに叩きのめされ続けていた東海大。しかしながら、今は立場が完全に逆転しています。そして、メンバー発表を見て愕然としてしまいました。チーム事情はわかりませんが、迷走状態から抜け出せない関東学院と言わざるを得ません。今回は遂に主将、副将2人の3人の名前がリザーブにも見当たらない状況となり、スタメンの4年生はゲームキャプテンを務めるFB楢崎のみという異常事態。1年生を多く含む将来性に期待?のメンバーでリーグ戦G最強チームと戦う事になります。この事態が東海大の選手達にどんな感情を喚起したかを試合場で見せつけられることになりそうな予感がします。東海大はLOにいよいよ三上が復帰し、覇権奪還に向けてチームを完成させる時がやってきているだけに、よけいにそんなことを考えてしまいます。
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幼少時代の想い出/すべてはここから始まった

2012-10-26 01:58:57 | 地球おんがく一期一会


物心ついた頃から音楽を聴くのが大好きだった。家には父が購入したリーダーズ・ダイジェスト社の『世界名曲集』(クラシック音楽)や『ポピュラー音楽名曲選』というLPレコードのボックスセットがあり、とっかえひっかえしながら聴いていた。後者でとくにお気に入りだったのはマンボやルンバやチャチャチャといった「ラテン音楽」の名曲が入った盤だった。ホローポからサウス・アメリカン・ジャズにまで辿り着いてしまった今にして思えば、先天的なのラテン音楽マニアだったのかも知れない。

小学校も高学年になる頃にはFM放送に夢中になった。そこでもなぜかよく聴いたのがラテン音楽の番組。NHK-FMでオンエアされていた2時間番組の『ラテン・タイム』は毎週楽しみに聴いていて、とくにお気に入りは大岩祥浩さんが担当されていたタンゴだった。オープンリールのカセットレコーダーに録音して何回も聴いていたことを思い出す。アストル・ピアソラの音楽に出逢ったのもその頃だ。もちろん、後々大ブームになるなんて事は想像にも及ばないことだったが、ちょっと変わったタンゴかなという感じで普通に聴いていた。

交響曲と管弦楽曲で固めた『世界音楽名曲選』の方も思い出深い。これがなかなかユニークなラインナップだったのだ。バッハ『ブランデンブルグ協奏曲』、ヘンデル『水上の音楽』、ハイドン『驚愕』、モーツァルト『交響曲第40番』、ベートーヴェン『英雄』、シューベルト『未完成』、メンデルスゾーン『イタリア』、チャイコフスキー『悲愴』、グリーク『ペールギュント組曲』、ビゼー『カルメン』、ドビュッシー『牧神の午後への前奏曲』、ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』とくればまともだ。ここまでは正統派世界名曲集そのもの。

ブラームス『交響曲第3番』、シューマン『交響曲第3番、ライン』、フランク『交響曲ニ短調』、リヒャルト・シュトラウス『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』、シベリウス『フィンランディア』と『トゥオネラの白鳥』はちょっと渋いけどまぁ許せる。

解せないのは、ドヴォルザーク『謝肉祭』、ベルリオーズ『ローマの謝肉祭』、リムスキー・コルサコフ『ロシアの復活祭』、リスト『メフィスト円舞曲』、ショパン『レ・シェフィールド』。これはちょっとマニアックではないかい? リストとショパンは管弦楽曲からという方針なので仕方ないとして、前の3つはなかなか聴くチャンスが少ない(名曲だろうけど)迷曲の部類。半世紀以上前だとこういう基準になるのだろうか。

ラヴェルやバルトークやショスタコヴィッチがなかったのも残念。そうそう、ストラヴィンスキーの『春の祭典』も入っていたが、これがさっぱりわからんしろものだった。1回針を下ろしただけでギブアップということで記憶に残った曲ではある。

でも、そんな感じでいろいろと楽しめたのは今にして思えばありがたい。やはり、父に感謝しなければ。当時のステレオはまだ真空管方式で4本足が付いた箱物だったことを思い出した。
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