「熱闘」のあとでひといき

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拓殖大学 vs 東海大学(2012.10.6)の感想

2012-10-07 20:31:44 | 関東大学ラグビー・リーグ戦
[キックオフ前の雑感]

今シーズンからリーグ戦Gの試合会場のひとつに加わったキャノングランド。トップリーグのキャノンイーグルスのホームだが、ラグビー専用に作られているだけあってコンパクトながら素晴らしい試合会場だ。バス停から5分ほど歩いて到着したら、まず眼前に飛び込んできたのがスタンドのないフラットなグランド。確かに拓大と東海大の選手達が練習しているが、ここで試合なのか?と一瞬思った。もちろんそんな訳はなかった。よく見ると左前方の小高い丘の上にグランドらしきものが見える。最初に遭遇したグランドも実は人工芝のサブグランドだったのだ。

さて、9月の1ヶ月間、今シーズンのリーグ戦を戦う全8チームを観てきて、もっとも印象に残る闘いぶりを見せているのは去年最下位に終わった拓大だ。注目点は2連勝という好成績もさることながら、チームの変貌ぶり。たった1年弱でここまで変わることができるのかという位に(いい方向に)チームができあがっている。ここ数シーズンの拓大といえば、高速ランナーの個人能力でトライの山を築くのが勝ちパターン。型に填まれば強いのだが、DFが崩壊して大敗したり、集中を欠いたとしか思えない凡ミスで勝てた試合を落とすことが多々あったチーム。リスキーとも言える不安定な闘いぶりが禍となり、昨シーズンは入替戦であわや2部落ちという瀬戸際に追い込まれている。

今シーズンの拓大は頼みの高速ランナーも大松(緒戦から欠場中)のみとなり、LOウヴェやSOステイリンと言った核になる選手は居るものの、さらに戦力ダウンすることは必至と観られていた。そのことは選手達が一番自覚しており、新チーム結成時は選手間に悲壮感すら漂っていたそうだ。体格もフィジカルも劣る中でどうやったら勝てるのかと。そこで、首脳陣が要求したのは基礎の徹底と当たり前のことを当たり前に出来るようにすること。コーチに近い方からお聞きした話だが、2試合を観た限りでも実際にその通りのチームになっていることがわかり凄く納得したのだった。出場メンバーはリザーブも含めて完全に固定されていることも驚き。故障者続出で戦力ダウンに悩むチームがあるなか、これは事件と言ってもいい。この試合では、リーグトップの東海大を相手に、どこまでチームとして貫いている形が通用するのかじっくり観てみたい。

対する東海大は、今シーズンは流経大に奪われたリーグ王者の座を奪い返すチャレンジの年になる。しかしながら、今年もメンバーリストの豪華な顔ぶれを眺めれば、ライバルの流経大もFWを中心にかなりのメンバーの入替がある中で、優勝候補の筆頭以外の言葉が思い浮かばない。実際に、緒戦も横綱相撲でパワーアップした日大をゼロ封で退けている。ただ、春シーズンから通してみても、勝てるチームとなるために何かが足りないと感じさせることも事実。個々のパワーを集積させる形でチームがなかなか機能しないように感じられる。FWはパワフルで突破力があり、バックスリーも走力と決定力に優れた逸材が揃っているのだが、どちらで取ろうと考えているのかという戦術が見えてこないのだ。

東海大への期待として、何とか日本一を狙える陣容を活かして強力なチームを作り上げて欲しいというのがある。ここのところ対抗戦グループとの格差が目立つようになり、関西勢も着実にパワーアップしている中で、どうしても関東リーグ戦グループ全体の地盤沈下が顕在化していると言わざるを得ない。このある種沈滞ムードを解消するためには、やはり横綱が必要だ。チャレンジャー達を容赦なく叩きのめすチャンピオンチームの存在こそがリーグ全体を強くする。本日の東海大だが、FWはPR阿部、LO三上を欠くもののほぼベストの陣容。BKもSH(今日は小泉が先発で松島がリザーブ)を除けば緒戦とまったく同じ。しかし、SHはFWとBKを繋ぐ役割を担うキーポジションのはず。とくに、東海大のような自信満々のFWを持つチームでは、SHはFWが行き過ぎないようにコントロールする重要な役割がある。見かけ以上にしぶとい選手達が揃う拓大を相手に、SHを固定しない状態でどこまでチームとして機能するだろうか。危機感をバネにピリピリした拓大に対し、どこか余裕を感じさせる東海大といった具合に対照的な雰囲気を漂わせて選手達がピッチに登場し、キックオフを迎えることになった。

[前半の闘い]

一つ一つのプレーを大切にしている今シーズンの拓大の見どころのひとつはキックオフ。相手キックオフの場合は、レシーバーが高くジャンプしてボールを確実にキャッチし、すぐにサポートに入った選手値がモールを形成して確保する。しかし、東海大もしっかり対策を練ってきた。キックオフのボールは浅めに蹴り、味方の選手に競らせる。こうなると身長面で劣勢にある拓大は確実なボール確保が難しくなる。かくして、東海大はキックオフのボールの確保に成功し、オープン展開で攻め立てる。ボールが左右に大きく動いたところでイージーなノックオンがあったものの、「本日の東海大はBK展開勝負」を宣言したような試合の入りだった。

拓大ボールのスクラムでは拓大に反則があり東海大FKで試合再開。東海大はここもオープン展開で攻めるがスローフォワード。東海大にやや緊張感が欠けた部分があったのかも知れないが、拓大も低いタックルでしっかり止めている。この拓大の頑張りがその後も東海大のミスを誘発した要因となった。今度は拓大がスクラムから連続攻撃で攻めたところで東海大に反則。HWL付近からのPKは東海大陣22m内まで到達し、拓大は先制点を奪う絶好のチャンスを迎える。しかしながら、ラインアウト1回目はスティールにあってタッチに逃げられ、2回目のラインアウトはノックオンと、もらったチャンスを活かせない。

しかし、東海大もスクラムで反則があり、拓大は3回目のチャンスを得る。今回はボールの確保に成功してモールで前進し、最後は密集から飛び出したウヴェが左隅に決めた。開始7分で拓大は2戦目(関東学院戦)とまったく同じ形で先制(5-0)に成功した。続くキックオフでは東海大選手がノックオンしたボールをウヴェが拾って大きくボールを前に運び、キックを使って東海大ゴールに迫るがタッチに逃げられる。22m付近でのラインアウトからのチャンスも反則で逃すと、今度はPKで一気に地域を挽回した(地力に勝る)東海大が拓大陣で攻勢に転じる。14分、東海大は拓大陣22m内でのラインアウトから左オープンに大きく展開してライン参加したFBからラストパスがWTB小原に渡った。はずだったが、小原がゴールを目前にして痛恨のノックオン。

命拾いした拓大だったが、自陣ゴールを背にしたスクラムで東海大の強力なプレッシャーを受けてホイールされマイボールを奪われる。東海大ボールとなったスクラムではコラプシングを犯し、タップキックから速攻で攻めた東海大がボールを力強く前に運んでNo.8村山がグラウンディングに成功。FB宮田(高平が出血のため一次交代)がGKを決めて、東海大が7-5と逆転に成功した。リスタートのキックオフは拓大の飛び出しが早かったと判定されて東海大ボールのセンタースクラムに。キックオフからもマイボール確保にかけるプレーは拓大の生命線とも言え、ちょっとツキがない感じもした。このプレーを機に、拓大は再び自陣ゴールを背負う形でピンチを迎える。26分、東海大は再び拓大陣ゴール前でのスクラムで得たPKから速攻で攻めてLO坂本がグラウンディングに成功。FB高平がGKを確実に決めて14-5とリードをさらに拡げる。高平はその後も2本のGKを確実に決めたが、プレースキックが泣き所だった東海大にとっては明るい材料。

リスタートのキックオフ。今度は慎重を期した拓大がスペシャルプレーを決めた。マイボールの場合は(FWとは逆の)右サイドに位置したFL森(177cm)がボールの落下点に走り込んでジャンプ一番ボール確保を狙うのが拓大の練習している形。だが、もちろん左サイドに位置したウヴェ(193cmで当然マークが集中)がその役割を担ってもいい。ここではウヴェがボール確保に成功するが惜しくもフォローした選手がタッチに押し出されてしまう。拓大陣22m手前のラインアウトで拓大にノックオンがあり、東海大はスクラムから拓大陣へキック。拓大の蹴り返しに対しFB高平が鮮やかなカウンターアタックを見せて一気にボールを拓大陣奥深くまで運ぶ。拓大が自陣ゴール前で何とかタッチに逃げたところで、東海大はラインアウトからモールを形成して強力に前進を図りHO北出がトライ。東海大がFWのパワーを活かす形で3連続トライを奪い21-5となる。

こう書いていると、拓大は殆ど抵抗出来ずに東海大が圧倒的に試合を進めている印象を受けるかも知れない。しかしながら、拓大もマイボールは確実にキープしてFWを中心に(テンポはゆっくり目だが)ボールを前に運ぶことが出来ている。スコアとは裏腹に拮抗した(東海大が再三犯したイージーなノックオンの場面を除けば)締まった展開となった。光ったのは拓大の簡単には前進を許さない低いタックル。だっこちゃんスタイルのぶら下がりやジャージを掴んで引き倒す安易なタックルが横行している感がある大学ラグビーにあって基本を確実にこなしている拓大を象徴するような場面だった。また、パスはFWに渡すのが主なのだが、プレッシャーを受けてもミスが少ないことも特筆すべき。基本をしっかりやるだけでもチーム力が上がるというのはひとつの救いだ。

拓大は34分には東海大陣10m付近でのラインアウト→モールからウヴェが抜け出て一気に東海大ゴール前まで迫るが惜しくもノットリリース。後半もたびたびウヴェがあっさりと抜け出すシーンが目立ったのは東海大の反省材料だろう。もっともマークすべき危険な選手だから。逆に言うと、ウヴェはサッカーに例えると「消える」プレーが巧いのかも知れない。東海大が集中を欠いた部分があったかも知れないが、リベロ的な感覚でここぞというところでタイミングよく飛び出すことを狙っているようにも見える。拓大は、37分、40分と相次いで得た東海大ゴール前でのラインアウトのチャンスも、いずれもノットストレートで得点に結びつけることが出来ない。43分に得た左中間22mのPGも僅かに外れて前半終了となった。

試合前のシミュレーションでは強力な第3列トリオの面々が中心に、「スピーディなオープン展開で継続する東海大の前にタジタジとなる拓大の選手達」という場面ばかりが思い浮かんだ。拓大にとっては大量失点も覚悟の展開だったはずなのだが、拓大がボールキープする場面も多く、点差ほどは力の差を感じない見応えのある戦いとなった。とくに印象に残ったのは、拓大がテンポは遅めだが確実にボールを前に運ぶシーン。スピード感溢れる東海大とは対照的だが、練習したことを確実にこなしている。FWで力負けしないチームが相手だったらテンポアップも可能なように思われた。

[後半の闘い]

前半健闘を見せた拓大だが、後半ももつだろうかという不安を抱かせながら後半が開始。しかし、キックオフでいきなり「拓大スペシャル」が鮮やかに成功した。FWの塊とは反対サイドに位置したFL森がキックオフされたボールをチェイスする。当然東海大もマークしているためボール確保は難しいかと思われた。しかしながら、森はどんぴしゃのタイミングで落下点に到達するとジャンプ一番で競り勝ちボールを奪い取ってしまった。関東学院戦でも見事に決めたプレーでけして偶然に頼ったわけではない。森の能力の高さもあるが、キッカー(SH岩谷)と何度も何度も重ねた練習の賜といった印象だ。「当たり前のことを当たり前にやれるようにする」という言葉が頭の中で何度もこだました。

拓大はこのビッグプレーを活かす形で10m中央のラックからウヴェが(あっさり)抜けだし、ストレートランで一気にゴールポスト直下に到達。12-21と後半の逆転に望みを繋ぐ大きな得点を得た。勢いの乗る拓大は、キックオフでの東海大ノックオンで得たボールからハイパントで攻める。ここでもボールの奪取に成功してタテに前進を図るが惜しくもノックオン。相手ボールスクラムからのキックに対してカウンターアタックを試みるが反則を犯し、ここから再び自陣ゴールを背負ったピンチを迎える。とは言っても、自陣からは手堅くキックが主体だった拓大が、強豪を相手にカウンターアタックを試みるようになってきた。FB山本の他にもWTBも少しずつ自信を掴んできた様子。楽しみがひとつ増えた感じだ。

5分以降、拓大は自陣ゴールを背にした耐える展開が続く。東海大FWの激しいプレッシャーの前に3度目のラインアウトで遂にゴール突破を許してしまう。GK成功で28-12と東海大が再びリードを16点に拡げる危なげない展開で試合を進める。形成が不利になってきた拓大だが、けして圧倒されているわけではない。その後も何度か反撃のチャンスを掴み、東海大と五分に渡り合う。東海大陣ゴール前でのラインアウトのチャンスも訪れるのだが、関東学院戦では好調だったラインアウトが今回はやや不調。東海大が研究していた部分もあったと思うが、もう少しシンプルにプレーしてもよかったかも知れない。

得点板がまったく動かなくなったところで26分、東海大は拓大陣22m付近(右)のラインアウトからオープン展開で畳みかける攻撃を見せ、左サイドに完全なオーバーラップができる。左タッチライン沿いに位置したWTB小原がボールを受けて駆け抜けるだけでOKの状態になったのだが、何とまたしてもノックオン。東海大が優位に立っていることもあるが、場内を包んだのは「また、やってしまったか」というムードだった。ゴールを目前にして一瞬ボールが目から離れてしまったのだろうか。小原はどちらかというと、相手を切り裂く形で力強く決めるランナーで、ボールを持って駆け抜けるだけでOKのラストパスを受ける形は意外と少ない。もちろん、そんなことはいいわけないし、言い訳にもならないのだが、重要な試合では致命傷となりかねないのだから、今後はないことを強く望む

後半のフィットネス不足が心配された拓大だったが、闘志はまったく衰えない。緒戦から大きな怪我もなくリザーブも含めた完全固定メンバーでここまで戦えているのは立派という他ない。両チーム得点を挙げられないまま、時計がどんどん進んでいき40分、拓大は自陣で得たPKから速攻で攻めて東海大陣ゴールに迫る。うまくパスを繋げばトライという状況だったが、東海大の渾身の粘りの前に阻止される。ここまでの拓大はFW主体でじっくりボールを前に運ぶラグビーを指向しており、オープン展開でのパスワークには磨きがかかっていない。ここがうまく行くようになると拓大の得点力は確実に上がるように思われる。ノーサイドを目前とした拓大の「何とかあと1本!」のアタックも成就せず試合終了となった。

この日が2戦目となる東海大の調子が上がっていないとはいえ、攻守に一歩も引かずに80分間を戦い抜いた拓大の健闘が光った試合。全得点を挙げたのはウヴェなので、彼頼みのチームと見なされてしまうかも知れない。しかし、他の選手の働きでウヴェが決める形が出来ているというのがここまで4試合(春シーズンを含む)を観ての実感だ。チームワークというか選手間のコミュニケーションが上手くいっていることを伺わせる。昨年度の最下位チームの奮闘はリーグ戦Gに大きな活力をもたらしている。2強を追っている日大、中央大と比較しても戦力的に落ちるところはなく、チームの完成度と15人の結束力ではむしろ拓大の方が上回っている。上下間格差が心配されたリーグ戦Gだったが、中盤から終盤までの展開が俄然楽しみになってきた。もちろん、その主役を演じるのは拓大といってよさそうだ。

[試合後の雑感]

結果的にFWのパワーで拓大をねじ伏せた形の東海大。オープン展開でWTBが決めたいという意図が明確だっただけに、FWで決めざるを得なかったのは不本意かも知れない。おそらく、これから2ヶ月間の戦いで戦術を磨いていくことになるのだろう。東海大で気になったのは、FW3列に強力な選手が揃っていることが、逆に個々で勝負という形になってしまったように見えたこと。持ちすぎずに連携してボールを繋いで前進し、相手が後退したところでオープン展開勝負といったスタイルが完成すれば得点力は大幅に上がるはずだ。そこでキーになるのは司令塔よりもむしろSHだと思う。ここが早く固定できないと戦術に磨きをかけることも難しい。本日は2年生の小泉が先発で後半20分からは松島が出場した。今後の戦いでSHの人選も含めてチームコンセプトがどのような形で纏まっていくのかに注目していきたい。

1、2戦は快勝だったとはいえ、どこまでの力を持っているかが測りかねる部分があった拓大に取っては、真の実力が試された試合。当初は東海大のパワーの前に大敗も必至と観られていたのだが、試合を重ねることに着実な進化を遂げてきた拓大の成長を実感することができた。実力が上で、しかもしっかり研究のあとが観られた強豪チームを相手に、自分たちの形でもやれるという実感が掴めたことは大きな収穫だと思う。とくに、本日は少しずつだが、BK勝負にも活路が見いだせるようになってきたことは見逃せない。もう一つの試練(流経大戦)を乗り越えれば、あとは3位以上に向けてひた走るだけだ。おそらく、この試合で得た自信が慢心に変わることはないとは思うが、初志貫徹で最後まで戦い抜いて欲しい。開幕前は前途多難の文字しか思い浮かばなかったリーグ戦グループだったが、拓大の活躍に救われた感がある。他のチームも拓大の姿勢に学ぶべきことは学んで精進に励んで欲しいところだ。

試合終了後、とても印象的なシーンがあった。東海大の主将、副将らが拓大の監督に謝意を示そうとした場面。彼らの態度からは、立場上儀礼的に挨拶に行ったという様子は見られなかった。東海大にとっては反省点が山盛りの試合になってしまったわけだが、それも拓大の真摯な闘いぶりがあってこそ。監督に握手を求めるシーンに自分たちの課題を見せてくれたチームへの感謝(リスペクト)の気持ちがこもっていたように感じられた。リーグを牽引する立場にある東海大のラグビーに取り組む姿勢の素晴らしさを改めて認識させられるような場面ではあった。
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