「熱闘」のあとでひといき

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東海大学vs拓殖大学(2013年10月19日)の感想

2013-10-26 19:43:55 | 関東大学ラグビー・リーグ戦
「法政対中央」の感想の前書きにも書いたように混迷とも言えそうなほどの混戦模様となっている今シーズンの関東大学ラグビー・リーグ戦グループ。これが各チーム安定したパフォーマンスを発揮してのものなら大歓迎なのだが、各チームの戦いぶりを見る限りそうではなさそうだ。今シーズンが混戦模様となったひとつの要因として挙げられるのは、現時点でリーグ戦Gを引っ張っていく立場にあるはずの東海大と流経大がピリッとしないこと。両チームとも、1部昇格(東海大は復帰だが)によりリーグ戦グループに新風を吹き込んだことは間違いない。それからもう10年以上経っているのだから帝京のような横綱になっていてもおかしくないはずだ。しかしながら、意外なほど経験値による積み上げがなく、毎年毎年が勝負のような状況になっているのが不思議と言えば不思議。長期指導体制が確立しているのに何故?とどうしても考えてしまう。

「安定しない」という意味でとくに残念な状況にあるのは東海大だと思う。緒戦で立正大に圧勝したものの後半に食い下がられて快勝とは行かず、中央大戦では組織力の差が出て完敗。この試合の反省を機に臨んだ日大戦では終始攻め続けて現時点でリーグ最多得点の圧倒的な勝利を収めた。だが、「だから大丈夫!」とはいかないのが今シーズンの東海大の難しいところだと思う。日大戦は明らかに出来すぎで、もし序盤のギャンブルとも言えるアタックをしっかり止められたら手詰まりになっていた可能性がないとは言い切れない。春のセブンズからずっと観てきて、切り札となる選手が多い割には精神面での脆さがあり、今一歩信じきれないところがある。そんなチームの状態が日大戦で一気に改善されたのかどうかは怪しいし、そのことが試されるのがこの試合になるだろう。

一方の拓大も、優勝争いに絡むことが期待されながら開幕からまさかの3連敗。トップを目指すどころか、入替戦回避が喫緊の目標になりつつある危機的な状況にある。その理由(去年との違い)については「大東大戦の感想」で書いたので繰り返さないが、フィジカル面よりもメンタル的な要素の部分が大きいような印象を受ける。リーグ戦Gでも体格面で劣勢を強いられるであろうことは十分に分かっていたはずだし、その部分を創意工夫とチーム内で共有された危機意識で克服したのが昨シーズンだったはず。フィジカル面で言えば、むしろ今シーズンは昨シーズンよりも向上していると春には感じてきただけに、意外であり残念でもあるのだ。本日の相手は日大戦の勝利で勢いづく東海大だが、強豪に力一杯向かい合うことでチーム建て直しのきっかけを掴んで欲しい。そして、もちろん目指すところは(劣勢が予想されても)今期の初勝利をもぎ取ること。そのためにも中央大の東海大に対する戦い方を参考にチーム一丸となって欲しい。

◆キックオフ前の雑感

まずは東海大のメンバーをチェック。この試合も坂尻主将が16番の背番号を付けてスタメンを外れたのが目を惹くが、LOが中嶋から李に変わった以外は日大戦と変更なし。今後はこのメンバーでほぼ固定されて戦っていくことになるのだろうか。そういった意味でも相手が手負いの拓大とは言え、安定したパフォーマンスを示したいところ。そうでなければまだまだ希望が残っている優勝争いから脱落してしまうことになる。サッカーに例えれば「中盤省略型」に陥ることなく、手続きを踏んでいい形でバックスリーにボールを渡して得点を重ねていくようなラグビーを期待したい。

拓大の注目点はウヴェがFLからLOに移動したことと、SOに松崎が起用されたこと。ウヴェに関しては、性格的にも切り込み隊長的な役割が求められる3列よりは2列の方が向いていると感じてきただけに、FWの中核に据えることでチームを落ち着かせたいところ。また、SOはCTBに移動したステイリンの穴を埋めきれていないが、そろそろ決定打を出したいところだ。ステイリンを(今シーズンに指向しているプレースタイルと思われる)オープン展開の要と位置づけている以上、彼を簡単にSOに戻すことも出来ないだろう。あとは成長著しいCTB山谷の突破力を活かしたい。

◆前半の戦い/着実にリードを拡げるもののピリッとしない東海大

キックオフからエンジン全開で猛攻を仕掛けトライの山を築いたのが日大戦での東海大だった。しかしながら、爆勝に安心してしまったのか、序盤からピリッとしない。BKに展開したときにパスミスが相次ぎ、チャンスをなかなか活かせない。3分には拓大の反則から拓大ゴール前でラインアウトのチャンスを掴むが、オープンに展開したところでWTB小原が(それがなければトライだった)ノックオンを犯し東海大応援席のため息を誘う。イージーとも言えるミスの連発には、首脳陣も頭を抱えるしかなかっただろう。やはり今年のチームはメンタル面でのコントロールが難しいところがありそう。

ミスでチャンスを潰す状況が続く東海大に対し、拓大は9分にワンチャンスをものにして先制点を奪う。東海大陣10m付近のラインアウトを起点としたアタックは蹴り合いとなるものの、拓大はカウンターアタックから東海大陣に攻め込みグラバーキックをCTB山谷がインゴールで抑えた。GKは失敗したが拓大が幸先良く5点リードとなった。やはり「試合への入りが悪い東海大」は払拭できないのかと思わせる、東海大ファンにとっては一抹の不安を抱かせる立ち上がりだった。

しかし、ミスが多い展開でも地力に勝るのは東海大の方。16分にWTB石井が快走を見せてトライを奪いGKも決まり7-5と東海大は逆転に成功する。リスタートのキックオフからしばらくは拓大が東海大陣に攻め込むものの決定打が打てない。自信を持っているはずのスクラムの場面も多かったが殆ど押せなかったのは誤算だったかも知れない。18分の東海大22m内でのラインアウトのチャンスもモールに拘ったが押し切れない。ただ、BKでオープンに展開した時のアタックの流れはよく、あとは突破役が居ればという状態になってきた。

試合が日大戦とは全く違って膠着状態となる中、東海大は29分にようやく追加点を挙げる。拓大の反則で得た拓大ゴール前でのラインアウトからオープンに展開し、ライン参加したLOのタタナがインゴールに飛び込んだ。GKも成功し14-5とリードを拡げる。東海大はたたみかける。34分にも同じように拓大の反則で掴んだ拓大ゴール前ラインアウトのチャンスからオープン展開の連続攻撃でFB近藤がゴールラインを越えた。GK成功で21-5と空回り気味だった東海大が一気にペースを掴む。

拓大は自陣で犯した反則が相手ボールのラインアウトを経てことごとく失点に繋がり、東海大陣に攻め込んでも反則でチャンスを潰す悪い流れから脱することが出来ない。結局この日は東海大の倍の14反則と、例年なら反則が少ない拓大らしからぬ展開。反則が多いことが今シーズンの拓大不振の要因のひとつであることは間違いなさそうだ。逆に言うと、反則せざるを得ない状態に追い込まれているとも言える。東海大は前半終了間際の43分にSO野口が右中間の10mライン付近からのPGを成功させて3点を追加し24-5で前半が終了した。イージーミスが相次ぐ中、拓大に先制点を許したことで一抹の不安を抱かせた東海大ファンにとってはほっと一息の前半の戦いぶりだった。

◆後半の戦い/圧勝ムードの中にもやはりちぐはぐだった東海大

後半は巻き返しを図りたい拓大だったが、開始早々から怒涛の攻めを見せたのは東海大の方だった。おそらく前半の内容に対し、首脳陣から相当ネジを巻かれたのかも知れない。タテ糸(FWのタテ攻撃)とヨコ糸(BKのワイドなオープン展開)がテンポ良くかみ合った東海大にしては珍しい形の攻めではあるが、もちろんこんな攻撃が出来たら東海大は鬼に金棒。東海大はバックスリーで決めようとする意識が強すぎるためか、どうしても早く彼ら(バックスリー)にボールを渡そうと急ぎ勝ちの傾向(冒頭で言及した中盤省略型)がある。しかしながら、当然対戦相手もバックスリーの動きは徹底マークしており、単発で抜くことはむつかしい。大学選手権対策というわけでもないが、地道に継続して相手が数的不利になりマークしきれなくなった状況で決めるという形を作ることが必要だと思う。このような、タテヨコのアタックも有効なオプションとなるだろう。

しかし、この怒涛の攻めも実らず、東海大が攻め続けるような状況にはならない。またしばらくは拓大が東海大陣で攻め続ける状況が続く。6分には東海大ゴール前でのラインアウトからFW周辺で攻め込むものの惜しくもラックでオフサイド。東海大はピンチを逃れたかに見えたが、ラインアウトからオープンに攻めたところで拓大の激しいタックルに遭ってノットリリースの反則を犯す。ここでステイリンが正面やや右38mのPGを決めて8-24とビハインドを16点に縮めた。

東海大がペースダウンしてもたつく間に拓大はさらに得点のチャンスを掴む。14分、拓大の自陣22m内からのPKがノータッチとなり東海大が逆襲するがチェイスしたステイリンがボールをもぎ取って独走態勢に入りゴールを目指す状況となる。東海大選手達の必至の戻りがありステイリンはタックルに遭ってボールを前にこぼすが拓大は勢いに乗る。17分には東海大陣22m付近でのラインアウトからモールを形成して前進し、ウヴェが抜け出してフォロワーにパスを送るが惜しくもタッチアウト。19分にもラインアウトを起点としたオープン展開からゴールを目指すものの、ラックでノットロールアウェイと痛い反則が続きなかなか東海大のDFを破ることが出来ない。

東海大がリードを保っているもののなかなか追加点が奪えない状況にストレスが溜まる一方の東海大だったが、ワンプレーをきっかけに得点を奪う。自陣22m内のスクラムでSH湯本がスクラムサイドを一気に抜けて90m近く独走し、最後はフォローしたPR3の平野がゴールラインを越えた。時間にして28分で31-8と東海大のリードは23点に拡がり、ここで勝敗は決した。しかし、4連敗のランプが点灯し始める中、拓大もこのままで終わるわけにはいかない。31分、HWL付近からやや東海大陣に入って位置で組まれたセンタースクラムからのオープン攻撃でステイリンがラインブレイクに成功し、スピードに乗ってライン参加したFB山本に絶妙のタイミングでパスを渡す。山本が走り込んできたアングルもよく、東海大DFも反応できずに山本はあっさりとゴールラインを越えた。GKも成功で15-31と拓大は食い下がる。ようやく拓大の目指すオープン展開からの得点パターンのひとつが見えた。突破力のある選手が少ない拓大はコンビネーションの良さが生命線であり、そこでキープレーヤーになるのはCTBでボールをしっかり保持できるステイリンという構図。

残り時間10分を切った状況での16点リードは安心して良い点差だが、後半だけとはいえ相手にリードされて終わるわけにはいかない東海大。38分にはゴール前でのラインアウトからモールを形成して強力に押し込む。ボールがゴーラインを越えたところで東海大がグラウンディングに成功したかに見えたがレフリーの判定はパイルアップ。しかし、タッチジャッジのアピールでトライが認められ36-15となる。

逆転勝利は絶望的となった拓大だが、終了間際に一矢報いる。東海大陣スクラムからの連続攻撃で粘り強くボールを繋ぎ、最後はウヴェがボールをインゴールにねじ込んだ。ステイリンのGKが成功して22-36となったところで試合終了。拓大にとっては残念な結果(4連敗)となってしまったが、ここでようやくウヴェが1本取ったことは大きい。トライには至らなかったが、敵陣ゴール前のラインアウトの場面でモールの最後尾にボールを持ったウヴェが付くという必殺パターンの「ウヴェ・スペシャル」も久しぶりに見られたこの試合。試合を終えた後のウヴェが今まで一番いい表情になっていたように見えたところに「救い」のようなものを感じた。

◆頑張れキャプテン!

日大戦とはうって変わってスカッと快勝とは行かなかった東海大だが、それは別にしても気になる場面があった。それはこの試合も日大戦に続き終了間際(38分)に登場した16番を付けたキャプテンのこと。日大戦ではひとり歓喜の輪の中に入りづらいような様子だったのが痛々しかったが、この日も勝敗が完全に決してからのご苦労さん交代に近い形。やっぱり表情は冴えないようにどうしても見えてしまう。日大戦では自分が出ていない状態で最高のパフォーマンスをチームメートが見せたのだから、キャプテンとして何かを言うのはむつかしい状況に措かれているであろうことは想像に難くない。

しかし、中央大戦敗戦の原因はキャプテン1人にあるわけではない。出場選手の実績の有無にかかわらず、現在のチーム状態はメンタル面のコントロールがむつかしい状況にあるのかも知れない。日大戦の勝利は中央大に敗れたことに対する反省からのある種の開き直りから生まれたとも言える。キックオフ直後から起爆剤になり続けた小原のプレーを観てそんなことを思った。東海大の問題点はもっと深いところにあるように思う。ラグビーマガジンの付録に付いている東海大の選手名鑑を見ると明らかだが、東海大は実に多くのコーチングスタッフによってチームが支えられていることがわかる。言い方を変えれば、選手の一挙手一頭足に大使て多くのコーチの目が光っているわけだ。

今シーズンに限らないことだが、東海大の選手達がしばしばピッチ上でプレーの選択に迷う状況が散見される。このことはとくに「突発事象」が発生した場合に顕著となり、例えばだが、瞬時にして適切な状況判断ができそれが15人であっという間に共有されてしまう帝京との大きな差を感じる部分でもある。もしかしたら、選手達には局面局面でコーチ陣のことが脳裏に浮かぶような状況になっているのかも知れないと感じるのだ。ピッチ上では自分を信じてプレーすればいいのだが、そのための普段のトレーニングが不足しているとしたら簡単にはいかない。

それはさておいても、たとえ16番を付けて終了間際に登場するような状況になっているとは言え、キャプテンはキャプテン。このような安定しないようなチーム状態だからこそ、ピッチの外にいる時間帯が長くてもやれることがあるはずだし、必要とされる状況がでてくるはず。いい例かどうかは分からないが、昨シーズンの拓大は19番を付けた選手が主将だった。完全固定メンバーで交代出場の機会も少ない状況にあってもけして彼の存在感は小さくなかったと思う。だから、あえて言いたい。チームも自身も厳しい状況だからこそ、「頑張れ、キャプテン!」と。

◆4連敗ながら一筋の光明が見えた拓大

遂に4連敗となり入替戦が視界に入ってきた拓大。だが、選手達の表情は大東大戦よりも晴れやかだったように見えたのは気のせいだろうか。もちろん開き直りでもない。この試合では、結局リザーブのメンバーがピッチ上に立つことなく15人で試合を戦え終えることができたことが最大の収穫だったと思う。余談だが、知人の東海大関係者も、「アタックは断然拓大の方が魅力的だった。」と感想を述べていたが、私も同意見。やりたいことがようやくハッキリと見えてきたのがこの試合だ。

拓大の目指すスタイルはオープンかつワイドな展開に拘るが故に、FW第3列には運動量が豊富な人材が必要となる。ウヴェがFWの中心に位置するLOの方が機能するのは性格的な面だけでなく、チームが指向するラグビーとも合致していると思う。あと、茂野と松崎で組むHB団の動きもBK攻撃を機能させる上で有効だったように思われる。とくにSOはステイリンの穴を埋める形で試行錯誤が続いたが、おそらくHB団はこのコンビで決定ではないだろうか。拓大は上位キープが困難な状況にはなっているが、残り試合を3連勝する気持ちで頑張って欲しい。
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法政大学vs中央大学(2013年10月19日)の感想

2013-10-22 01:14:07 | 関東大学ラグビー・リーグ戦
リーグ戦も折り返し点の第6節に突入。始まる前からある程度予想出来たこととは言え、ここまでの大混戦になるとは思わなかった。もちろん、上下間の力の差が縮まっていることが原因だが、2強のはずの東海と流経が盤石の状態ではないことも大きい。そして、中央大や大東大のようにチーム改革に成功したチームもある一方で、拓大、法政、日大の調子が上がらないことも想定外。試合を観る側は楽しい面もあるが、各大学の首脳陣は胃がキリキリ痛むようなシーズンになっているのではないだろうか。

例えば本日対戦する法政と中央大。開幕前の予想では法政が優勝争いの一角に食い込み、中央は定位置からの脱出は難しいと見ていた。果たして、劣勢が予想された中央は3連勝で絶好調なのに対し、法政は開幕戦で1勝を挙げたあとは2連敗と苦しんでいる。ここまで両チームの明暗を分けているものは何なのだろうか。ただ、両チームの闘いぶりを見る限り、戦績に現れているような力の差があるわけではなさそうだ。うまく勝ちを拾えているかそうでないかの差にも見えるのだ。そのあたりをじっくりと見極めてみたい。

◆キックオフ前の雑感

家を出たのはいつもより遅め。でもキックオフの10分前には競技場前に着くはずだった。しかし熊谷ラグビー場周辺に着いてからが鬼門だった。まず、国道17号線からラグビー場の東側の駐車場に入る右折レーンで足止めを食らう。元来、信号機の「右折可」の矢印が出る時間が短いのだが、3回やり過ごすことに。そして駐車場に着いたらいつもは余裕たっぷりのはずの駐車スペースに車がギッシリ。この段階でキックオフ5分前だからアウトだ。ラグビー場西側のそれもかなり遠い場所にスペースを見つけて何とか車を止めることができた。ラグビー場までは歩いて5分以上かかる。こんなことなら10分早く出ておけばよかったと思っても後の祭り。

幸い、両チームのメンバーはチェックしてあったので、キックオフから数分間のピッチ上での状況に想いを巡らせながら観客席に向かった。ふと気がつくと、回りにはオレンジ色を纏った人達が少なからず居る。本日の試合は2試合とも片方はオレンジのチーム。しかし前を歩いているカップルの着ている服をよく見たら「DOCOMO」のロゴが入っていた。ここでやっと気がついた。本日はJリーグの大宮アルディージャが隣の陸上競技場で試合を行う日だったのだ。件のカップルもラグビー場に辿り着く前には視界から消えていた。かつては毎年熊谷で行われていた同志社と明治の定期戦でも駐車場の確保に困る時代があったことが懐かしく思えてくる。(ちなみにJ1の試合は16時キックオフで観客は1万人弱と知り、帰宅してから大きなため息だった。)

さて、法政のメンバーは、BKに若干入れ替わり(WTBに今橋が抜擢され、半井はFBに移動)があるものの基本ラインは変わらない。しかしリザーブには注目の大物ルーキーが居る。189cm、100kgの大型LO牧野内がその人。足腰の強さでトライの山を築いているFL西内といい、若手にきら星のごとくのメンバーが揃っている法政。流経戦でも相手の消極性?があったとはいえ勝てた試合を落としてしまった印象が強い。これだけのメンバー揃っているのに何故という想いは、やはり禁じ得ない。

中央大は基本的に不動のメンバーだが1点、SH長谷川の名がリザーブにもない。代わりに起用されたのは昨シーズンまでレギュラーを務めていた高崎で、住吉は本日も後半に登場することになりそうだ。長谷川は東海戦勝利の立役者のひとりと見ていただけに欠場は痛いが、高崎がベテランの意地を見せてくれるはず。Bチームで戦わざるを得ない現状に対する忸怩たる想いをこの試合にぶつけて欲しいところ。

◆前半の戦い/法政FWの怒涛の攻めにひたすら耐える中央

スタンドへの入り口をくぐってすぐに電光掲示板を見たらちょうどキックオフから8分が経過したところだった。どちらも無得点であることを確認し安堵したのも束の間、ピッチ上からは異様な熱気が伝わってきた。そう、法政FWの怒涛の(という言葉しか思いつかない)攻めの連続に中央大が防戦一方になっている。東海大戦でSH長谷川が先輩のFW選手達を鼓舞しながら元気溌溂の状態で攻め続けていたチームの面影はまったくない。法政が得点を奪うのは時間の問題のように思われた。

果たして11分、ドロップアウトからの中央大のキックに対して法政はカウンターアタックから前に出る。オープン展開でパスミスかと思われたが、本日左WTBに起用された今橋がボールをうまく拾って左タッチライン際を駆け抜け、一気にゴールラインまで到達してしまった。GKは外れたが、法政が5-0と幸先良く先制点を奪った。

お互いにキックが多い展開ながらも、法政FWがボールを持つと怒涛のアタックを何度も何度も見せる。中央大はタックルに次ぐタックルでひたすら耐える状況なのだが、後ずさりしながらも組織ディフェンスの網に綻びが生じない。相手のビッグゲインに対しても面を保ちながら戻り、最後の一線は越えさせない。ピンチの状況にあっても無駄な動きをしている選手が見当たらないのが(過去の中央のイメージからは)不思議と言えば不思議。でも、これは偶然に出来ることでないことは確か。

法政が優勢であることに変わりないものの、なかなか追加点を奪えないことで徐々に試合が落ち着いてきた。もちろん中央がディフェンスで頑張っていることもあるが、法政がBK選手の度重なる不味いキックでことごとくいい流れを(中央にとってはタイムリーに)断ち切ってしまったことも大きい。まずは27分、中央大陣22m手前で得たPKのチャンスから法政は速攻で攻める。中央がノット10mバックを犯してアドバンテージの間に法政SO加藤が何故かグラバーキック?と思ったらドロップゴールの失敗だった。法政は正面約24mの位置からSH大政がPGを狙うが外してしまう。この法政のダブル逆パンチにより中央は命拾いする。

逆に中央は(PG失敗後の)ドロップアウトの蹴り返しに対するカウンターアタックから法政陣に攻め上がり、法政が自陣で反則を犯したところでPGを選択。左中間22mのPGをSO浜岸が冷静に決めて3-5と中央のビハインドは2点に縮まった。法政にとっては、取り損ねた3点にやらずもがなの3点がプラスされてしまったいやな感じ。しかし法政の勢いは止まらない。蹴り合いの中で双方にミスが出るが、そんな乱戦模様の中からWTB今橋がこぼれ球をひろって快足を飛ばして再びゴールラインを越えた。GK失敗ながらも10-3と法政がリードを拡げる。

しかし中央も食い下がる。リスタートのキックオフに対し、法政が自陣でノットリリースの反則を犯したところで、浜岸が正面やや右20mのPGを確実に決めて6-10となる。有り余るチャンスをものにできない法政に対し、もらったチャンスは逃さない中央はなかなかしぶといチームになっている。法政は終了間際に中央大陣10m付近で得たPKのチャンスでSO加藤(大政は直前に足を痛めて金子に交代)がショットを選択するが失敗。ここで前半が終了した。

空白の8分間の展開が気になる状況ではあるが、確実に言えることは法政FWのアタックが流経戦よりもさらに迫力を増していたこと。とくにライン参加した時のHO小池は、しばしば有効な突破役になっていた。しかし、そんなFWの意気込みに水を差すようなBK選手の軽く見えるプレー。思い起こせば、最初のドロップアウトのシーンも、せっかくいい形でFWが攻めているのに「なんでそこで蹴る?」といったようなキックパスの失敗だった。逆に怒涛の攻めにたじたじとなりながらも防波堤を決壊させることなく耐え凌いだ中央。ここで何となくだが閃いた。中央がこのまま耐え凌げば逆転勝利もあり得ると。

◆後半の戦い/試合巧者へと変貌を遂げた中央大が真骨頂を見せた

法政が攻勢に出ていたこともあるが、中央大も東海大戦で見せたようなアタックのキレが殆ど見られなかった前半の戦い。攻撃のテンポがよくないことにSH長谷川の不在の影響を感じずにはいられない。8分、中央は法政陣22m手前のスクラムからオープンに展開して連続攻撃で法政ゴールに迫るもののラックでターンオーバーされてチャンスを逃す。

時計が10分を指したところで、中央大はSH高崎に代えてアイコー(住吉)を投入。ここで一気に中央のアタックがテンポアップしたことから見ても、二人のルーキーSHが中央のアタックのキープレーヤーであることが分かる。そんな中で14分、ようやく中央大にこの日の初トライが生まれた。法政陣22m内でのラインアウトからオープンに展開してゴール前でラック。中央はここからショートサイドを攻め、絶妙の浮かしパスがWTB高に通りラストパスとなる。左隅からのGKは外れるが11-10と僅か1点差ながら中央大が逆転に成功した。

ようやく勢いを得た中央大。ここからの試合運びが絶妙だった。前半は大人しく見えたFB羽野もチームを元気づける形で存在感を見せる。けして無理はしないが、ここぞというところで法政DFをぶち破りチームにガッツを注入する。19分の中央大の追加点はそんな羽野のタテ突破から生まれた。法政陣ゴール前のラインアウトからオープンに展開して右寄りの位置でラックが出来たところからさらに右に展開しライン参加した羽野がラインブレイク。最後はフォローした途中出場の渡辺がゴール右隅に飛び込んだ。GKは失敗するが16-10と中央大のリードは6点に拡がる。

少ないチャンスを確実に得点に結びつける中央大に対し、攻めている時間は長いもののなかなか得点が増えない法政。両者明暗が分かれる中で次第に法政に焦りの色が見え始める。法政のSOは16分に加藤から井上に交代しているが有効なラインアタックができないまま時計は進んでいく。23分に中央大陣22m手前で得たスクラムのチャンスも、FWでゴール前まで攻め込みながらノットリリースで得点に結びつけることができない。28分、法政ボールのセンタースクラムで中央大のFL小野がスティールに成功して前進しゴールに向けてキック。チェイスした選手にボールが収まればトライと言う場面だったが、一足早く法政選手がボール確保に成功して辛くもタッチに逃れる。

しかし、その直後のプレーがこの日のハイライトだった。法政陣22m内のラインアウトから中央大はオープンに展開し中央付近でラック。ここでSO浜岸が絶妙のドロップゴールを決めたのだ。リードしているとは言っても1T1Gで逆転されてしまう6点差では安心できないだけに値千金とも言える。思わず、前半にあった法政のドロップゴール失敗の場面が頭をよぎった。残り時間10分での9点リードはけしてセーフティーではないが、中央大はもう過去の中央大ではない。法政陣で攻め続けて時計を進める巧みなエリアマネジメントを見せる。

この試合に敗れると3敗目となってしまう法政が最後の死力を尽くして攻める。逆転のためにはとにかくトライを取ることが必要。37分には中央大ゴール前でのラインアウトの絶好のチャンスもゴールを目前にしてノックオン。40分に中央陣ゴール前での連続攻撃からCTB金がゴールラインを越えるが遅すぎた。法政にとっては中央大のドロップゴールによる3点が重くのしかかった形。法政は流経大戦に続き、またしても勝利を逃してしまった。

と言う具合に、得点経過を追っていくとスリリングな展開で、おそらくネットの実況にかじりついていた両校のファンにとってはハラハラどきどきだったのではないだろうか。しかしながら、実際にスタンドで観ていた感じでは、劣勢に立たされていたものの殆どの時間帯でゲームをコントロールしていたのは中央大だったという印象が強い。逆に言うと、法政にピッチ上で(残念ながら)ゲームをコントロールできる選手が居なかったと言うことにもなる。中央とて卓越したスキッパーが居る訳ではないが、15人でゲームの流れを共有することができており、結果として集中を切らすことなく80分間を戦い終えたことが素晴らしいと思った。

過去10シーズン以上、1T以内の僅差負けに泣かされた「惜敗の中央大」を散々観てきただけに、かくも試合巧者になった中央大の姿が信じ切れない。いや、信じきれなかったと言い換えようと思う。このような負けと隣り合わせのような試合に15人で力を合わせて勝てることこそが強さなのだ。リーグ戦ではトライの山を築いてバカ勝ちする必要はない。たとえ1点差でも勝ちを拾うことが大切だ。見事に変貌を遂げた中央大にラグビーの面白さを教えてもらったような気がした。

◆法政にとって「黄金の12分間」の再現はあるのか?

今シーズンの法政の試合で強く印象に残るのは、なんと言っても立正大戦の終盤12分間(正確にはインジュリータイムが入るので数分長かったと思うが)で見せてくれた戦いぶりだった。司令塔が交代した瞬間、まるでスイッチが入ったように流れるようなBKアタックが観られた夢のような時間だった。おそらく法政ファンではなくても、ラグビーファンなら誰もが魅入ってしまうような、パスがテンポ良く面白いように繋がるランニングラグビー。その場面はベンチに下がった司令塔を務めていた選手も見ていただろうし。そして、何かを感じたはずだ。

しかし、件の選手の過去2試合のプレーを観ても、「最高のお手本」から何かをつかみ取った気配が全く観られないのはどうしたことか。相変わらず、「KY」(FWの奮闘を一瞬にして無にしてしまう)とか「自己チュー」(回りが反応できない)といったキーワードが思い浮かぶようなプレーの連続には正直ガッカリしてしまう。果たして2度のチャンス(流経戦もこの日の中央大戦も勝てる可能性はあった)を逃してしまった法政に3度目は来るのか? ここまでの状況を見る限り、その可能性は低いと言わざるを得ない。もう一度あの12分間を体験してみたいとは思うものの、それをいちラグビーファンの夢で終わらせてしまうのはあまりにももったいないと言わざるを得ない。
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拓殖大学vs大東文化大学(2013年10月6日)の感想

2013-10-11 01:38:03 | 関東大学ラグビー・リーグ戦
リーグ戦の第4節は年に一度の前橋詣でとなり、敷島公園のサッカー・ラグビー場に向かった。ここは首都圏からだともっとも遠い試合会場だが、埼玉の自宅からは熊谷ラグビー場までの距離の約2倍だからそんなに遠いというイメージはない。それに、ここは球技専用だから見やすいという魅力も加わる。ひとつ残念なのはスタンドの高さとピッチとの間隔の関係で、タッチラインが防護柵の中に入ってしまうこと。精神的なバリアとも言えるが、それも試合が始まれば気にならなくなる。ピッチ上から伝わってくる「気」をできるだけ強く感じるために、いつも通り前から5列目あたりの席に落ち着いた。

実は家を早めに出たこともあってキックオフ1時間前に競技場に着いてしまった。ちょうど選手達がサブグラウンドに出てきてウォーミングアップが始まったところ。やはり、試合前の段階でチーム状態の違いが出るものだなと思った。2連敗中で白星のない拓大はウヴェ主将を中心に黙々と身体を動かしているといった感じ。片や、同じく緒戦で中央大に惜敗して未勝利とはいえ大東大は声がよく出て元気いっぱいの様子。中でも一際眼を惹いたのは、軽快にアップに励むWTBサウマキの姿だった。惚れ惚れするような肉体の持ち主で、生粋のアスリートと言った感じ。出場時間は短くてもトライの山を築くこと出来る点で、後の試合で登場する流経大のリリダムと双璧といえる。後半、どんな状況で投入されることになるだろうか。

◆キックオフ前の雑感

まだ勝ち星のない両チームにとっては、生き残りをかけたとも言える絶体に負けられないこの試合。とくに2連敗の拓大は今後の対戦相手のことを考えると後がない状況にあると言える。しかし、勝敗以外にもこの2チームのマッチアップには見どころが多い。私的には昨シーズンの注目チーム(拓大)対今シーズンの注目チーム(大東大)の対戦という構図だから。拓大の場合は1試合ごとに着実にステップアップを果たして、注目チームに「昇格」を果たしたのに対し、大東大は瀕死の重傷状態の入替戦から春シーズンには見違えるようなチームへと変貌したことで注目チームとなったのだった。

まずは拓大のメンバーを確認する。小柄な選手が多く大きな戦力的な上積みがない分、コンビネーションに磨きをかけて臨むのが今シーズンということでBKメンバーに変化が見られた。春シーズンまで不動のSOとして活躍していた拓大の2枚看板のひとり、パトことステイリンがCTBに回り、司令塔には1年生の林が抜擢された。期待はFWでは1年生にして既にスクラムの軸となった具で、BKはパワーアップしたWTBの山谷。そして昨シーズンのトライ王ウヴェはキャプテンの重責を担う。

対する大東大は2戦目もほぼベストのメンバーが名を連ねる。とにかく怪我に泣いた昨シーズンまでの状況が夢か幻かという状況になっているのは心強い。FWではLO種市、FLテビタにNo.8の長谷川。BKはリーグ戦G屈指の(隠れ)トライゲッターであるWTB淺井がそんな選手達だ。そして、恐るべきルーキー達の中からLOハフォカ、HB団(小山と川向)とFB(大道)の4人がスタメンに生き残った。しかし、誰かが足りない。そう、リーグ戦の他校の選手達からも「隊長」と親しみを込めて呼ばれている闘将の高橋主将だ。怪我で急遽欠場となったようだが、大東大にとっては絶体にピッチの上に立っていて欲しい選手の欠場は痛い。

◆前半の戦い/予想通りのオープン展開合戦の中で明暗が分かれる

好天に恵まれながらも、雨上がりでやや蒸し暑さを感じさせるグラウンドコンディションの中、メインスタンドから観て右側に陣を取った大東大のキックオフで試合開始。様子見も兼ねた蹴り合いによる陣取り合戦の中で、大東大のテビタがいきなり魅せた。自陣からのカウンターアタックで裏に抜けてディフェンダーをかわしながら快走し、一気に拓大陣22m付近までボールを運ぶ。惜しくも大東大にノックオンがあり拓大は命拾いといった感じだが、その後も拓大はFW周辺を割られてビッグゲインを許す状況が続いた。昨シーズンの終盤に登場したときには足を引きずっていたテビタだったが、見違えるようなバランスのいいランニング。今年はコンディションが良さそうだ。

さて、今シーズンの拓大は昨シーズンとはプレースタイルを変え、オープンかつワイドに展開する形になっている。それは日大戦の録画を観て感じたことだが、果たして本日も同じラグビーを展開。拓大がやりたいのはやはりこのラグビーだということがよく分かる。しかしながら、このオープン展開指向が徒となる。3分、拓大がHWL付近のラインアウトからオープンに展開してWTBまでボールが渡ったところでノックオンがあり、ポロリとこぼれたボールが大東大のWTB淺井の真ん前に。難なくボールを拾った淺井は一気に加速してタッチライン際を快走しながらゴールを目指す。

タックラーをはじき飛ばすほどの腰の据わったランを信条とする選手に手だけでタックルに行ったらどうなるかは自明の理。淺井は結局そのまま40mを走りきってゴールラインを越えた。大東大はツキもあったが、斗頼(とらい=淺井の名前)のトライであっさりと先制。思い起こせば春の立正大戦の圧勝劇も淺井のトライが口火を切った形。名は体を表すとは正にこのことで、ご両親の望み通りに育ったと言ったところか。淺井に限らず、大東大の選手は前が開いていたらどんどん勝負を仕掛けるのが伝統。しかしながら、過去数シーズンはそんなことは忘れてしまっていたかのようなプレーが多く、勝負せずに蹴って観客席からため息を誘うこともしばしば。「君たちは自信を持って勝負できるはずだ」という青柳新監督の檄が聞こえるようなトライシーンだった。

駄洒落を言っている場合ではない。大東大はたたみかける。7分、HWL付近右サイドのスクラムからオープンに展開してラックが出来たところで、SH小山がサイドをするりと抜け出しビッグゲイン。ボールが22m内まで運ばれたところでオープン展開から今度は右WTB今村がゴールラインを越えた。自身が蹴ったGKも成功し序盤にして大東大が12点のリードを奪う展開となる。ビッグゲインを活かして効率よく得点を重ねた大東大に対し、拓大はオープンに展開するもののことごとくノックオンなどのミスでチャンスを潰す。意図は明確だが、テンポ良く攻めることが出来ない分、ミスが増えていく感じ。もちろん、大東大ディフェンスのプレッシャーが厳しいこともあるが、岩谷とステイリンのHB団が起点となっていた昨シーズンのようにはいかない。

しかし拓大もワンチャンスをものにする。17分、大東大陣10m/22mのラインアウトを起点としたオープン攻撃の連続でラインブレイクに成功したFB山本から右WTB塩倉にラストパスが渡る。今度は大東大と逆の形で塩倉がタックラーをかわしてゴールラインを越えた。ステイリンのGKも成功し7-12と拓大が反撃体制を整えた。かに見えたが、拓大はなかなか波に乗ることができない。25分、大東大はラインアウトを起点として8(長谷川)→7(テビタ)の強力なサイドアタックで大東大陣に攻め込むものの、拓大の看板選手である7番も負けていない。何とモールになりかけたところでボールをもぎ取って大逆襲。結果は惜しくもノックオンという形に終わるがウヴェが存在感を見せた形。ただ、今シーズンのウヴェは猛威を奮った昨シーズンのような動きができていない。足の状態が万全でないのかも知れないが、主将としてチーム全体のことも考えなければならないことも影響しているのだろうか。

27分、拓大は大東大の反則により大東大陣22m付近でラインアウトのチャンスを掴む。昨シーズンだったらモールで前進し、最後尾に位置したウヴェが機を見てゴールに飛び込む拓大の必殺パターン。モールを作ったところまでは予定通りだったが、押し切れずにオープンに展開する。ボールはゴールライン付近まで運ばれるが、大東大に執拗に絡まれてパイルアップに終わる。ややミスが目立つとは言え、両チームのオープン展開合戦を観ているうちに時計はどんどん進んでいく。前半も終盤にさしかかった34分にようやく得点板が動いた。拓大のキックに対するカウンターアタックからCTB梶がラインブレイクに成功してラストパスをCTB久保田に渡した。GKは失敗するが17-7と大東大のリードは10点に拡がる。

大東大は前半終了間際に加点。39分、拓大陣10m付近でのラインアウトからまたもSH小山があっさりとウラに抜け出し、22mラインを越えた辺りでフォローしたFL鈴木に丁寧にラストパスを渡す。テビタ、長谷川といったビッグネームの陰に隠れてはいるが、どこにでも顔を出す仕事人鈴木の存在は大東大にとって大きい。GKも成功して24-7。大東大はだめ押しとも言える得点を挙げて前半を終えた。大東大は、攻めている時間が長いわけではないが、ここ1番で確実に得点できる効率のよいラグビーができている。片や拓大はオープンに展開してはミスで自滅の繰り返し。FW戦のガチンコはブレイクダウンの局面にほぼ限られ、BKのパスとランでボールが大きく動くラグビーはやっぱり楽しい。

◆後半の戦い/ブレイクダウンでの攻防も明暗を分ける

前半の戦いを観て、拓大がここまで(期待に反して)2連敗となっている理由が分かったような気がした。今シーズン、中央と大東が(いい方向に)劇的な変化を遂げているわけだが、拓大の変化も(この言葉は適切ではないが)劇的といえる。オープン展開指向は昨シーズン終盤の続きみたいなもの。ひとつ確実に言えることは、去年に比べると選手の意識が淡泊になっているに見えること。例えばマイボールキックオフでは浅めに蹴られてボールの落下点には必ずFL森が走り込んでおり、高い確率でボールの確保にも成功していた。また、ボールをオープンに展開する前に、必ずFWの塊で相手に身体をあてる(痛いが)堅実なラグビーが出来ていた。その根底にあるのは、マイボールを如何に確実にキープし、イーブンボールはマイボールにするという強い意志のチームとしての共有。けしてサボっている訳ではないのだが、どうしても選手達が身体を張っていないように見えてしまう。

さて、リードされているとはいっても拓大のビハインドは17点。先に1トライ返せば逆転勝利のための時間は十分にある。拓大は後半の頭からSH茂野に代えて中村、SO林に代えて永野を投入し、劣勢挽回を期する。こう書くと、HB団が一気に交代というように見えるのだが、実際にSHの位置に立ったのは15番を付けた山本逸平だった。昨シーズンもゲーム終盤にはよく観られた形で、けして急増ではないのだが、ゲームの流れを変える目的で投入できるSHがリザーブに居ない?というところに拓大の選手層の薄さを感じずには居られない。昨シーズン、淡々と、しかし確実にボールを捌いていた岩谷の偉大さを感じるとともに、大東、中央、日大が新人SHの活躍によりチームが活性化されている現実を見逃すことはできない。

後半はショック療法?が功を奏する形で拓大が攻勢に出る。FWが去年を思い出したかのようにシェイプを使って攻めたりと、開始から10分くらいまではゲームは殆ど大東大陣で展開。ここで1本取れれば今季初勝利もという状況に拓大ファンの応援のボルテージが上がる。ただ、大東大は自陣を背にする苦しい状況ながら、粘り強いディフェンスで拓大のミスを誘い、大事には至らない。精神的な支柱の高橋主将がピッチ上にいない状況だが、15人のまとまりが拓大に得点を許さない。大きくゲインされても、選手がさっと後ろに下がって防御態勢を一瞬のうちに建て直す状況はここ数年のチームには観られなかったこと。攻撃の進化が目立つ大東大ではあるが、一番良くなった部分は15人で力を合わせて守り切るという意識がしっかり共有されているところだと感じた。

大東大は9分、自陣での拓大のアタックの局面でターンオーバーに成功し、ボールを一気に拓大陣内まで運ぶ。ここが後半のターニングポイントだった。拓大がたまらず反則を犯したところで、PKが絶妙のタッチキックとなり、拓大ゴール前でのラインアウトのチャンス。大東大はモールを形成して押し込みテビタがトライを奪った。大東大のここ一番の集中力が値千金の得点を生みだした形。21分にはSH小山が絶妙のループパスでオープン展開を助けるなど新人離れした活躍をみせる。しばしば強烈なタックルを決めたSO川向やFB大道といったルーキー達が伸び伸びとプレーできる雰囲気にあることが大東大に活力をもたらしているようだ。

劣勢に立たされた中での29分、拓大は大東大ゴール前でFKのチャンスを得て速攻で攻めるがパイルアップ。続く30分の5mスクラムのチャンスもボールを持ち込んだところで痛恨のポロリ。数少ない得点のチャンスを活かせなかったことで、残り時間から見てもここで勝負アリとなった。大東大は39分にも淺井がこの日2つめのトライを奪って勝利に華を添えた。

ここでふとあることに気付いた。そう、終了間際になってもサウマキがピッチ上に立っていないのだ。ただ、リードしているとはいっても拮抗した展開の中でサウマキを投入したら、大東大の選手達の精神面のバランスが崩れてしまわないとも限らない。そのサウマキが登場したのは時計f41分を指してからで余りにも短すぎる。ということで、サウマキのトライショーは次戦以降へのお預けとなってしまったが、大東大ファンにとっては納得の勝利だったのではないだろうか。相手がここ数年は分が悪い拓大だけにその想いは強いかも知れない。緒戦(中央大戦)の1点差負けは残念だったが、中央大の好調ぶりを見ても、大東大は現時点で上位グループにあることは間違いなさそう。伸びしろも十分あるだけに、優勝を目指して頑張って欲しい。

◆大東大の課題

すべてがいい方向に回っている大東大。ただ、少し気になった点もあった。それは今後FW戦となったときに顕在化するかもしれない。ひとつはNo.8は誰(といっても長谷川かテビダのどちらかだが)が相応しいかという点だ。将来的に見たら長谷川で異論はない。しかし、No.8はFWでは最後方に控えて司令塔の役割を果たす重要なポジションで、FW第3列として一括りにされてはいるがFLとは役割が違うと思う。切り込み隊長として自ら仕掛けるとともに、FW全体のバランスを見る必要もある。そう考えると、今シーズンは最初からテビタに8番を与えた方がいいように思われる。長谷川も「俺を信じてついてこい」とか「しっかりフォローするから思いっきりやれ」とテビタに言われた方が動きやすいし持ち味が出せそうな気がする。そうなれば、FL鈴木との3人で最強の第3列を作ることが出来るかも知れない。しばしばポジションチェンジで7番の選手が8番の位置にいる状況を見てそんなことを思った。

◆3連敗となってしまった拓大に捧げる言葉

開幕前は優勝も狙えるチームとして期待も大きかった拓大だったが、まさかの3連敗でピンチに陥ってしまったことが信じられない。でも、今日の戦いぶりを見たら、3連敗も納得なのだ。「後半の戦い」の最初の方でも書いたように、今シーズンの拓大のラグビーはどうしても淡泊に見えてしまう。FWが塊となって前線で身体を張り続け、BKもサイズ不足を低いタックルでカバーするようなラグビーを忘れてしまったかのような状況を残念に思う。そういった激しいラグビーをしていたにもかかわらず、大きな怪我もなくシーズンを戦い終えた拓大に対して賛辞を惜しまなかった訳だが、ちょっと持ち上げすぎたかなと反省したくなる状況。

人づてに聞いた話では、昨シーズンが始まる前の拓大の選手達には悲壮感が漂っていたという。「自分たちは弱い。このままでは入替戦も勝てない。」と。客観的に見ても、開幕前はダントツの最下位候補で、2部転落も予想される状況だった。そういった危機意識をバネにして戦ってきたのが昨シーズンの拓大だったはず。好成績を挙げたからといって、その気持ちをたった1年で忘れてしまったら元の木阿弥になってしまう。他校と較べても、戦力面の上積みを考えたら安閑とはしていられないはず。

あと、気になるのは主将を務めるウヴェのこと。ピッチ上での立ち居振る舞いを見ても、とても優しい心根を持った選手であることがわかる。激しい言葉で選手を引っ張るタイプではないだけに、思い悩むところがいろいろとあるのかも知れない。チームメートは主将をもり立てていくことも大切なのではないだろうか。ウヴェが本来の持ち味を発揮するためにもチーム全体として考えてみて欲しい部分ではある。また、スクラムで主将不在の大東大を圧倒できなかったことも誤算だったはず。しかし、それ以上に急造に見えるライン構成がミスを多発させたような気がする。私的には、安定したステイリンをFWに近いSOに戻して堅実にゲームを運ぶ方がいいような気がするのだが。

ただ、スタンド上にピッチに立っている気持ちになって檄を飛ばしている控え部員が居たのは救いだと思う。ブレイクダウンの局面で早々と見切って(捨てて)しまうFWの選手達に向かって「何故ファイトしない!」と何度も何度も叱咤していたことが強く印象に残る。試合後のミーティングでは激論が交わされたであろうことを期待したいし、そうであればチームは立ち直れるはずだ。

3連敗となってしまった拓大の選手達に捧げたい言葉はひとつ。「初心忘るべからず」。去年の今頃、自分たちはどんな気持ちで戦っていたかをしっかり思い出して欲しい。中央や日大が好調とはいっても、絶対的優位に立っているチームはまだないと思う。残り4つを全部勝つ気持ちで頑張って欲しい。
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第4節の試合予定&みどころ(2013.10.06)

2013-10-05 11:15:03 | 関東大学ラグビー・リーグ戦
○第4節の試合予定

 10月 6日(日) 立正大学 vs 中央大学 12:00 八王子上柚木陸上競技場
 10月 6日(日) 拓殖大学 vs 大東文化 12:00 前橋敷島公園サッカー・ラグビー場
 10月 6日(日) 流通経済 vs 法政大学 14:00 前橋敷島公園サッカー・ラグビー場

今シーズンはとくに「波瀾万丈」を感じさせるリーグ戦も中盤戦に突入。毎週どこが勝つか予想するのが難しい状況は最後まで続きそうだ。見方を変えれば、これほど面白いシーズンはかつてなかったとも言える。トップを走っていそうな流通経済が横綱かどうかはまだ判断出来ないが、中央大戦の敗戦で東海大が一歩後退であることは間違いなさそう。開幕2連勝の日大と中央大はこの勢いがどこまで続くか予断を許さない状況にあり、中央大に惜敗した大東大がどこまで戦えるかは未知数。法政は立正に勝ったものの日大には完敗で黄信号がともった感じ。一方で、2連敗で後がなくなった感がある拓大だがまだ盛り返すチャンスはあると見る。また、同じく2連敗ながら東海大戦で自信を掴んだ感がある立正大も不気味だ。それこそ1節ごとにオセロゲームのようにめまぐるしく展開が変わっていきそうな全チームの戦いの状況をじっくり観ていきたいと思う。

さて、2会場に分かれて3試合が組まれた第4節の注目は前橋で組まれた2試合。この会場はしばしば波乱が起こるため、各校のファンにとっては当日までハラハラどきどきになることが多いように思う。とくに第1試合は両校の生き残りをかけた戦いとも言えそうで、ヒートアップは必至とみる。第2試合は今シーズンのリーグ戦の力関係を把握する意味でも楽しみな対戦。しかし、波乱が起こるとすれば上柚木ではないだろうか。いろいろな状況やデータからは中央大の圧勝が予想される展開ではあるが、そうは簡単にはいかないことを過去の事例が教えてくれる。徐々にわかり始めてきた各チームの状態を頭に思い浮かべながら、各試合に対する私的みどころを書いて見る。

【立正大学 vs 中央大学】

東海大を破り2連勝で波に乗る中央大。革命的とも言えるチーム改革に成功し、戦術か明確でバランスのいいチームに仕上がった。さらに上柚木は相性がいいグランド。あらゆる状況が中央大の圧勝を予想される状況になっているし、私的にもそう感じる。しかし...なのである。中央大は3週連続の試合でそろそろ疲れが溜まっているはず。東海大に勝利したことと、立正大のここまでの戦績(2連敗)からみてハイテンション状態を保ち続けることができているだろうか。気持ちでは分かっていても身体が反応してくれるか。ここをしっかり乗り切れるかがこの試合に臨むにあたっての課題だし、あくまでもチャレンジャーとして前進を続けて欲しいと思う。

そんなことを想うのも、立正大も着実にチーム力を上げてきているように見えるから。東海大に肉薄した勢いから見ても、中央大を飲み込んでしまうことだってけして不可能ではない。先だっての東海大戦を振り返ると、後半の大健闘は東海大のテンションが落ちたからというだけでは説明が付かない。立正大が果敢に攻め続けたことで自信を掴んでいった様子がTV録画の画面からも伝わってきた。ここでキープレーヤーとなったのが後半から登場したSHの植竹(2年)。身体は160cmと一際小さいが、彼が積極果敢に前に出たことで立正大のBK陣に攻撃のリズムが出てきたように見えた。果たして、この試合では遂にスタメンを勝ち取ったことに首脳陣の期待の大きさが表れているように思う。中央大のマークはどうしても両WTB(鶴谷と早川)に向きがちだが、真に警戒すべきは9番の選手ではないだろうか。初登場の大型LOレイモンドも不気味だ。立正大は中央大を上回る積極性を発揮して勝機を掴んで欲しい。

【拓殖大学 vs 大東文化大学】

拓殖大は日大戦のTV録画しか見ていないので判断が付かない部分もあるが、今シーズはBK展開で勝負という意図がはっきり見える。安定度抜群のステイリンをSOからCTBにポジションチェンジしたのは、BKアタックの幅を拡げることを意図しているからではないだろうか。FWのスクラムはおそらくリーグ最強で、セットプレーからの安定した球出しを起点として、オープン展開で攻める形が見られそうだ。ということで、今年からSOを務める林のゲームメイクに注目したい。また、昨シーズンよりパワーアップした感があるWTB山谷のランも楽しみだ。

シーズン前に大いなる期待を抱かせた大東大だったが、中央大戦の惜敗でちょっとトーンダウンかなという印象も受けた。ベストメンバーで開幕を迎えることができただけに、どうしても期待が高まってしまう部分があったので。しかしながら、東海大戦での中央大の仕上がりの良さを見て、少し安心した部分もある。この試合は仕切り直しということで、やはり強力なFWの面々で勝負ということになるのかも知れない。しかし、これはスクラムに自信を持つ拓大の思うつぼ。大東大はFWのガチンコよりも、春の立正大戦で見せたようなBKへの素早い展開で勝負を挑むことになると思う。前半の淺井に後半は期待のサウマキも加わるWTBで勝負の展開に持ち込みたい。両チームがBK勝負でガチンコになったら最高に面白いラグビーが見られそうだ。

【流通経済大学 vs 法政大学】

さらなるステップアップ(から優勝を目指す)拓大をパワーでねじ伏せた感がある流経大。不安要素は流動的なBKメンバーだが、この試合では矢次がSOとして復帰し、不安解消なるかが見どころ。WTBリリダムは不動だが、合谷がCTBに上がっているのも目を引く。コンビネーションに不安ありだが、逆に言えば変幻自在なアタックでファンを魅了という要素も見えてくる。矢次のゲームメイクに注目したい。FWに機動力のあるメンバーが揃っているだけに、法政はアタックの初期段階でしっかり止めないと大量失点負けもあり得る状況だと思う。後半(おそらく)に私的リーグ最強FLのジョージ・リサレがどんな状況で出てくることになるだろうか。

法政はまだまだメンバーもチーム戦術も固まらない苦しい状況にあるように見える。オープン展開での継続に不安があるBKで勝負するよりも、計算が出来るFWで確実にボールを前に運びたいところだが、FWは流経大のストロングポイントだけにガチンコになると厳しい。いかにしてテンポ良くボールを動かしていい形でBKにボールを渡せるか。立正大戦の終盤に見せた流れるようなBKアタックができれば理想的だが、キープレーヤーはリザーブにも居ない状況では難しそう。法政が勝機を掴むためにはタックル(それも前進を許さない低く刺さるタックル)が鍵になりそう。流経大が思うように攻められず混乱してミスを連発するような状況を作りたい。変幻自在なアタックはうまくかみ合わなければ機能不全に陥る可能性がある。どちらがより泥臭くなれるかがこの試合に対する私的着目点でもある。
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中央大学vs東海大学(2013年9月29日)の感想

2013-10-01 01:00:11 | 関東大学ラグビー・リーグ戦
第3節を迎えて、やや荒れ模様の展開となっている今年の関東リーグ戦G。対抗戦G校の仕上がりや今年はとくに元気がありそうな関西Aリーグのことが気になるこの頃ではあるが、毎週どちらが勝つのか予想を立てるのが難しい試合が続くのはやっぱり楽しい。勝敗が絡んでくると、実際に試合会場に足を運ぶ前に妄想に耽るのも楽しいし、また、帰りの電車あるいは車の中で「感想戦」に思いを馳せるのもまた楽しい。勝ち負けがすべてではなくても、勝因、敗因をどうしても分析してしまう。

しかしながら、今シーズンでここまでの生観戦は開幕戦の法政vs立正戦のみ。その翌日の2試合が台風で吹き飛ばされてしまったことで、次週の4試合は観戦できず。ネットのお陰でいろいろな情報は手に入れることが出来るようになったとは言うものの、どんな試合内容だったのかがかえって分からないというジレンマに陥ってしまうのがもどかしい。

そんななかで組まれた第3節の2試合。法政に勝って順調なスタートを切った日大に対し、流経大にパワーで屈した拓大、今期の注目株である大東大を接戦の末下しひと味違うところを見せた中央大に対し、勝つには勝ったが不安いっぱいの東海大といった具合で、どちらも観に行きたい。実際は、シーズン前は筑波大vs早大とダブルヘッダーが組まれている拓大vs日大を観に行くつもりで居た。しかし、緒戦の各校の状況からひとつ閃いたことがあり、中央大vs東海大の試合が組まれているキャノングランドに足は向かっていた。ちなみに、閃きとはちょうど一週間前に法政と日大の出場メンバーを観たときと同じものだ。

◆中央大と東海大の対戦に対する想い

中央大と東海大の対戦ではとくに強く印象に残っている試合がある。それは東海大が1部復帰2年目にして大きく飛躍を図ろうとしていた2001シーズンで、場所は前橋の県営ラグビー場。伏線は1週間前の大東大戦にあった。法政、日大、関東学院に3連敗の後、大東大に勝利して残り試合を3連勝すれば4位が見えると言う状況。上位校の一角を崩したことで意気上がる東海大の選手達の喜び様は今もはっきり覚えている。

しかし、すぐ1週間後に地獄が待っていた。勢いから見れば勝てる相手だった中央に惨敗を喫することになる。試合前から何となくそれまでチームにあった覇気が消え、まるで別のチームを観ているような状況だった。正に燃え尽き症候群のような状態。序盤戦は東海が優勢だったものの、ミスを重ねてペースを失い、逆に勢いを得た中央大のアタックが炸裂し、終わってみれば大差という試合だった。結局、東海大の2001シーズンは2勝5敗の7位で、入替戦でも冷や汗ものの残留(拓大に残り時間僅かのところで逆転トライを決めて29-26と辛くも勝利)というおまけまで付いた。

時は流れ、東海大は優勝を重ねるトップ校となったのに対し、中央大は永らく6位がほぼ定位置という低迷状態が続いている。そういったイメージから、開幕前はあまり魅力を感じなかったこのカード。しかし、今年は両チームの状況から見て、何かが起こりそうな予感がする。それが、先に書いた「閃き」だった。

◆キックオフ前の雑感

去年からリーグ戦Gの試合で使われるようになったキャノングラウンドだが、本当にいい競技場だと思う。観客席は少なめだが、ゆったりした感じがグッド。芝生の状態も素晴らしく、ゴージャスな気分に浸ることができる。こんな会場で試合ができる選手達が羨ましくも思えてくる。そんな中で、まずは両チームのメンバーを確認する。

東海大の今年の看板はなんと言っても小原、石井、近藤と揃った黄金のバックスリー。しかし、どんな優秀なランナーでも、ボールが回ってこなければ宝の持ち腐れだ。今シーズンの東海大は、強力だった第3列の100キロトリオが卒業したこともあり、FWはパワーダウンしている。また、HB団から後ろに控える3人にボールを渡すプロセスにも課題があるように見える。ここをどうやって乗り切るか。だが、それ以前に立正大に猛追を許してしまったディフェンスの綻びがあり、さらに春のセブンズで露呈したチームとしての精神的な脆さがある。中央大は元来精神的なタフネスを信条としていたチームだけに東海大にとっては不安な部分ではある。

中央大に関しては、未だに春シーズンに観た唯一の試合(立命館との定期戦での惨敗)の印象が尾を引いている。もちろんそのときとはメンバーも違っているのだが、大東大に勝ったことがチーム状態の改善によるものかに注目したい。BKメンバーを眺めれば、羽野や高といった突破役が居ることはもとより、バランスのよさの面ではむしろ東海大を上回っているように見える。となると、やはり勝敗の鍵を握るのはFW。昨年までのチームのイメージからだと運動量やまとまりの面で不安がある。そう考えると、やっぱり最後に笑うのは東海大かなと思ってしまうのだが、果たして結果は如何に。

◆前半の戦い/序盤戦で組織力の優劣が明白に

メインスタンドから見て右側に陣取った東海大のキックオフで試合開始。いきなりノット10mで東海大の入りの悪さは相変わらずと思わせるものの、大きな怪我に至らなかった。今シーズンはとくに序盤戦は蹴り合いの様相を呈することが多いが、果たしてこの試合もそうなった。ここで主導権を握ったのは中央大だった。常識的に考えれば、怖い怖いバックスリーが待ち構える状況でのキックは危険が伴うが、飛距離と正確性で中央大が一歩リードといった感じ。東海大は蹴り合いに付き合わされてしまっているような印象を受ける。

そうした蹴り合いの中でも、両チームのFWによる激しい攻防があるのだが、ここで組織力(準備されたプレーの有無)の優劣がはっきりした。と書くと、やっぱり中央大はダメなのかと過去の印象から思われてしまうかも知れない。しかし、今年の中央大は違う。いや、変化は劇的と言ってもいい。シェイプを有効に使い、無理をせずFWの塊でボールをキープする。片や東海大はまとまりよりも個々での対応に終始している。押され気味でもディフェンスに綻びが出ないのは個人の強さがあるから。中央のFWの選手達の動きの進化に、「今年の中央大は違う」ことにまずは感銘を受けた。

中央大はBKアタックも去年までとは明らかに変わった。飛ばしパスを使って広くワイドに展開するのが中央スタイル。その結果、FWのフォローが追いつかずWTBが孤立してターンオーバーされたり、浅いフェイズの段階でBKラインに並んでいるのはFWの選手ばかりと言う状況になってしまう。これでは持続的なアタックからトライまで持って行くことはできない。今シーズンはワイドな展開は封印してキックを有効に使いながら確実にボールを前に運ぶスタイルにモデルチェンジを図ったようだ。思い起こせば、拓大も昨シーズンから同じようなスタイルでステップアップしていった。しかし、中央大の強みはBKに拓大とは違って突破役が居ること。今年の中央大はかなり期待できそうだ。

話しをピッチ上に戻す。10分、まずは東海大がFWのパワープレーで先制点を奪った。中央大の反則からゴール前でのラインアウトのチャンスを掴み、モールを起点としてFWでボールを前に運ぶ。PR平野がトライを奪い、GKも成功して7-0となる。やっぱり中央大は東海大のパワーに屈してしまうのか?と中央大応援席は固唾を呑む。しかし、中央大も反撃。14分、東海大陣10mラインを越えた辺りの位置で得たPKのチャンスで中央大はショットを選択。正面やや右、距離にして約39mのPGをルーキーSO浜岸が鮮やかに決める。リーグ戦Gにおいて新たなスーパーブーツ誕生を告げる「黄金の一蹴り」だったことはあとでわかる。

両チームによる激しい攻防が展開される中で時計はどんどん進む。東海大もバックスリーがボールを持つとビッグゲインとなることがあるものの、後が続かずミスも多い。ただ、決め手を欠くというよりは、中央大の前に出るディフェンスを褒めるべきかも知れない。そんな中で、33分、ようやく得点ボードの数字が動いた。中央大の浜岸が正面24mのPGを難なく決めて6-7と中央大のビハインドは1点に縮まる。35分、今度は東海大が中央大陣でのラインアウトを起点としてFWでボールを前に運ぶがノットリリース。中央大の粘り強いディフェンスもあるが、東海大にとっては惜しいミス。結局、カウンターアタックの局面を除き、BK展開でバックスリーにボールが回る状況は殆どなく、時計はさらに進む。そして37分、中央大は浜岸が今度は右中間45mのロングPGを決める。ここで中央大応援席は確信を持った。浜岸のキックは安心して見ていられると。

9-7と逆転に成功したところで前半はそのまま終わるかと思われた38分、東海大にキックオフがダイレクトタッチとなる痛いミスがでる。センタースクラムから中央大は左オープンに展開して左WTB高が大きくゲインしたところで絶妙のチップキック。インゴールで東海大選手がグラウンディングに成功したかにみえたが、ボールを押さえたのは高だった。東海大にとってはアンラッキーだったのかミスなのかは分からないが、キックオフのミスが痛い代償となった形。浜岸は左サイドからのキックも鮮やかに成功させて16-7と中央大のリードで前半が終了した。結果的には、この追加点が効いた格好。

◆後半の戦い/両チームによる激しい攻防でさらに見応えのある展開に

後半開始早々の2分、中央大はHWL付近でのラインアウトからFWでボールを前に運び、FB羽野がフィニッシャーとなる。今度は右隅から浜岸がGKを決めて23-7。やはり、東海大にとって、キックオフ直後は注意すべき時間帯なのだろうか。分かっていても失点してしまうことが、ファンにとってはもどかしいはず。それはさておき、ワンチャンスを確実にものにする術を中央大はいつ身につけたのだろうか。この得点で過去の中央大に対する(よくない)イメージはほぼ払拭されてしまった。中央大は8分にもPGによる追加点を狙うが、これは失敗に終わる。

ここで、東海大はSH尾崎に変わって期待のルーキー湯本を投入。点差から見て簡単に蹴ることが出来なくなったこともあり、東海大のアタックにようやくスイッチが入る。個々の強さを軸にしたパワフルなアタックはやはり脅威。ただ、残念ながらと言うべきか、東海大にはアタックに明確なプランが見られない。いや、バックスリーで勝負というプランはあるのだが、そこまでに至るプロセスが行き当たりばったりに見えてしまうのだ。中央大の前に出るディフェンスに対し、とにかく早くバックスリーへという意識が強まり、アタックにタメがなくなっている。また、小原や石井に対しては中央大もしっかりマークしており、必ず2人以上で対応する形ができている。

越えられそうで越えられない壁にぶち当たった状況の中での27分、東海大はWTB石井がようやくゴールラインを越えた。正に怒涛の攻めといった感じで、中央大にとっても体力的に厳しい時間帯に入っている。14-23の9点のビハインドならまだまだ逆転のチャンスはある。完全にスイッチが入った東海大に対し、応援席のボルテージも上がっていく。しかし、中央大も足が止まる状況にありながら東海大のアタックを止め続ける。34分の「PGで確実に3点」のチャンスもゴール前ラインアウトを選択。気持ちはあくまでも前で勝負だ。

そして終了間際の数分間、中央大は自陣ゴール前に釘付けとなり、東海大のアタックを反則で止めざるを得ないようなピンチに陥るが、最後までディフェンスに綻びが出ることはなかった。東海大がラインアウトからオープンに展開したところでノットリリースの反則を犯し、中央大がボールをタッチに蹴りだしたところで試合終了。中央大応援席が歓喜の輪に包まれたことは想像に難くない。それもそのはず、中央大が東海大に勝ったのは、私が観た2001シーズンの前橋での試合まで遡らなければならないのだから。

もちろん、この勝利は2001の時の勝利とは違う。明らかに準備が整い、戦術がはっきりしていた方が順当に勝利を収めたと言える。ただ、中央大の選手も喜ぶのは今日だけ。1週間で全く別のチームになってしまう例を何度も観てきているものとして、中央は次の試合を大切にして欲しい。優勝の2文字がちらつくような状況にはなっているが、足下をすくわれたら入替戦になってしまうのがリーグ戦Gの怖さだ。勝利を栄養剤として、しっかり気持ちを引き締めて欲しいところだ。

◆中央のMVPは?

この試合での中央大は全員がMVPといっていいくらいに15人の意思統一が図られた戦いを見せてくれた。難しい位置からのGKをことごとく決めた浜岸、最後尾から攻守両面で存在感を示した羽野、前線で身体を張り続けたFWの選手達。しかし、強いて1人ということになれば、私はルーキーSHの長谷川を挙げたい。SHはどうしても球裁きの善し悪しに目が行きがちだが、9人目のFWという重要な役割も担っている。FWの尻を叩きながら身体全体で指示を送り続けたとても新人とは思えない活躍ぶりがとくに印象に残った。スピードスターの藍好(住吉)をもっと観たい気もするが、FWを使えるSHは実はなかなか居ない状況を見ると、やはりスタメンは外せないだろう。2人が良きライバルとして競い合うことになるであろう中央大の前途は明るいと言えそうだ。

◆東海大に対する疑問と期待

準備が整っていた中央大に対し、東海大はこの試合に臨むにあたってどのような準備をしてきたのかという想いを禁じ得ない。バックスリー勝負とはいっても、一発では抜けないし、当然相手もマークする。中央大が恐れていたのは、フェイズを重ねられて人数が足りなくなったところで3人の誰かに突破を許してしまうというところにあったのではないだろうか。建て直しの鍵はFWとBKフロントスリーの連携だと思う。1敗したとは言っても、この先どう転ぶか分からないのが今シーズンのリーグ戦の状況を考えれば、気持ちの切り替えが大切だろう。まとめ役がいて連携が図られれば強いチームになるはずという個人的な想いを捨てきれないでいる。
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