物心ついた頃から音楽を聴くのが大好きだった。家には父が購入したリーダーズ・ダイジェスト社の『世界名曲集』(クラシック音楽)や『ポピュラー音楽名曲選』というLPレコードのボックスセットがあり、とっかえひっかえしながら聴いていた。後者でとくにお気に入りだったのはマンボやルンバやチャチャチャといった「ラテン音楽」の名曲が入った盤だった。ホローポからサウス・アメリカン・ジャズにまで辿り着いてしまった今にして思えば、先天的なのラテン音楽マニアだったのかも知れない。
小学校も高学年になる頃にはFM放送に夢中になった。そこでもなぜかよく聴いたのがラテン音楽の番組。NHK-FMでオンエアされていた2時間番組の『ラテン・タイム』は毎週楽しみに聴いていて、とくにお気に入りは大岩祥浩さんが担当されていたタンゴだった。オープンリールのカセットレコーダーに録音して何回も聴いていたことを思い出す。アストル・ピアソラの音楽に出逢ったのもその頃だ。もちろん、後々大ブームになるなんて事は想像にも及ばないことだったが、ちょっと変わったタンゴかなという感じで普通に聴いていた。
交響曲と管弦楽曲で固めた『世界音楽名曲選』の方も思い出深い。これがなかなかユニークなラインナップだったのだ。バッハ『ブランデンブルグ協奏曲』、ヘンデル『水上の音楽』、ハイドン『驚愕』、モーツァルト『交響曲第40番』、ベートーヴェン『英雄』、シューベルト『未完成』、メンデルスゾーン『イタリア』、チャイコフスキー『悲愴』、グリーク『ペールギュント組曲』、ビゼー『カルメン』、ドビュッシー『牧神の午後への前奏曲』、ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』とくればまともだ。ここまでは正統派世界名曲集そのもの。
ブラームス『交響曲第3番』、シューマン『交響曲第3番、ライン』、フランク『交響曲ニ短調』、リヒャルト・シュトラウス『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』、シベリウス『フィンランディア』と『トゥオネラの白鳥』はちょっと渋いけどまぁ許せる。
解せないのは、ドヴォルザーク『謝肉祭』、ベルリオーズ『ローマの謝肉祭』、リムスキー・コルサコフ『ロシアの復活祭』、リスト『メフィスト円舞曲』、ショパン『レ・シェフィールド』。これはちょっとマニアックではないかい? リストとショパンは管弦楽曲からという方針なので仕方ないとして、前の3つはなかなか聴くチャンスが少ない(名曲だろうけど)迷曲の部類。半世紀以上前だとこういう基準になるのだろうか。
ラヴェルやバルトークやショスタコヴィッチがなかったのも残念。そうそう、ストラヴィンスキーの『春の祭典』も入っていたが、これがさっぱりわからんしろものだった。1回針を下ろしただけでギブアップということで記憶に残った曲ではある。
でも、そんな感じでいろいろと楽しめたのは今にして思えばありがたい。やはり、父に感謝しなければ。当時のステレオはまだ真空管方式で4本足が付いた箱物だったことを思い出した。