「熱闘」のあとでひといき

「闘い」に明け暮れているような毎日ですが、面白いスポーツや楽しい音楽の話題でひといき入れてみませんか?

第51回大学選手権 準決勝(筑波大学 vs 東海大学 2015.01.02)の感想

2015-01-08 00:07:46 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


大学ラグビー界に新風を吹き込んでいる3T(帝京、東海、筑波)が準決勝で一堂に会したお正月の秩父宮ラグビー場。東海と筑波の激突となった第1試合は、個人的には複雑な心境になるカードだ。もちろん、「熱闘!リーグ戦」の立場からは東海に勝って欲しいし、3度目の正直は御免被りたい。でも、実はリーグ戦G所属校以外で一番魅力を感じているチームが筑波であり、「対抗戦G5位からの初制覇」を達成して欲しい気持ちもある。

その筑波の魅力は、他の大学チームにはない(チームとしての)精神的なタフネスがあること。殆ど話題にならないが、東日本大学セブンズ大会において目下3連覇中であることは偶然ではないはず。苦しい状況になればなるほど力を発揮するチームという印象を持っている。だが、このタフネスはいったいどこから来るのだろうか。対照的なチームカラーを持つ東海との戦いでその答えが見えるかも知れないと思ったりもする。

それはさておき、ピッチに登場した両チームを観て、東海大ファンは胸をなで下ろしたはず。過去2戦では東海は白のセカンドジャージを着用して敗れている。そうでなくても、セカンドの白を纏った東海大がいい結果を残した記憶がない。だから、いつものマリンブルーは東海大にとって安心の色でもあるのだ。この日はメモも取らず、視線をグランドに集中させた。激闘のあとをテーマを絞って振り返ってみる。



◆組織ディフェンスが光った東海大

序盤戦からアタックではイージーなミスが目立った東海大だったが、組織的に整備されたディフェンスが試合を引き締めた。筑波でもっとも警戒しなければならないのはスピードの福岡、パワーの山内、巧さの山下一を擁する私的には大学ナンバー1の高速バックスリーの攻撃力。もちろん東海大もバックスリーの決定力が看板のチームだが、爆発力の点では個性的な3人が揃った筑波の方が一枚上だと思う。キックオフから残り10分若となる時間帯に至るまで筑波のバックスリーにいい形でボールが渡る場面がなかったのは、東海大の組織ディフェンスが効いていたから。明治戦と比べても明らかに筑波のアタックは精彩を欠いていただけに、最後の最後に右サイドを破られてしまったことが本当に悔やまれる。

◆3つのドロップゴール成功に想うこと。

この試合を特徴付けたのは、FBの野口竜司が3つのドロップゴールを鮮やかに成功させたこと。もし、東海大が勝利を掴んでいたら間違いなくこの「偉業」は讃えられただろう。レギュラーシーズンでも躊躇なくPGで刻んでいき、そのことにより東海大は立正大戦で勝利を掴み取った。だからキッカーの確実性を見込んだ上で、ドロップゴールで得点を狙うことも東海大の戦術メニューに組み込まれていたと思う。とくにこの試合は「相手より1点でも多く得点を取ること」が大切だから、ドロップゴールで3点を狙うことはけして消極的な戦法ではない。そのことがピッチに立つ15人の合意事項であればまったく問題ないはずだ。「せっかくFW戦で優位に立ち攻め込んでいるのに…」という感想を抱いてしまうのは、観客も選手もドロップゴールで得点を取る(有効な得点手段である)という感覚に慣れていないからかも知れない。

◆終盤での13点リードは鬼門

サッカーでは2-1のリードが勝っている側にとって一番危険な状況だと言われている。負けている方が同点に追い付いたとき、チームが一気に活性化されて逆転されて負けるケースが多いからだ。ラグビーの場合は終盤での13点リードがそれに相当する。1トライ取られてGKを決められたらビハインドが6点に縮まり、しかもキックオフで相手にボールを渡す確率が高くなる。

いみじくも筑波の第1列の選手が「13点差なら2つトライをゴール中央に決めれば逆転できると思った。」と述懐している。15人の気持ちが「ゴール中央を目指すこと」で纏まったら、あとはそれを実行するだけだ。34分のPKからのトライで筑波の選手達にスイッチが入ったことは観客席で観ていてもわかった。そしてキックオフリターンからの怒涛の攻めで、誰がボールを持ってもゴールポスト直下に到達してしまいそうな勢いが感じられた。終盤の集中力も体力も尽きる時間帯に、それができることが筑波の強さなのだと改めて感じた。

◆ゲームをコントロールしたのはどちらか

筑波も東海大もアタックには精彩を欠いていた面があったが、終盤の逆転劇に繋がった東海大の残念なプレーを除き、どちらにも傾かない好ゲームだったと思う。FW戦で優位に立っていた東海大がゲームを支配していたように見え、前半リードでの折り返しと着実に加点して点差を拡げていく戦術は目論見通りだったのではないだろうか。しかし、結果論と言われそうだが、逆転可能な範囲内の点差で終盤戦を迎えることは筑波の狙いでもあったのだ。実際に筑波の中川監督は「最後の10分が勝負」と観ていたそうだ。「善戦マン」とありがたくない評価を得ていた筑波だが、どうしてどうして。なかなかしたたかなチームへと成長を遂げていたことになる。

◆筑波の強さはどこから来るのか

この試合のハイライトは終了間際の筑波の2連続トライで間違いない。しかし、チームとしての驚異的とも言えるここ一番の集中力はどこから来るのだろうか。筑波と他の強豪チームとの違いにその答えがありそうな気がする。筑波には(強豪校では当たり前となっている)寮という共同生活の縛りがないことが、選手達の自立心と実戦でひとつに纏まるための集中力を養っているのではないかということ。逆に言うと、そのくらいしか他のチームとの違いを見いだせないでいる。

◆決勝戦のみどころ

いよいよ決勝戦だが、帝京の優位は動かないだろう。でも、東海大との戦いを観て、筑波の「もしかしたら…」に賭けたい気持ちが強くなっている。対戦相手からみて、筑波は対策が立てにくいチームの筆頭に挙げられるのではないだろうか。鍵を握るのはFW戦だが、今年の帝京はステディではあるものの、去年や一昨年ほどの圧倒的な力はまだ見せていないように感じる。「今度は筑波の番」という一縷の期待を胸に両チームのラストファイトを見届けたいと思っている。

Rugby magazine (ラグビーマガジン) 2015年 02月号 [雑誌]
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ベースボール・マガジン社
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トップリーグの2試合(NEC vs NTTドコモ/クボタ vs リコー)を観て

2015-01-01 01:02:22 | 関東大学ラグビー・リーグ戦

ラグビーに興味を持ち始めた高校2年生の甥っ子S君。11月15日の江戸川でのラグビー初観戦(関東リーグ戦Gの流経大vs大東大)がとても面白かったとのことで、次は社会人のトップリーグの試合を観に行こうと約束した。大学ラグビーとはひと味違ったラグビーを観てどんな感想を持ってくれるだろうか。

本日の試合はセカンド・ステージでグループBの2試合だが、有力チームの揃い踏みになっている。再来年に受験を控えるS君は今日も塾があるため2試合目からの観戦になる。バックスタンド中央の中段付近(NTTドコモの応援団の後ろ)に席を確保して、まずは第1試合のNEC対NTTドコモの試合を観戦した。

実は、前日に同じ秩父宮で大学選手権2試合を観戦している。やはりというべきか、昨日とはスタンドの雰囲気ががらりと変わっている。トップリーグの場合、バックスタンド前方は出場チームの社員や関係者で占められるわけだが、冬休みということもあり子ども連れのファミリーが目立つ和やかな雰囲気になっている。贔屓チームの応援でボルテージが上がり、レフリーや選手に対する心ない野次などで殺伐とした雰囲気になりかねない大学ラグビーの観戦風景はやはり異常なのかも知れない。

◆第1試合 NEC(グリーンロケッツ)vs NTTドコモ(レッドハリケーンズ)



試合に先駆けてメンバー表を眺めていたら、懐かしい選手の名前がたくさん並んでいて嬉しくなってしまった。NECの看板選手はネマニ・ナドロ、ニリ・ラトゥ、そして日本代表キャップを持つウェブ将武。しかし、関東大学リーグ戦Gウォッチャーにとっては、流経大出身のLO小野寺、日大出身のFL細田(日大)、大東大出身のSH茂野海人らの成長がどうしても気になってしまう。また、NTTドコモでは大ベテランの久富(関東学院)が頑張っている。No.8イオンギ(摂南大出身)とCTBバエア・ミフィボセチ(埼玉工大出身)はそれぞれ大学選手権、入替戦での規格外とも言えるパワフルな動きが忘れられない。

試合は開始早々にNTTドコモが先制トライを奪うものの、地力に勝るNECがこの試合のMOMに輝いたニリ・ラトゥらの活躍によりトライを重ねて圧勝だった。とくに後半は一方的な展開になったものの、大学ラグビーと違って「何故だ(そのプレー)」や「あ~あ(やってしまった)」が殆どないラグビーはストレスを感じることなく楽しく観ることができる。一つ一つのプレーには意図があり、精度も高いからミスも少ない。今更何を?と言われそうだが、大学生は判断力もスキルもまだまだということがよく分かる。これなら観戦2回目のS君にも違いが分かってもらえるだろう。



◆第2試合 クボタ(スピアーズ)vs リコー(ブラックラムズ)



第1試合が残り10分くらいになったところでS君がスタジアムにやってきた。今シーズンから秩父宮の2試合目のキックオフまでは40分近く間隔が開くので、両チームの練習風景を眺めながらしばし歓談。この試合の注目選手は誰それだよとかメンバー表を手にレクチャーらしきことをする。でも、もし「両チームの特長は何ですか?」とか「どんな試合展開になりそうですか?」と質問されたらどう答えようかとヒヤヒヤ状態のオジサンであった。

第1試合と同じく、第2試合の両チームにも関東リーグ戦G出身者がたくさん居る。クボタではPR手塚(日大)、PR岩爪(法政)、LO鈴木(国士舘)、SO森脇、WTB宮田拓哉、FB森、RS稲橋(以上、東海大)、CTBカトニ・オツコロとRSタキタキ・エロネ(以上、埼玉工大)、RS鈴木(中央大)。リコーには、LO馬渕とRS高橋、中村正寿(以上、日大)、LOロトアヘヴァ・ポヒヴァ(埼玉工大)、FL武者(法政)、WTB高平とRSマウ・ジョシュア(以上、東海大)、WTB長谷川(関東学院)、FBピータース・ダニエル(拓大)、RSカウヘンガ・エモシ(大東大)といった具合。

しかし、試合が始まってすぐに目に留まったのは、両チームともスクラムハーフの球裁きがいいこと。クボタの井上は天理大時代から注目されていた選手だが、リコーの山本も天理大出身で加入2年目ながら既にキャプテンを務めている。他にもクボタには看板選手のひとりCTB立川だけでなく、FL田村、WTB伊藤といった天理大出身の選手達が居るし、リコーのPR藤原も天理大出身。本人の素質はあるにしても、指導者に恵まれているというべきだろうか。

SHからの球出しがよければ、小気味よいパス主体のアタックの応酬が楽しめる。とくに素晴らしいと感じたのが井上。受け手が欲しい場所にどんぴしゃのタイミングでパスが渡るのは観ていて本当に気持ちがいい。少しでも球出しが遅れたり、あるいは受け手が体勢を崩したりすると相手のディフェンスチャンスになってしまう厳しさがあるのがトップリーグ。攻撃の起点としてパスだけでなくフィードも求められるようになっているとは言え、やはりSHの基本はテンポよくスピーディーかつ正確にパスを供給することだと思った。

リコーでは高平と長谷川(元氣)のWTBコンビの溌溂とした動きも目立った。とくに圧巻だったのが前方に立ちはだかる2人のディフェンダーを巧みにかわしてフィニッシュまで持って行った長谷川。局面局面での機転の利いたパス回しなど、2人とも大学生のときよりもパワフルになりスキルアップしていたのが嬉しい。2人に比べると地味だが、ピータース・ダニエルの活躍も感涙もの。拓大時代もHWL付近からのGKを何本も決めていた知る人ぞ知るスーパーブーツだったが、果たして、この日も終了間際に逆転PGを冷静に決めてチームを勝利に導いたのだった。



◆観戦2試合目の甥っ子君が発した驚きのコメント

前半は15-7とリコーがリードして終わったが、後半は宮田、立川、田村による3トライでクボタが巻き返し、手に汗握る展開となった第2試合。パスが繋がりキックも冴えるラグビーはトップリーグならではだが、隣で観戦していたS君が「社会人は(大学とは違って)ラインの並び方とか戦術的なものを感じる。」と驚きのコメントを発した。昔なじみの選手達の活躍に喜ぶと言ったミーハー的な観戦者だったオジサンは真っ青になってしまった。S君が大学に入って本格的な観戦者になったら凄いことになるかも知れない。

それはさておき、S君は最近までラグビーのことは殆ど知らなかった「初心者」ではあるが、少年時代からずっと野球に取り組んでいる。ここにラグビーファン拡大のヒントがあるように思う。ラグビーは知らなくても、スポーツに本格的に取り組んでいる人達はラグビーファンになることができる人達だということ。ルールを知ることはもちろんのこと、チーム作りや身体の鍛え方などに普段から関心を持っていれば、ラグビーも面白いと感じてもらうだけでいい。だから、他のスポーツに真剣に取り組んでいる人達(とくに少年少女)に積極的にラグビーを観てもらうことがラグビーファンの拡大に繋がると思ったのだ。

おそらくラグビー協会は大学の伝統校の試合を観に来る人達を日本のラグビーファンとしてカウントしている。しかし、大学のとくに伝統校を贔屓にしている人達の中で、他の大学チームの試合やトップリーグの試合にも関心を持っている人は何割くらいいるだろうか。観客席の埋まり具合から見ても、ラグビー協会の期待は裏切られているように思える。

永年の課題になりつつあるラグビーファンを増やす方法だが、他のスポーツファンにラグビーの魅力をアピールし、試合を観に来てもらうことを真剣に考えた方がいい。セブンズがオリンピック種目になり、東京オリンピック前年の2019年にはワールド杯開催というフォローの風を「微風」のままにしておくのはあまりにももったいない。
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