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大東文化大学 vs 法政大学(2015関東大学リーグ戦G1部-2015.11.22)の感想

2015-11-28 09:28:19 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


いよいよリーグ戦も最終節。今シーズンは無風状態とまではいかないまでも大きな波乱もなくここまで来たといえる。この試合のあとに流経大と東海大が全勝同士の直接対決で優勝決定戦を行うことや、中央大、大東大と法政がその後に続き、残る3チームが入替戦回避のラストファイトという構図も想定内。残念ながらというべきか、上下の差が開く形での安定した戦いになった面は否めない。

「大一番」の前に行われる大東大と法政の戦いは、どちらが大学選手権の第1ステージに回るかを決める4-5位決定戦でもある。しかし、元来は攻撃力を看板としたチーム同士の戦いが面白くならないはずがない。チーム状態が整ってきた大東大に比べると、なかなかチームが纏まらない法政が劣勢に立たされていると言ってよさそう。だが、法政はツボにはまると手が付けられないチーム。大東大のアタックが刺激となって闘争本能を呼び覚ますことは十分に考えられる。多少派手な撃ち合いになっても、ステディになることが予想される第2試合とは違った見どころがある。

秩父宮に着いたのはキックオフの10分前。メンバー表を眺めながらしばしの妄想モードに入る。大東大はサウマキが戦列を離れていることで、なかなかBK陣を固定できていない感がある。とはいえ、流経大戦では小山と川向で組む不動のHB団を中心とするBKのアタックの形が見えてきた。WTBからCTBに回った戸室はまだ戸惑いを隠せない部分があるものの、大道がいよいよ乗ってきた。

もう1人のCTBも竹原でほぼ決まり。WTBは4年生の中川とクルーガー。強力な爆撃機(サウマキ)に頼りがちだったBK陣だが、どこからでもアタックが仕掛けられるメンバーだから相手にとっては的を絞りにくいはず。本来ならチーム一の高速ランナーと伝えられるアマトをWTBに置きたいところだが、パワフルな長谷川をLOに置いた方がFWが安定するためNo.8としての起用と思われる。やりくり上手の青柳監督の手腕に期待したいところ。

対する法政はSOに春はレギュラーだった林が「復帰」し、SHは4年生の金子(根塚はベンチスタート)でルーキーの金井はSOからCTBに回った。長年リーグ戦Gのラグビーを観てきて、法政にとってのキーポジションはSOだと実感している。昨シーズンは比較的安定した戦いが出来ていたのも4年生の北島を固定できたから。その前年までの混迷ぶりを見るとそのことがいっそう明らかになる。

FWではケガで戦列を離れていた牧野内の復帰といった明るい材料があるだけに、キーポジションの選手を最後まで決めなかったのか、それとも決められなかったのか。いずれにせよ、ファーストステージからの可能性はアルにせよ、大学選手権出場は決まっているので、この試合に快勝して結論を出したいところ。本来はリーグ戦Gで一番元気なファンにも自信を取り戻してもらえるようなラグビーを見せたい。



◆前半の戦い/法政FWの奮闘も及ばず着実に加点した大東大ペースで試合が進む

大東大のキックオフで試合開始。まずは大東大が法政陣でマイボールラインアウトのチャンスを掴むものの、法政にターンオーバーを許してキックで自陣22m付近まで陣地を下げられる。しかし、22m付近でボールを確保したFB大道は簡単には蹴り返さない選手。キックすることよりもまず自分で仕掛けることを考え、またそれが高い確率で当たってきた。サウマキが居なくても多士済々のアタッカー達に恵まれた大東大だが、見ていて一番面白い(何かをやってくれると期待される)選手は15番を付けた大道と言って間違いない。

その大道が左サイドに大きくボールを振り、左サイドに大外に位置したCTB戸室が俊足を活かしてタッチライン際を快走。そしてタイミングよく走り込んだSOの川向にパスを渡る。勢いに乗った川向はそのまま法政ゴールまで到達。大道のGKは外れるが、開始から僅か2分で大東大は5点を先制する幸先のよいスタートを切った。戸室はWTBからCTBにコンバート(?)されてこれが2試合目。流経大戦では戸惑いもあったようだが、豊富な運動量でチームに貢献する仕事人。スピードを活かす形でしばしばボールを大きく前に運ぶなど、CTBとしてもチャンスメーカーになる形で機能するようになってきたのが大東大にとっては心強い。

リスタートのキックオフで法政がノックオンを犯し、大東大は自陣からのアタックで左サイドを攻める。パスが11番を付けたクルーガーに渡るがパスミス。大東大応援席で湧いた歓声が一瞬にしてため息に代わる。ボールを拾った法政は、エリア獲得を意図して大東大陣にボールを蹴り込むが、大道はここも果敢に前を向き前進を試みる。巧みなステップワークでタックラーをかわしながらHWLを越えてディフェンスに捕まるが簡単には止まらない。だが、「匍匐前進」を図ったようなプレーが「ボールを離さなかった」と見なされてノットリリースの反則をとられる。

ここで「大東大の時間」は終わりとなり、法政FWが強力なタテ攻撃を武器に攻勢に出て大東大が自陣で防戦一方となる。法政としては、大東大のディフェンスはヨコに拡がり前に詰めるスタイルだからBKに展開してもなかなか突破できないという分析だったのかも知れない。また、HO川地やNo.8増田、LO牧野内といったタテに強い選手達も揃っている。ただ、FW中心のアタックは確実にボールキープができる反面、どうしても遅攻となりがち。ゴールを目前にして反則やスローフォワードを犯すという法政ファンにとってももどかしい時間帯が続く。

法政優位ながらも得点板が動かないままで17分、大東大に起死回生の一発が出る。自陣からのカウンターアタックでここでも戸室がボールを前に運び、パスをもらったSH小山がウラに抜ける。単独でも無理をすれば行けそうな状況だったが、小山が抜けたら必ずと言っていいほどSOの川向がフォローに付いている。新たなホットライン誕生で小山からラストパスが川向に渡りそのままインゴールへ。GK成功で大東大のリードは12点に拡がった。川向はルーキー時代からタックルでチームに貢献していた選手だが、3年目の今年は果敢に仕掛けるアタッカーとしても活躍する。とくにしばしば見せるようになったループパスは、ラインをワイドに使う点で有効な攻撃手段になっている。

しかし、大東大の反撃も束の間。21分には法政が大東大陣22m内でのラインアウトからモールを強力に押し込みNo.8増田がトライ。GKは失敗するが5点を返す。今やモールは法政の強力な武器になった感があるが、加速がつく形であっさり押し切られた大東大のモールディフェンスに課題があることも露わにしたアタック。だが、大東大も負けていない。25分、法政陣10m/22mやや右のスクラムを起点として左オープンに展開しCTB戸室がトライ。大道のGKは不調で5点の追加に留まるが、大東大が17-5とリードを拡げる。

法政FWの圧力に苦しみながらも、大東大は畳みかける。31分には法政陣ゴール前でのスクラムからNo.8アマトが8単でゴールラインを突破。8→9と見せかけたSH小山の巧みな動きにつられて法政のディフェンスがコースを開けてしまった形になってしまった。アマトをNo.8で使わざるを得ないのは上でも書いたとおりチーム事情だからやむを得ないが、来シーズンはサウマキとの最強の両翼コンビでトライを増産するシーンが数多く見られるだろう。実際に後半はアマトが大外に控える場面も散見された。青柳監督の頭の中には、小山、川向のHB団を起点として縦横無尽に仕掛ける選手達の崩しから大外で勝負するといった青写真があるのかも知れない。

FWでのタテに固執する感がある法政に対し、FW選手をラインに交えたBKのパス回しの巧みさで勝負する大東大といった形で、両チームが現時点での持ち味を活かした前半の戦い。24-5とスコアの上では大東大が法政を圧倒しているように見えるものの、スタンドで観ている感覚では不思議とそんな感じがしない。また、法政がこのまま終わるとも思えない。大東大の大胆かつ奔放なアタックに翻弄された感はあるものの、むしろ法政が手応えを掴んだようにも見えた。そもそもがこのカードは波乱が売り物のようなところがあるから、よけいにそんな印象だった。



◆後半の戦い/怒涛のアタックで法政が逆転に成功するも大東大も粘りを見せる

法政のキックオフで後半が始まる。果たして、その法政がエンジン全開で怒涛の攻撃を見せる。開始から僅か1分、法政は大東大陣22mでえたPKのチャンスからタップキックで攻める。そして、SO林から大外に位置したWTB中井に意表をつくロングパスが渡り、中井は難なくゴールラインを突破。FB萩原のGKも成功して12-24と法政が反撃を開始。中央大戦ではまだ線が細い感じがした中井だが、試合を重ねてエースへと成長を遂げたようだ。

法政が乗ってきた。こうなると勢いを止めることが難しくなるのがこのチームの怖いところ。大東大が自陣で反則を犯す場面が増えていく。4分、法政は大東大陣ゴール前でのラインアウトのチャンスを掴む。ここも大東大が法政のモールによる前進を止めることが出来ない。ゴール前までボールを運ばれたところで、ラックから法政のFL斉田がグラウンディングに成功し17-24(GKは失敗)。法政の逆転はもはや時間の問題と思わせるところまで来た。

しかし大東大も法政の反則で得たワンチャンスをものにする。7分、法政陣22m付近のラインアウトからスローワーのHO栗原が「リターンパス」を受け取る形で左タッチライン際を快走。前に立ちはだかるデュフェンダーをはねのける形で左隅にボールを置く。GKは失敗するが29-17と大東大が再びリードを12点に拡げる。しかし、それでも法政の勢いは止まらない。13分にも大東大の反則で得たゴール前でのラインアウトのチャンスからモールを押し込みPR前島がトライ。GK成功で24-29となり再び法政ファンのボルテージは上がっていく。

大東大に動揺が走ったのか、リスタートのキックオフはダイレクトタッチとなる。統計的な数字は持っていないが、もっともやってはいけないイージーミスのひとつ(キックオフでのノット10mやダイレクトタッチ)は高い確率で失点に繋がる。反撃ムードに水を差されてモチベーションが一気に下がるキックオフ側に対し、センタースクラムという攻撃のオプションがいくつもある形でのリスタートとなる側のテンションは一気に上がる。いわば精神面でのすれ違いが両チームの選手達に正反対の形で影響を与えるのかも知れない。

法政はさらに絶妙のエリア獲得を目指したタッチキックで大東大陣22mまで前進。大東大はノットストレートと痛いミスを重ねる。このチャンスを逃さず、法政はスクラムから左オープンに展開。WTB中井が外から内に切れ込んだところにドンピシャのタイミングでパスが渡り、中井は一気にゴールポストまで駆け抜ける。GKも難なく成功して31-29と遂に法政は逆転に成功。

このまま法政が得点を重ねて圧勝ムードになるかという雰囲気が漂う中、今度は法政に痛いミスが出てしまう。リスタートのキックオフに対し、ボールを持った中井が右サイドを気合い十分で駆け上がり、前が開いた状況を見てライナー性のキック。しかし、無情にもキックはダイレクトでタッチラインを越える。勢い余ってやってしまった形が見えるミスだが、これが大東大に落ち着きを与えてしまったことが選手達の表情からも窺われた。つい先ほどのキックオフでのイージーミスが法政に勢いを与えたのだが、今度は逆の目が出てしまった形。結果論になってしまうが、試合の行方を決めたワンプレーになってしまった印象が強い。もちろん、チームにガッツを注入し続けたルーキーを責めることはできない。

一息ついた形の大東大。23分、ラインアウトを起点としたアタックからFB大道が巧みにウラに抜けてラストパスをCTB戸室に送る。大東大の持ち味は川向の例を挙げるまでもなく、突破したプレーヤーが孤立せず、必ず絶妙の位置にフォローの選手がついていること。「パス主体で前へ出る」という意思統一が出来ているチームの強みとも言える。GK成功で36-31と大東大が再逆転に成功。自陣からも殆どキックを使わずにボールを繋いで攻める青柳体制になってからの大東大。それを実行する形で法政がキックオフしたボールを確保し一気に法政陣22mまで運ぶ。法政の選手達がFW周辺に集められたところでSO川向のこれ以上は望めない絶妙のキックパスが右サイドを駆け上がったWTB中川に渡る。残り時間は10分あまり。1T1Gでは追いつけない41-31の10点差が再々逆転に向けて意気上がる法政にはプレッシャーとなる。

ここからは正に死闘。青柳監督は基本的に選手を替えない(流経大戦も入替はなし)ので、大東大選手に疲労感が見えることも確かだがとにかく粘る。実は法政も34分までメンバー交代がない。逆に言えば、それだけ選手達のモチベーションが落ちなかったとも言えるだろう。38分、法政はエースの地位を確立した中井がハットトリックを達成し38-41と3点差に迫る。インジュリータイムにすべて託す法政が最後の力を振り絞って果敢に攻めるものの、大東大が何とか守りきり熱戦に幕が下りた。どちらが大学選手権のファーストステージに回るかを決めるサバイバル戦というよりは、攻撃ラグビーを標榜するチーム同士の意地と意地のぶつかり合いだった。最後は僅差になったがボールをより大きく動かした方が勝利を掴んだラグビーは見応えがあった。



◆大東大に忍び寄る2017年問題

シーズン当初はメンバーの半数が入れ替わったFWに不安があった大東大だが、アマトとタラウの兄弟の加入などによりスクラムが安定してきたこともあり大きく崩れることはなかった。もちろん、そこにはプレッシャーを受けた際どい状態でも球を迅速かつ正確かつに捌き、また機を見て敏の突破力も備えた学生No.1のSH小山の存在がある。小山に限らず、青柳監督が就任1年目で大抜擢したSO川向、FB大道、リザーブの菊地といった選手達が順調に成長していることも大東大のチーム力アップの源泉となっている。また、HO栗原とこの試合のMOMと言ってもいい活躍を見せたCTB戸室、さらには戦列を離れているサウマキも加えると、実にチームの中核となっているのは殆どが3年生という現実が浮かび上がる。

スタメン、リザーブも含めて楽しみな1、2年生も多く、大東大にとって来シーズンは覇権奪還に向けたチャンスの年になるはず。反面、現在の3年生達が卒業した後に大きな不安を抱かせることも事実。とくに4年間(おそらくそうなるだろう)のゲームメイクを小山と川向のHB団に託したことの影響は小さくないはず。これがちょっと大げさな言い方だが、大東大の「2017年問題」。来シーズンの戦いは、トップを目指しつつも、その後の戦いをも見据えたものになるはず。もちろん、FWのパワーアップが見込まれるし、小山が特別な存在だと考えれば取り越し苦労なのかも知れない。

むしろ気になるのは、年を重ねるにつれチーム力こそ上がっているものの、大胆な選手起用で「マジック」とも評された「青柳イズム」がだんだん薄まってきているように感じられること。選手起用も含めて100%の状態で監督が采配を振るうことが出来ているのかと試合を観る都度に思うのだ。私的大東大のベストゲームは昨シーズンの春に観た慶應戦。この試合でもしばしばスタンドを唸らせる絶妙のパス回しを見せるなど、チーム全体の力は確かに上がっている。しかし、選手達のモチベーションは微妙にやや下降気味になっていないだろうか。そういった観点からも、もうすぐ始まる大学選手権から春シーズンを経ての来シーズンの戦いぶりに注目していきたいと思っている。

◆法政ラグビー再建への道/シンプル・イズ・ベスト

この試合の第一の感想は「法政は本当にもったいない」ということだった。それは、僅か3点差で勝利を逃したことではなく、選手達の高い潜在能力をチーム力アップに生かし切れていないと感じられるということを意味する。1997シーズンから20年近く法政のラグビーを観てきて、未だに15年くらい前の頃の破壊的な強さを持ったスタイルのラグビーを忘れられないでいる。リーグ戦G最強のスクラムとFWのパワーを武器に、俊足のBK陣がテンポの良さとスピードを活かして縦横無尽にグランドを走り回る超攻撃的ラグビー。とにかくキックオフからエンジン全開で20分以内にトライを量産して相手をギブアップ状態にしてしまうようなダイナミックなラグビーが私のとっての原風景となっている。

もちろん、法政も20年近くの間にスタイルを変えてきている。現在はFW個々の強さは残るものの当時の爆発的な短時間集中型の破壊力は陰を潜めた。しかし、一貫して変わらないものがある。それは「シンプル・イズ・ベスト」のラグビーが出来ている法政が一番強いということ。大学ラグビーでも規律重視というか細かい決めごとが支配的になった感のある近年のラグビーだが、法政はテンポよくスピードに乗ってシンプルにボールを前に運ぶラグビーに徹したらいいと思う。最近の法政のラグビーで一番印象に残っているのは2013シーズンの立正大戦終盤の黄金の15分間。途中出場のSO猪村がスキッパーとしてBKラインを自在に操り、異なった形で3トライを演出した場面が未だに脳裏にこびりついている。法政のキーポジションはSOであり、ここに優れた人材を得たら夢のようなラグビーができるのが法政だと思う。

「シンプル・イズ・ベスト」のラグビーは、パスを繋ぎランでボールを前に運ぶラグビーだが、けして「単純なラグビー」は意味しない。シンプルだからこそ、選手個々に閃きが生まれ、そのアイデアを共有することでバリエーション豊富なアタックとなり相手を攪乱することができる。法政と他のリーグ戦Gチームとの違いは、そんな選手が集まっているかどうかということ。だから、選手の自主性(自発性)に任せつつ、しっかりと規律を作ることができる指導者が率いれば最高に面白いチームを作ることができると思うのだ。

法政のラグビーを観ていて感じることは、とくにルーキーのような下級生がたった1つの試合を通じても成長を見せる場合があること。OBにチームを任せたい気持ちは分からないでもないが、一度外部から法政のラグビーを観ていて、その怖さがよく分かっているコーチにチームを託したらと思う。外部の人間の勝手な意見だが、中央がパワーアップしたのも酒井氏をヘッドコーチに迎えたことが大きいと考えられるのでそんな想いを強くなっている。法政にとって大学選手権がファーストステージからの出場となるのは不本意に違いない。しかし、他のチームより多く試合ができることを喜ぶべきかもしれない。
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大東文化大学 vs 流通経済大学(2015関東大学リーグ戦G1部-2015.10.31)の感想

2015-11-08 20:26:24 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


リーグ戦も後半戦に突入。優勝争いから入替戦回避まである熱き戦いも残すところ3週間になってしまった。そんな中、8チーム中で最後に観ることになったのがこの日の流経大。予想通り東海大とのマッチレースを繰り広げている状況にあるが、戦績は今一歩の感もある。サウマキが不在とは言え、曲者のアタッカーが揃う大東大に対してどんな戦いを挑むのか楽しみ。上の東京ラインの開通で埼玉県からもさらに近くなった横浜に向かった。

試合会場のニッパツ三ツ沢球技場は、規模こそ小ぶりだがラグビーもサッカーも平等に開催できるという意味で最高の(球技専門の)競技場だと思う。私的快適スタジアムの筆頭は熊谷ラグビー場なのだが、2番目はここ。後に続くのは...と言うくらいにこの2つは突出した存在だ。とくにバックスタンドの見やすさはピカイチ。緩めの勾配が醸し出す熊谷のゆったり感も捨てがたいのだが、ピッチへの近さと全体の見通しの良さの両立を目指すならこのくらいの勾配がベストなのかも知れない。そして、目の前に拡がるのは緑の絨毯と呼びたくなるような芝生のピッチ。W杯対応で8万人収容のメインスタジアムを持つことも大切だが、本当は三ツ沢のようにラグビーを臨場感たっぷりで味わえるスタジアムを各地に設けることの方が遙かに大切だと思う。

15分前に着席して両チームのメンバー表をチェック。流経大は合谷がセブンズ代表専念のためずっと不在だが、ほぼベストメンバーと思われる。No.8リサレ・ジョージとCTBシオネ・テアウパは私感ながら最強コンビ。もちろんリザーブに控えるタウムア・ナエアタも強力だが、怖さでは圧倒的に大学最強選手と言ってもいいリサレだと思う。そして、10番から15番までこなせるオールラウンダーのシオネは流経大の歴代の留学生達の中でも屈指の堅実な選手。イシレリ(ヴァカウタ)やリリダム(ジョセファ)のような選手達の派手な活躍が記憶に残る中で、むしろシオネのような選手をレギュラーに固定した方がチームも引き締まるような気がする。

大東大のアイランダー達も負けていない。大学生最強WTBの呼び声高いサウマキはケガのため欠場だが、ルーキーのファカヴァタ兄弟(双子)の高さと走力は魅力たっぷり。キック力があるアピサイ拓海とラグビーセンスが光るクルーガー・ラトゥ。逆にこれだけ揃ってしまうとチームがバラバラになってしまう危険性もある。しかし、1年生の時からコンビを組む小山と川向を始め、FLには運動能力の高い長谷川がチームを引き締める。BKでも地味ながらも確実に仕事をこなすWTB戸室が居て、さらにケガのため長らく戦列を離れていたFBの大道もようやくフィットしてきた。固有名詞で語られる選手達が纏まることで魅力的なラグビーが成り立つという意味で、大東大はリーグ戦G屈指のチームと言える。



◆前半の戦い/攻守に積極性を見せた大東大にタジタジだった流経大

大東大のキックオフで試合開始。流経大がハイパントで攻め上がったところで大東大にオフサイドの反則があり、流経大が大東大陣22m付近でラインアウトのチャンスを掴む。流経大はまずFWで前進した後左オープンに展開しラック。逆目に振ったところでリサレがボールを前に運んだ後、絶妙のタイミングで右サイドを併走する八文字にラストパスを渡す。時計はまだ1分を指したばかり。流経大が秒殺と言いたくなるような鮮やかな攻撃でトライを奪い、ゴールキックも成功して7点を先制する。立ち上がりとは言え大東大サイドにイヤなムードが漂う。

しかし、悪い流れになりかけたところを救ったのがルーキーで本来ならWTBのアマト・ファカバタだった。195cmの長身ながら大東大では誰も追いつけないという高速ランナー。リスタートのキックオフは低めのボールだったが、落下点に前傾姿勢で弾丸ライナーのように走り込みキャッチングに成功した選手が居た。キックオフでこんな低いボールをマイボールにした選手は記憶にない。アマトのランに素早く反応したのが復帰してようやく本来のプレーが戻ってきた大道。右サイドが大きく開いたところでCTBのアピサイにキックパスを送る。オープンスペースに転がったボールの捕獲に成功したアピサイは一気にゴールラインに到達した時、時計は3分を指したところ。GKは外れるが5-7と大東大が反撃体制に入る。

この得点でアマトが調子づく。春シーズンの段階ではサウマキの陰に隠れて本領発揮とはならず、活躍していたのはLOのタラウの方。しかし、チームに馴染むことですっかり起爆剤となった感じ。ここで鮮やかな先制トライを奪った流経大の八文字が負傷交代となる。後から振り返ってみると、ここからが激しい肉弾戦の始まりだということを象徴するようなアクシデントではあった。リスタートのキックオフで自陣から前にボールを運んだアマトからのパスがタッチを割る。ここから流経大がラインアウトを起点としてモールからゴールを目指すがハイパントがダイレクトタッチ。このミスが大東大に試合の流れを渡すことになる。

大東大は自陣22m付近でのラインアウトを起点としてHWLを超える。ボールがいったん流経大に渡った後、再び大東大がターンオーバーに成功してアタックを継続。この日の大東大は「集中して組織で前へ」をスローガンにしたかのような激しいディフェンスで流経大の前進を許さない。流経大に反則があり、大東大は流経大陣22mからラインアウトでゴールを目指す。14分のFWのサイド攻撃によるアタックは惜しくもパイルアップ。また、5mスクラムからの8→9で攻め込むもののあと一歩が届かない。

しかし、16分、大東大は流経大陣22m内右サイドでのスクラムを起点としてアマトが8単でショートサイドを前進。タッチを割るギリギリのところからパスをフォローした小山に渡し、小山が一気にゴールラインを駆け抜けた。大小凸凹ではあるが、最強の8→9コンビの完成だ。ここでもアピサイのGKは外れ、大東大は逆転に成功するものの3点のリードとなる。春シーズンは好調だったアピサイだがキックの調子を落としている感があり、むしろ復帰した大道が蹴った方がいいように思えた。結果的に2/5の成功率に終わったが、最後の得点差を考えるとキックによる2点の大切さが実感される。

直後の18分、リスタートのキックオフで大東大のアマトがノックオンを犯し、流経大が大東大陣になだれ込む。しかし、パスが浮いたところに居たのは小山。小さな身体を精一杯伸ばすとボールが手に収まり、小山はそのまま70mを走りきり連続トライ。正面のGKは難なく成功し大東大は17-7とリードを一気に10点に拡げる。小山はアタックを活性化させる俊敏で正確なパサーであり、ボールを持てばトライゲッターになり、ディフェンスでも要所でタックルを決めるファイター。得点への嗅覚もなかなかのものだ。3年生ながら既にゲームリーダーとしての風格も示す。優秀なスクラムハーフが多い大学ラグビー界でもこのポジションで最高の選手と言って間違いないだろう。流経大もリサレとシオネの2枚看板を武器に流経大陣に攻め込むが、大東大の激しく前に出るディフェンスをなかなか破ることができない。両チームによる攻防はどんどんヒートアップしていく。

小山の正確でタイミングよい球出し(厳しい体勢からでも浮いた弾は皆無)もあり、大東のアタックも冴える。1年生からコンビを組むSOの川向は鋭いタックルで定評のある選手だが、アタックでも確実に成長を見せる。ループパスをダブルで決めたりと大東大のアタックが冴え、受けに回った流経大がタジタジの展開が続く。30分には左WTB戸室の突破から流経大陣でパスを受けたアマトが絶妙のゴロパント。そこに瞬時に反応したのがFBの大道だった。一気に前に出てボールを拾った大道がそのままゴールラインを超える。ここもGKが失敗するが22-7と大東大がリードをさらに拡げた。多少のラッキーはあるにしても、大東大のアタックを観ていて感じることはバランスの良さ。サウマキが不在なことでかえって全員で取りに行く意識が出てきていることと、FB大道がようやくチームに馴染んできたことが大きい。

なかなか反撃の機会が掴めない流経大だが、このままでは終われないし、実際に終わらなかった。35分、大東大に反則が続き、大東大陣22m内に入ったところでタップキックからCTB藤林がトライを決めてまず5点を返す(GKは失敗)。大東大としてはこのまま22-12の10点リードのままで前半を終えたいところだったが、終了間際の41分に自陣で痛恨の反則。流経大のSO統合が左中間30mのPGを確実に決めて22-15とビハインドを7点に縮めた。後半の展開を考えても流経大は最後に3点を取れたのは大きかった。



◆後半の戦い/建て直しに成功した流経大の前に大東大はあと一歩及ばず

鮮やかな先制トライの後は大東大の激しいディフェンスの前にいいところが殆どなかった流経大。先制点の後のトライはいずれもPKからのもの(速攻とGK)。しかし、地力があれば後半にしっかり立て直すことができるはず。大東大はラッキーな部分にもアシストされて得点を重ねた面がある。それに大東大が圧倒的に攻めたように見えたもののリードは僅かに7点。果たして流経大はどのように建て直しを図っていくか。

キープレーヤーは先にも挙げたNo.8のリサレとアウトサイドCTBのシオネの2人。とくにリサレは主戦場をFW周辺(でのファイト)からタッチライン際のWTB(フィニッシュ)に移した感じで、超強力なトライゲッターとして大東大に立ちはだかる。現時点ではWTBに立たれたときに一番怖いのはサウマキではなくパワーもあるリサレだと思う。また、シオネはペネトレーターとしてチャンスを拡げる役割に徹する。リサレをWTBに置くことが出来ると言うことは、逆にそれだけ流経大FWの選手達が確実に仕事をこなしているということになる。こういった面からも、しっかりボールをフィニッシャーに渡すことができるシオネの存在は貴重だと思う。

さて、後半は予想通りと言ったらいいのか流経大が落ち着きを取り戻す。大東大のペースに巻き込まれることなく確実にボールキープして前進すれば強力な突破役と決める選手が居る。双方の身体を張った激しい攻防にミスも増えるが、そんなことは気にならないくらいに集中した戦いができている。とにかくノックオンを犯した瞬間、一気に攻守が入れ替わり形勢が逆転してしまうから眼が離せない。しばらく一進一退の攻防が続くものの、徐々に試合の流れは流経大の方に傾き始める。そして11分、ついに均衡が破れる。流経大は大東大陣10m/22mでのラインアウトを起点として絶妙のキックパスがオープンサイドに控えたリサレに渡る。この形になるともう誰も止められない。GK成功で22-22と試合は振り出しに戻ってしまった。

流経大は畳みかける。直後の流経大のミスを見逃さず、FL廣がトライを決め27-22と逆転に成功。このまま流経大が得点を重ねて圧勝のムードも漂う中、大東大も前半と変わらない気迫のディフェンスで流経大のアタックを凌ぐのだが、劣勢ムードをひっくり返すことが出来ずに時計が進む。23分には流経大陣10m/22mでのラインアウトを起点としてインゴールに迫るが惜しくもノットリリースで得点できない。前半は活気があった大東大サイドの応援も徐々に元気を失っていくのがバックスタンドからも窺われる。

しかし、30分。この日の両チームを通じてのベストトライが生まれたことで大東大が元気を取り戻す。流経大陣22m付近左サイドのラインアウトを起点として右オープンに展開したのち、店舗アップして逆目にアタック。クイックパスが流経大ディフェンダーの間合いを外す形でつながったことでギャップができ、パスを受けたCTB竹原が一気にゴールラインに到達。ゴールキックも成功して2点差ながら大東大が29-27と逆転に成功する。さぁ、残り時間守り切るか、それともさらに得点を奪って勝利をつかみ取るか。スタンドのボルテージは一気に上がった。

残り時間も10分あまりだが、流経大は慌てない。リスタートのキックオフに対する流経大の蹴り返し(ハイパント)がほぼ真上に上がってしまう痛恨のミス。流経大はこれを見逃さず、カウンターアタックからCTBシオネがトライ。GKも成功し流経大が34-29と逆転に成功する。ただ、大東大のビハインドは1トライで追いつける5点差。まだまだ十分時間はある。しかし35分、大東大が自陣10m付近のスクラムで痛恨のオフサイド。流経大はショットを選択し、SO東郷が距離35mでほぼ正面の位置からのGKを慎重に決めた。これで流経大のリードは8点に拡がる。1T1Gでも届かない点差となり、残り時間から見ても勝負ありとなった。大東大は最後まで諦めずに最後の力を振り絞って攻撃を継続させるものの、流経大がしっかり守り切り試合終了のホイッスル。両チームの選手たちによる激しい肉弾戦は見応えがあった。



◆惜しかった大東大/サウマキの不在でチームに結束

最後は流経大のしぶとく勝利を収めた試合。しかし、大東大の前に出る気迫のディフェンスとアタックがこの試合を熱いものにしたことは間違いない。サウマキの不在による得点力低下が心配された大東大だが、この日の大東大は今シーズン一番(私が見た範囲でだが)の集中力を見せて戦っていたように思う。その原因として考えられるのが、サウマキの不在がチームに危機感をもたらしたのではないかということ。強力なトライゲッターの存在は両刃の剣ともいえ、サウマキの活躍とは裏腹に大東大の悪い方のDNA(強力な選手に頼ってしまう)の復活も見て取れるようなムードも漂っていた。

しかし、強力なトライゲッターが不在ということは、相手にとってターゲットが絞りにくくなる面もある。とくに大東大の選手はボールを持ったら勝負するという暗黙のルールがあるから、波状攻撃も可能となる。とくに大東大ファンにとってうれしいのはFB大道の復活ではないだろうか。ケガで不在のうちにチームのスタイルが変わってしまい、復帰してもなかなか存在感が発揮できていないように見えたのだ。大道の持ち味はとにかく強気に攻めること。ボールを持てば何かやってくれるという期待感で魅せる要素を持った選手だから楽しみが増えたといえる。

◆底力を発揮した流経大

流経大はリーグ戦1部昇格からずっと「組織」を意識して頂点を目指してきたチーム。本来ならもっと早くリーグ戦Gの横綱になってしかるべきだった。上位グループに定着し、リーグトップの地位は確立しても、なかなかチームが盤石になったと感じさせないのは、戦いぶりにまだムラがあるから。相手を見てしまうといったらいいのか、気持ちが入っているときとそうでないときがあり、なかなか安定した戦いができないのがもどかしい。しかし、本日の試合のように劣勢に立たされた時でも崩れないチームになったことは間違いない。前半も最後に1PG返したことで後半に繋げ、そして最後にダメ押しの1PGを挙げて勝利。きわどい内容ではあったが確実に勝利したことで勝負強さを身に着けたとしたら嬉しい。



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生島 淳
文藝春秋
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