先週、開幕カードの2試合を観て、今シーズンの私的注目チームが決まった。リーグ戦グループに昇格(2度目の復帰)を果たした山梨学院がそのチーム。ちなみに去年は大東大で一昨年は拓殖大。結果論だが、1試合ごとに工夫を重ねながら進化を遂げていき、いい形でシーズンを終えることができたチームと言える。もちろん、それ(進化)は試合を重ねるごとに分かっていくことなのだが、山梨学院の場合は緒戦(流経大戦)から(本当の勝負となるはずの)後半戦を見据えた明確なプランが見えたので、じっくり観てみたいと思った。もちろん、流経大戦を観た限りでは「頑張っているのはわかるが退屈なラグビー」というのが一般的な評価だと思う。しかし、それだけではない「何か」を感じた。さて、その山梨学院の相手は流経大や大東大とともに優勝争いを演じることが予想される東海大。先週観た流経大との力関係を知る意味でも興味深いカードだ。
◆キックオフ前の雑感
今シーズン、初めての熊谷での観戦。途中で用事があったので早めに家を出たため、キックオフの2時間前にはラグビー場に着いてしまった。晴天に恵まれた秋空の下でBグランドもCグランドもラグビーが満開だと予想していたわけだが、ラグビーのラの字もない状態で拍子抜けだった。当然、Aグランドで試合するチームのサブグランドでのアップも始まっていない。例年だと熱中症が心配されるような熊谷だから、まだ本格的なシーズンインではないのかも知れないが、何とももったいないと感じた。先週は2日間秩父宮だったが、高層ビルからの視線を意識しないわけにはいかない環境と比べると、田園牧歌調の緑に包まれたここは本当に心が落ち着く。選手も観客もラグビーに集中できるという意味ではおそらく国内最高のラグビー場で、海外の本場のラグビーファンのハートを引きつけるものはあると思う。ここがワールド杯の会場から外れることがないことを強く祈りたい。
それはさておき、まずは東海大のメンバーを確認する。HO北出の復帰もあり、おそらくベストメンバーと思われる顔ぶれになっている。Bでしばらく試合をしていたダラス・タタナも復帰?だが、テストだったのだろうか。東海大の看板はもちろん黄金のバックスリーだが、予想通り1年生の野口竜司がその1角に食い込んだ。当然、本来の3人のうちの1人が弾き出される訳だが、それが小原になったのは意外。バックスリーと一括りにはされていても、役割を考えるとFBはスペシャリストが務めるべきポジションだと思う。今後、野口竜司はその道を究めていくことになるだろう。チームは3人(小原、石井、近藤)のうちコンディションがいい選手を先発させるという方針なのかも知れないが、BKの得点力欠乏症に悩むチームにとっては何とも贅沢な陣容ではある。
山梨学院は、FL7が渡邊(2年)から長谷川(4年)に、SOが小川(4年)から川田(2年)に替わった以外は緒戦と同じ先発メンバー。4年生が5人、3年生が4人、2年生が6人という将来性を見据えたメンバー構成とも言えそうで、リーグの序盤戦はチーム底上げを念頭に置いて戦術を練って戦っているのかも知れない。また、流経大戦ではFWが肉弾戦を挑み、BKもタックルで奮闘していたが、メンバーが殆ど欠けることなく固まっている点に頼もしさを感じる。果たして、流経大同様にFWもBKもパワフルな東海大を相手にどこまで戦えるか。もちろん、この試合の最大の私的着目点は流経大を翻弄して見せた「戦術」が東海大にどこまで通じるかにあることは間違いない。
◆前半の戦い/基本戦術不変も東海大のパワーとスピードが山梨学院を圧倒
殆ど風のないコンディションの中で、東海大のキックオフ。となれば、オープニングからいきなり山梨学院のスタイルが満開となる。詳しくは流経大戦のレビューで書いたので繰り返さないが、FWが2ユニットに分かれてジグザグ状態で交互にボールを前に運ぼうとし、タイミングを見計らってSHがハイパントを上げる「9人ラグビー」だ。テンポは遅く、FWがボールを持った段階で相手も完全にポジショニングができている。東海大は流経大同様に体格面で優勢なこともあり、しっかりと山梨学院のアタックを受け止めるのだが、山梨学院もそのことを前提でボールを動かしている節がある。時に後退を余儀なくされても、ボールを失わずにハイパントで終わることから考えると、フィジカル、スキルともにしっかりと練習を積んできたことがわかる。
ここで東海大にハンドの反則があり、山梨学院は東海大ゴール前でのラインアウトを選択。ここからボールをオープンに展開し、SO川田がドロップゴールを試みるが外れる。このゴールが決まっていれば流経大戦の再現、と言いたいところだが、決まっていてもそうは問屋は卸さなかっただろう。山梨学院のアタックが単純?単調?ということもあるが、アタックに転じた東海大はもたつきが目立った流経大とは違ってパワフルでスピーディーかつミスなく攻める。組織的なスライドが機能して流経大を手こずらせたディフェンスも通用せず、山梨学院の方が翻弄されることになる。
6分、東海大は山梨学院陣ゴール前のラインアウトを起点としてモールでゴール前まで前進。ここは何とか山梨学院が渾身のディフェンスで踏ん張るものの、オープン展開でボールを素早く右に動かされた後、左側にできたスペースに順目でボールを回された段階で追い付くのがやっとの状態となる。左サイドのエリアで東海大のCTB林主将がボールを受けた段階では、真っ直ぐにトライへの道筋ができていた。このシーンをちょうど真後ろから観たわけだが、山梨学院は人数こそ足りていても追い付くのがやっとの状態に見えた。なるほど、テンポよくボールを動かせば、数的優位不利は関係なくトライが奪えるというお手本を見たような気がした。
東海大の積年の課題は試合への入りが悪いこと。しかし、本日の東海大はキックオフから集中できていた。流経大に健闘した山梨学院ということで多少警戒心もあったし、山梨学院が基本戦術を変えてこなかったこともあっただろうが、チーム体質が変わったのかも知れない。リスタートのキックオフで山梨学院がノット10m、東海大はセンタースクラムからエリア獲得を目指したキックがタッチインゴールとミスの応酬となる。ピンチを脱した山梨学院が、5番だがマイボールスクラムではNo.8のトコキオの8単で前進を図るものの、東海大はブレイクダウンを許さずにモールアンプレアブルに持ち込む「チョーク」に成功して攻撃権を奪い返す。これが今シーズンのリーグ戦Gで初めて観たチョーク。DF側に「倒すべきか、倒さざるべきか」の意思統一が必要なプレーだが、東海大FWのパワーと進化を感じさせたプレーでもあった。東海大はその後も再度チョークに成功していたことから、偶然ではなく意図的なプレーだったと確信した。
幸先よく先制点を奪ったことで、東海大の高速アタックがエンジン全開となる。22m内でゴールを目前とした場合は身体を張るFWも、流れの中では黒子に徹してBKにテンポよくボールを渡す。山梨学院もブレイクダウンの攻防ではけして負けている訳ではなく、ターンオーバーの健闘を見せる。17分には「FWのジグザグ+SHのハイパント」でチェイスしたWTB土橋(170cm)が大きな東海大選手が待ち構える中、渾身のキャッチングで観客を沸かせる場面も。ハイパントキャッチは体格でなく、落下点へ走り込むタイミングとここ一番の「強い気持ち」が大切なことがよく分かるプレーだった。ワンパターンとはいえ、山梨学院はけして偶然性に頼っていないことがよく分かる一コマ。キックオフにしても、FWが両サイドの拡がって、どこにボールを上げてもファイトできる体勢ができている。
しかし、前にも書いたように、山梨学院にとって今日の相手は違った。ハイパントでボール(エリア)の確保を失敗した場合は、東海大自慢の高速バックスリーによる強力なカウンターアタックがあり、FWのジグザクでもターンオーバーが起こる。20分、東海大のFB野口がカウンターアタックから一気にゴール前までボールを運び山梨学院がオフサイド。東海大は間髪入れずにタップキックでゴールを目指しHO北出がゴールラインを越えた。その後も、東海大の強力なアタックの前に山梨学院の反則が増えていく。29分には東海大が強力な武器としている(走り出したら止まらない)高速モールからトライ。さらに、リスタートのキックオフに対するカウンターアタックからWTB近藤がノーホイッスルトライを奪う。前半31分にして、東海大が26-0でリードと試合は一方的な展開となる。
このまま東海大の方だけスコアボードの数字が動く形で試合が進みそうになった前半の終盤だったが、山梨学院が逆襲に転じる。東海大の反則(ハイタックル)をきっかけに、東海大ゴール前で攻め続ける場面が続く。アタックの基本スタイルは変わらないものの、38分にはFWの選手達がテンポアップしてショートパスを繋いでタテ突破を図るシーンも見られた。ここでふと思った。山梨学院も、相手のDFに穴が開いたときにはテンポを上げて前に出ることを考えている。「ジグザグ」にしても、早いパス回しなどいろいろなことを試している。今後わかることだと思うが、(しっかり止めてくれる)流経や東海と最初に試合をすることで得たものは大きいと言えるかも知れない。カウンターアタックではWTB土橋も見せ場を作った。身体は小さいがファイティングスピリットに溢れたいい選手だと思った。
ゲーム展開こそ一方的だが、終盤のアタックで山梨学院も少しずつペースを掴みつつある展開の中、前半が終了した。果たして、チャレンジャーは後半にどんなラグビーを見せてくれるのだろうか。そのためにも何とか早い段階で得点を返したいところ。
◆後半の戦い/劣勢挽回はならなかったものの確実に一歩前進した山梨学院
後半のキックオフは山梨学院。だが、ここで中央に蹴られたボールを山梨学院のLOトコキオが後ろにはたきマイボールの確保に成功。ハイパントからの攻撃に対し、東海大にオフサイドがあり、山梨学院は東海大ゴール前でのラインアウトからのアタックを選択する。ここでも山梨学院はドロップゴールを狙うが外れる。4分、山梨学院はドロップアウトからの蹴り合いでエリア獲得に成功し、東海大陣22mラインの手前でラインアウトのチャンス。ここで、遂に山梨学院のBKアタックに対する封印が解かれた。SHからSOを経てパスを受けたCTB清水が突破を図ったとところで東海大にオフサイド。清水は山梨学院の中でも体格に恵まれている選手でもあり、今後キープレーヤーとしての活躍が期待出来そうだ。
東海大陣に留まって何とか一矢報いたい山梨学院だが、ゴール前に築かれた青くて分厚い壁はなかなか突破を許さない。7分の反則で東海大が一気にエリアを挽回し、山梨学院は一転してピンチに陥る。12分、東海大は山梨学院ゴール前のラインアウトからモールを形成して押し込みトライ。GKも成功して東海大のリードは33点に拡がった。このまま東海大が一方的に勝利を収めそうになる中で、山梨学院に待望の得点が生まれる。キックオフからプレッシャーをかけて東海大がBKに展開しキックしたところをCTB13の曾根がチャージに成功。曾根は22m内でバウンドするボールの確保に成功してコーナーフラッグめがけて走り、タッチラインギリギリのところでゴール左隅に飛び込んだ。コーナーフラッグが倒れる状態で山梨学院応援席は一瞬息を呑んだが、主審が右手をまっすぐ挙げたところで大歓声が沸き起こる。GKは失敗したものの5-33となり、山梨学院の応援席が一気に活気づいた。
山梨学院が1トライを返したことで試合はやや膠着した状態になるものの、地力に勝る東海大の優位は動かない。23分、東海大は山梨学院ゴール前でのラインアウトを起点としたアタックからSH湯本がゴールラインを越えて40-5(GK成功)とリードを拡げる。しかし、山梨学院もリスタートのキックオフから反撃する。東海大のキックの対するカウンターアタックから前進を図ったところで東海大に反則があり、東海大ゴール前でのラインアウトを起点として追加点を狙う。そして28分、山梨学院の身体を張ったアタックをはね返し続けた東海大だったが、パワフルなトコキオに突破を許す。逆転には厳しい点差ではあるが、12-40と山梨学院のビハインドは28点となる。
このまま波に乗りたい山梨学院だったが、キックオフでノックオンしたボールを東海大に拾われてしまう。入れ違いのような形で東海大は素早くボールを動かし、WTB近藤がゴールラインを越えた。山梨学院にとっては痛恨のノーホイッスルトライで、失点は流経大戦を上回る47点となる。勝利を掴むのは絶望的となった山梨学院だが、渾身の力を振り絞ってアタックを試みる。しかし、35分のカウンターアタックからFWでのフィニッシュを目指した攻撃も東海大のチョークに遭って不発。それでも、37分には東海大のスクラムの反則(コラプシング)に対して、タップキックからLO河野、トコキオと繋いで7点を返す。
緒戦でも例年に比べて仕上がりのよさを見せた東海大の前に、(緒戦とは違って)得点差以上の完敗という結果になった山梨学院。だが、ブレイクダウンの攻防でも負けないなど、勝負所となるであろうリーグの後半戦に向けて確かな手応えを感じさせた戦いではなかったかと思う。
◆東海大に垣間見えた変化の兆し
例年になく東海大はいい形でスタートを切れたのではないだろうか。私感ながら、こうあって欲しいと願っていた形、すなわち、FWは黒子に徹して無理をせずBKに生きたボールを供給し続け、フロントスリーでアタックを組み立てて強力なバックスリーでフィニッシュするという方向にチームが向かっているように感じられた。しかし、この日の東海大で一番強く感じたことは、選手達の自立。今までのチームでは、どこか首脳陣の目を気にしながらラグビーをしていたような印象があり、そのことが精神的に崩れたときの脆さにも繋がっていたように感じられた。戦術面でもチームをけん引する主将の力なのかどうかはまだわからないが、今年こそはいい結果を残して欲しいと切に願う。
◆第2段階へとコマを進めた山梨学院
緒戦と同様、「この戦術じゃダメ(勝てない)」とか「9人ラグビーは退屈」とか「頼みは結局トコキオだけ」といった声が聞こえてきそうな山梨学院のラグビー。試合内容も相手を翻弄して勝つ可能性すら見せた緒戦の流経大戦と比べると、後半に3トライを挙げたとは言え、仕上がりのよい東海大の前に完敗を喫した形になった。しかし、あくまでも私見だが山梨学院にとっては今後に向けて確実に自信を深めた戦いではなかったかと思う。流経大戦では「9人ラグビー」に徹していたが、この試合では本来目指している形も(予告編のような形で)垣間見せてくれた。
各チームのメンバーと比較しても、山梨学院の攻撃力は厳しい状況にあることは明らか。単純にBKに展開しただけではフェイズを重ねても突破は難しいと思う。それは2年前の拓大もまったく同じで、拓大がFWのシェイプを軸に攻撃を組み立てていた最大の理由だったと邪推する。ならば、FWで確実にボールキープしてなるべく自分達が主導権を握れるように試合をコントロールすることを目指す。もちろん、狙い目はFWのアタックで、相手のDFに穴が開いたときに、狙い澄ましたようにテンポアップしてボールを繋いでゴールを目差すといったようなオプションは考えていると思う。そのためにも、前半戦で強い相手の胸を借りる形でいろいろな可能性を試しているように緒戦では感じたわけだが、その印象はより強くなった。流経大戦のレビューで2つはチャレンジできるチームがあると書いたが、それが3つに増えたかも知れない。山梨学院のリーグ戦中盤以降の戦いがますます楽しみになってきた。