「熱闘」のあとでひといき

「闘い」に明け暮れているような毎日ですが、面白いスポーツや楽しい音楽の話題でひといき入れてみませんか?

Richie Zellon “Cafe Con Leche”/アフロ・ペルー・ジャズのランドマーク

2013-07-28 18:39:58 | サウス・アメリカン・ジャズ


"Chilcano" を偶然手にしたことから、「ラテンジャズ」の地平線(水平線)はカリブ海よりも遙か南にまで拡がっていることを知った。こうなったら、この新しいジャズのことをもっと知りたいと思うのは自然なこと。

ラテンジャズといえば、未だに半世紀以上前に生まれた『アフロ・キューバン・ジャズ』から殆ど時計が前に進んでいない数多の日本の「ジャズ本」はまったくあてにならない。日本にもたくさんおられるラテン音楽に詳しい人もジャズは苦手という方が多い。そんなわけで、とりあえずの情報源として "Chilcano" のMark Holstonの手になる充実したライナーノーツを熟読する。限られたスペースの中からもフェステホ(festejo)やランド-(Lando)などがアフロ・ペルー・ジャズを彩る代表的なリズムであることがわかる。では、こういったリズム/音楽にはどんな特徴があるのだろうか。

幸いにも当時(2000年頃)はインターネットで様々な情報を入手できる時代になっていた。CDに載っていたアドレスを頼りに発売元の "Songosaurus Music" のHPにアクセスする。そこには、『チルカーノ』の他にレーベルの創設者であるリッチー・セーロン(Richie Zellon:スペイン語の発音方法に倣えば「セジョン」あるいは「セリョン」にすべきだが、ここでは米国流にセーロンとする)のリーダー作3枚を含む6枚のCDがリストアップされていた。

さて、どれを購入しようか?と迷ったが、セーロンの3枚以外を落とす理由が見つからない。音楽ファンを何十年もやっている経験則に従えば、買わずに後悔するくらいなら買った方がいいに決まっている。ネットからの直接購入には少々不安もあった当時ではあるが、結局残り6枚すべてのCDをオーダーした。結論は言うまでもないだろう。ここにわざわざ「サウス・アメリカン・ジャズ」のブログを書いているくらいだから。とくに処女作となった "Café Con Lech"("Coffee With Milk")はアフロ・ペルー・ジャズの特徴を掴むために何度も何度もCDプレーヤーに載せることになった

あとでいろいろと分かったことだが、リッチー・セーロンが自作CDをネットで直販する形を取ったのは苦渋の選択でもあった。自信を持って制作した "Café Con Leche" は「売れ(るわけが)ない」という理由でどこの会社もリリースしてくれなかったので、ならば自分自身で売ろうという流れ。しかしながら、そもそもレーベル設立自体が大きなリスクだったのだ。一時は(訴訟と負債を抱える形で)セーロン自身も(音楽の)表舞台から消えてしまう。

しかし、高い理想を掲げ、信念を曲げなかったことが功を奏し、セーロンは見事に復活を果たした。ようやく時代がセーロンの考え方に追いついたというべきかもしれない。実質的なデビュー作 "Café Con Lech" はボストン、ロサンゼルス、そして故郷のリマの3カ所で行われたセッションを1枚のCDにまとめた力作。「アフロ・ペルー・ジャズ」に留まらず「サウス・アメリカン・ジャズ」の歴史においても金字塔を打ち立てたランドマーク的作品と言ってもいいのではないだろうか。

♪セッション1(1994年1月、米国ボストンにて)

1) Latitude (Richie Zellon) - festejo/Peru - ※曲目の番号は実際のCDのトラックNo
2) Parque de las Leyendas (Richie Zellon) -lando/Peru-
4) Corazon Norteno (Richie Zellon) -marinera/Peru-
7) Pazzolesque (Richie Zellon) -tango/Argentina-

Richie Zellon : Guitar (Peru)
Jerry Bergonzi : Tenor Sax (USA)
Danilo Perez : Piano (Panama)
Oscar Stagnaro : Bass (Peru)
Bob Moses : Drums (USA)
Saturnino Pernell (Puerto Rico?)
Hector Quintanilla (Peru?)

ボストンにあるバークリー音楽院は「サウス・アメリカン・ジャズ(SAジャズ)」においても重要なキーワードの一つ。その理由は、ここでジャズを学び、サウス・アメリカン・ジャズの担い手となった南米出身の音楽家が多いから。

音楽がさかんな南米とはいっても、幼少自体からジャズに接することができる人は殆どいないようだ。日本では想像も及ばない格差社会にあって、ジャズを聴くことができるのは一握りの上流家庭の子女のみ。そんな人たちの中から、本場のジャズを学びたいと思った音楽家がボストンに向かう。しかし、そこで音楽を勉強するうちに、母国には世界に誇るべき音楽文化があることに目覚め、ルーツ音楽のエッセンスをジャズに活かす試みへの取り組みを始める。それは母国で悲惨な運命を辿ったアフロ系の人たちの苦い歴史を学ぶことでもあるのだが、SAジャズを担うミュージシャン達のバイオグラフィーを読んでいるとそんな経歴を持つ人が多い。

リッチー・セーロンも本格的なジャズを学ぶためにバークリーを目指したひとりだった。実際は名ギタリストのパット・マルティーノから受けたショートレッスンが最高だったと告白しているが、バークリーで多くの友人を得たことは大きな財産になったようだ。ラテン系のミュージシャンに混じって、ジェリー・ベルゴンツィやボブ・モーゼスといったジャズ界の猛者たちが名を連ねているのが目を引く。しかし、実はSAジャズの特徴のひとつはここにある。南米の音楽に興味を持ったジャズミュージシャンなら、国籍を問わず誰でも参加できるのがオープンマインドなSAジャズの素晴らしいところ。

オープニングのフェステホでまずは度肝を抜かれ、バラード系がフィットするランド-に1曲挟んでペルー色が濃厚のマリネラと「序盤戦」でアフロ・ペルー・ジャズの特徴が明確に提示されることになる。12/8拍子(感覚的には3/4+6/8だが)のフェステホと2×2の4ビートが交錯するSAジャズならでは世界が聴かれるのも、このメンバーならでは。また、ピアソラに捧げたれた7)を聴けば、タンゴもSAジャズの重要な構成要素であることがわかる。

ペルー風味が濃厚とは言いながらも、アブストラクトな感覚が支配的なオープニングがとにかく刺激的だ。所謂「ラテンジャズ」(リズミカルでハッピーなジャズ)を期待すると完全に面食らってしまうサウンドかも知れないが、SAジャズの世界が凝縮されたセッションだと思う。

♪セッション2(1994年1月、米国ロサンゼルスにて)

3) Cumbiacao (Richie Zellon) - cumbia/Colombia - 
5) Café con Leche (Richie Zellon) -festejo/Peru-
6) Landologia (Richie Zellon) -lando/Peru-
7) La Prima de Estella (Richie Zellon) -songo/Cuba-

Richie Zellon : Guitar (Peru)
Justo Almario : Soprano & Tenor Sax (Colombia)
Otmaro Ruiz : Piano (Venezuela)
Abraham Laboriel : Bass (Mexico)
Alex Acuna : Drums & Percussion (Peru)

ある種緊迫感の漂うセッション1に比べると、米国で活躍するビッグネームばかりながらも、同胞のラテンアメリカ出身者で固めただけありリラックスした雰囲気が感じられる。「実は俺たちはこんなジャズがやりたかったんだ!」という意気込みで気持ちがひとつになったセッションは聴き応え十分。お国もののクンビアでは嬉々としてサックスを吹くフスト・アルマリオの表情が目に浮かぶようだ。この作品の中で唯一のアフロ/キューバンのリズム(ソンゴ)を用いた曲が聴けるのもこのセッションだ。

♪セッション3(1993年9月、ペルーの首都リマにて)

9) Barbara (Horace Silver) - lando/Peru – 
10) Scrapple From the Apple (Charlie Parker) -festejo/Peru-
11) Senora Cabuca (Richie Zellon) –vals, lando/Peru- (In memory of Chabuca Gramda)
12) Jarana (Richie Zellon) -festejo/Peru-

Richie Zellon : Guitar (Peru)
Paquito D'Rivera : Alto Sax & Clarinet (Cuba)
George Gazone : Soprano & Tenor Sax (USA)
Jose Luis Madueno : Piano (Peru)
David Pinto : Bass (Peru)
Juan Madrano Cotito (Cajon)
Hugo Bravo : Bass (Peru)
Barry Smith : Drums (USA)

録音場所や顔ぶれを見ればセーロンが故郷に錦を飾ったセッションに見えてしまう。しかしながら、この録音は当初構想にはなかったと言う。ペルーにぶらりと帰ったときに、仲間のミュージシャンに請われてスタディオに向かったことから生まれた録音。そんな偶発的な状態で行われたセッションでありながら、ジャズのスパイスが至る所に振りかけられているのが面白い。

(ちなみに、仲間のミュージシャン達はデビッド・バーンが注目したことで知られるスサナ・バカのバンドの中核メンバーが中心。でも、パキート・デリヴェラとジョージ・ガゾーンが居るのは何故だろう。セッションが決まってから急遽呼び寄せたのだろうか?)

まずはホレス・シルバーの「バーバラ」で度肝を抜かれる。シルバーがこんな美しい曲を残していたことも驚きだが、ゆったりとしたランド-のリズムにぴったりとフィットしていることが驚き。このアルバムの中にあってもっとも感動的なトラックとなっている。お馴染みのパーカー・ナンバーではカホン(椅子の形をした打楽器)の最高の名手、コティートがシンプルな楽器から最高のソロを叩き出している。

南米最高の歌手のひとり、チャブーカ・グランダはリッチー・セーロンにとっても最高のアイドルだった。最初のレコーディング(1982年)にあたって、チャブーカから激励を受けたことからこの感動的なトラックが生まれた。美しいクラリネットソロを披露するパキートもキューバ出身ながら実はSAジャズにとって最重要人物のひとり。また、ジャズスタンダードの「いつか王子様が」のコード進行を借用しているところにセーロンのユーモアのセンスと洒落た一面を垣間見ることができる。

♪サウス・アメリカン・ジャズの歴史に貴重な1ページが切り拓かれた

『チルカーノ』のような耳当たりの良さは確かにない。このアルバムを最初に聴かされたら、レコード会社の担当者も(価値を認める人はいるかもしれないが)「ぜひ出したい」とは言えないだろう。でも、リッチー・セーロンが妥協せず、まずは「アフロ・ペルー・ジャズ」のコンセプトを確立し、「サウス・アメリカン・ジャズ」で世界に打って出るという意思を貫き通したことが結果的に良かったと思う。

この "Café con Leche" に比べたら、2作目の "The Nazca Lines" や3作目の "Metal Caribe" の方が遙かに楽しいし聴きやすい。とくに2作目での斬新な試み(ジミ・ヘンドリックスとアフロ・キューバン・ジャズの結婚)の予期せぬ成功はセンセーションを巻き起こしたかも知れない。でも、自分自身にとっても最高の教科書となっているこの作品の価値は計り知れないものがあるとCDプレーヤーにディスクを載せるごとに思いを新たにしている。
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Jose Luis Madueno “Chilcano”/すべてはこの1枚から始まった

2013-07-26 01:40:22 | サウス・アメリカン・ジャズ


音楽の大きな楽しみのひとつは、偶然出逢った音がきっかけで音楽観が思わぬ方向へと拡がっていくこと。それはラジオから偶然流れてきた曲であったり、街角で耳にした音であったり、ジャズ喫茶でかかったレコードであったりと、出逢いの形は様々だ。そんな思わぬ邂逅から、それまでは空白だったスペースや時間が埋められていく。

中でも「極上」を提供してくれたのは、とあるCDショップだった。と書くと「月並み」と思われてしまうかもしれない。でも、何の変哲もないお店がとんでもない出逢いを何度も提供してくれたのは偶然ではないような気もする。哀愁感が漂うポルトガルのジャズも、輝く太陽のような歌心に溢れたスペインのジャズも、世界最高水準をひた走るポーランドのジャズも、そして(知名度の割に人気はないが)実はとっても魅力的なハイドンの音楽も「発見」されたのはすべて同じ場所だから。

かつて大宮駅西口アルシェの4階に「ディスクマップ」という名のCDショップがあった。埼玉県ではそこそこの規模とは言っても、東京都内に大規模店舗を構えた大手輸入ショップとは比べるべくもない。しかし、このお店の「バーゲンワゴン」の中は特別で、上でも書いたように、今にして思えば宝の山だった。アウトレット品としてバナナの叩き売りのような状態で処分の憂き目に遭っているCD達が、実は正規品の扱いで売られているものより遙かに内容のある作品だったりするから(理不尽だが)面白いのだ。

私を「サウス・アメリカン・ジャズ」の世界に導いてくれた貴重な1枚が、ここで紹介するペルーの音楽家、ホセ・ルイス・マデュエニョの『チルカーノ』だった。

♪「アフロ・ペルー・ジャズ」との幸運過ぎる出逢い

時は1999年の1月3日。例によってディスクマップのバーゲンワゴンを物色していたら、1枚の一風変わったCDが目に留まった。国籍不明だがラテン系で間違いなしの人がリーダーになっていて、ジョン・パティトゥッチ、スティーブ・タヴァリョーン、アレックス・アクーニャといったビッグネームの人たちの名前もある。チック・コリアのエレクトリック/アコースティックバンド、ラテンフュージョンバンド「カルデラ」の中心メンバー、そしてウェザーリポートの元ドラマーが参加なら間違いないだろうということが(もちろん冒険でもいいのだけど)決定打となった。

果たしてどんな音が出てくるのだろうか? 耳に飛び込んできたのは、多彩なリズムやラテンアメリカの雰囲気が素材として使われた完成度の高いフュージョンスタイルのジャズだった。ただ、リズムはボサノヴァ、レゲエ、4ビートといったお馴染みのものから、聴き慣れないタイプのものまでバラエティに富んでいる。ライナーノーツを読むと、リーダーはペルー人であることが判明。父親も音楽家で、クラシック音楽のトレーニングを積んだピアニストにして作編曲にも優れた才能を持つ若手有望株とある。そういわれてみれば、洗練されたアレンジの中にもアンデス音楽に通じる楽想の曲が混じっている。

これがサウス・アメリカン・ジャズの中核のひとつといえる「アフロ・ペルー・ジャズ」との貴重な出逢いだった。CDは同郷のペルー人、リッチー・セーロン(Richie Zellon)が興したソンゴサウルス・レーベルからのリリース。思えば、最初に聴いたのがレーベル創設者のリーダー作でなかったのが幸いしたのかも知れない。この作品で聴けるような洗練されたスタイルではなく、アフロ・ペルー色が濃厚に織り込まれた高密度のサウンドを聴いたら、すんなりとこの世界(サウス・アメリカン・ジャズ)に入って行けたかどうか疑わしい。

とにかく賽は投げられた。以後、この一風変わったアフロ・キューバン・ジャズとも違う「ラテン・ジャズ」いや「サウス・アメリカン・ジャズ」に真っ正面から向き合うことになったのだった。

♪スーパーベーシスト、ジョン・パティトゥッチの強力なサポート

このアルバムに参加したミュージシャンのなかでも飛びきりのビッグネームはジョン・パティトゥッチだろう。2曲のみの参加だが、リーダーのピアノプレイに華を添えている。この作品以外にも、エリオ・アルヴェス(ブラジル人)、ダニーロ・ペレス(パナマ人)、アジザ・ムスタファ・ザデ(アゼルバイジャン人)といった世界の俊英ピアニスト達をサポートしている偉大なベーシスト。頻繁に共演しているエドワード・シモンもベネズエラ出身のピアニストだ。

♪現代最高のフルート奏者、ペドロ・エウスタ-チェの至芸

『チルカーノ』(ペルーの強いお酒のひとつだそうだ)の最高の聴き所はタイトル曲で披露されるペドロ・エウスタ-チェの超絶技巧を駆使した白熱のフルートソロ。ベネズエラ出身でおそらく現代最高のジャズフルート奏者の1人ではないかと思う。とにかく楽器の鳴り方が違う。ペドロはフルートの他にもエレキベース、バスクラリネット、クアトロを演奏するだけでなく、ズルナーといった中近東の管楽器演奏もお手の物のマルチプレイヤー。最近は、癒やし系の音楽に力を入れるなどジャンルを超越した活躍で注目を集めている。

♪アレックス・アクーニャの圧倒的な存在感

ペルーの他にも様々な国籍のミュージシャン達が集った『チルカーノ』。しかし、やはり中核を担うのはプロデューサーも務めるリッチー・セーロン(ギター)、アレックス・アクーニャ(ドラム)、オスカル・スタニャロ(ベース)といったペルー出身のミュージシャン達。なかでも、圧倒的な存在感を示すのがアレックス・アクーニャだ。ペルー出身者であることは知れ渡っていても、なかなか自身のペルー成分を表に出す機会には恵まれなかった人。ウェザー・リポートやフュージョン系の様々なセッションで披露したしなやかなドラミングのルーツはここにあり!と言わんばかりのスーパープレーの数々でこのアルバムを盛り上げていることは間違いない。


JOSE LUIS MADUENO “CHILCANO” (Songosaurus 724774) -1996-

1) Games (Jose Luis Madueno)
2) Peflections (Jose Luis Madueno)
3) Moonspark (Jose Luis Macueno)
4) Staying At Home (Jose Luis Madueno)
5) Nica’s Prelude (Jose Luis Madueno)
6) Nica’s Dream (Horace Silver)
7) Valsamo (Jose Luis Madueno)
8) Waiting For Tomorrow (Jose Luis Madueno)
9) Going In Circle (Jose Luis Madueno)
10) Joyful Goblin (Jose Luis Madueno)
11) Cilcano (Jose Luis Madueno)
12) Witch Doctors In The Alley (Jose Luis Madueno)

Jose Luis Madueno : Piano, Keyboards, Cajon & Voice
Steve Tavaglione : Tenor & Soprano Sax
Pedro Eustache : Flute
Richie Zellon : Guitar
Ramon Stagnaro : Guitar
John Patitucci : Acoustic Bass
John Pena : Electric Bass
Oscar Stagnaro : Electric Bass
Alex Acuna : Drums & Percussion
Barry Smith : Drums

Recorded during January 1996 at “The Studio” Orland & “Masters Crib” LA
Produced by Richie Zellon

Jose Luis Maduenoの公式サイト
http://www.joseluismadueno.com/english/home.html
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春シーズン雑感(その4)/普段着の戦いからみえたもの

2013-07-16 23:22:49 | 関東大学ラグビー・リーグ戦
普段は関東リーグ戦グループのラグビーを中心に生観戦を楽しんでいる私。けして対抗戦Gが嫌いだという訳ではない。リーグ戦Gの8チームの試合を優先して観戦スケジュールを組むから、トップリーグも含めて他の試合を観に行く時間がなくなってしまう。

それと、席の移動もままならない満員状態が苦手というのもある。せっかく目の前のプレーに神経を集中させたいと思っているのに、「同じことを街中で面と向かって言えますか?」と詰問したくなるようなレフリー批判や選手に対する誹謗中傷を耳にするといたたまれなくなってしまう。せっかく入場料を払っているのだから、ラグビーは気持ちよく観たいものだ。だいいち、初めて観戦に来た人は、スタンドから容赦なく発せられる心ない怒号を耳にしたら、リピーターになってくれるだろうか。元来、ラグビーはピッチ上だけでなく観客席にもイエローカードは不要のスポーツだったはずだ。

ついつい話が逸れてしまった。春シーズンの楽しみの一つは、普段はテレビでしか観ていない対抗戦G所属チームの試合を観ることができること。とくに、2T(帝京と筑波)の台頭が対抗戦Gを活性化させている。時間があったらこの2チームの試合も極力観たいし、実際に春も他のリーグ戦G絡みの試合をうっちゃって百草園に行ってしまった。本シリーズの最終回として、対抗戦Gのラグビーのことにも触れてみたい。

◆対抗戦グループ雑感

春シーズンでは上位5チームのうち、慶應以外の4チームの試合を観戦した。ちなみに帝京と早稲田は2試合ずつ観ている。既に土台ががっちりとできあがっている帝京を除き、他の3チームはまだこれからといった状態ではあるものの、最近とみに顕著になっているリーグ戦G校との格差はなかなか縮まらないというのが率直な感想。とくにBチーム以下の試合で明確になる選手層の違いは如何ともしがたく、この差を埋めるのは容易ではなさそうだ。

ただ、対抗戦G内でも実力差は徐々に拡がっていく傾向にあるようだ。リーグ戦Gの中下位チームに圧倒された3校と上位5校の間だけでなく、上位5チーム間でも格差が明確になりつつあるように見える。長期的な指導体制のもと着実に強化が進む帝京と筑波に対し、短期間で指導者が交代し1年1年が勝負のような状態になっている早慶明3校の間の力の差は徐々に開いていくのではないだろうか。何となくだが、本調子ではなかった早稲田や明治を観てそんな印象を受けた。

今シーズンは日程的に、筑波が前半集中型で厳しい戦いを強いられる形になるが、逆に早慶明も筑波対策を練る必要がある。この辺りの影響が各チームの終盤の戦いにどのように現れるかにとくに注目したい。

◆大学ラグビーは帝京1強時代へ

帝京の試合を百草園にあるホームグランドでじっくり見てみると、このチームは今まさに上昇スパイラルのまっただ中にあるという印象を強く受ける。チーム強化に向けて、いろいろな面でいい方向性が生まれていると感嘆せざるを得ない。目標を日本選手権4強と高く設定することで、チーム一丸となるモチベーションが生まれている。また、標榜する「スタンディングラグビー」だが、意図するところは(表向きはスピーディーで無理や無駄のない継続ラグビーだが)寝込むことを極力なくすことで反則を取られないようにするところにあるのではないだろうか。このことは、シーズン終盤の戦いで活きてくるはずだ。

あと、帝京で注目したいのは6月30日の早稲田戦での戦い方。この試合は観ていないし、推測でものを書くなというお叱りを受けることを覚悟の上で推測してみる。帝京の目指したところは、表向きは対抗戦Gで優勝争いをすることになるチームと戦うことによる春シーズンの締めくくり。だが、実態は早稲田を必死にさせることが目的だったのではないだろうか。意図するところは、現段階で早稲田のチームや選手個々の能力を把握しておき、来年以降のことも含めて対策を練ること。そのためにも相手が一生懸命になってくれることは願ったり叶ったりだったはず。帝京は相手の力を引き出すのが上手いチームという印象があるので、そんな戯れ言を考えてしまった。

◆帝京方式がすべてか?

帝京のチームの在り方には賞賛を贈るしかない状況。だが、他に方法はないのだろうか? 大学チャンピオンを目指すすべてのチームが帝京と同じ方法で強化を図ったら、日本の大学ラグビーはどうなるのだろうか? 例えばのはなし、少数精鋭でかつなるべくコストがかからない方法で強いチームを作ることは出来ないものだろうかと考える。帝京が組織的に取り組んでいることをお手本として、個々の自主的な管理のもとにチームを強くすることはできないのだろうか。

もちろん、帝京の目指すところは「組織的な取り組み」ではあっても「締め付け」ではなく、「己に克つ」ことを最終目標とした自主管理だと思う。ただ、この状況を確立するためには長い長い時間がかかったはず。そういった意味でも、対抗戦Gでは筑波、リーグ戦Gでは拓大に注目していきたいと考えている。
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サウス・アメリカン・ジャズ/南米で生まれたスウィングの新しいかたち

2013-07-15 20:46:43 | サウス・アメリカン・ジャズ


このブログの隠れメインテーマは「サウス・アメリカン・ジャズ」。でも、この言葉を目にしたときにどんな音楽がイメージされるでしょうか。

「サウス・アメリカン・ジャズ」は文字通り、南米大陸で生まれたジャズ。リズムにも曲想にも南米大陸で演奏されている様々なスタイルの音楽の要素が色濃く反映されています。そして、使われる楽器はギター系を中心とした様々な弦楽器が中心となっていて、広義の「ラテン・ジャズ」で用いられるような打楽器の活躍の場はむしろ少ない。踊りがあれば当然のことながら歌もあります。さらに、音楽の担い手は、南米大陸の出身者だけでなく、北米から欧州大陸、さらには日本へと地球規模の拡がりを見せています。

あえてカテゴライズするならば、世界中に散らばる南米音楽に魅せられたジャズミュージシャン達が「ジャズ」という音楽の「世界共通語」を用いて本場の音楽家達と交流を深めているのが「サウス・アメリカン・ジャズ」の世界。「ラテン・ジャズ」の一部ではあるとしても明確に定義することは難しいジャズですが、音楽としての魅力はアメリカ本国や欧州大陸のジャズにもけして劣ってはいないと思います。

そんな「サウス・アメリカン・ジャズ」の面白さを何とか伝えることが出来ればとずっと考えていました。それは、今は閉じている拙HPの『ワールド・ジャズ・ギャラリー』で志したことでもあります。

一方で、「サウス・アメリカン・ジャズ」はけして多くを知られているとは言いがたい南米大陸の音楽の魅力を世界に向けて発信することができる音楽とも言えます。この音楽をいわば「キーワード」にして南米音楽の魅力の一端を紹介していくことできればと思っています。

ここで登場するミュージシャン達は、殆ど日本では知られていない人たちばかりになってしまうのはやむを得ないでしょう。しかし、現在はインターネットを通じて世界各地で演奏されている音楽を映像付きで楽しむことができます。

筆者とて多くを知るわけではありませんが、少しでも多くの人に「南米大陸で生まれたスウィングの新しいかたち」、そして南米音楽自体の魅力、さらには北中米を経て欧州大陸へと拡がりを見せるラテン系音楽の魅力そのものにも触れる機会を提供できればと思っています。
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春シーズン雑感(その3)/普段着の戦いからみえたもの

2013-07-15 18:30:55 | 関東大学ラグビー・リーグ戦
長いようで短かった関東大学ラグビーの春シーズン。スタンドで凍えていた東日本大学セブンズから2ヶ月余りしか経っていないのに、締めくくりのオールスター戦は熱中症を心配しなければならないくらいの酷暑。波瀾万丈のリーグ戦を予見させるような激しい気候の変化、というのはもちろんとってつけた理由。あと2ヶ月経つといよいよシーズン本番が始まる。

かつては「実力伯仲」や「下克上」といったキーワードのもと、「戦国リーグ」といわれていたことが懐かしくなってしまうくらいに、上下間の戦いに関しては無風状態に近い状態になっているのが関東リーグ戦グループの現状。もちろん、目下の2強と見なされる東海大と流経大が時間をかけてじっくりチームを作り上げてきた成果がはっきり現れただけのことなのだが、かつての上位校が力を失っている事実も否定できない。「実力伯仲」も、それは大学選手権出場をかけた5位争いであったり、入替戦回避のぎりぎりの戦いであったりするのは正直言って寂しい。何とかこの状況を打破すべく、下位グループ校のパワーアップを望みたいところ。

しかし、今シーズンは少し状況に変化が現れそうだ。それは、永らく低迷状態にあったチームが復活の狼煙を上げたから。関東リーグ戦グループの展望の第2回目として、昨シーズンは5位以下に終わった4チームについての感想と期待するところを書く。

◆日本大学 ~今年こそは上位グループ入りを期待したいが~

私見ながら、日大は昨シーズンのリーグ戦Gでもっともシステマチックに構築された(「流れるような」と表現したい)アタックを見せてくれたチームだった。その担い手として第一に上げられる選手はSHで主将も務めた小川。この名選手にして名スキッパーの卒業による今季の戦力ダウンは織り込み済み。小川自身も加藤HCの指示があったのかも知れないが、自らをコントロールして15人で攻めるチーム作りを意識してプレーしていたように見えた。そういった下準備が出来た上での今シーズンという認識で春の戦いを観たのだが、残念ながらチーム再構築になってしまったのだろうか?という想いを禁じ得ない。

もちろん、上井草での早稲田戦のみを観ただけでは判断できないことは分かっている。しかし、早稲田もベストからはほど遠いと思われた状態の中で、日大はアタックもディフェンスも精彩を欠く状態だったことは偶然ではなかったような気もする。FWは課題のセットプレー(とくにスクラム)の強化が進んでいないように見え、BKもマイケル(トロケ・バー)を除けば相手DFを突破できる選手がいない状況。そのマイケルにしても、まだまだ自然体で(持ち前のパワーを発揮できるような)プレーが出来ていないように感じられる。

とはいっても、選手個々ではけして上位チームに劣っているわけではない。FWではFL大窪のランに力強さが加わり、No.8高橋の状況判断の良さは武器になるはず。また、下地が引っ張るBKラインが機能すれば、マイケルのトライシーンも増えるだろう。問題があるとしたら、気持ちの部分ではないだろうかというのが早稲田戦を観ての感想だった。加藤HCが4年間かけて作り上げたチームではあっても、選手達に求められるのはピッチ上でいかに15人が戦術を共有しつつ、個の判断と能力を活かしたプレーができるかだと思う。何とか壁を越えて欲しいという他ない。

◆中央大学 ~魅力的なBKラインを活かすためにもFWの奮起が求められる~

入替戦は回避できているものの、大学選手権にも届かない6位が定位置となってしまった感がある中央大。たまたま観た試合(立命館との定期戦)の出来が良くなかったのかも知れないが、今年も前途多難を思わせるチーム状態だったことは否定できない。ただ、外部から酒井氏をHCとして招聘したことや、HPに掲載されている選手達の生の声を聞いても、チーム変革に対する意気込みは十分過ぎるくらいに感じられる。すぐに結果は出ないかも知れないが、期待を持たせる部分ではある。

中央大の積年の課題の一つはアタックの局面でとにかくミスが多いこと。その克服のため、どんな努力をしているかを監督自らがHPで語っている。しかし、内容は連帯責任を負わせる罰ゲーム方式の感が強く、正直なところ違和感がある。ミスが起こるのには原因があるはずで、その再発を防ぐためには徹底的に検証を行うことの方が重要のように思われるのだ。ミスが起こるのは技術面よりも、むしろメンタル面に原因があると考える。選手の頭の中にルーティーンの中で、またハプニング的な形でボールを持ったときに何をすべきがしっかりインプットされているのだろうかという疑問を感じることが多い。

おそらく大学ラグビー界でもっともミスが少ないチームは帝京だと思う。とくに、相手がミスしたときのチームとしての反応の速さが素晴らしく、(一瞬プレーを止めてしまった相手チームの選手達を尻目に)あっという間にボールをゴールラインまで運んでしまう。リーグ戦Gでは東海や流経にしてもハプニングに遭遇すると判断に迷っている場面が多く、ここが帝京との大きな差を生み出している部分だと思う。帝京の選手は罰ゲーム(あるいはコーチの叱責を受けること)がいやだからミスをしないのでなく、普段の練習でどんな状況になっても自然体で動けるようにトレーニングを積んでいるからミスをしないのだと思う。監督が指摘していた「セルフジャッジが多い」ことは、プレーに集中できていないことの裏付けのような気がする。

とは言っても、ほぼ4年生で固めたBKラインはリーグ戦を戦う上で大きな武器になるはずだ。FBにはエースの羽野が居るし、SHにも楽しみな新人が2人も加わった。とくに住吉のスピードは魅力たっぷりで、FW3列やSOとのコンビネーションが合ってくれば得点力は上がるはずだ。ここ数年の中央で気になるのは、BKでオープンにワイドに展開したところでアタックが途切れてしまいがちなところ。フォローが遅れてターンオーバーされたり、2次攻撃の段階でBKラインに並んでいるのはFWの選手ばかりという状況が生じていた。ここも工夫が必要な部分だと思う。タテのスピードを活かして、狭くコンパクトなラグビーで活路を拓いて欲しいと個人的には思っている。

◆大東文化大学 ~一気にパワーアップで序盤戦の主役間違いなし。それ以上にも期待!~

Cグループの試合だったとは言え、大東大が立正大を相手に見せたラグビーは、春シーズンでもっとも印象に残るものとなった。僅か半年前には入替戦であわや(2部落ち)もあり得たチームとは思えないくらいに溌溂としたラグビーだった。指導体制が替わってもなかなか体質改善が進まないチームが多い中で、青柳新監督以下の新首脳陣がどんなマジックをかけたのか知りたいところ。おそらくは、元来の攻撃ラグビーを思い出させ、結果を出すことで自信を持たせることに腐心したのではないだろうか。そういった意味でも、結果論かもしれないが、Cグループからの再スタートが幸いしたのかも知れない。

大東の持ち味は、パスを繋ぎに繋いで最後は大外で勝負するランニングラグビー。それが、いつしか強力な個の力に頼ってしまうラグビーになっていた。とくに現役トンガ代表2名(フィリピーネとエモシ)が同時にピッチに立っていた時代は、アタックの局面ではチームの一体感がなくなっていたように感じられた。そうして大きくチームのバランスが崩れたところで、強力な2人がチームを離れたことを機に攻撃力が一気に低下。そして、下位に低迷することになってしまった。また、レギュラーシーズンに負傷者が相次ぎ戦力ダウンを強いられたことも大きかった。

今シーズンだが、FWにハフォカ、BKにサウマキといった大型かつ強力な新人が加わったことが大きい。とくに当面はインパクトプレーヤーとして終盤からの登場になりそうだが、サウマキが豪快なランニングでトライの山を築くシーンがすでに目に浮かぶ状態になっている。彼らの他にも、BKを中心に春の段階からレギュラーに抜擢された新人が多く、このことがチームによい刺激を与えている。激しいレギュラー争いがチーム力を押し上げることは間違いない。課題はFWのセットプレーだが、闘将の高橋主将が最前線に立って引っ張るFWは力負けしないはず。怖いのはやはり怪我、そして強力な選手に依存してしまう体質が生まれてしまうことだが、序盤戦に前年度上位校とあたることで逆に緊張感を持って試合に臨むことが出来るだろう。久しぶりとなる「モスグリーン旋風」でリーグ戦を活性化させて欲しい。

◆立正大学 ~潜在力は十分。大東大に負けず暴れて欲しい~

悲願の1部復帰で意気上がる立正大。2部降格前の1部リーグでの戦いでは不完全燃焼のまま終わってしまった感が強い。とにかく、慎重な戦いに徹していた感があり、ゲーム終盤になってようやくエンジンがかかって猛攻を仕掛けるものの、時既に遅しという闘いぶりだった印象が強い。しかし、春のセブンズ大会では、そんな過去を忘れさせるような積極的に仕掛けるチームへと変貌を遂げていたので安心した。また、大東大戦では、相手の勢いが勝って一方的な展開となってしまったが、潜在力の高さは見せてくれた。

昨シーズンは2部に所属し、今シーズンも大東大戦しか観ていないためチームの特徴はまだわからないが、基本的にはSOツトネを軸としたオープン展開志向のチームだと思う。また、BK展開では飛ばしパスやロングパスを使ったワイドな攻撃を目指しているようだ。ただ、大東大戦ではWTBにボールが渡った段階でアタックが詰まってしまうことが多く、効果的な攻撃ができていなかった印象が強い。FWとの連携を交えた工夫が必要なようだ。期待の選手はセブンズで活躍したNo.8 の加藤、決定力のある早川、パワフルな鶴谷ら。序盤戦は苦戦を強いられるかも知れないが、最初から積極果敢な攻めを見せて欲しい。
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