春季大会も5週目。今までずっとAグループの試合を観てきたが、BグループやCグループの戦いも気になる。どの試合を観に行くか迷ったが、結局ニッパツ三ツ沢で行われる早稲田対法政(Bグループ)に落ち着いた。この対戦は、大学選手権以外では観ることができない「交流戦」の中でも目玉カードのひとつであることは間違いない。春季大会は公式戦とはいうものの、勝ち負けに過度にこだわる必要はなく、各チームはやりたいことを思いっきり試すこともできる。PGで3点ずつを刻んでいく必要がなければ、法政や早稲田のような攻撃型のチームはより本領を発揮しやすいはずだ。
しかし、何故かこの試合を前にしたワクワク感が薄いことも事実である。つい2週間前に観た2T(帝京と筑波)対決では、帝京が優位なことはわかっていてもテンションの高まりがあったし、実際に時間が経つのを忘れさせてくれるくらいの熱戦になった。比較するのはよくないと思いつつも、この2チームの戦いにそこまでのレベルが期待できるだろうか?というのが偽らざる気持ち。とくに入替戦を経験するなど低迷状態にある法政には、かつての輝きが失われている。早稲田にしても、そこそこのチームではあるが、2Tとの力の差はじわじわと拡がっていく状況にある。
とはいっても、BK主体のランニングラグビーを信条とするチーム同士の激突。「2T対決」とは違った面白さがあるはずだし、両チームには大学チャンピオン経験チームとしての意地を見せて欲しい。競技場に辿り着くまでにいろいろあって座席に座るのがキックオフの5分前になってしまったが、伝統のジャージを纏った両チームの選手達を見たら自然にテンションが高まってきた。
◆法政のメンバー表を見て
対抗戦Gのウォッチャーではないので、早稲田のメンバーについてはわからないが、法政のメンバーには感じるところが多々ある。中でも注目はHB団のコンビだが、中村と加藤に落ち着いたと見るべきか。首脳交代の影響もあるのかも知れないが、今期はチームリーダーとして法政再建の柱になると想われていた猪村が21番のジャージを着てベンチを温める状況になっている。猪村が試合中にCTBからSOにポジションチェンジした瞬間、チームに1本芯が通った状態になったのを目撃しているだけに、この状況になっているのは解せない。チームにとって、テストなのか決定事項なのかをじっくり見極めたいところ。
◆前半はキックオフ早々から乱戦模様
バックスタンドから見て左から右に弱い風が吹く中、風上に陣を取った法政のキックオフで試合が始まった。早稲田の自陣からのアタックに対して、まず法政がオフサイドを犯す。そして、続く早稲田のアタックではグランド全体を大きなため息で包み込むようなノックオンが起きる。ここから早くも両チームにミスが続発の乱戦模様となり、以後、法政は反則の多発(最終的に16個を記録)、早稲田は夥しい数のノックオン連発に悩まされることになる。さらに、早稲田には壊滅状態のラインアウトというおまけまで付いてしまった。
そんな両チームが落ち着かない状況の中で、開始3分に法政があっさり先制点を奪う。早稲田の2回目のノックオンで得た早稲田陣10m付近のスクラムから法政はオープンに展開。今度は法政にパスミス(緩いゴロパスになった)が起きるが、これが結果的に早稲田の守備陣形を乱す形となる。パスを拾ったFB森谷が早稲田のディフェンスをかわしてゴールラインを超えた。アンラッキーな面があったとは言え、早稲田は集中を欠いていたとしか言いようのないプレー。
早稲田のノックオン病の連鎖が止まらない。6分には法政のタッチキックに対して自陣からクイックスローで攻めるもののまたしてもノックオン。オープンスペースでボールをうまく拾われ、早稲田は早くも法政に2トライ目を献上する。ハンドリングエラーの多発に、早稲田の自陣からの攻めはキック主体に変わる。そして敵陣に入ったところでオープンに展開。この状況のなかで、少しずつだが早稲田が「らしさ」を取り戻しつつあるように見えた。ただ、法政の一次防御でのタックルが機能したこともあり、早稲田は継続してもなかなか有効なゲインができない状況が続く。
試合がやや落ち着いたかに見えた20分、早稲田にまたしても痛いミスが出る。オープン展開で受け手は何人も居る状況で放たれたパスが、何と法政のNo.8堀の胸にすっぽりと収まる。堀はそのままゴールポスト直下までボールを持ち込み法政のリードは21点に拡がる。こうなれば、法政は相手が目を覚ます前にどんどん加点するだけ。しかしながら、法政もたたみかけることができない。早稲田がノックオン病なら法政はペナルティ病。26分にはとうとう「不正なプレー」でSH中村にシンビンが適用されてしまった。
イエローカードで法政に動揺が走ったことと、早稲田がSO間島に代えて水野を投入(SOにはCTB小倉が回り、水野はCTBに入る)したことが功を奏したこともあり、早稲田が反撃を開始する。31分、法政陣の22mライン手前のスクラムから左右に揺さぶりをかけ、最後は小倉がショートサイドを走りきってゴールラインを超えた。これで早稲田が一気に勢い付く。リスタートのキックオフに対するカウンターアタックから細かい繋ぎを主体とした攻めで前進を図り、最後はWTB廣野がノーホイッスルトライ。GKも成功して21-14と法政のリードは僅か7点に縮まってしまった。
序盤の楽勝ムードはどこへやら?の法政だったが、前半終了間際の40分に再び早稲田のミスに乗じて得点を奪う。自陣を瀬にしたスクラムというピンチの状況で陣地挽回を狙ったキックが早稲田陣22m付近で転々とするところを早稲田の選手が処理に手間取る。法政がこのボールをうまく拾い、最後はWTB今橋がゴールラインを超えた。GK成功で28-14と法政がリードを拡げる形で前半を終了。シンビンなどがあってムードが悪くなりかけていた法政にとっては勝利に向けての貴重な追加点となった。
◆後半は一方的な展開に
早稲田に勢いが出てきたとは言っても、ノックオン病から脱することができているわけではない。法政はこのまま守りに入らずに攻め続けて勝利を掴みたいところ。しかし、ラグビーはわからない。たったひとつの不用意なプレーから、法政は殆ど敵陣にすら入れないくらいに一方的な展開となってしまうのだから。早稲田の深く蹴り込まれたキックオフに対し、ボールをタッチに蹴り出せば問題ない状況だった。誰もがキックと想った瞬間、パスがオープンに放たれた。観客だけでなくボールを受け取った選手も唖然となるような中途半端な展開となり、インゴール付近からボールをタッチに蹴り出すのがやっとの状況。法政は後半開始早々からピンチに陥ってしまった。何か閃くものがあったのかも知れないが、独り善がりと見られてもしかたないプレー。
5分、早稲田は法政のミスを見逃さず、ゴール前スクラムから左右に揺さぶりをかけてFB滝沢がゴールラインを超えた。GKは失敗したが法政のリードは9点に縮まり、早稲田の逆転は時間の問題のように思われる状況となる。ただ、エンジンがかかってきた早稲田も波に乗れない。ノックオン多発症に加えて、ラインアウトも壊滅状態のため、自陣に攻め入られることはないものの得点を奪うこともできない。早稲田ファンにとってももどかしい状況が続く中で時計はどんどん進んでいく。
確かにミス多発もあるが、早稲田のアタックで気になったことは、何故か攻め急いでいるように感じられたこと。法政は個人対個人のディフェンスでは強さを見せるものの、組織的な防御は苦手とするチーム。早稲田も帝京のように丁寧な継続ができれば、必ずディフェンスに穴があく。そこを一気に攻めれば得点は確実に増えていく。また、パスをすぐに内に返すことを繰り返していたことも気になった。人数が多いところを攻めてくれたことで法政はかなり助かったはずだ。シェイプも中途半端で、(帝京のように必ず4人単位ではなく)3人で行ったらタックルに遭ってボールを失うことになる。
9点をリードしているとは言え、敵陣に行けない状況の連続では、法政はいつ逆転されてもおかしくない。とにかく肝心なところで反則が多い。法政はリーグ戦Gでは反則が少ないチームだったはずだが、オフサイドポジションで相手のパスを捕球してしまう(シンビンになってもおかしくない)プレーには観客席からも失笑が聞こえる。スタンドからは「レフリーとコミュニケーションを取れ!」という「アドバイス」も飛ぶのだが、それ以前の問題。そもそも帝京や筑波や東海の選手ならオフサイドの位置にはいない状況であることをじっくり考え直す必要があるだろう。
ゲームも終盤にさしかかった34分、早稲田は法政陣22m付近のラインアウトを起点とした連続攻撃からCTB水野がトライを奪いGKも成功。28-26となり、法政が前半の貯金を使い果たすのも時間の問題というところまで来てしまった。法政ファンから待望の声が高まる中、遂に猪村がピッチに登場するが、足を痛めたFB森谷と交替という形。森谷が大丈夫なら猪村は出場しない可能性もあったわけで、残された時間から考えても疑問の余地が残る交代劇だった。そもそも残り時間も殆どなしでは力の出しようもない。
そして、リスタートのキックオフでは、法政は殆ど抵抗できずにあっさりとトライを奪われ、28-33と遂に逆転を許してしまった。残り時間が僅かとなったところで、法政が最後の力を振り絞って怒涛の攻めを見せるものの、早稲田の方が役者は上。結局そのままノーサイドとなり、早稲田の大逆転勝利という形で戦いは終わった。法政にとっては何とももったいない惜敗、そして早稲田にとってはほろ苦い勝利といった内容。帝京を相手にこれだけミスをしたら、前半で勝負は決まってしまうし、最終的には3ケタに近い失点になっているだろう。春だからまだまだ(できていない)ではなく、春なのにこんなに(差が付いてしまっている)を感じずにはいられない両チームの闘いぶりだった。
◆試合の後で想ったこと
Aグループの戦いを先に観ているからかもしれないが、帝京に勝てるのは帝京だけという時代になりつつあるように感じる。1部リーグで優勝争いができるチームを3つ持つチームの実力の高さには計り知れないものがある。早稲田も法政も選手が全体的にスリムに見えてしまうフィジカル面はさておき、プレーの確実性や戦術に対する理解度でも遅れをとっているように見えてしまうのだ。それくらい、帝京は先行しているし、同じくAで戦っている筑波も戦力アップしている。東海、流経はもとより、苦戦を強いられている拓大にしても、現状での最高レベルを春の段階で実体験できることは財産になるはず。
この試合を観戦していて気になったのは、「法政は今年Bでよかった」という声が聞かれたこと。確かにファン心理としてはわからないでもない。でも、それでいいのだろうか。今だからこそ、百草グランドに赴き、強くなるためにはどうしなければならないかを実地で学ぶ必要があるのではないだろうか。普段着の帝京から学べることはいくらでもある。例えば、トイレに貼ってある「尿チャート」(体調管理は尿の色を観察して、自分自身で意識してやれと促している)を見ただけでも、敏感な選手なら彼我の取り組みの違いを感じるはずだ。
勝敗にこだわる必要はない春季大会だが、実はけして軽く見ることはできない恐ろしいシステムではないかという想いを強くしている。今後、AからCまでのグループ間の格差は確実に拡がっていき、やがて「リーグ統合」が唐突に発表される日が来るかも知れない。秋のリーグ戦では3位以上を目指すことが現実的かつ切実な目標となるだろう。