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東海大学 vs 帝京大学(第4回関東大学春季大会A-2015.5.24)の感想

2015-05-30 00:29:01 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


先週の流通経済大に続き今週は東海大が帝京にチャレンジ。この試合は、秋のリーグ戦で「2強」としてマッチレースを繰り広げる可能性が高い2つのチームの現時点での力関係を知る上でも興味深い。もちろん、先週も流経大に圧勝した帝京だから、例年になくチームの仕上がりがいいと感じられる東海大でも勝つのは難しい。そうと理屈では分かっていても、どこまで通じるかということを期待したいと考えるのが人情というもの。心配された天候もすっかり回復し、今日も百草園駅から坂道を登って帝京グランドに向かった。

乗り換えの分倍河原駅でひとつ早い電車に乗れたので、キックオフ20分前にグランドに到着した。すでにメインの観客席は満杯の状態で、バック側もネットにかなりの数の人が張り付いている。子ども連れのファミリーも目立ち、ホームの帝京ファンもこの試合を楽しみにしていたことが伺える。そして、両チームの気合が入った練習風景を眺めていると、こちらまで身が引き締まる思いになってしまう。帝京は主力が何人か欠けているようだが、東海はU20遠征組を除けばおそらく現状でのほぼベストのメンバー構成。流経大戦ではFW戦に拘りを見せた帝京だが、果たしてこの試合ではどのような戦いを見せるだろうか。私的注目点は、バランス良く纏まった東海のBKラインのアタックが「王者」に対してどこまで通用するか?だ。



◆前半の戦い/ここでもFW戦を挑んだ帝京、BKのキレで対抗した東海だったが...

帝京のキックオフで試合開始。東海がカウンターアタックから攻め上がるも自陣でアクシデンタルオフサイドを犯しファーストスクラムとなる。先週の流経戦もそうだったが、なかなかスクラムが決まらない。仕切り直しが繰り返される中で東海にコラプシングの反則があり、東海は自陣22m内で相手ボールラインアウトといきなりピンチを迎える。しかし、帝京のラインアウトにミスがあり、東海はタッチキックで陣地を挽回してピンチを脱したかに見えた。

しかしながら、帝京がラインアウトからアタックを仕掛けようかという局面でまたも東海に反則があり、先ほどとほぼ同じ位置からの「やり直し」となってしまう。どうやら本日も帝京は序盤からFW中心でパワー勝負を挑むようだ。そして、今度は帝京もしっかりマイボールを確保してモールを作りじわじわと前進して塊がゴールラインをオーバー。開始5分で帝京が先制トライ(GKも成功)を奪い、幸先良く7点を先制する。流経大は同じような状況でさらに2つ取られたが、果たして東海も同じ轍を踏むのかと思われる立ち上がりとなった。

だが、東海は(FW中心の帝京とは対照的に)BKラインのアタックで魅せる。帝京の厳しいプレシャーをかいくぐるかのようにパスを繋ぎ前進を図る場面を目の前で観るのはなかなか圧巻。湯本と野口兄で組むHB団とWTB石井魁、FB近藤は計算できるメンバーだが、CTBの池田も身体能力の高さで捕まってもしぶとく粘る。SH湯本のランニング能力の高さは春のセブンズ大会で実証済みだが、帝京を相手にしてもたびたびウラに抜けて東海のチャンスを演出する。ただ、湯本の持ち出しは帝京どころか味方も欺くくらいに絶妙なので、味方のフォローも追いつけない場面が散見されたのが残念ではあった。

序盤から早くも両チームの選手達による激しいぶつかり合いとなる中で13分、東海がまたしてもスクラムでコラプシングを犯す。帝京は再び東海大陣22m付近からラインアウトを起点としてゴールを目指すが、帝京にオフサイドがあり東海が命拾いする。帝京がやや押し気味ではあるが、両チームの一進一退の攻防が繰り広げられる中で18分、東海大に待望の得点が生まれる。起点は東海大陣10m付近での帝京ボールラインアウトだったが東海大がターンオーバーに成功してSH湯本がウラに抜けて独走状態。帝京の最後の砦の選手が前に立ちはだかる中で湯本はフォロワーを待つような状態で東海ファンにとってはもどかしい展開になりかけた。

しかし、そこに最高の選手が現れる。そう、明日のジャパンを担うエースランナーの1人石井魁がまだスペースがある状態でボールを受け取り一気に加速する。こうなると帝京もお手上げになってしまう。追いすがる帝京の11番を付けた新エース(竹山)も振り切りゴールポスト直下まで一気に到達。GKも難なく成功し、7-7と東海が試合を振り出しに戻した。もしかしたら...の期待も生まれかけ、帝京の選手達の表情も硬くなっていく。しかし、その直後に東海には大きな落とし穴が待っていた。



ウォーターブレイクの後の22分、帝京は相変わらずラインアウト(東海陣10m付近)が不調でノックオンから東海がハイパントで前進を図る。しかし帝京もFB宮崎がカウンターアタックから一気にウラに抜け東海にオーバー・ザ・トップの反則。ここも帝京は東海ゴール前のラインアウトからFWのサイド攻撃で執拗にボールを前に運ぶ。そしてボールが間もなくインゴールという場面で主審の手が上がり反則。遠目でよく見えなかったのだが、東海大の1列の選手が帝京のボールをはたいて球出しを妨害したことでシンビンを適用され10分間の一時退場となる。

ここまで帝京に押され気味ながらもFW(ブレイクダウンでの踏ん張り)とBK(ヨコへの拡がり)がバランスを保ちながら失点を抑えていた東海だったが、FWの重い選手が1人欠けたことでそのバランスが一気に崩れてしまった。27分のPK(スクラムを選択)からのスクラムトライを皮切りに、帝京は30分(SH荒井)、33分(WTB竹山)の3連続トライで26-7と点差を一気に拡げた。東海が15人に戻った直後の38分にも帝京は竹山が1トライを追加してGK成功で33-7。

相手が1人少なくなった時を勝負所と考え、テンポアップしてボールを左右に散らし、東海のディフェンスが薄くなったのを見越した上でウラにボールを蹴る。そのボールも複数の人間でチェイスしてターンオーバー成功からトライへと結びつける。竹山は「なぜそこに居るのか?」と言葉を発したくなるくらいに絶妙の位置でボールを受け取る。また、ボールを受けてからのゴールまでの最短コースを見切ったかのようなラン(おそらく本人にしか見えていない)が素晴らしい。廻りにはディフェンダーも居るのに、誰も竹山に触れないまま止まってしまったように見えるから不思議。やはり「持っている選手」と言うことになるのだろう。この僅か10分あまりでの4トライは本当に効いた。

何とか前半のうちにひとつ返しておきたい東海。残り時間が殆どなくなったところで帝京を自陣ゴール前に釘付けの状態にするが、あと一押しが足りずにそのままタイムアップとなる。確かにシンビンは痛かった。しかし、シンビンがなくてもおそらく帝京は東海のプレッシャーが落ちてきたと判断した段階でテンポアップして攻める作戦だったものと思われる。帝京が序盤から顔色を変えるくらいにFWに拘っていたのもこの狙いがあったからに違いない。どこかでスイッチを入れる予定が、自動的にスイッチが入ってしまったように見え、巧みなゲームコントロールに脱帽するしかない。



◆後半の戦い/圧倒的に攻め続け得点を重ねた帝京に対し「二矢」報いた東海

帝京に一方的に傾いた流れを何とか変えたい東海。だが、帝京はさらにテンポを上げて攻勢に出る。とくにセットプレーからの1stフェイズでは徹底的に前に出ることを目指す。ここがバランス良く守ろうとする東海にとっては悩ましいところ。ブレイクダウンに人をかけて前進を止めようとすれば、帝京はBKに展開し、逆にヨコへの拡がりを意識するとFW周辺でどんどん前に出られる。強力なFWを持つチームの強みとは言え、ここまでゲームをコントロールし、支配できた大学チームがかつてあっただろうか。

さて、キックオフ直後の帝京のアタックを凌いだ後の3分、東海にチャンスが訪れる。帝京陣22m内でのラインアウトのチャンスからFWで前進を図りゴールラインに迫るがオーバー・ザ・トップ。この日の東海はとにかく反則が多かった。前半は8つで後半も7つの計15個は帝京が相手であることを考えれば致命的と言える。ブレイクダウン周辺での反則の多さを最後まで修正できなかったのは反省材料。チャンスの後にピンチありはラグビーも同じで、帝京は危ない局面の後には必ずと言っていいくらい得点を奪う。7分、東海陣10m付近での東海ボールスクラムからのブレイクダウンでターンオーバーに成功し、SH荒井がウラに一気に抜けた後、ここでもラストパスを受け取ったのは竹山だった。

帝京は畳みかける。11分、センタースクラムからBKに展開したボールをライン参加したFB宮崎が大きく前に運びまたしても決めたのはパスを受けた竹山。こうなると東海ファンはため息をつくしかない。せっかく石井魁や近藤が居ても彼らがスペースを駆け抜ける場面を作ることができなければ宝の持ち腐れ。リスタートのキックオフから10分あまり、さらに帝京の攻勢は続き、東海大は自陣22mからなかなか抜け出せない苦しい展開となる。ただ、ここは帝京のミスにも助けられる形で東海が凌ぎきる。23分、近藤が自陣からウラに抜けてHWL付近までボールを運んだところで東海はようやくピンチを脱した。

そして25分、東海にファンが待ちに待った2トライ目が記録される。起点はHWLより少し手前の自陣でのスクラム。セットからボールがオープンに展開されライン参加したFB近藤が一気にウラに抜けて大きく前進し左サイドでフォローした石井にボールを託す。スペースを与えられた石井は帝京の最後尾のディフェンダーもあっさりかわして期待にしっかり応えた。瞬発力の塊みたいなランナーで、見た目よりもスピードがある選手ということで、かつて関東学院の水野がさも簡単そうにディフェンダーをかわしていた姿が思い出された。東海が5点を返し12-47となる。



しかし、点を取られた直後の帝京は要注意だということを東海はまたしても思い知らされることになる。リスタートのキックオフで東海は自陣から果敢に展開し、右サイドを破って前進しゴールを目指す...はずだったが、帝京に巧みにボールをスティールされて逆襲され、またしても反則。帝京は東海陣ゴール前でのラインアウトからモールを形成して押し込み5点を追加する。東海も34分に帝京陣の10m付近でのスクラムから8→9でオープンに展開し、途中出場のWTB藤崎がトライを奪うがここまで。終了間際の40分(ランニングタイムは43分)にもPKからの速攻でFWが1トライを追加し、59-19でノーサイドとなった。

1週間前に帝京と戦った流経大は東海より失点が多く、得点も少なかったので、スコアからの判断なら現時点では東海が流経を上回っているように見える。とくに前半に帝京をやや慌てさせたキレのあるBKのアタックを観たらそんな感想を抱いてしまう。しかし、ことはそんなに単純でもなさそう。東海のアタックはキレがあっても高速モードで一本調子になりがちな部分があるのに対し、とくに合谷がメンバーに加わった場合に顕著となるが、流経のアタックはテンポが遅めでもタメがある。カラーが違うチーム同士なだけにどちらが優位とはまだ言い切れない。ただひとつ言えることは、肉体の強さで帝京に次ぐのはこの2チームだと言うこと。ほぼ80分間にわたって帝京と激しい肉弾戦を繰り広げながらも、ピッチ上に倒れ込んでいた選手が殆どいなかったことは特筆に値する。



◆感想をひとこと/東海だけでなく帝京にとっても厳しい試合だった

帝京にどこまで近づけたかを確かめるといった一抹の期待を込めて観た試合だったが、差はなかなか詰められないことを痛感させられる結果となってしまった。奪った3トライも東海が目指す形というよりは、湯本、石井、近藤と言った個人能力の高い選手の持ち味が活きる形で取れたという印象が強い。プレーの一つ一つを振り返れば振り返るほど、東海にとっては厳しい現実を突きつけられた試合という印象が強くなっていく。だが、帝京が上に行くための課題を真摯に実戦で教えてくれたことに対し、感謝するべきかも知れない。上で書いてきたことと矛盾するが、厳しくとも悲観すべき結果ではなかったという気持ちを抑えきれないでいる。帝京は遙か上にいるようで実はさほど遠くにはいないようにも思えるのだ。

それよりも、この試合は帝京にとっても厳しい試合だったという印象が強い。圧勝したから前途洋々のはずなのになぜ?と思われるかも知れない。言い方を変えて、帝京にとっては厳しさが求められていた試合だったという説明をすれば理解してもらえるだろうか。まず、最初に気になったことは、流経大、東海と2試合続けて帝京はいつになく激しいFW戦を挑んだこと。帝京が学生チャンピオンで満足するチームなら、こんなアタックはする必要はないはずだ。大学の強豪チームはもはや眼中になく、打倒トップリーグを目指すからこそFWの力を試したいという動機付けがあり、それに応えうる2チームとの対戦を好機と捉えてFW戦に集中したのではないだろうか。帝京は豊田自動織機と対戦した後、同じ対抗戦Gに所属する早稲田、明治と試合を行うが、おそらくボールを動かすことに重点を置いて様々なオプションを試す試合になるのではないかと予想する。

大学選手権6連覇を達成した帝京は「己自身」というもっとも強くて厄介な敵と戦っている。かつて頂点に立ったチームが結局は克服することができなかった身近にいる最強の敵。覇を重ねたチームに宿る危険は、15人の気持ちが1つになっていなくても勝てることで生じる規律の乱れの積み重ねから自滅してしまうこと。ラフプレーや受け狙いのパフォーマンス(?)が散見されるようになったら赤に近い黄信号が点ったとみていいと思う。目標がもはや大学チームにはなく、社会人の強豪チームに求めなければならない帝京はある意味では気の毒な感じもするが、続くチームのレベルアップのためにも帝京がより高い目標を持って大学ラグビー界をリードして欲しい。

◆「帝京に勝つラグビー」は存在しない

しかし、帝京に勝つためにはどうすればいいのだろうか。流経大にしても東海にしても、近づけたという部分とやはりまだまだ及ばないという気持ちが相半ば、いや後者のパーセンテージが高い状態だと思う。ひとつ言えることは、一段高いところに立ったとき、すなわち帝京との本当の勝負は力負けしないだけのパワーを身につけたところでようやく始まるということ。近づいたと一瞬思わせたところで突き放すのが王者の風格といったところだろうか。FWで互角に勝負が出来るとなったところで、今度はBKとの連携によるボールの動かし方の差を見せつけられる。対策を打つと、それが倍返しのような状態で返ってくる。むしろ、帝京はいろいろな対案を出すことに楽しみを見いだしているのではないかとすら感じる。

だから「帝京に勝つラグビー」は存在しない。でも勝ちたいと思ったらどうすればいいのだろうか。流経大も東海も帝京に通じる部分があることは見せてくれた。まずはボールを失わずに仕掛けて帝京に対案を出させる。その対案に対してこちらも対案を用意する。力負けしないことが前提だが、知略、戦略が勝者を決めるというスタイルのラグビーに持ち込めない限りは帝京に勝てない。リーグ戦Gサイドとして、流経大と東海が帝京に挑戦状を叩きつける準備が出来るところまで来たことは喜ばしい。両チームにはさらにレベルアップを期待したいが、他にも名乗りを上げるチームが出てくるのが理想。帝京の一人勝ちは面白くないという声が多くの大学ラグビーファンから聞かれる。しかし、帝京が6連覇を達成しその数字が二桁に達することも現実味を帯びてきている今日。永らく鎖国のような状態にあった日本のラグビーに「戦術を極めることは面白いはず」と形で風穴があいたことを率直に喜ぶとともに、このような状況を「世界への飛躍に繋がる好機」と見なすファンが増えていけばいいと思う。


ラグビーは頭脳が9割
斉藤健仁
東邦出版
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流通経済大学 vs 帝京大学(第4回関東大学春季大会A-2015.5.17)の感想

2015-05-23 17:14:45 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


春季大会2015観戦の2試合目はAグループの流通経済大と帝京大の激突。昨年度のリーグ戦Gと対抗戦Gの覇者同士の対決なのだが、目下のところ帝京は大学選手権5連覇中とあって、流経大がリーグ戦Gのトップチームとは言っても分が悪いことは確か。しかし、トップチームがチャンピオンに近づいてくれないことにはリーグ戦G全体の底上げもますます難しくなる。また、春のセブンズでの戦いぶり(YC&ACでは見事優勝)を観た限りでは流経大は期待してよさそうなだけに、どこまで戦えるかも楽しみな部分。

そんなことを思いながら、京王線の百草園駅から帝京大学のグランドに徒歩で向かう。一生懸命歩けば15分で行けるからけして遠くはない。しかし、それは平面の地図を見てのこと。実は最初の5分間、百草園の入り口まで急勾配の坂道(もちろん舗装はしてある)を息を切らしながらひたすら登り続けることになる。そんなこともあって、帝京大学のHPにもこのルートが紹介されていないことは十分に頷ける。推奨はしないが、バスルートで痛い目に遭ったことがある方は、気候がいいときに一度トライしてみてはいかがだろうか。

さて、グランドに辿り着いたこところで、観戦場所を決める。今までは、アウェイチーム側に用意されたスタンドでずっと観ていた。屋根付きなので、雨天の時だけでなく、とくにこれからの季節は熱中症予防にも最適といえる。しかし、これは手前勝手な不満でもあるのだが、屋根で仕切られ、HWL側も壁で仕切られといった感じになっていてやや閉塞感が感じられるのが難点。そこで、今日は思い切ってバック側のピッチサイドで立って観ることにした。立ち見とは言ってもまる1日のYC&ACセブンズに比べたら楽だし、やはりピッチで起こっていることを一番敏感に感じ取れるのは選手目線(実際は見上げるような大男が多いのだが)、かつ選手が目の前に居るような状態がベストだということが実感される。あと、バック側の観戦のメリットはホームチーム、アウェイチームの反応を遠目ながらも一望のもとに知ることができる。

そんなわけで、アウェイ側の10mライン付近に場所を決めてメンバー表を眺めながらキックオフを待つ。流経大は合谷とリサレが欠けるという飛車格落ちの様な状態で、LOのタウムア・ナエアタも欠場なので留学生はCTBのテアウパ・シオネのみ。また、メンバー表に記載された数字(選手の身体のサイズ)を見ても長身の選手は少ない。一方の帝京もレギュラーの一部が欠ける状態のようなのだが、とにかく大きくて分厚い。ピッチサイドで見るとそのことはさらに顕著となる。

その帝京大の期待の選手はなんと言っても左WTBの黄金ルーキー竹山ということになるだろう。しかし、私的には東日本大学セブンズで韋駄天ぶりをいかんなくアピールした大型WTBの津岡翔太郎(2年生)が注目選手。選手層が厚い帝京にあって、また逆サイドの新人にどうしても注目が集まるような状況の中で2試合連続のスタメン出場はちょっと嬉しい。おそらくセブンズでのアピールが認められたのだろう。

帝京大に比べると小粒に感じられる流経大の選手達で、正直大丈夫かなという気持ちにもなる。だが、流経大の選手達も上背こそないかもしれないが筋肉の鎧を纏ったかのようなガッチリした体型の選手達ばかり。この2チームに東海大を加えた3チームが大学生の「胸板ベストスリー」と言うことになるかも知れない。「伝統校」と言われるチームに所属する選手達は、上背や体重はあってもおしなべて細身に見えてしまうこの頃。日々の地道なトレーニングの積み上げはウソをつかないと言うことだろうか。ちょっと安心感がでてきたところでキックオフとなった。



◆前半の戦い/FWに拘りを見せた帝京に対し流経大も応戦し白熱した肉弾戦に

先週もほぼ同時刻に伊勢原の専修大学のグランドに居た。しかし、キックオフの瞬間から、わずか1週間の間を経ただけなのに異次元のラグビー空間に迷い込んでしまったかのような錯覚にとらわれた。彼の地で接戦を演じた両校の選手達には申し訳ないが、明らかにピッチ上に流れている「気」が違っている。AとCの格の違いと言ってしまえばそれまでだが、それだけでもないような印象を受けた。

さて、キックオフからしばらくの間はキックが多く両チームとも慎重な立ち上がりに見えた。しかし、開始2分で、帝京が流経大の反則で掴んだゴール前でのラインアウトのチャンスにモールを押し切ってトライを奪ったあたりから、試合は白熱した肉弾戦の様相を呈してくる。今日のテーマは最初からFWに拘ってどんどん攻めるといった感じで帝京がFW周辺の戦いを挑むのに対し、流経大も身体を張ったディフェンスで応戦する。確かに帝京の選手達の身体は分厚いが流経大も力負けはしていない。だからこそ帝京大も身体を張る。そんな繰り返しは観ている者の気持ちを熱くする。

幸先良く5点を奪い、帝京のFWはすでにエンジン全開の状態になっている。帝京が意図したアタックはFWでボールを前に運んだ後、効果的なウラへのキック。エリア獲得から相手を捕まえてターンオーバーで一気にトライまで持って行く。5分にLO飯野がラストパスを受けて帝京は開始5分にして2トライ目を奪い10-0(GK失敗)となる。帝京は畳みかける。13分、流経大のカウンタータックのボールを帝京が流経大陣22m手前でスティールに成功し、そのままCTB園木がゴールラインまでボールをはこぶ。GK成功で17-0と流経大サイドにとっては絶望感を漂わせるような試合展開となる。

いつになくFW周辺のアタックに拘りを見せるこの日の帝京大。これはかなり意外だった。帝京大は試合の序盤は様子見というか、相手に攻めさせる時間帯になることが多い。もちろんお手並み拝見ではなく、攻められながらも反撃体制を整えることに抜かりはなく、相手がミスをした瞬間、一気に反撃のスイッチが入ってボールをその場に合わせた様々なオプションを使ってインゴールまで運んでしまう。せっかく攻め込んでいるのに、まるで事故に遭ったかのような失点を繰り返している内にどんどん点差を拡げてられていく。これが帝京大のラグビーだと思っていた。しかし、今日の帝京大は違う。

ここで帝京大の意図がより明確となった。帝京はFWの力を試しているのではないかということ。ただ、この試すという意味は、流経大のFWの力を測るという意味ではなく、自分達のFWがどれだけやれるかを試すと言うことになる。帝京大はFW戦で相手をクラッシュするために身体を強く大きくしているのではない。FWの身体を張ったアタックの意図するところは、いかにしてBKに活きたボールを提供し、スムースに点を取ってもらうかにあると思う。そんなFWの力を試すことが出来るチームはごく限られている中で、流経大は格好な相手と見込んでのFW戦への拘りと見た。まぁ、1ファンの勝手な妄想だが、流経大がFW周辺でしっかり踏みとどまってくれることは帝京大にとって願ったり叶ったりだったかも知れない。

上で書いたように、流経大は体力勝負で負けているわけではない。しっかり精神的に立て直して食い下がりたいところ。リスタートのキックオフで帝京に反則があったところで流経大は帝京陣22m内でのラインアウトという絶好のチャンスを得る。ラインアウトは不安定でボール確保に成功した帝京がウラに蹴ってチャンスは潰えたかに見えた。しかし、流経大はカウンターアタックからワイドに展開してパスがCTBのシオネ・テアウパに渡る。帝京は当然この選手を重点的にマークしているが、シオネは身体の強さを活かしながらもクラッシュせず、しなやかに帝京のディフェンスを1人で破ることに成功。シオネは今シーズンの流経大でもっとも期待している選手。BKラインの中心に強くて堅実な選手が居ることで流経大の攻守はかなり安定するはずだ。

GKも成功して7-17となり、試合は落ち着いたかに見えた。しかし、リスタートのキックオフで流経大に痛いミスが出てしまう。アタックで前掛かりとなったところを突かれ、期待のルーキー竹山が快足を飛ばして一気にインゴールへ。GKも成功で7-24と流経大のビハインドは再び17点差となる。相手のミスを見逃さない帝京のチームとしての集中力は流石だが、連続失点を許さないことも帝京大が王者として君臨している要因。逆に言うと、帝京に勝つためにはリスタートのチャンスを活かして連続して得点を挙げ続けることが必須となる。バスケットボールではないがマイボールは高い確率で得点にするような厳しいラグビーをしない限り勝てない。得点後に相手ボールのキックオフで始まる場合は(得点のチャンスという意味で)とくに大切と言える。



試合の流れが帝京大に傾きかけたところで流経大も粘りを見せる。本日の流経大はラインアウトが不調。帝京大のペナルティでもらったG前でのチャンスもクリーンキャッチが出来ずに相手にボールを渡してしまう。ただ、流経大のプレッシャーが厳しかったこともあるが帝京大もピリッとせずノックオンも多い。ミス絡みとは言え、攻守が入れ替わるラグビーは見応えがある。28分の流経大の得点は、お互いのミスによるボール交換から生まれた。起点はHWL付近の流経大ボールのスクラム。いったん帝京大に渡ったボールがノックオンにより流経サイドに渡り、FB八文字がウラに抜けた後、右サイドに回ったシオネ・テアウパにラストパスが渡る。GKは失敗ながら12-24となる。流経大で他に目に留まった選手はFL7の花澤。168cmでスタメン中もっとも小さい選手だが、ボールを持ったときに大きな選手にタックルされても簡単には倒れない姿は圧巻だった。「リトルビッグマン」にも要注目だ。

でも、取られたらしっかり取り返すのが帝京大。33分、流経大22m手前のラインアウトからモールを形成して前進を図るものの、流経大が辛うじてパイルアップで逃れる。5mスクラムからのリスタートもFWに拘りを見せた帝京大だが、最後はあっさりラックからでたボールを受け取ったWTB竹山がゴールラインを駆け抜けた。竹山はどんどん得点に絡んでいくことを指向するプレーヤーのようだが、2つめのトライもバックサイドからは遠い位置のプレーでルーキーの切れのいいランからのフィニッシュ以上の状況がよく見えなかったのがちょっと残念。帝京大は38分にもFW中心のアタックでPR徳永がトライを挙げ36-12と追いすがる流経大を一気に引き離しにかかる。

前半も残り時間が僅かとなったところで流経大は最後の反撃を試みる。22m内で得たPKからタップキックで攻めてゴールを目指し右に大きく展開。シオネも居たし、このままパスを繋いでゴールを目指して欲しいところだったが、試みたキックパスがうまく通らずにタッチを割り「ああ残念」となる。トリプルスコアになってしまったが、流経大が簡単にはFW近場を割られないディフェンスで健闘し、点差を感じさせない好ゲームとなった。



◆後半の戦い/前半と同様、最後までFWに拘り得点を重ねた帝京大

過去数シーズンの帝京大の戦いぶりを観てきて、前半は無理をしない帝京大というイメージがあった。「無理をしない」の意味するところは、60~80%くらいの力で相手をしっかり受け止めながら体勢を整え、相手にミスが起こった時点で状況に応じて有効なオプションを選択し、テンポアップして効率よく得点を重ねていくのが帝京の真骨頂。相手にとっては、引き出しをどんどん開けさせられている内に、手詰まりになったところで反撃を喰らい、アッという間に失点してしまうわけだから「戦えている(攻撃出来ている)はずなのに何で失点ばかり増えていくのか」というラグビーになってしまう。

帝京大にとって、チーム内に警戒警報の1アラームが鳴るのはリードが1桁台に縮まったあたりからのはず。だから、相手は大学チャンピオンと戦う上でビハインドを一桁台に持って行くことが頂点を狙う上での目標の第一段階になる。もちろん、ここからが1ランク上のさらに厳しい戦いになるのだが、まずそこまで行かないことにはと帝京大の牙城を崩すことは出来ない。

そんなイメージを抱いていただけに、この試合では帝京大が最初からFWでガチガチ身体をあててきたのは意外に思えたのだ。おそらく、リーグ戦Gでこの攻撃に耐えられるのは流経大と東海大のみ。他のチームなら怪我人続出になるし、上にも書いたように帝京は相手をクラッシュすることを目標としているチームではないので、もっと違った形の例えばBK主体のラグビーになっただろう。そんな帝京の猛攻に身体を張って対抗した流経大の頼もしさを実感した前半の戦いぶりだった。

さて、後半のキックオフ。帝京大がスタイルを変えてくるかと思われたのも束の間、流経大が深く蹴り込んだキックオフのボールに対し、帝京が反則を犯して22m付近で流経ボールのPKとなる。ここから10分あまり、流経大はラインアウト、モール、スクラムといった形でFW中心のアタックで何度も帝京ゴールに迫る。しかし、ゴールを背にして僅か5mの帝京の赤くて厚い壁を破ることがなかなか出来ない。6分にはボールを外に大きく振ってラストパスになった状況もあったが惜しくもスローフォワードの判定。

前半から一連の攻防を観てきて、流経大に足りないものが何かがわかった。帝京大のアタックのときのような判断のスピードがあと一歩だが遅い。一例を挙げると、一瞬早くボールを離していればラストパスになりそうなところで躊躇があり、相手に捕まってターンオーバーから失点の起点になってしまったプレー。ラックでも球出しに時間がかかることが多いことも含めて判断のスピードを上げることが今後の課題だと思う。あと、流経大がかつてモールを得意としていた(過去の観戦記録では何度も「伝統工芸」という言葉を使わせていただいた)チームだったが、そのモールからの得点がなかなか生まれなくなってきている。ラインアウトが不調なことも原因に1つかも知れないのだが。

さて、10分間に渡って自陣ゴールを背にしたディフェンスを余儀なくされた帝京大だったが、ピンチを脱した後は何事もなかったようにトライラッシュで得点を重ねていく。対戦相手はノックオン、ブレイクダウンでのターンオーバーがことごとく失点に繋がるから本当に手が付けられない。13分には相手ボールのスティールからSO松田が左サイドを豪快に走りきる。また、16分にはカウンターラックのターンオーバーから一気にボールを前に運んでSH荒井がトライ。僅か6分あまりの間に失点は36から48まで増えてしまった。



リスタートで流経大のキックオフがダイレクトタッチとなったところから、今度は流経大が自陣ゴールを背にしてひたすら耐える展開となるが、前半と同様に身体を張ったディフェンスは機能しており、帝京大もいつになくミスが多いことも確か。しかしミスは重ねてもボール保持能力が高いのが帝京大の強みだ。さっきから強みばかり書いているような気もするが、強みしか書けないのも事実。ピッチサイドからは帝京大コーチの厳しい声も飛ぶが、他の大学の首脳陣ならそこまでは言えないだろうというくらいに細かい。実は首脳陣が自分達のチームをどう見ているかを知ることが出来るのもバック側のピッチサイド観戦の(密かな)楽しみと言える。帝京大の場合はとくにいろいろと勉強になる。8分に及んだ抵抗も通じず、27分、帝京大がFWのパワーで流経大ゴールラインを突破する。

流石に強力なアタックの連続に対して抵抗を続けることが難しくなってきた流経大に対し、帝京大にはまだ余力がある。31分にさらにFWで1トライを追加したあと、34分にはHWL付近での流経大の反則に対し、タップキックで怒涛の攻めを仕掛ける。流経大陣22m付近のスクラムはゴールを目前にしながらノックオンがありチャンスを逃したかに見えたが、直後の流経大ボールスクラムで強力なプッシュをかける。そして、スクラムからボールがこぼれ出たところをLO飯野が拾ってトライ。ゴールキックも成功して帝京大の得点は67点に達した。

後半無得点のままの流経大は何とか一矢報いたい。そんな気持ちの表れのような渾身のアタックも実らず、そのままノーサイドとなった。67-12のスコアは確かに帝京大の圧勝に違いない。しかし、実際にピッチサイドに立っていた人間の感想はちょっと違う。まったく説得力に欠けるのだが、流経大は十分にファイト出来ていたし、流経大の首脳陣もそう感じていたのではないだろうか。昨シーズンとほぼ同じスコア(5-71)での完敗は殆ど進歩がなかったように見えるが、選手達には(疲労感はあっても)悲壮感がなかったように見えたことだけは間違いない。



◆大敗の中にも、秋への期待が膨らんだ流経大

正直、主力選手を欠き、帝京大に比べると小粒な選手が多い流経大に対し、キックオフ前は不安がいっぱいだった。とくに帝京大がいつになく序盤からFWに拘ると言う形で攻めてくる状況を観たとき、何分保つだろうかという気持ちにもなった。しかし、流経大は失点を重ねても最後まで戦い抜くことができた。帝京大の公式サイトに載っているマッチレポートには、勝ったチームのものとは思えない反省の言葉が並んでいる。いつもながら帝京大の選手達の真摯にラグビーに取り組む姿勢に感銘を受けるが、そこからは流経大が思った以上にタフな相手だったことも読み取れる。結論は東海大を観てからになるが、今シーズンのリーグ戦Gは流経大と東海大のマッチレースになることはほぼ確定したと言えそうだ。より高いレベルでの争いとなることを期待したい。

◆「帝京大を中心に回る大学ラグビー界」がより鮮明に

帝京大の公式サイトを観ていて感心させられるのは、春シーズンもスケジュール表の土日がびっしり試合の予定で埋まっていること。帝京グランドの近くに住んでいれば、ウィークエンドはいろいろなタイプ、レベルのチームの試合を楽しむという形でラグビー三昧ができるわけだ。ここでふと思った。大学ラグビーの選手達に一番欠けているのは、いろいろな試合を観て内容を分析し、自分達にプラスになるものを掴み取るという「練習」ではないかということ。

大学のそれも強豪チームに所属していれば、チームの練習で忙しく、なかなか自分達には直接関係しない試合を観る機会は少ないはず。また、自分達のチームの試合であっても、限られた学習機会を逃しているとしか思えない態度の部員達の姿を見ると残念に思えてくる。そう考えると、毎週のようにホームグランドにいろいろなチームが訪れて試合を行っている帝京大は、「試合を観る」という練習が出来るという意味で最高の環境にあると言える。おそらく、選手達は他のチームの良いところと悪いところを実地で知り、自分達の練習に活かしている部分があるはずだ。帝京の進化が止まらない理由の秘密はこんなところにもある。

ラグビーは頭脳が9割
斉藤健仁
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拓殖大学 vs 専修大学(第4回関東大学春季大会C-2015.5.10)の感想

2015-05-14 01:53:52 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


関東大学ラグビーは春季大会に突入し、3節目にしてすでに波乱含みの混戦モードに入っている。この大会の特徴は招待試合の場合を除き、原則として対戦チームのどちらかのホームグランドで試合が行われることにある。スタンドから観るのとは違った目線から、普段はホームチームの選手達がどんな環境で練習しているかを知る意味で貴重な体験ができる。そんな中で、私的春シーズンの開幕戦は、専修大学のグラウンドで行われる拓殖大学との因縁対決になった。奇しくも昨年末の入替戦で仲良く1部復帰を果たしたチーム同士の対戦とあって、選手達だけでなく関係者の気持ちも昂ぶっているはず。

その、専修大学グラウンドへのアクセスは、小田急線の伊勢原駅からバスに乗るのが一般的。しかし、地図を見たら歩けない距離でもなさそうに思えたので、早めに家を出て徒歩で試合会場に向かうことにした。途中、前方に新緑が拡がる風景はハイキングなら快適だが、どんどんキックオフの時間が迫ってきて歩くピッチも上がっていく。結局到着したのは開始5分前の滑り込みセーフになってしまった。とどめのような最後の階段はかなりきつかったが、緑一杯の天然芝のグラウンドを目にしたときは疲れが一気に吹き飛んだような気分になった。ちなみに、奥には人工芝のグランドもありラグビーに集中できそうな立派な練習環境だ。

キックオフまであと数分に迫る中、さて、どこで観戦するか。最初はメイン側の建物の屋上に設けられた座席がいいように思えた。しかし、実際には席の配置がフラットなため、後ろに座ると前方が見えないことが判明。方針変更で、バックスタンド側のピッチサイドで観ることにした。途中、ゴール裏の辺りで拓大のメンバー表には名前が載っていなかったシオネ・ラベマイを見かけた。足を引きずって歩いているので負傷による欠場。拓大にとってはピンチだが、逆にエース不在の状態でどこまで戦えるかが試されることになる。



◆前半の戦い/パワーに勝る拓大の前に劣勢を強いられた専修

試合が始まってから、ピッチサイドをHWL付近に向かって歩いていたら、観戦を通じて親しくなった拓大関係者の方に遭遇しその場に落ち着いた。熊谷ラグビー場から半年ぶりとなる挨拶もそこそこに、視線はグランド上へ。専修のダイレクトタッチでHWL付近でのラインアウトから拓大がオープンに展開し、右WTB谷川が右サイドを駆け抜けて鮮やかな先制トライが決まる。難しい位置からのCTB松崎のGKも決まり、開始1分にして拓大が幸先良く7点を先制した。

先制パンチで勢いに乗る拓大。リスタートの相手キックオフに対してカウンターアタックで攻め上がるが、HWL付近で惜しくもノックオン。3年間にわたり不動のFW第1列として拓大のスクラムを支え続けた岡部と川俣が卒業したとは言え、右PRに大学生最強の呼び声が高い具智元が居る。今シーズンもスクラムは拓大のストロングポイントになるはず。しかし、そのスクラムがなかなか決まらない。遠目には、拓大がスクラムをうまく組ませてもらえないようにも見えた。

すっかりじれてしまったのか、拓大が反則を犯す。と専修は間髪入れずにFKから一気に攻め上がる。FW戦での劣勢が予想された専修の狙いは、おそらく攻撃のテンポを上げること。そうなれば、セブンズ仕込みのBKによる展開力に自信を持つ専修ペースになる。ボールが小気味よく繋がり、最後はSO小田がウラに抜けてゴール中央に飛び込んだ。GKも難なく成功し専修が7-7の同点に追い付く。時計はまだ6分。得意のはずのスクラムが皮肉にも拓大にとっては鬼門となるが、それは後半に顕著となる。永らく1部リーグから遠ざかっていたはずなのに、チャンスをそつなく得点に繋げるあたり、なかなか専修は試合巧者だと思った。

しかし、序盤は、シオネ・ラベマイが不在で、小柄な選手が多いものの個々のパワーで勝る拓大のペースで試合は進む。FWでボールをがっちりキープされたら専修は苦しい。また、拓大はBK陣も1部に居た2年前に比べると確実にパワーアップしており、専修のような小技はなくてもボールを前に運ぶことができる。同点に追い付かれたものの、拓大応援席にはまだまだ余裕が感じられた。13分には専修ゴール前でのFWによる執拗な攻めから拓大に得点が生まれる。拓大のキープレーヤーは、昨年は主としてWTBを務めていたが、昨シーズン後半からはSOに固定された林謙太。WTB仕込みの身体を張ったプレーに小技が加わり、拓大のBK攻撃にアクセントを付け加える。

戦前の予想通りFW戦では劣勢を強いられた専修だが、BKを中心としたパス回しになると選手達は俄然元気になる。16分にはボールを左右に大きく動かす展開から拓大陣22m付近で相手の反則を誘いPKのチャンス。さて、どうするか?と思ったら専修はショットを選択する。FB田辺が正面25mのPGを確実に決めて3点を返し、ビハインドを4点に縮めた。さらに21分には劣勢のはずのスクラムで拓大をプッシュする場面も観られた。低い姿勢で堅いパックのスクラムが組めていたのは確かだが、拓大FWに少なからずショックを与えたように見えた。

といった具合に専修が健闘を見せるものの拓大の優位は動かない。前半の中盤以降は殆どの時間帯でゲームは専修陣内で行われることになる。27分、拓大は専修陣のHWL付近右サイドのスクラムからオープンに展開し、左サイドを抜けたWTB谷川からラストパスがNo.8の石田に渡る。GKは失敗するが19-10と拓大はリードを9点に拡げる。さらに32分、拓大は専修の反則により得た専修陣22m内でのラインアウトからモールを形成して前進し、石田が2つめのトライを挙げる。GKは失敗ながら24-10と拓大はリードを14点に拡げた。

ただ、優位に立って攻めている割に拓大の得点が伸びない。専修はFW戦で劣勢を強いられながらも、粘り強いディフェンスで失トライを2つに抑えたことが後半の戦いに効いてくることになる。また、拓大もリードしていながらプレーに落ち着きがなく、専修の低いタックルに対してノックオンなどのミスで得点機を逃し続ける。結局前半はこのまま24-10で終了。拓大がピリッとしなかったのでこの点差で済んでいるが、前半の専修の戦いぶりに対して「前途多難」の四文字熟語が頭に浮かんだ。



◆後半の戦い/粘り強さを見せた専修に対し、拓大は終盤にガス欠で失速

専修の抵抗に遭ったとは言え、拓大が優位に試合を進めた前半。このまま拓大は優位に立つFWを活かして「ライバル」を徹底的に叩いておきたいところ。しかし、キックオフ直後にこの試合のターニングポイントになったと思われる痛いミスが拓大に出てしまう。専修キックオフのボールは少し風があったとは言え、けしてキャッチングが難しいボールではなかった。しかし、連携が上手くとれていなかったため、ジャンプした選手が捕獲し損ねたボールを後ろに居た選手がノックオンする。不意に前に転がってきたボールを前に居た選手がよけきれず、ノックオンオフサイドとなる。

ちぐはぐなプレーに対して、拓大が3位の好成績を収めた2012シーズンのことを思い出してしまった。当時のチームもウヴェを除けば小柄な選手が多かったが、キックオフのイーブンボール確保を強力な武器としていた。相手ボールのキックオフの時はサポートプレーで確実にボールを捕獲し、マイボールの場合も逆サイドに走り込んだFL森が身体を張ってジャンプ一番でキャッチングに成功したシーンが何度もあったことをはっきり覚えている。工夫を凝らしてマイボール確保に執念を燃やしていた拓大は何処に行ってしまったのだろうか。結果論だが、何でもないプレーがこの試合の敗戦に繋がる致命的なミスになってしまった(ように見えた)だけによけいにそう感じた。

専修はここでも転がり込んできたチャンスを逃さず、PKは拓大ゴール前の絶妙の位置でタッチを割る。専修は拓大陣22m内でのラインアウトからモールを形成して前進し、パスアウトされたボールがショートサイドに走り込んだ左WTB上田へのラストパスとなる。GKも成功して17-24。じわじわと点差が縮まっていく中、拓大サイドの雲行きがだんだん怪しくなっていく。時計はまで2分を指していない段階での7点差は専修に十分過ぎるくらいの元気を与えてしまったようだ。それとは対照的に拓大の選手達はなぜか大人しい。前半も応援席からは叱咤激励の声(愛の鞭)が飛んでいて、後半はそのボルテージがだんだん上がっていくのだが(もどかしいくらいに)伝わらない。

ただ、拓大には不運な面があったことも否めない。専修陣で攻めているときに根付きの悪かった芝生が絨毯のようにめくれ上がり、選手が足を取られてチャンスを逃す場面もあった。ピッチサイドからは、「もう一面ある人工芝の方のグランドで試合をした方がよかったのに。」という声も聞かれた。それはさておいても、選手にとってケガに繋がりかねないグランドコンディションはちょっと気の毒な感じがした。

試合はタイトな7点差を保ったままで、時計はどんどん進んでいく。このように書くと緊迫した好ゲームが連想されるが、両チームともシーズンが始まったばかりのためかミスが目立ったことも事実。ただ、どちらかと言えば、後半はボールをテンポ良く動かすという明確なコンセプトで戦った専修がペースを握ったのは必然とも言える。拓大はFW、BKともパワーアップは感じられるが、秋のシーズンに対戦する相手のことを考えればパワフルなシオネが加わっても厳しい戦いを強いられることは間違いない。

さて、ゲームもいよいよ終盤。ここで拓大のFWを中心とした選手達の運動量が目に見えて落ちていき、7点のリードが風前の灯火のような状態になっていた。それとは裏腹に、フレッシュな選手を投入した専修は逆転に向けて意気上がるような状態。28分にトライを奪いGKも成功してついに同点になってしまった。拓大もウラに抜けてあと一歩でトライという場面が何度かあったのだが、フォローが追い付かない。もちろん、諦めずに追いかけてトライを阻止した専修の粘り強いディフェンスを褒めるべきなのだが、拓大ファンにとってはもったいない場面が続いた。

そんな拓大とは対照的に、専修は得点の匂いに対して敏感だ。ウラに抜けたら確実にトライに繋がるような状況にあって、ここ一番の集中力でボールをインゴールまで持ち込むことができる。めっきり拓大の選手達の運動量が落ちた状態で専修の逆転は時間の問題と思われた32分、専修が1トライを挙げてこの試合で初めてリードを奪う。このままでは終われない拓大も最後の力を振り絞って専修陣内で攻め続けるが、時計がどんどん進みそのまま専修が7点のリードを守る形で終戦となった。専修が勝ちを拾ったように見えた戦いだったが、冷静に振り返ってみれば、勝利に対する気持ちの面で上回った方のチームが順当に勝利を収めたと言える。



◆早くも黄信号が点滅の拓大に対し、光明が差した専修

シオネが不在でもパワーに勝る拓大が優位に試合を進めると予想していたし、前半はそんな流れで試合は進んだ。専修も秋の前哨戦のような戦いに臨むにあたって堅くなってのかも知れない。しかしながら、前半に得点を重ねてリードを奪いながらもどこかちぐはぐだった拓大に対し、チームコンセプトが明確だった専修が徐々にペースを掴んでいった。そんな両チームの戦いぶりを観て、拓大に対しては不安感が頭をよぎり、専修に対しては期待感が浮かんできた。

専修は2部に降格する前も組立を持ち味とする展開ラグビーを信条としていたチームという印象がある。おそらく緑と白のジャージにはそんな伝統が深く染みこんでいるに違いない。今シーズンのリーグ戦Gも昨シーズン同様に混戦模様となる可能性が高く、とくに中下位は熾烈なサバイバル戦となることは必至とみている。そんな中で勝ち残るチームの条件は、コンセプトが明確で一体感のあるチームだと思う。専修はどちらの条件も満たしていることが上で浮かんだ期待感に繋がっている。正直、拓大に比べると知らない選手が殆どの状態だが、専修がじっくり観ていきたいチームになったことは間違いない。

2部降格が決まった試合の時にも感じたことだが、拓大は原点を見つめ直して欲しいと思う。原点とは3位に浮上した2012シーズンを戦ったときのチームのこと。「やれることを確実にやる。」ということがモットーになっていたはずだし、キックオフでのイーブンボール確保の例を挙げるまでもなく、それができた工夫と一体感のあるいいチームだった。難しいことはできなくても、15人が明確な目標設定のもとでコミュニケーションを密にすることで結果が出るところがラグビーのいいところだと思う。2012のチームの一員でもあった今の4年生がリーダーシップを発揮してチームを盛り上げていって欲しい。

ラグビー「観戦力」が高まる
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第56回 YC&ACセブンズ(2015.4.12)の感想(その2)

2015-05-05 23:57:11 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


午前中の試合と言うこともあるし、「負けても次があるから」ということからなのか、どこかピリッとしないところもある予選ラウンド。しかし、午後に入り、「負けたら終わり」のトーナメントになると、選手達の顔つきも変わる。やはり、勝負がかかってくると、ピッチ上は緊迫感で充たされるようになるのは選手達の「負けたくない」という本能的な感覚の表れだろうか。そして、コンソレーションになると必ず元気になるチームがあるものだ。これも1日限定セブンズの面白さかも知れない。

■コンソレーション・トーナメント

【1回戦】
○日本大学 24-7 ●神奈川タマリバクラブ
○釜石シーウェイブス 28-24 ●中央大学
○和歌山県選抜 19-12 ●明治学院大学
○青山学院大学 31-26 ●YC&AC (延長)

1回戦では日大が見違えるチームになって登場。トライを重ねて神奈川タマリバクラブを一蹴した。去年のタマリバは福田光輝や竹山の活躍で存在感を見せていたところがあったが、荻野の加入という明るい材料はあっても、竹山が1人で引っ張る形の今年はちょっと元気がなかった印象。新旧交代期にあるのかも知れないが、クラブチームにとって現状はなかなか厳しい状態になっているのではないだろうかと危惧する。釜石シーウェイブスは住吉がスピードスターぶりを発揮してトライを重ねた中央大に食い下がられたものの、どこか吹っ切れたようなマイケル・バートロケの活躍で勝利を収めた。中央大はブレイクダウンでボールを停滞させてしまう場面が多かったところに課題を残した。やはり3人目が到達した時点でボールが出るようにしないとセブンズは苦しい。

和歌山選抜も貫禄勝ちと言った感じ。ただ、期待の吉田大樹はボールを持つ(託される)機会が多いものの徹底マークに遭ってなかなか抜け出せない。逆に言うと、スペースがある決定的な場面でボールをもらう場面がなかったとも言える。もう少し時間をかけてチームに馴染んだら存在感をみせてくれるに違いない。ベテランに対して臆することなく戦った明治学院の健闘も光った。青山学院とYC&ACの戦いは本大会のベストマッチのひとつと言える。セブンズの戦い方を知っているYC&ACが先行する中、青山学院が1トライずつ返しながら何とか食らいつき土壇場で同点に追い付く。サドンデス方式となった延長戦で自らチャンスを掴み取り、決勝トライを決めたシーンでは場内から大きな拍手が湧いた。

【準決勝】
 ○日本大学 21-19 ●釜石シーウェイブス
 ○青山学院大学 29-21 ●和歌山県選抜

【決勝】
 ○日本大学 26-17 ●青山学院大学

日大と釜石シーウェイブスの対決となった準決勝ではドラマがあった。釜石には日大を卒業して加入したばかりでありながら、既にエースとしての風格を見せるマイケル・バートロケが居る。日大が21-19と2点リードのままタイムアップとなりかけたところで釜石にラストチャンスが訪れた。セットプレーからボールを回し、そして、ボールは切り札のマイケルに渡る。おそらく日大ファンは肝を冷やしたに違いない。しかし、マイケルは日大の人数をかけたディフェンスを突破できずにノックオンを犯し試合終了となる。「やっぱりマイケルは後輩想いだなぁ」などとつい不謹慎なことが頭をよぎるが、隣で熱心に応援している釜石のサポーターの人達が目に入った瞬間にそんな戯れ言も吹き飛んでしまった。それはさておいても、日大時代に比べると頼もしい存在に見えたのがこの日のマイケル。今後の活躍に期待したいし、応えてくれそうな気がする。

青山学院は若さと個人能力の高さを活かす形で食い下がる和歌山県選抜を振り切り決勝へ。日大と青山学院のフレッシュな対決は決勝戦に相応しい好ゲームとなった。日大は塚本大輔、内山、原、富樫といったベテランの4年生が存在感を示す中で、2年生の鈴木陸が伸び伸びとプレーするなどチームのコンビネーションが試合を重ねるごとによくなり、個人能力勝負の感が強かった青山学院を振り切って見事優勝を果たした。意図していたわけではないと思うが、日大にとって多くの試合ができたことはプラスになったのではないだろうか。昨シーズンもこの大会で好成績を挙げた専修が1部復帰を果たしている。日大もここで掴んだ自信をチーム力アップにつなげて欲しい。



■チャンピオンシップ・トーナメント

【1回戦】
○筑波大学 12-10 ●北海道バーバリアンズ
○早稲田大学 40-12 ●専修大学
○PSIスーパーソニックス 15-14 ●東海大学
○流通経済大学 47-14 ●慶應義塾大学

同じトーナメントでもチャンピオンシップの闘いはコンソレーションとはひと味違ったものになる。予選ラウンドを終えた段階で優勝争いは同じ山に入っている流経大とPSI(あるいは東海大)となることが予想されたが、翌週行われる東日本大学セブンズでの4連覇がかかる筑波大とトゥキリらのパワフルな選手達を擁する北海道バーバリアンズの戦いも見応えのあるものとなった。

筑波では緒戦同様に長身の中村(2年生)の動きの良さに目が留まった。シリーズ「その1」ではAのデビュー戦かと書いてしまったが、調べたら去年既に対抗戦で数試合スタメンに出場していることが分かった。(知る限りでは、去年話題にならなかったのはなぜだろう。頑張った中村選手、ごめんなさい。) 試合の方は、北海道バーバリアンズが2本対1本で勝利を掴むかと思われたが、終盤に粘りを見せた筑波が幸運にも恵まれた形で辛くも2点差で勝利を収めた。

セブンズに拘りを見せる専修大学とテンポアップした動きで仕掛ける早稲田との戦いも序盤は見応えのあるものとなった。しかし、次第に専修が早稲田のスピードアップにトリッキーをまじえた動きについていけず翻弄されるようになる。中盤以降は早稲田のトライラッシュとなり、思わぬ大差がついてしまった。リサレやシオネといった強力な選手を擁する流通経済大もディフェンスに苦しむ慶應からトライを重ねて圧勝。流経大は看板スター以外にも走力がある選手が揃っているのが強みだ。

白熱した戦いとなったのは、PSIと東海大の戦い。新旧日本代表他トップリーグで活躍した選手を含むスター軍団に対して東海大も学生随一のパワーと石井魁や湯本らのランで対抗する。スピードに乗ったら誰も止められない石井魁のスピードは群を抜くが、湯本の長い距離を走りきる能力もなかなかのもの。東海が先行しPSIが1本返す展開が2回続き、GKの差で14-10と東海がリード。しかし、土壇場で1トライをもぎ取ったPSIが1点差で薄氷を踏むような勝利を掴んだ。PSIでは中村知也のスピードも強く印象に残った。惜しくも敗れたとは言え、今シーズンの東海大は期待できることを確信させるような戦いぶりだった。

【準決勝】
 ○早稲田大学 28-21 ●筑波大学
 ○流通経済大学 19-14 ●PSIスーパーソニックス

【決勝】
 ○流通経済大学 34-17 ●早稲田大学

準決勝は2試合とも手に汗握る熱戦となる。1試合目は、秋には対抗戦Gで相見える有力チーム同士ということもあり、両校の戦いは早くもその前哨戦の様相を呈する。どちらもこの大会への準備に怠りはないものの、とくにセブンズに特化したチーム作りをしてきているわけではなさそう。そんなこともあり、15人制のミニチュア版のような形で両チームの考え方がわかり面白かった。筑波は15人制の組織を意識したラグビーなのに対し、早稲田はここまでの戦いと同様にスピードアップと個々の細かい動きで相手を翻弄することを狙う。前半は3本対1本で早稲田がリードを奪うが後半に筑波2本返して同点に追い付く。しかし最終的には早稲田の崩しが功を奏して1トライを追加し7点差での早稲田が決勝へとコマを進めた。

流経大とPSIは、流経大が学生随一の強力なメンバーを揃えていることもあり、学生と社会人の戦いとは思えない見応えのある戦いとなる。そして、最終的に流経大が優勝候補筆頭と思われたPSIを5点差で寄り切ってしまった。スター級の選手を揃えたPSIだが、やはりこの試合でも目に留まったのは気持ちの入ったプレーを見せたマオ(テアウパ・シオネ・ファーマオ)。学生(大東大)時代はサイズに恵まれているにも拘わらず、突破よりもパスを選択してしまうような選手だったが、社会人になって確実にパワーアップしたようだ。ここでプレーすることになった経緯はあるにせよ、どこかで彼のラグビーに対する想いを力一杯表現できる場を用意できないものかと思った。

決勝戦も白熱した戦いとなった。早稲田は流経大も今までと同様の流れで翻弄することを試みるが、流経大もそこはしっかり意識できている。個々の動きに惑わされて1対1の勝負に持ち込まれないように陣形を崩さずに面で囲い込むことで対応する。早稲田が一本調子にならずにタメを作って勝負したら面白かったかも知れないが、プレッシャーが厳しい中では急な戦術の転換も難しい。早稲田も流経大の強力な選手達をしっかりマークしているが、その壁をぶち破ったのがセブンズ日本代表で経験を積んでいる伸び盛りの合谷。気迫のこもったランで2度に渡り、追走する早稲田の選手を振り切ったプレーが流経大に勝利を呼び込んだ。言葉で説明するのは難しいが、タックルに入る間合いを与えないランが見事だった。合谷といえば、小柄かつ細身で(味方も欺くような)トリッキーなランを持ち味としていた感がある。しかし、グランドレベルで見ると、まるで筋肉の鎧をまとったかのように胸板が分厚くなっていることに気づいた。またプレースタイルも堅実になったように感じられる。セブンズの日本代表チームで試合経験を積んでいることの影響が大きいのではないだろうか。9番から15番までをこなせるスーパーユーティリティプレーヤーの今後の成長がますます楽しみになってきた。



◆楽しかった1日の締めくくり

56回を数える今回の大会に招待されたのは社会人チーム6に大学チーム10の合計16チーム。しかし、参加した選手達は現役日本代表や日本代表経験者を含むなどセブンズに関してはかなりの豪華メンバー。大学も関東の殆どのトップチームが参加しており、トップリーガーを除く有力選手が一堂に会しているといっても過言ではない。そんな選手達のプレーをピッチサイドの至近距離で観ることが出来るというのだから、日本でも指折りの贅沢感が味わえる大会であることは間違いない。また、仮にここでメンバーをセレクトしてセブンズチームを結成したら、日本代表に十分対抗できそうなチームができあがるだろう。

さて、気になったことも少し。今回は、チャンピオンシップ、コンソレーションともにファイナルを戦ったのはすべて大学チームだった。近年はトップレベルにある大学チームの方が一般の社会人チームより充実した施設を持ち、そこでパワフルな選手を育成しているという現状はあるにしても、ちょっと寂しい感じがした。しかし、これを社会人チームの力が落ちているという形で一括してしまうのもどうかと思う。社会人のとくにクラブチームを取り巻く状況は厳しくなっていると思うがそれだけを理由にしていいいものかと思うのだ。

そもそもセブンズの大会自体が少ないこともあり、社会人チームが真剣にセブンズに取り組もうと思っても試合経験を通じた実力アップが難しいのが現状。もちろん、公式戦が数えるほどしかないことは大学生も同じだが、極端な話、部員でチームを結成して部内練習としてセブンズ形式の試合をすることはできる。対外試合はなくてもセブンズを体験することは難しくないし、積極的に15人制の強化のためにセブンズを活用しているチームもある。やはり、セブンズのサーキットを作るような形で社会人がセブンズに取り組みやすい環境を整えていくようにしていかないと、社会人チームのセブンズの力は上がってこないのではないだろうか。

せっかく楽しい時間を過ごせたのに、「今日も1日楽しかった」という気持ちが100%の状態で家路に付けないのがちょっぴり残念ではあった。

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関東大学リーグ戦G(2015)への期待/3つのセブンズ大会から見えたもの

2015-05-03 08:47:55 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


関東地区のセブンズは、今年も4月にパッと咲いたあと一瞬にして散ってしまった。そしてゴールデンウィークに入った今、早くも大学ラグビーは春シーズンたけなわの状態になっている。YC&ACから東日本、連盟セブンズと続いた3週間は夢や幻だったのだろうか。いや、そんなことはない。3大会の各1日がかりの観戦を通じて得られたものは昨年以上に大きかったと感じている。セブンズに対する理解も深まったし、いろいろなチームのことも知ることができた。「たかがセブンズ、されどセブンズ」なのである。

そもそもは、セブンズは同じフィールドとボールを使うものの、15人制とは違う競技として進化を遂げているというのが観戦を始めた頃からのイメージだった。しかしながら、世界のセブンズの強豪国が(実は)15人制の強豪国と殆どダブっている現状を見るまでもなく、世界のセブンズは15人制回帰の方向に向かっているように感じられる。チームのメンバー構成はBKの選手が中心であり、まだどこか余興のような雰囲気も漂っていても、セブンズを通じて各チームの状況や考え方が分かると言い換えることもできる。始まったばかりの2015シーズンだが、観戦したセブンズ3大会から見えたことと今後への期待をリーグ戦Gウォッチャー目線で書いてみる。

◆2015シーズンの全体像

セブンズだけから判断するのは早計と言われそうだが、今年の関東リーグ戦グループは、昨年度の覇者の流経大と2位の東海大のマッチレースのような形で進むものと予想される。そのくらい現時点での両チームの状態は去年と比べてもいいように感じられる。15人でのチームを想定しつつ、その骨格をセブンズのメンバーで固め、あとはFWの1、2列の選手とBKの数名を加えればほぼチームができあがりというところまで来ているように思う。これも春にセブンズに真剣に取り組むことの効用と言えるかもしれない。

したがって、現時点での私的着目点は、他の6チームで2強を脅かす存在になりそうなのはどこになるのかになる。リーグ全体としては低迷ムードが底を打った状況にあり、1部復帰を果たした拓大と専修大が新風を吹き込もうとしているのだが、現状ではどこが上がってくるかが実は読めない。各チームとも期待出来る部分と不安な部分が相半ばといった感じ。ひとつだけはっきり言えることは、2部降格となってしまった立正大と日大は、おそらく去年以上に強力なチームに成長する可能性があるということ。6チームが2強を追うことが予想される混戦状態のなかで、サバイバルレースに脱落した2チームには去年以上に厳しい試練が待ち受けていると言えそうだ。

◆流通経済大/チームの建て直し(意識改革)で盤石を目指す

昨年度の覇者に対して何を失礼なことをと言われそうだが、昨シーズンに優勝を果たしたとはいえ、流経大の戦いぶりは安定感を欠いていたように感じられた。FWのリサレとWTBのリリダムの2人は大学生でも屈指の強力な選手だが、諸刃の剣のような存在でもあった。流経大の持ち味(原点)は緻密な組み立てだったはずなのだが、強力な2人の攻撃力に頼りがちになってしまったことがひとつ。リリダムの得意とするプレースタイルが他の選手にも波及して、全体的にボール扱いが軽めになっていたこともひとつ。理想として掲げている「マルチポジション」もプレーの精度を欠いた状況では空回りしていた感がある。

しかし、YC&ACで優勝したチームを観て、今年の流経大の選手達の意識が変わったように感じられた。プレーがかつての堅実なスタイルへと回帰しつつあるように見えたのだ。その要因として思い当たるのは、昨シーズンはリサレやリリダムに次ぐ3人目の選手だったシオネ・テアウパの存在感が上がったこと。大型選手でありながらゲームメイクもこなすオールラウンダーがチームを落ち着かせる存在になっており、そのことがYC&ACの優勝に繋がったように思われる。また、トリッキーなプレーで目立っていた感がある合谷が、筋肉の鎧を身に纏ったパワフルなランナーとなりプレーにも落ち着きが見られるようになったことも大きい。FWにもBKにも走力とパワーを兼ね備えた選手が揃う流経大は、堅実なラグビーで勝負すればもっと上に行けるチームだと思っている。

◆東海大学/チーム史上最高レベルの一体感で「王者」にどこまで迫れるか

シーズンを通して安定感を欠いていたことは、2位になった東海大も同じ。しかし、過去数シーズンの春の状態を比較してみても、今年のチームはまとまりがいいように感じる。元来、個の強い選手が揃っており、選手達のベクトルが合えば強力なチームができるはずだが、なかなかそうならない。その原因は何処にあったのかを示してくれたのが東日本大学セブンズと連盟セブンズの2週続きで優勝を果たしたチームの戦いぶりだった。選手達がお互いの役割を理解した上で、試合中でも問題をピッチ上で解決できるだけのコミュニケーションがしっかり取れるチームになっている。去年1年間に何があったかは推測の域を出ないが、チーム全体の風通しをよくしようと尽力した選手が居たこと大きかったのではないだろうか。

今シーズンのチームだが、FWは大型選手ながら器用さも兼ね備えるLOテトゥヒ、判断力が光るFL藤田に決定的な仕事ができるNo.8の村松が軸。BKもスピード面でアピールしたSH湯本、盤石の司令塔の野口兄、ディフェンス力を上げた石井魁に信頼感の上がった近藤といった選手達が中心となる豪華な陣容と言える。とくに期待したいのは、精神面での成長が感じられる近藤。セブンズではメンバー登録されていない選手にも有力選手がたくさんいて、レギュラー争いは熾烈を極めると思われる。「2大会制覇」で固めた基盤を活かして、王者として君臨する帝京に迫る(もちろん超えてもいい)ラグビーを見せてくれることを期待したい。

◆法政大学/攻撃力に期待もディフェンスに不安

1年生は除き、去年のチームで名前を観たことがないメンバー構成で臨んだセブンズ大会。東日本では緒戦突破を果たしたもののチャンピオンシップでは明治に圧倒され、連盟セブンズは(春シーズンの)帝京戦と被ってしまったこともあり散々な結果となってしまった。セブンズに重きを置いていなかった(置くとこもできなかった)点はチームの考え方だからいいとして、帝京戦のメンバーを眺めても攻撃力には期待出来るがディフェンスには不安がいっぱいという印象になってしまう。どのようなチームコンセプトで実戦に臨むにしても、他のチームが戦術に根ざした組織化を進める中で現状では不安が大きいと言わざるを得ない。

◆大東文化大学/強力メンバーの加入で期待大だがFWに不安も

2013シーズンで復活を高らかに宣言した大東大。しかし、2年目のジンクスというわけでもないが、期待ほどはチーム力を上げられなかったのが2014シーズンと言える。ただ、昨年の春シーズンでは圧勝に終わった慶應戦に象徴されるように、アタックの意図が明確なラグビーができていたことを思うと、レギュラーシーズンでの失速気味だった戦いが気になる。サウマキが居る中で、新加入のアマトは噂以上に強力でラトゥJrが復帰を果たしたらどんな凄いチームになるかと思わせる反面、主力が殆ど入れ替ったFWの出来次第だが、せっかくのメンバーが活きない可能性もある。あと、昨シーズンで気になったのはSH小山とFWの連携が必ずしもスムースに行っていなかったこと。選手個々の力はセブンズでも実証済みなので、いかにアタックのコンセプトに磨きをかけていくかが2強チャレンジに向けての課題ではないかと思われる。

◆中央大学/強力なBKアタックで2強にチャレンジ

昨シーズン、ファンの期待に応えられなかったチームのひとつといって間違いないだろう。救世主のような形で現れた4年生のSH加藤が居なかったら厳しい結果でシーズンを終えていた可能性もある。チームコンセプト(どのようなプロセスでトライを取るか)が明確でなかったことは、1番手のSHの選択に迷いがあったことに象徴される。長谷川ならFWで手堅く、住吉ならテンポアップしてBK勝負だと思うがどっちつかずの印象。たまたまモールという武器があり、そこに自身も9人目のFWとなって積極的に関与した加藤が現れたことでチームが救われたと言える。しかし、今シーズンも中央大には高、白井、白石、伊藤といったランナー達がBKラインに揃っている。住吉自身もスピードランナーなのでFW次第だが、BK勝負の魅力的なラグビーになりそうなことはセブンズの戦いぶりからもよくわかり、そこが私的に期待する部分と言うことになる。

◆山梨学院大学/2年目も手堅くだがFW主体からBK勝負へとシフト

昨シーズンのとくに序盤戦はFW+SHキックの9人ラグビーに徹した感がある山梨学院。成果は1部での初勝利と入替戦回避という形で現れた。当然、今シーズンの目標は5位以上(大学選手権出場)になるはずだし、その可能性はある。だが、私的予想として、山梨学院は今年も堅実なラグビーで確実にステップアップすることを狙ってくると思われる。ただし、「9人ラグビー」は卒業で、本来の狙いであるBK展開でゴールを目指す場面が増えてくるはず。セブンズを観た印象でもBK選手は着実にパワーアップしていることは感じられた。あとは期待の新戦力(大型の留学生)の投入はあるか。昨シーズンに基盤をしっかり築いたチームだけに、強力な選手が1人加わっただけで得点力が一気に上がる可能性は十分に考えられる。

◆拓殖大学/我慢の年だがBKの攻撃力アップに期待

1シーズンで見事に1部に返り咲いた拓大。右PRに具智元を擁するスクラムが強力なチームというイメージが強いが、3年間拓大のスクラムを支え続けた岡部と川俣の後を継ぐ選手の育成に苦労しているようだ。東日本大学セブンズで身体能力の高さをアピールしたシオネ・ラベマイの成長は明るい材料だが、元来小柄な選手が多い拓大はFW戦で苦しむことになるかも知れない。また、BKは堅実なプレーでチームの大黒柱だったパトリック・ステイリンの卒業による不在が不安材料。新人のパトゥラ・ツイタヴァキが、1年目から「第2のパト」になれるかはまだ分からない。しかし、楽しみな選手ももちろん居る。当初はWTBだったが昨シーズンの終盤にはSOとしてチームを牽引車的存在となった3年生の林謙太が一段と頼もしくなっている。また、4年生となったFB塩倉もトライゲッターかつ精神的支柱としての活躍を期待したい。拓大にとっては我慢の年になるかも知れないが、焦らずステップアップを目指して欲しい。

◆専修大学/FWが鍵を握る展開ラグビーへの期待と不安

昨シーズンに観た関東リーグ戦Gのラグビーでもっとも鮮烈な印象を残したのは、専修大が入替戦で見せたテンポよく攻める鮮やかな展開ラグビーだった。悲願の1部昇格(復帰)を果たすという結果も伴ったことが何よりも素晴らしい。願わくば1部でもこのラグビーを披露して旋風を巻き起こして欲しいと思うものの、そうは問屋は卸さないのが1部リーグ。冷静に振り返ってみると、もし専修の相手が(FWが殆どHB団にプレッシャーをかけてこなかった日大ではなく)立正だったら同じラグビーが出来ただろうかと考えてしまうことも事実。FWのパワーアップが急務だと思うが、プレーのスピードと精度で相手を翻弄するという選択肢もあると思う。春シーズンの間にどのような形でコンビネーションに磨きをかけていくのか、期待の中に不安も入り交じるというのが偽らざるところだ。

◆2部リーグ 降格組の「2強」に他校がどこまで迫れるか

昨年末の入替戦で奇しくも同時に2部降格となってしまった日大と立正大だが、「時間勝負」の面が大きい1部復帰に向けて着実に準備が進んでいるように思われる。すべてコンソレーショントーナメントながら、3つのセブンズですべて優勝した日大は上級生がリードする形でチーム一丸の体勢が整った。また、立正大も2年生となったアライアサの成長もあり、精神面、戦術面ともに充実したチームが出来上がりそう。そうなると、2部リーグも「2強」に他のチームがどこまで迫れるかという展開になる可能性が高い。セブンズを観た印象では、関東学院、東洋、國學院、国士舘の4校はほぼ横一戦で、戦術を磨くことで「2強」に迫ることも可能と思われる。各チームの関係者にとって胃の痛くなるような長いシーズンが早くも始まった感がある。

閑話休題。連盟セブンズの前日に開幕した春季大会はまだ2節を消化した段階だが、リーグ戦G校はCグループが好調なのに対し、A、Bの両グループは厳しいスタートとなった感がある。勝敗がすべての大会ではないが、過去2大会を見ても春の出遅れは後々まで尾を引く場合が多い。各チームにとって収穫の多い大会となることを切に願う。

ラグビーは頭脳が9割
斉藤健仁
東邦出版
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