「熱闘」のあとでひといき

「闘い」に明け暮れているような毎日ですが、面白いスポーツや楽しい音楽の話題でひといき入れてみませんか?

MJQ『ヨーロピアン・コンサート』/夜の静寂に流れた極上のジャズ

2013-02-28 01:35:20 | 地球おんがく一期一会


今でこそジャズなくしては生きてはいけない身になってしまっているのだが、なかなか馴染むことができなかった音楽が、実はジャズだった。ピアソラは中学に上がる前に聴いていたのだから、ジャズにだって親しめたはずなのに何故だろう。

でも、偶然の徒によりもたらされた音との出逢いが、一夜にしてそんな私を熱狂的なジャズファンに変えてしまうのだから人生はわからない。70年代から本格的に音楽を聴き始めた私にとって、ラジオは最高の友達だった。とくに夜の静寂に流れてくる音楽には心に深く印象を刻みつけたものが多かったのだ。

深夜のラジオ番組の魅力のひとつは、時間の制約なしに音楽をたっぷりと聴かせてくれるところ。現在はKBS京都に名を変えて放送を続けている近畿放送に「ミュージック・オン・ステージ」というオールナイトの音楽番組があった。曜日によってジャンルが変わり、日曜日の深夜はジャズ。

翌日の授業や部活に差し支えるから滅多に聴くこともなかったのだが、受験勉強で夜更かしをしたとき、偶然にダイヤルがそこに合ってしまった。「今夜はジャズか...」ということで、数分後には心地よい眠りにつけるはずだった。

しかしながら、ラジオから流れてくるヴァイブラフォンの音色がとても心地よく、心の奥底までごくごく自然に染みこんでいく。ジャズを聴いていてこんな心地よい気持ちになったのは生まれて初めて。結局その夜は眠れなくなってしまい、LP2枚分の音楽にしっかりつきあってしまった。

そんな夜の静寂にラジオから流れてきたのはMJQ(モダン・ジャズ・カルテット)の『ユーロピアン・コンサート』に収録された音楽だった。ジャズ史上最強のコンボの誕生から5年余りの音楽を集大成した名盤としても名高く、当時は2枚に分けて発売されていた。写真の赤い部分を黄色に変えたものがVol.2というわけ。このアルバムは音がよいことでも評判を呼んでいる。このことは後に彼らの最高作とされる『フォンテッサ』を聴いたときに痛感させられることになる。

もちろんそんな能書きは後から知った話。その夜はあくまでも「音楽が先(ミュージック・ファースト)」だった。さらに言うと、その夜の主役は魅惑のヴァイブラフォン奏者で、名はミルト・ジャクソン。他の演奏者達のことはさっぱり覚えていない。ジョン・ルイスが実に味わい深いピアノを弾く人だと認識するまでにもかなりの時間がかかっている。

だから、私を素晴らしきジャズの世界(底なし沼とも言える)に導いてくれたのはMJQに間違いないが、ミルト・ジャクソンその人ということになる。それも、本当に無理のないごく自然な形で。

素晴らしい音楽といえば、コンサートホールやライブスポットといった「設定された場所」での出逢いがイメージされがち。でも、それが街中でも、風呂場でも、ベッドの中でもいいわけだ。特別なオーディオ装置から流れてくる必要もない。むしろ、まったく(音楽に対して)無防備な状態のときに勝手に耳に飛び込んできて、気がついたらそんな音の虜になってしまった自分が居る、といった形こそが最高の出逢い方と言えるのではないだろうか。

そういった意味からすると、スイッチを捻り、ダイヤルを回すだけで予期せぬ出逢いの場を提供してくれるラジオこそが最高のメディアではないかと思う。様々な形で忘れ得ぬ音と出逢ってきているが、印象深いものの多くはラジオからというのも十分に頷けるのだ。


◆The Modern Jazz Quartet "European Consert"

1) Django (John Lewis)
2) Bluesology (Milt Jackson)
3) I Should Care (S,.Kahn, A.Stordahl & P.Weston)
4) L Ronde (John Lewis)
5) I Remember Clifford (Benny Golson)
6) Festival Sketch (John Lewis)
7) Vandome (John Lewis)
8) Odd Against Tomorrow (John Lewis)

9) Pyramid (Ray Brown)
10) It Don’t Mean A Thing (Duke Ellington)
11) Skating In Central Park (John Lewis & Judy Spence)
12) The Cylinder (Milt Jackson)
13) 'Round Midnight (B.Hanighen, C.Williams & T.Monk)
14) Bag's Groove (Milt Jackson)
15) I'll Remember April (Gene de Poul, P.Raye & P.Johnson)

John Lewis : Piano
Milt Jackson : Vibraphon
Percy Heath : Bass
Connie Kay : Drums

Recorded in Scandinavia in April, 1960
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『不死蝶』/サンタナに夢中になった頃(その3)

2013-02-27 01:52:43 | 地球おんがく一期一会


グラミー賞に輝いた『スーパー・ナチュラル』でスーパースターの座に返り咲いた形のサンタナだが、もっとも人気があった時代はいつになるだろうか。ファンそれぞれに想いがあるので一概に決めることは難しいかもしれないが、第1期が『天の守護神』の頃、第2期が『哀愁のヨーロッパ』をヒットさせた時期とみて間違いないだろう。その後はフォローをやめてしまったのでわからない。

では、もっとも人気がなかったのは? 私的にはこの作品『不死蝶』(ポルトガル語のタイトルは “Borboretta” )をリリースした70年代中盤頃ではないかと思う。『魂の兄弟達』で顕著になる信仰の影響が、曲想にも色濃く反映されてきた時代。コンサート会場ではお香が焚かれ、アリス・コルトレーンと共演した『啓示』のように、いきなりお経を聞かされたら普通の感覚だと引いてしまう。熱い気持ちを抱いていたファンの心が確実に離れていくような状況に、レコード会社も内心はヤキモキしていたに違いない。

そんなわけで、待望の新作だった『不死蝶』も、最初からすんなりと受け容れることができたわけではない。B面の「ヒア・アンド・ナウ」から「シナモンの花」を経て「漁夫の契り」に至る流れは何時聴いても感動の嵐なのだが、歌ものがなんだか説教くさくて馴染めなかった。そう、このアルバムはドリヴァル・カイミ作の「漁夫の契り」が最高の聴き所となっているブラジル指向の強い作品なのだ。一方で、ソウル・ミュージックへの接近と言った(宗教問題は別にしても)サンタナ・ミュージックが新たな展開を見せた作品とも言える。

ある種蟠りを持ちながら親しんできたこの作品だが、現代の感覚で聴くと違った印象を抱くことになるから面白い。もしかしたら、歴代のサンタナの作品の中でも最高レベルの充実した作品にすら思えてくる。『キャラヴァンサライ』で試行された切れ目なく進行する音楽と「サウンド・エフェクト」は完成の域に達し、アイルト・モレイラやスタンリー・クラークといったゲスト・ミュージシャンを迎えた白熱のインスト・ナンバーもアルバム全体の統一感を乱すことはない。初参加のレオン・パティジョがなかなか味のあるボーカルを聴かせる人だと思ったりもする。もしもサックスがウェイン・ショーターだったら文句なしの作品になっただろう。

今そんな感覚で楽しめるということは、裏返せば今の世の中に出回っている音楽が、耳あたりがいい反面、心の中にぐいぐい食い込んでいく要素に欠けているからかもしれない。すんなりとは聴けない音楽はどんどん捨てられてしまうくらいに音楽が溢れている現代社会。だからこそ、当時のサンタナが追求していたようなスピリチュアルな音楽が新鮮に感じられる部分はあると思う。あとひとつ、先に話題に出した『啓示』を初めて聴いたのだが、気持ちよく聴くことができたことも付記しておく。

サンタナはこの『不死蝶』をリリースした後、『アミーゴス』までの間しばらく沈黙を守ることになる。超ヒットチューンの『哀愁のヨーロッパ』を含む作品は、ファースト・アルバムを彷彿とさせる「ワイルドなサンタナ」の復活を告げた作品として大きな話題を呼んだ。しかしながら、『キャラヴァンサライ』に魅せられて虜になった1ファンにとっては、どこか上滑りした印象をぬぐい去ることができずにいる。その後の作品を聴いても心を動かされることはなく、ここでフォローが途絶えることとなった。

でも、サンタナに熱中したことで得たものには計り知れないものがあることを今だからこそ強く感じる。1枚のレコードをじっくり聴き込むことを最初に教えてくれた大切な人のひとりだから。


◆Santana “Borboretta” (1974)

1) Spring Manifestation (Airto Moreira - Flora Purim )
2) Canto De Los Flores (T.Coster, Santana Band)
3) Life Is Anew (C.Santana - M.Shrieve)
4) Give And Take (M.Shrieve)
5) One With The Sun (J.Martini – E.Martini)
6) Aspirations ( T.Coster – C.Santane)

7) Practice What You Preach (C.Santana)
8) Mirage (Leon Patillo)
9) Here And Now (C.Santana – Armando Peraza)
10) Flor De Canela (C.Santana – D.Rouch)
11) Promise Of A Fisherman (Dorival Caymi)
12) Borboretta (Airto Moreira)

Carlos Santana : Guitar, Vocal, Percussion
Tom Coster : Keyboards
Armand Peraza : Conga, Percussion
Jose Chepito Areas : Timbales, Percussion
David Brown : Bass
Jule Brussard : Sax
Leon Patillo : Vocal, Keyboards
Leon Chancler : Drums, Percussion

<guest>
Michael Shrieve : Drums
Airto Moreira : Drums, Percussion
Flora Purim : Vocal, Percussion
Stanley Clarke : Bass
Michael Carpenter : Echo Prex
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『ウェルカム』/サンタナに夢中になった頃(その2)

2013-02-26 00:24:24 | 地球おんがく一期一会


『魂の兄弟達』で無意識のうちにジャズの洗礼を受けた形になったのだが、そのままコルトレーンに向かうことはなく、マクラフリンの音楽にとくに関心を抱くこともなかった。ジャズとの本当の出逢いはもう少し先のことになる。

そんなイメージチェンジしたサンタナに対して?マークが点灯し始めた頃、タイミングよくリリースされたのが『ウェルカム』だった。純白無垢のジャケットに筆記体でしたためられた「Welcome」の文字が立体的に浮かび上がるといったシンプルの極みといったような装丁が話題を呼んだ(という話はつと聞かないが)レコード。

同じ頃行われた日本でのライブを記録した『ロータスの伝説』の22面体ジャケットに代表されるように、サンタナのレコード会社泣かせはここから始まったと言っていいのかもしれない。いくらドル箱アーティストの要望とはいえ、お店でディスプレイしても「白い壁」にしかならない代物ならぬ白物だから。

でも音楽の内容は違う。「ソウサリートのサンバ」や「マザー・アフリカ」などでさらにサンタナワールドが拡がりを見せ、コルトレーンから当時人気を博したマッコイ・タイナーを彷彿とさせる熱い音楽までとフルコースメニューが詰まっている充実した作品に仕上がっていた。ゲストボーカリストにレオン・トーマスを迎えたことも話題を呼んだ。

そして、ここでも新たな出逢いがあった。ブラジル出身の歌姫フローラ・プリン(プリム)がその人。チック・コリア&リターン・トゥ・フォーエヴァーへの参加で名を知られることになるものの、当時はまだ無名の存在。”Yours Is The Light” での神秘性も漂うボーカルにすっかりやられてしまったのだった。フローラの音楽とは、その後数年を隔てての偶然の出逢いが決定打となり、現在に至るまでも親密なおつきあいが続いている。

さて、この『ウェルカム』の位置づけだが、『キャラヴァンサライ』の世界をさらに発展させたと言って間違いないと思う。ただ、参加メンバーがチーム一丸となってゴールを目指した前作に比べると、焦点が定まっていない感があるのも否めない。サンタナの多面性が楽しめる反面とやや統一感に欠けて全体的にはパワー不足を感じさせる部分もあるかもしれない。プロデュースにも苦労があったのではないだろうか。

そうはいっても、このアルバムも何度も針を下ろして慣れ親しんでいることは『キャラヴァンサライ』と何ら変わるところがない。この『ウェルカム』のおかげで、まだ、しばらくはサンタナ熱が冷めることもなく、また、そこから新しい出逢いが生まれたことも確かだ。


◆Santana “Welcome” (1973)

1) Going Home (arranged by Alice Coltrane & New Santana Band)
2) Love Devotion & Surrender (C.Santana – R.Kermode)
3) Samba de Sausalito (J.C.Areas)
4) When I Look Into Your Eyes (M.Shrieve – T.Coster)
5) Yours Is The Light (R.Kermode – M.Shrieve)

6) Mother Africa (Herbie Mann – T.Coster – C.Santane)
7) Light of Life (C.Santana – R.Kermode – T.Coster)
8) Flame Sky (C.Santana – J.McLaughlin)
9) Welcome (John Coltrane)

Carlos Santana : Guitar, Vocal, Percussion
Tom Coster : Keyboards
Richard Kermode : Keyboards
Doug Rouch : Bass
Michael Shrieve : Drums, Percussion
Armand Peraza : Conga, Percussion
Jose Chepito Areas : Timbales, Percussion
Wendy Haas : Vocal

<guest>
John McLaughlin : Guitar
Leon Thomas : Vocal
Flora Purim : Vocal
Joe Farrel : Flute
Jules Brossard : Soprano Sax
Tony Smith : Drums
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『魂の兄弟達』/サンタナに夢中になった頃(その1)

2013-02-01 01:29:46 | 地球おんがく一期一会


『キャラヴァンサライ』にすっかり魅了されてサンタナのファンになった私。普通の感覚なら、関心は初期の大ヒットナンバー「ブラック・マジック・ウーマン」の入った『天の守護神』の方に向かうはず。しかし、何故かそうはならずに新譜を待ち焦がれるような状態だった。件のアルバムは聴くチャンスが多かったからかも知れないが、理由はよく覚えていない。

ほどなくして出たサンタナのアルバムは “Love Devotion Surrender”(邦題は『魂の兄弟達』)だった。マイルス・デイヴィスのバンドでギターを弾いてジャズファンに衝撃を与えたジョン・マクラフリンとの壮絶なギターバトルが展開される2人名義の作品。それ以上に、ロックミュージシャンが(崇高な)コルトレーン作品『至上の愛』を取り上げたことが、とくにジャズファンの間に一大センセーションを巻き起こしたのだった。当時はコルトレーンが亡くなってから5年くらいしか経っていなかったのだから無理もないだろう。

しかし、当時はコルトレーンどころか、ジャズのことも殆ど知らなかった1少年音楽ファンにとって、「偉大なるコルトレーンの最高作である『至上の愛』」と言われてもピンとこなかった。ジョン・マクラフリン(ちなみに当時は「マクラグリン」と呼ばれていた)にしても、マイルス・バンドでの活躍ぶりは知る由もなく、「マハヴィシュヌ・オーケストラ」のギタリストという認識。だから、かえってこの作品は純粋無垢な感覚で聴くことができたのかも知れない。後に本家本元の『至上の愛』に抵抗なく入っていくことができたのは、このレコードを何回も何回も聴いたからだと思う。

今となっては笑い話になってしまうのだが、コルトレーンの『ジャイアント・ステップス』を聴いたのは『至上の愛』の後。しかも、コルトレーンが50年代にはマイルス・デイヴィスのグループに所属していたことも後で知ってサプライズする。マクラフリンに至っては、『イン・ア・サイレント・ウェイ』や『ジャック・ジョンソン』を聴いて認識を新たにしたギタリストだった。70年代にジャズを聴き始めたという特殊事情ゆえに起こり得た現象とも言える。もし、あと5年早く生まれてサンタナよりも前にコルトレーンの音楽を知っていたら、音楽人生はずいぶんと違ったものになっていただろう。

話を本題に戻す。ジャケットの裏を眺めるとサンタナとマクラフリンに並んで2人の師となったスリ・チンモイの姿がある。ミュージシャンのご両人は神妙な顔をして至って大まじめなのだ。だが、宗教にとくに関心を持っているわけでもない1少年にとっては「何だか怪しいゾ」と思わせる雰囲気がある。正直なところ、聴いていて楽しい作品ではない。でも、レコード1枚分プラスαのお小遣いで生活する身にとっては、買ったレコードとは最低でも1ヶ月は付き合わなければならない。次のレコード、また次のレコードとライバルが増えていく都度にターンテーブルに載っかる機会は確実に減っていった。

ということで、永らく視界(聴界)の外にあったこのレコードだったが、久しぶりにターンテーブルに載っけてみた。お香の香りがたっぷりで確かに聴き通すのがちょっと辛いかなという部分もあるにはある。だが、オープニングを飾る「至上の愛」はなかなか聴かせる演奏になっている。もちろん、昔々に聴き込んだ(ある種の)慣れがあったことも味方しているはずだ。そして、「ネイマ」はやっぱり名曲中の名曲で、これは当時受けた好印象とまったく変わらない。

このアルバムで2人のギタリストを強力にサポートするミュージシャン達もなかなか豪華だ。一際印象的なのはオルガンを弾くラリー・ヤング。それに、ドラムはヤン・ハマーとビリー・コブハムだから、やっぱり強力。当時としてもなかなかの面子を揃えていたわけだ。しかし、それ以上に際立つのはコルトレーンの原曲の素晴らしさ。参加ミュージシャン達を真摯な気持にさせるだけのマジカル・パワーがあるのかも知れない。

でも、やはりこの作品は聴いていてちょっと肩に力が入ってしまう。その後すぐに純白ジャケットの『ウェルカム』が発売されなかったら、これ以上はサンタナにのめり込むこともなかっただろう。
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