今年で2回目となる関東大学ラグビーの春季大会が始まった。昨シーズンはAとBの2グループに分かれ、対抗戦G所属校4チームとリーグ戦G所属校4チームが対戦する方式。同一グループ校間の対戦がない「交流戦スタイル」の対戦だったわけだが、その結果をレギュラーシーズンにどのように反映させるかという意味合いが難しかったにせよ、変則的な公式戦だったという感は否めない。
もちろん、競った試合が続出だったら問題無かったのかも知れないが、対抗戦とリーグ戦の両グループ間の格差を残酷なまでに露呈する形にもなってしまった。そういったことは抜きにしても、公式戦である以上は、同じカテゴリー内での対戦が無いのはやはり不自然。そんな議論があったのかどうかは不明だが、今シーズンからの方式でようやく公式戦らしくなったと言えそうだ。それに、大学生の強化に「対抗戦だ、リーグ戦だ」と言っていられなくなっている状況があるのも確か。グループ分けを細かくすることにより、大会のステータスも上がっていくことと思う。
ということで、1stレグは4月27日と28日に分かれて計6試合が組まれた。さて、どの試合を観に行くかという選択になったが、今シーズン一番気になるチームである流通経済大(流経大)と大学最強チームの帝京大の対戦というところに落ち着いた。試合会場の帝京Gへは京王線の百草園駅から徒歩で向かう。直線距離ならたいした距離ではないが、実際は山登りを連想させるような急勾配の道を上り詰めると、前方に帝京大のホームグランドが見えるという立派なハイキングコース。「罰ゲーム」で駅から寮まで走って帰れと命じられたら帝京の選手達はさぞかし大変だろうなと不遜なことも思い浮かべてしまった。
◆試合会場に到着すると
グランド入り口の坂道を上ってピッチの方向を眺めたら、既にラグビーの試合が始まっていた。といっても、これはCチーム同士の練習マッチ。得点板を眺めると、一方のチームの方にだけ、とんでもない数字が並んでいる。得点を重ねているのはホームチームなのだが、一方的に得点を重ねていくことはさることながら、これが3番目のチームなのかと思わせるくらいに内容のあるラグビーを見せてくれるから驚きだ。チームリーダーがちゃんと居て、適切な指示を送っている。「シェイプ!」という言葉がピッチ上で飛び交い、そして、それが確実に実行されているのだ。
もちろん、体格面とか選手個々の能力は上の2つのチームに及ばないに違いないのだが、大学選手権の決勝でAチームが見せたものと同じラグビーがピッチ上で展開されている。もしリーグ戦Gのチーム関係者が大学チーム同士の練習マッチということ以外の予備知識も持たずにこの試合を観たら、(対抗戦Gとリーグ戦G以外の大学で)こんなラグビーができるチームがあったのかという印象を抱くに違いない。そして、そのチームが帝京のCチームだと知ったら顔色が変わってしまうだろう。このチームならリーグ戦Gの1部で戦っても下位のチームと遜色の無い戦いができる。いや、もしかしたら勝ってしまうかも知れない。それくらいしっかりしたラグビーができていることにまずは感嘆。
◆満を持してAチームが登場
Cチームの対戦は96-0というスコアで帝京の勝利。その余韻もさめやらぬうちに、帝京サイドからピッチ中央に向けて控え選手達による花道が築かれた。これから試合を行うAチームの選手達を送り出すセレモニー。春季大会とは言え、大学最強チームで1sとジャージを着用することに対する威厳を持たせるような儀式だが、不自然さがない。反対サイドでも同じことが行われたのだが、アウェイチームで盛り上がりに欠ける面があるにしても、選手達が照れてしまったりと、どこかぎこちない感じがした。
それはさておき、帝京のAチームについては殆ど知識が無いのだが、イラウアなど強力な選手達がメンバーに加わっていることはわかる。気になるのはやはり流経大の方。FWもBKも基本的には昨シーズンの持ち上がりのはずだし、実際にメンバー表に並ぶのはお馴染みの名前が多い。ただ、主力のHO植村、No.8高森、CTB矢次は前日にNZU(ニュージーランド学生選抜)との試合に関東大学代表チームのメンバーとして出場しているのでベンチスタートとなった。また、注目度がつとに高まっているFB合谷はTIDシニアキャンプの合宿参加で不出場なのが残念。
そんな流経大での私的着目点は強力な留学生トリオ(1年生のテアウパ・シオネを加えるとカルテットか)の起用方法。セブンズでの活躍から先発出場が期待されたリサレ・ジョージ(サモア出身の2年生)はベンチスタートで、LOには昨年通りフシマロヒ・シオネが起用された。また、WTBにはセブンズで猛威を奮い、流経大随一のスター選手となったリリダム・ジョセファが入る。その他にもSO桜庭、WTB廣、FB屋宜といった魅力的な選手達がBK陣を固めている。合谷が不在でもなかなか楽しみな選手達が揃う陣容は、数年前の決定力不足に泣いた流経大では考えられなかったこと。流経大としては、去年(15-29で惜敗)以上の内容の試合を期待したいところ。
◆流経大のキックオフで前半開始
ベストメンバーから数名が欠ける状況とは言え、それは帝京大も同じ。流経大がどこまでやれるか、いやもしかしたら勝利も期待したが見通しが甘かった。帝京大はキックオフのボールに対してもキックを使わずに「前へ、前へ」と攻めたてる。流経大がたまらず反則を連発し、流経大は序盤戦にして早くも自陣に釘付け状態のピンチの連続となる。ただ、劣勢にはあってもフィジカルでは負けておらず、何とか粘って帝京大に最後の一線を越えさせない。ディフェンスの崩壊でトライの山を築かれたCチームとは明らかに違う。
(流経大は開始早々に2分でFL今井が負傷し、昨日のNZU戦でフル出場を果たした高森と交代した。高森は疲れた表情を一切見せずに元気よくピッチに向かって行った。本当にタフな選手だ。)
しかし、帝京の猛攻を前に、流経大のディフェンスに穴が開くのは時間の問題だった。5分、自陣22m内でターンオーバーに成功し、屋宜のロングキックでタッチに逃れてピンチを脱したかに見えたが、帝京は躊躇無くクイックスローから素早くオープンに展開して継続。テンポ良くボールが繋がり、最後はCTB野田が流経大ゴールの右中間に飛び込んだ。帝京の選手はターンオーバーやクイックスタートからの反応(反転攻勢)がとにかく早い。ボールが前に運ばれたところで、BKラインの全員がすぐにトップスピードになって面を形成して前進する状況には戦慄すら感じる。SHが球出しで躊躇することも皆無。
11分にはFW陣による突破と小気味よい繋ぎ(1→8→6)からイラウアがインゴールに飛び込み、続くリスタートのキックオフでは自陣からの継続でWTB磯田が快足を飛ばして一気にゴールイン。この13分のトライを含めて、帝京のノーホイッスルトライは3本を数えた。また、WTB磯田は全12トライ中4トライを奪う大活躍だった。もちろん、磯田が素晴らしいスピードの持ち主だからこそのハットトリック+1なのだが、帝京は意識的にリリダムの居ない反対サイドを攻める作戦だったのかも知れない。この序盤の3トライを観ても、帝京に無理なプレーはなく、素早くテンポ良くシンプルにボールを動かすだけで得点が重ねることができている。後工程を大切にした丁寧なラグビーなら必然的にミスも少なくなるわけだ。
撃たれっぱなしの流経大も黙っているわけには行かない。20分にエースのリリダムが一矢報いる。といってもこれはハプニングのようなもの。帝京が自陣から展開してボールを動かしていたところで、リリダムの狙い澄ましたようなパスインターセプトが決まり、一気にゴールまでボールを持ち込んだ。帝京優位の展開は変わらず、27分にマルジーン、33分に磯田がそれぞれトライを決める。結局、前半は33-7と予想外とも言える大差で帝京が大きくリードする展開で終わった。
◆後半の逆転に賭けた流経大だったが
無理なくスムースにボールが繋がり、自陣からでも相手インゴールまでボールがつなげる帝京に対し、流経大は継続ができていても球出しのテンポが遅い。こうなってしまったら、たとえ攻めている時間が短くてもトライが取れてしまう帝京の優位は動かない。後半こそは形勢不利からの脱却をめざしたい流経大は、何とかテンポアップを図りたいところ。そういった意味でも、開始早々にFB屋宜が負傷交代を余儀なくされたのは痛かった。
後半も先に得点を挙げたのは帝京。流経大は5分にまずHO植村を投入。さらにトライを重ねられたところでフシマロヒに替えてLOにリサレを投入したところで、ようやくFWの機動力がアップしてきた。リサレは上背こそ187cnとやや低いものの、パワフルな突進やハイボールに強い身体能力の高さも持つ強力な選手。起用されればリーグ戦Gの対戦校にとっても厄介な存在になることだろう。
しかしながら、帝京の攻勢は留まるところを知らない。流経大が止めても止めても確実にボールを継続し続ける。また、ボールを失っても流経大に有効な継続を許さず、しばしばターンオーバーと試合の流れは変わらない。そんな流経大の見せ場はリリダムの快走。20分にはボールがワイドに展開されてリリダムに渡ったところで60m以上の怒濤のランでもう一矢報いる。ただ、残念なことに、リリダムはトライ寸前に人工芝に足を取られた(ように見えた)ため泣く泣く退場。怪我が大事に至らなければいいのだが。今井、屋宜、リリダムと流経大に負傷者が相次いだのは気になるところ。
流経大は27分にラインアウトを起点としたオープン攻撃からリサレがトライを奪うものの、29分と31分に2つ連続でノーホイッスルトライを奪われてしまう。ハイボールに抜群に強く、キックオフでのボール獲得戦で頼りになるリリダムが下がったことが響き、流経大はキックオフを深く蹴らざるを得ない。そこをすかさずつかれたあたりは、大学選手権決勝における帝京の筑波に対する戦い方を思い起こさせる。帝京のアタックを止める方法は、第一に(当たり前のことながら)ボールを与えないことなので、今後も対戦チームはキックオフから神経を使うことを余儀なくされる状況となりそうだ。
その後、さらに帝京は2トライを重ね、ファイナルスコアは76-19と予想を遙かに超える数字に到達してしまった。敗れた流経大やリーグ戦G関係者だけでなく、大学ラグビー関係者全体にも衝撃を与える圧勝劇とも言える。それも、帝京が特別なことはやらずにシンプルにテンポ良くボールを継続するだけで達成できてしまっている。かつて、FW周辺のラグビーに固執して批判を浴びた帝京は完全に過去のものとなり、今やもっともワイドかつスピーディーにボールを動かせるチームへと変貌を遂げている。
このままいけば、帝京は特別なことはやらなくても大学では敵なしの状況が続きそうだ。スペシャルプレーが必要になるのはトップリーグのチームと戦うときだけかも知れない。本日の帝京のラグビーでとくに印象に残ったのはFWの組織的かつ無駄のない動きだ。ラックの後方での速やかなシェイプの形成はいいお手本になりそうな感じだった。しかも、それがCチームでもできる。本日の流経大に限らず、春シーズンの段階で帝京と公式試合ができる東海と拓大は幸せなのかも知れない。
◆絶望的な失点で敗れた流経大だが
数字だけ見たらリーグ戦Gのトップチームが何をやっているのかという誹りを受けるのもやむを得ないだろう。ただ、試合を観た実感からは、過度に心配する必要もないような気がする。そう感じた第一の理由は流経大は土台がしっかりできているチームだからということ。帝京のような確実性の高い攻撃力を持ったチームを相手にしたら、ちょっとしたボタンの掛け違いから思わぬ失点を喫してしまうことになる。帝京のアタックはスピードに乗る前に止めなければならないし、攻撃するときはスムーズにボールを運ぶ必要がある。流経大、そして東海大にはその力があるはずだし、あって欲しい。むしろ心配なのは、春季リーグのBグループ以下で戦う各チームだ。公式戦では無くても、百草園でBチームあるいはCチームと対戦する価値は十分以上にあると思う。
◆帝京と関東学院
帝京の後工程を大切にし、ムリ、ムダ、ムラを省いた3ム主義の「継続ラグビー」を観ていて、ふと関東学院のラグビーのことが思い起こされた。もちろん、王者として君臨していた頃のチームがやっていたラグビー。2つのチームのラグビーに共通するのは、たとえ起点が自陣のインゴールであっても(一発では無くて)フェイズを重ねてトライを取りに行く組織的な継続ラグビー。
ただ、両チームの間にはボールを運ぶプロセスに違いがある。帝京はあくまでも「シンプル・イズ・ベスト」であるのに対し、関東学院の場合はいろいろな変化技が混じった自由な発想を選手間で共有するような形でボールが運ばれる。帝京はこの日のWTB磯田の例で観られるように最後はWTBが決めることが多いが、連覇していた頃の関東学院はFW第1列の選手がフィニッシャーになることが多かった。逆に言うと、トライを取るためにはいろいろな方法があってよく、帝京に勝つためには帝京と同じ方法でなければならないということもないはず。ひとつの「可能性」は筑波だし、他のチームも頑張って欲しい。帝京の一人勝ちを許さないために何をすれば良いかを考えることが各チームの使命だし、そのことが大学ラグビーのレベルアップに繋がるはずだ。