「熱闘」のあとでひといき

「闘い」に明け暮れているような毎日ですが、面白いスポーツや楽しい音楽の話題でひといき入れてみませんか?

拓殖大学 vs 日本大学(2012.10.21)の感想

2012-10-22 01:42:52 | 関東大学ラグビー・リーグ戦
[キックオフ前の雑感]

今が私にとって1年を通じて一番楽しい時期。週末の試合開始48時間前に発表されるメンバー表を眺めながら、チーム状態を頭に重い浮かべつつプレビューをアップする。この試合がどんな戦いになるのか、キーマンは誰かなどなど、いろいろとシミュレーションを試みながら期待するところ綴っていくわけだ。シーズンが深まってチームや選手の特徴が掴めてくると、筆の進み、ではなくてキーボードのタッチも軽やかになってくる。そして最終的にはどちらが勝つのか?というところに行き着くが、ここはヒントを示す程度にとどめてあえて書かない。勝敗を予想することはラグビーの場合難しくないが、他にも見どころが盛りだくさんにあるのがラグビーだから。

でも、本当に勝敗の予想が難しい試合もある。とくにこれから始まる法政、日大、中央大、拓大の4チームによるミニリーグ戦の場合はそう。今シーズンのリーグ戦Gの特徴は、これら中位グループを形成する4チームの力が拮抗していることだ。それぞれチームのスタイルは違うし、日々成長していく大学チームだからコンディションも当然違ってくる。いろいろな要素が複雑に絡み合う中でも、個々の対戦でどちらが勝つと言い切るのが本当に難しい。と同時に、ラグビー観戦の究極の楽しみは、勝敗の行方が分からない試合のキックオフをわくわくしながら待つことであることに気付く。本日対戦する日大と拓大のマッチアップは正にそんな戦いになりそうなのだ。

チームのメンバー構成からみて、開幕前は苦戦が必至と観られていた拓大だが、ここまで2勝1敗と好調を維持している。もちろん、勝った相手が元気の見られない関東学院と大東大だから当然という見方もできそうだが、ラグビーの内容がとてもいいから勝てていると断言してもいい。身の丈に合ったシンプルなラグビーがピッチ上で戦う15人に浸透しており、無理なく無駄なく勝っている印象だ。いや、拓大の場合はリザーブも含めた22人と言い換えるべきかも知れない。驚くべき事だが、4試合目の本日に至るまで、緒戦から22人のメンバー、ポジションにまったく変更がないのだ。他にメンバーがいないわけではなく、今シーズンのベストメンバーが最初から決まっていて、その修正も必要ないということこそが、拓大の好調ぶりを雄弁に物語っている。

対する日大は1勝2敗で拓大より一歩後退している感があるが、その2敗は東海大と流経大で、関東学院には圧勝している。拓大が流経大戦を残していることを考えれば、両チームの戦績はイーブンと考えていいだろう。日大は1~4年生をバランスよく配置したメンバー構成だが、FWもBKもほぼメンバーが完全に近い状態で固定されているのが目を惹く。やはり、試合ごとにスタメンやポジションが変わるチームはどこかに問題を抱えるのかも知れない。ただし、日大のリザーブにはCTB新井とSO及川といった昨シーズンはレギュラーだった4年生が復帰を果たしている。日大がこの試合をいかに重要視しているかが分かるような布陣ではある。

さて、キャノングランド通いも3週連続となった。家を出てから2時間近くかかってしまうのが玉に瑕ではあるのだが、正門を入ると眼前に飛び込んでくる素晴らしい施設を前にすると、そんな(自分勝手な)不満もいっぺんに吹き飛んでしまう。学生ラグビーの場合けして大きな「箱」(音楽でいうライブの場所)は必要ないと思う。選手と父兄を多く含む観戦者との間で構築される濃密な空間の実現は必ずしも巨大なスタジアムでなくてもよく、状態のいい芝生があり、観客席とピッチが仕切られていて、しかもHポストが常設された専用競技場であればいい。今まで観た2試合の内容が好印象だったこともあり、今シーズンここでラグビーを観るのはこの日が最後になるのが残念だ。そんな想いに耽りながら、どちらにとっても負けられない、激戦が予想される試合のキックオフを待った。

[前半の闘い]

両チームともメンバーは気合い十分でピッチに登場した。メインスタンドから観て左側に陣取った拓大のキックオフで試合開始。陣取りのキック合戦があった後で、拓大陣10m付近でのラインアウトから日大がオープン展開で攻める。しかしながら、緊張感があってかノックオンがあり、ここから拓大の攻勢が始まる。拓大のキックに対し日大が自陣10m付近でノックオン。拓大がスクラムからオープン展開で攻めたところで日大にノットロールアウェイの反則。こうなると拓大の選択肢はただひとつ。相手陣ゴール前のラインアウトからモールを形成して最後はウヴェが決める形だ。1回目のラインアウトは日大が反則。そして2回目のラインアウトでモールからウヴェの得点が生まれる(GKは失敗)。キックオフから5分と時間帯も内容も過去2戦と殆ど同じ。日大にとっては分かっていても止められなかったのが反省点だが、拓大は決め所でしっかり取れるチームへと成長を遂げたことを象徴するようなシーンだった。

しかし、日大もすぐに反撃に出る。キックオフからの蹴り合いで拓大がダイレクトタッチのミス。日大はHWL付近でのモールからハイパントで攻める。ここで拓大選手が後ろに弾いたボールを日大選手がうまく確保し大きく前進。最後はフォローしたFL大窪がインゴールに飛び込んだ。小川がGKを確実に決め7-5と日大が8分に逆転に成功する。拓大にとってはアンラッキーとも言えるが、重要な試合では、ミスは確実に失点に繋がるのがラグビーの怖いところ。

さて、今シーズンの拓大の見どころはラインアウト→モールからのウヴェの得点とマイボールキックオフでのFL森のジャンピングダイレクトキャッチ。果たして、この試合でもそのシーンが早くも観られることになる。SH岩谷のキックオフは高く上がって日大陣10mと22mの中間部辺りへ。そこへタッチライン沿いから走り込んできた森が落下点に到達してジャンプ一番! 相手との競り合いに勝ってボールを確保してしまった。この場面を観るのは3試合連続で、これはもう奇跡ではなくて必然。また、このプレーが拓大の得点に繋がることもお約束事になっており、果たして本日もそうなった。拓大が日大陣22m付近まで攻め込んだところでハイタックル。ラインアウトからのモール攻撃はラックでのパイルアップに終わるが、拓大はスクラムからサイドを攻めてゴール前でラック。最後はボールを抱えたウヴェが身体をねじるように回転させながらトライを奪う。決めたのはもちろんウヴェだが拓大FWが全員でもぎ取ったトライだ。GKも決まり拓大が12分で12-7と逆転に成功する。

日大も反撃。拓大の蹴り返しのキックがまたしてもダイレクトタッチとなり、日大は拓大陣22m付近でラインアウトのチャンスを掴む。日大はモールで大きく前進してオープンに展開、拓大ゴールラインに迫るもののノックオン。命拾いした拓大が自陣22m付近でのスクラムから大逆襲に出る。過去3戦での拓大の戦いはFW主体でボールを確実に前に運ぶスタイルだった。しかしながら、本日は積極的にオープンに展開し、CTB斉藤やWTB永野らがしばしばビッグゲインを見せる。FWのタテも交えた連続攻撃で日大陣22m手前までボールを運び日大の反則を誘う。こうなったら拓大はしめたもの。ラインアウト→モールからウヴェがあっさり抜けて難なくグラウンディングに成功。GKは外れたものの17-7と拓大のリードは10点に拡がる。23分にも拓大は日大陣ゴール前でのラインアウトを起点としてFWのサイドアタックからウヴェが決める。GKはまたしても外れるが22-7と拓大は確実に点差を拡げる。

決めるべき人が決めしかもそれが4つ連続。GKがさほど難しくない位置からでも決まらないのが難点だが、このまま拓大が突っ走ってしまいそうな勢い。GKの「不調」は拓大の泣き所でもあるのでまぁ仕方ないかと、拓大応援席に「楽勝できるかも?」というムードが漂い始める。しかし、ラグビーは難しい。もちろん、この日の拓大は今期最高の仕上がりと言ってもいい状態なのだが、比較的簡単に取れてしまったことが油断を生む。何となくだが、ピッチ上にも一瞬テンションが緩んだような空気が支配したように感じられた。過去の拓大なら、この雰囲気になると別のチームになってしまうことが多い。直近シーズンでも勝てる試合をいくつか落としてしまったことが思い出された。

このような一瞬の「緩み」を察知したかのように、日大が反撃に出る。28分、小川の拓大G前を狙ったPK(タッチキック)はノータッチとなるが、拓大がノックオン。続くスクラムで拓大にアングルの反則があったところで、小川が間髪入れずタップキックで仕掛けてオープンに展開し、WTB瀧水がゴールラインを越えた。小川はリーグ戦G屈指のSH(かつ司令塔)だが、指折りのスーパーブーツでもある。ここも確実にGKを決めて14-22とビハインドを8点に縮める。内容から観たらトライ数で4対2と拓大が圧倒しているのだが、点差は僅かに8点。コンバージョンキックによる2点の積み重ねがいかに大切かは、終盤に拓大が痛いほど知ることになる。

しかし、今シーズンの拓大が違う。心配された凧の糸が切れてしまうような状態にはならなかった。34分、日大陣G前ラインアウト→モールからラックを経てオープンに展開。ブラインドサイドから絶妙のタイミングでライン参加してボールを受け取ったWTB永野が日大DFを切り裂き、ボールを一気にゴール前まで運ぶ。そして、サイドアタックを経てラックからHO川俣がボールをインゴールにねじ込み、拓大は27-14とリードを13点に拡げた。(またしてもGKは外れた。距離は十分なのだが、無情にもボールはゴールポストの僅か右に逸れる。せめてこれが入っていれば...)

拓大はこのまま優位に立った状態のまま前半を終えたいところ。しかしながら、日大も負けられない。
36分、拓大が自陣でハイタックルの反則を犯したところで日大は拓大ゴール前でのラインアウトを選択。モールからオープンに展開し、G前ラックからLO館山が飛び込む。GK成功で27-21と日大がビハインドを6点に縮める。同じひとつのトライなのに確実に2点ずつ差が詰まってしまうから、GKは大切だ。さらに40分、日大は自陣10m手前付近のスクラムを起点として、FWとBKが一体になってテンポよくボールを繋ぐ波状的な継続攻撃を見せる。おそらく、これが日大の目指している形なのだろう。キープレーヤーはNo.8の高橋。サイズはないが、ポイントポイントに必ず現れて効果的にボールを繋ぐ。昨シーズンまで活躍していたパワー系のタカウとは違ったタイプで、他にもなかなかいないタイプのNo.8だが日大の要注目選手のひとりだと思う。

ボールが拓大ゴール前まで運ばれたところで拓大に痛恨の反則。場所はゴール正面で、時間的に見てもここは小川がショットを選択して点差を確実に詰めると誰もが思った。ところが、小川の選択は何と(劣勢だった)スクラム。しかし、ここで日大の頼みの選手にトライが生まれるからラグビーは分からない。センタースクラムからオープンにボールが展開されたところで、深めの位置取りだったCTBマイケルにボールが渡る。歓声をため息に変えることが多かったマイケルだが、ここは強さを活かして拓大DFをぶち抜きインゴールへ。もちろん、結果論だがこのギャンブルは効いた。28-27と日大は何と再逆転に成功してしまう。小川に閃きがあったのかも知れないが、結果的に本日のハイライトシーンとなった。

[後半の闘い]

前半の序盤の戦いは拓大の楽勝ムード。しかし、日大も簡単に負けるわけには行かない。試合は予想をも上回る拮抗した展開になってしまった。日大側の応援席からは部員達による校歌の斉唱も聞こえてくる。かつての日大でこんな場面はまったく記憶にない。やはり、応援する部員達も相当に気合いが入っているのだろう。

さて、試合がほぼ振り出しに戻ったところで日大のキックオフから両者の激しい攻防が展開される見応え十分の展開となる。そして、気持を入れ替えた拓大が鮮やかなオープン攻撃を見せる。7分に日大ゴール前で得たPKはラインアウト狙いがタッチインゴールとなってしまうが、日大ドロップアウトに対するカウンターアタックからの連続攻撃でCTB斉藤がビッグゲイン。そして、WTB永野が日大DFを振り切ってインゴールに飛び込んだ。ここまでウヴェの4つを含む5トライはすべてFWによるもの。拓大としては待望のBK展開によるトライで、前3試合でも観られなかった形。元来はオープン展開指向が強かった拓大にとっては嬉しいトライに違いない。キッカーはステイリンに替わったが、ここもダメで拓大応援席からは大きなため息。対戦相手の選手ではあっても、どの位置からも確実にGKを決める小川に対しては感嘆の声を上げるしかない。

32-28と拓大が4点リードという微妙な点差を保持したまま、しばらくは両チームによる激しい攻防が続き得点板が動かなくなる。ただ、押し気味に試合を進めたのは拓大の方。ペナルティがことごとく失点に繋がっているのが痛いが、基本プレーでのミスは少ない。今季の拓大は、オープンに展開する前にFWでボールを前に運ぶスタイルなのだが、FWが厳しめのパスを受け取ってもノックオンが殆どないのは他のチームには見られないこと。キックオフの場面然り、安定したラインアウトも然り、いかに彼らが基本プレーを大切にしているかがよく分かる。それと、過去には散見された選手の意識がエアポケットに陥る場面も殆どない。たった1年でここまで変われるか?と言うくらいに拓大は見事に変身を遂げたようだ。

24分、そんな拓大に待望の追加点が生まれる。日大ゴール前でのスクラムからサイドアタックで攻めてHO川俣がトライ。GKは…やっぱり決まらない。が、37-28の9点差なら何とか逃げ切れる。そんな祈りにも近い形で拓大応援団が見守る中、時計はどんどん進んでいく。しかし、試合も終盤に近づいた34分に今試合のハイライト「第2弾」が待っていた。日大が拓大陣22m内ゴール正面の位置でPKを得る。日大がここで3点取ってリードが6点に縮まると誰もが思った。ところが小川の選択はタップキックからのアタック。これが見事に当たりFL外園がインゴールへ。35-37と日大が1PGで逆転可能となったところで拓大応援席に悲鳴が上がる。

とは言ってもまだ2点をリードして勝っている。キックオフからはとにかく敵陣で大切に時間を使うだけだ。ところが、痛恨のペナルティを犯してしまう。インジュリータイム2分が宣告されたところで、日大は拓大陣10m/22mの位置でのラインアウトから最後の反撃を試みる。ラインアウトからボールがオープンに展開されたところで拓大にまたしてもペナルティ。距離が40m近くあるとは言え、ゴール正面の小川なら問題なく決められる位置だ。拓大ファンの祈りも届かず、小川の蹴ったボールはポスト中央に吸い込まれる。そしてノーサイドのホイッスル。まるで日大の選手達は優勝したかのような歓喜の輪に包まれる。この試合の勝ち負けが今後の戦いに大きな影響を与えることは間違いないのでそれは無理もない。

接戦となることを予想したとは言え、ここまで縺れる(痺れる)展開になるとは思わなかった。ゴール裏でクーリングダウンをしている拓大の選手達の背中がみんな泣いている。そう、試合内容ではまちがいなく拓大が勝っていたのだ。僅か1点差でも負けは負け。でも、この敗戦を糧としてさらにこのチームは成長して欲しい。結果は出なかったが、この日の拓大は今シーズンに観たどの試合のどのチームよりも輝いて見えた。

[試合後の雑感]

殆ど言いたいことは本文の中に書いてしまった。日大は本当にしぶといチームになった。小川のギャンブルとも思える2回の判断も仲間を信頼してのことだと思う。日大は小川だけのチームではないことを証明したような試合でもあった。もちろん、日大にとっては反省点の多いほろ苦い勝利ではある。でも、やはり、このチームは今年こそ大学選手権で羽ばたいて欲しい。

それ以上に羽ばたいて欲しいのは敗れた拓大だ。ここまで春を含めて5試合を観てきたわけだが、試合を重ねる毎に確実に成長を遂げている。まるで、チームの立て直しはこうやってやるのだというお手本を見ているような感じがする。当たり前のことを当たり前にやってきたのが前節までの戦い。そして、この試合では「オープン展開でも取る拓大」という新たな姿を見せてくれた。FWとBKの連携がよくなったことで攻撃の幅が確実に拡がっているだけに、今後のさらなる成長が楽しみだ。

拓大の今後の相手は流経大、法政そして中央。どこも自分たちよりも素材に恵まれた選手達が揃った難敵だ。しかしながら、今一歩ピリッとしない流経大には肉薄することが可能とみる。潜在力の高い法政はチームがまだ完成しておらず、チームが完成しつつある中央もプレーの精度に欠ける部分がある。1試合ごとに成長を遂げている拓大にはチャンスが3つ残されていると言ってしまおう。泣くな! そして、頑張れ!!!
コメント (4)
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