「熱闘」のあとでひといき

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流通経済大学 vs 拓殖大学(2012.10.27)の感想

2012-10-29 01:23:17 | 関東大学ラグビー・リーグ戦
[キックオフ前の雑感]

今シーズンの拓大の試合を観るのは春シーズンの立教戦も含めて今日で6試合目。巡り合わせの面はあるにせよ、ここまで観たら、相手が「熱闘」のルーツ校である流経大であっても情が移らないと言ったらウソになる。また、このチームは実にその期待に応えてくれるので観に行かないわけには行かなくなる。ある高名なジャズミュージシャンが「あなたがベストと思うアルバムはどれですか?」と問われて、「次に出るヤツだ。」と答えたという逸話がある。同じ事は拓大にも言えそうだ。それくらい1試合1試合での進化をはっきりと観ることが出来るのだ。ここまでの拓大のベストゲームは先週の日大戦。ここでようやくBK展開で取る形を見せてくれた。勝てた試合を落としたことに対する落胆はあったかと思うが、気持を切り替えてさらに魅力的なラグビーを見せて欲しい。本日のメンバーも右WTBの入替とリザーブメンバーの1名変更があったものの(ほぼになったが)完全固定状態が継続していて期待は高まる。

一方の流経大だが、ここまで4連勝できているとは言うものの、まだチーム状態は盤石ではないようだ。もともとは主力メンバーの卒業に起因するFWメンバーの大幅入替など、チーム再構築の年になっているから致し方ない面はある。しかしながら、春シーズンの帝京戦で見せた(それまで落胆を隠せなかったリーグ戦グループ関係者に救いをもたらしたとも言える)大健闘で期待は大いに高まったのだった。だから、伸びしろを考えると先行する東海大を上回るチームが出来るかも知れないとの期待を持っている。法政に薄氷を踏む思いで勝利を収めたというような状況に対しては、どうしても不安感を抱いてしまうのだ。BKメンバーの固定が急務なように思われる。

春シーズンではSOはオペティが担っていた。FW第3列にボールキープ力の高い辻と高森が居る状況ならFW周辺で確実にボールを前に運ぶラグビーで相手を圧倒することも可能という意味ではよい選択だった気がする。一方で、流経大にはWTBにリリダムという切り札中の切り札になり得るフィジアンが居る。彼の特徴を活かすならば、素速いオープン展開と言うことになるだろう。となると留学生の出場人数が限られる中で、SOは展開重視タイプにしたい。また、BKにはCTBとFBをこなせる矢次が居る。そんな状況もあり、流経大は先発SOをオペティにするか合谷するかという選択肢を持つことになったようだ。だが、FWのメンバーが殆ど替わった中で、流経大は2つのチームを起用に使い分けることが出来るのだろうかという疑問点にも突き当たる。

数試合を経て、結局SOのファーストチョイスは合谷になったかっこうだが、先発WTBリリダムに期待されたほどのトライが生まれていないという現実がある。高森や辻に加えてFL今野、LO日暮、そしてHO植村と言った走力のある選手をFWに揃えた流経大だから、相手のFW次第では彼らだけで取れてしまうことで、なかなかWTBで取る形が出来ていないのも無理からぬ事。時期的に観ても、流経大はそろそろ戦術を固めなければならない時期にきているので、この試合では合谷からWTBまで巧くボールを繋いで決める形を確立したいところ。拓大も本来は持ち味のオープン展開で勝負する形が見えてきている。この試合も第1試合に劣らずボールがワイドに動く展開となることを期待したい。

[前半の闘い]

第1試合と同様、やや強い風がメインスタンドから観て右から左に吹く中、風下に陣を取った流経大のキックオフで試合開始。拓大のキックオフのキャッチングは一人の選手がジャンプしてボールを捕獲し、すぐにサポートが入ってモールにするというもの。東海大戦までは成功していた方法だが、日大戦では相手に研究されて対策を立てられた。さらに、流経大には長身かつ手が長いリリダムが居て簡単にはボールを確保させてくれないという現実に突き当たった。しかしながら、開始2分で拓大は流経大陣22m付近でラインアウトの絶好のチャンスを掴む。こうなれば拓大のやることはただひとつ。最後尾にウヴェを配する形でモールを組んで前進しトライを取る。だが、ボールを確保できずにあえなく失敗する。

しかし、ピッチ上だけでなくゲームの流れにも拓大にフォローの風が吹いている。3分にも流経大陣22m内でラインアウトのチャンス。今度こそウヴェでと思いきや、拓大は果敢にオープンに展開してきた。そしてフォローしたLO森田がゴールラインを越えて先制トライ。ウヴェではなくオープン展開のトライは意表を突くものだったが、実はこれこそが拓大が目指す形であることはその後すぐに分かることになる。さて、問題はプレースキック。日大戦は1/7という散々な結果だっただけに観客はこの日のキッカーとして指名されたSH岩谷が蹴ったボールの行方を固唾を呑んで見守る。見事に成功! このことで拓大応援席は安堵するとともに、複雑な空気も流れる。なぜ日大戦で起用しなかったのかという思いを誰もが抱いたはずだから。

それにしても、本日の拓大はしっかり気持を切り替えることが出来ているようだ。いや、それどころか前年度覇者を相手にしても堂々たる戦いが出来ている。つい1ヶ月半前に観たどこか自信なさそうに見えたチームとは完全に別のチームになっている。それと戦術面でも、今日はまるで去年までの拓大を彷彿とさせるような目の覚めるようなオープン展開で攻める。拓大はやっぱりこのラグビーがやりたかったのだということに気付かされた。最初はFW中心でボールキープを続けながら手堅く前にボールを運ぶラグビーに徹し、自信を掴んだところでオープン展開に対する封印を解く。ここまで実戦を通じてのチーム作りのプロセスが上手くいった例を見たことがない。これは流経大にとっても想定外だったかも知れない。

前年度優勝チームと最下位チームの対戦とは思えない互角の展開の中で17分、流経大がようやくトライを返す。拓大陣10m/22mでのラインアウトを起点にSO合谷が巧みなステップでウラに抜けることに成功。いい形でボールが渡ればリリダムを止めることは難しい。卓越した個人能力で流経大が1トライ返した。合谷のGKも成功して7-7となり試合は振り出しに戻った。ルーキーながら合谷のプレースキックは安定している。その後も合谷は難しい位置からもキックを決め続ける。

しかし、拓大の勢いは止まらない。26分、流経大ゴール前でのラインアウトからモールを経てサイドアタックで前進して流経大ゴールに迫る。そして、最後はウヴェが決めた。さて岩谷のGKは? またしてもポスト中央に吸い込まれる完璧なキック。あまりにも見事なキックだけに拓大応援席の「何で?」の思いは強まる。これで拓大のリードが再び7点となる。直後の30分にも拓大はオープン展開から流経大ゴールを脅かすが、ゴール目前でタッチに押し出されてしまう。拓大の時間帯はまだまだ続く。37分、流経大が自陣22mライン手前で犯したペナルティに対して拓大がクイックリスタートで攻めてゴール前でのラックからオープンに展開。ここで完全なオーバーラップができ、そのまま行ってもよし、DFを引きつけてラストパスでもよしという状況が生まれた。

そして100人中95人が1トライ追加と思った瞬間大きなため息が観客席から漏れた。何とパスは山なりとなって受け取るはずだった選手の後方に転々と転がりタッチを割ってしまった。ちなみに95と言う数字は隣で観戦していた友人が「95%トライだったのに惜しい!」と言ったことで出たものだ。しかし、このプレーには同情を禁じ得ない。何せ、過去4戦(すべて観戦)でこんなにきれいな形でオープンにボールが回ったのは皆無だったから、プレーヤーは慎重を期したのかも知れない。またしても拓大の試合記録に大きな「残念!」の文字が記載された。

このまま拓大が7点リードのまま前半が終わるかと思われた41分、流経大は自陣22m付近でのスクラムから(王者の意地を見せるが如くの)怒濤の連続攻撃を見せてあっという間に拓大陣22mまでボールを運ぶ。ここで拓大に痛い反則があり、合谷がPGを確実に決めて14-10と拓大が4点をリードする形で前半が終わった。それにしても、1試合ごとに確実に進化を遂げる拓大は恐ろしいチームだ。前年度覇者に対して気後れするどころか堂々と戦いを挑んでいる。ただ、流経大もこのまま攻められ続けて終われないはず。後半はよりヒートアップした試合を観ることができそうだ。

[後半の闘い]

拓大の想定外とも言えるオープン展開を主体とした真っ向勝負の前にタジタジとなった前半の流経大。おそらくハーフタイムで相当にネジを巻かれたのだろう。後半はキックオフから闘志をたぎらせる形で反撃に転ずる。キックオフから僅か2分、流経大はHWL付近のラインアウトから得意のモールを組んで拓大FWの塊をおしこむ。10mラインを越えた当たりで拓大に反則があり、合谷が40m近い距離のPGを鮮やかに決めた。これで拓大のリードは僅か1点に縮まってしまった。流経大も中位グループに仲間入りかと思わせるくらいの緊迫した好ゲーム。主役は間違いなく拓大だ。アタックだけでなく、ディフェンスでも低いタックルをダブルでといった形で流経大にいい形を作らせない。

流経大に勢いが出てきた中で拓大も渾身のディフェンスで応えるといった、流経大優位ながらも膠着した展開の中で18分、ようやく得点板が動いた。口火となったのはエースのリリダム。怒濤の突破に続く形でフォローしたFL辻、No.8高森といった流経大の看板選手達が豪快に前にボールを運びFB廣瀬がゴールラインを越えた。GK成功で流経大は20-14と遂に逆転に成功する。といっても点差は拓大が1T1Gで逆転可能な6点差。ここから、逆転を目指した拓大の怒濤の攻撃が始まる。27分には22m付近でのラインアウトを起点としたオープン展開の連続でゴールを目指すが目前でノックオン。拓大は、逆転まで間近なのにゴールラインの最後の数mを越えられない。

流経大も後半22分からはリリダムに替えてオペティを投入し、攻め続けながらも逃げ切りを図る。そして、試合はいよいよインジュリータイムに。拓大に1発逆転サヨナラの可能性が残されているだけに、観客席も興奮の坩堝と化す。昨年度最下位のチームが同優勝チームを破る歴史的瞬間に立ち会えるかも知れないのだ。しかし、流経大は慌てない。苦戦は強いられても、前年度覇者のプライドがある。終了間際の42分に合谷がゴール正面40mのPGを決めてリードを9点に拡げ、激戦に終止符を打った。なかなかノーサイドのホイッスルが吹かれない中で、何とか1トライ返そうと拓大の気迫のこもった攻めが続く中、45分が経過したところで試合終了となった。場内からは拓大の大健闘に対して熱い拍手が贈られたことは言うまでもない。つい1週間前の選手達の背中は確かに泣いていたが、今日は笑っているように見える。今日は、あと一歩のところで勝利を逃した悔しさよりも自分たちのやりたい形で強豪相手に堂々と渡り合えた満足感が選手達には充満していたのかも知れない。本日の拓大のオレンジは1週間前よりもさらに輝きを増したように見えた。

[試合後の雑感]

本文中にも書いたが、拓大の短期間での急速な進化には驚きを感じずにはいられない。春の段階では今年も入替戦行きが有力視されていたチームが、優勝候補に肉薄するところまで来た。残りは2試合で少し時間が空く。ようやく手に入れた(取り戻したとも言える)自分たちのスタイルにさらに磨きをかけて思う存分戦い、大学選手権への出場切符を手にして欲しい。第1試合で素晴らしいパフォーマンスを見せた日大とともに、全国のラグビーファンに観てもらいたいチームだから。

流経大はけして受けてしまったわけでは無い。拓大の攻守にわたる健闘を讃えるべき試合。むしろ気になるのは冒頭でも指摘したとおり、流経大のチーム作りの遅れだ。当初構想のBKで司令塔他を使い分けるオプションがどっちつかずになっている印象もあり、また、FW3列に強力な選手を持つことがかえってチームの纏まりよりも個人で勝負せざるを得ない形になっているような印象も受ける。残り1ヶ月、固めるべき所はしっかり固めてチームを熟成させて欲しいところだ。
コメント (1)
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