「熱闘」のあとでひといき

「闘い」に明け暮れているような毎日ですが、面白いスポーツや楽しい音楽の話題でひといき入れてみませんか?

早稲田大学 vs 大東文化大学(関東大学春季大会グループB-2016.06.19)の感想

2016-06-28 02:05:53 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


2019年のW杯に備えて改修工事に入る熊谷ラグビー場。第24回埼玉ラグビーフェスティバルのメインイベントの早稲田大学対大東文化大学はここでのラストゲームでもある。ひとまず25年間の歴史にピリオドを打ち、2年後にはW杯仕様の競技場として生まれ変わる熊谷ラグビー場は私的日本一のラグビー場。観戦した全試合の半分以上はここで観ていることもあり、いろいろな思い出が走馬燈のように頭の中を駆け巡る。

とくに主要改修箇所のバックスタンドに対する想い入れは一際深い。Aグランドの試合はもちろんのこと、土手の上から観戦したBグランドの試合(なぜか死闘となることが多かった)の数々も忘れることはできない。熊谷ラグビー場は国立競技場のように解体されてしまう訳ではないが、W杯前にお披露目となった時、半分以上が芝生のバックスタンドがすべて客席になった姿を見たときにはどんな想いに駆られるだろうか。

さて、第1試合(立正大と東洋大の言うなれば東武東上線ダービー)を終えたグランドのメインスタンドには、ジェットスモーク効果を演出するマシンが選手入場の通路に沿ってセットされ、両チームの選手の登場待つ。ほどなくして白い霧がピッチに向かって噴射される中を早稲田と大東大の選手達が颯爽と飛び出してきた。大東大はCTBの戸室を欠くもののクルーガー・ラトゥが復帰を果たしたベストメンバー。

中でも注目の選手はNo.8のアマト・ファカタヴァとWTBのホセア・サウマキ。強力なWTB枯渇症に陥っている感がある日本代表やサンウルブズにとっては、喉から手が出るくらいに欲しい2人とも言える。LOのタラウ・ファカタヴァはおそらく後半から登場することになるだろう。対する早稲田の選手達のことは殆どわからない。有望な新人を含むメンバーというのが事前に得た情報だが、けして小粒なわけでもなく春の不振が信じられないような状況だ。ともあれ、ラストゲームに相応しいボールが大きく動くラグビーを期待してキックオフを待った。



◆前半の戦い/大東大のシャンパンラグビー炸裂の前に何もできなかった早稲田

第1試合途中から小雨がぱらつく状態だが、スタンド前方で観戦を続けることにする。メインスタンドから見て右から左に強い南風が吹く中、風下に立った早稲田のキックオフで試合が始まった。大東大は基本的に自陣からもキックを使わずにパスを繋いで攻める。ボールが左に展開されて左WTBのサウマキに渡り大東大ファンから期待の声が上がる。が、堅くなっていたのかノックオンにため息が充満。大東大陣22mでスクラムとなるが、大東大にコラプシングがあり早稲田がゴール前からのラインアウトでゴールを目指す。ここはモールで前進と大東大ファンは肝を冷やしたが早稲田は素早く展開。大東大が今度はノーバインドの反則を取られて早稲田のチャンスが続く。

早稲田がPKを得た位置は22m内のゴール正面。GKを狙わないのは(春季大会なので)納得だが、ラインアウトではなくスクラムを選択したのにはビックリ。よほど自信を持っているのだろうが、大東大の試合を観たらラインアウト→モールが泣き所であることはすぐにわかる。結果論だが、ここが早稲田の躓きの一歩のようにも見えた。果たして、スクラムからボールを左に展開したところでパスミスがありボールがこぼれる。そこにタイミングよく走り込んできたのが大東大の右WTB中川で、そのままボールを拾い一気に加速する。すれ違いになってしまった不運もあり、中川は追いすがる早稲田の選手を振り切って約90mを走りきりゴールラインを超えた。さて、本日の大東大には復帰したクルーガーや昨シーズンの春にキッカーを務めていたアピサイ拓海、意外な所でサウマキなど少なくとも5人のプレースキッカーが揃う。しかし、やはりファーストチョイスは1年生の時から蹴っていた大道。正面のGKを難なく決めて開始から4分で大東大が7点を先制した。これがリーグ戦G屈指のスーパーブーツの1人でもある大道の復活を秘やかに宣言する一蹴りとなった。

リスタートのキックオフで大東大が自陣22m内で再び反則を犯す。早稲田はここでもスクラムを選択する。ここで「スクラムに拘る早稲田」が明確となる。しかし、この選択も裏目に出る。大東大ファンは胸をなで下ろしたに違いないし、個人的な興味としてはモールディフェンスの改善を見てみたかったところ。ここでもターンオーバーがあり、大東大は素早くボールをオープンに展開して今度はサウマキは左サイドを快走する。そのまま相手ディフェンスをぶち抜くかと思われたサウマキだったが、10mラインを越えたあたりで追走していた大道に絶妙のタイミングでラストパスを渡す。左サイドの難しい位置からのキックだったが、GKは風にうまく乗って2本のポストの間に吸い込まれた。



相手のミスにつけ込んだ形ではあるが、大東大がBK陣の走力を見せつける形での2連続トライで早稲田に動揺が走る。強い追い風を受けていることもあり、大東大にキックオフのボール処理でのミスが目立つが、早稲田もそこにつけ込むことができない。ゲームはしばしの膠着状態となるが、16分、大東大は早稲田の反則で得たゴール前ラインアウトのチャンスを活かす。ボールをオープンに展開したところで早稲田に反則。SH小山が間髪入れずにタップキックで攻めてゴールに迫るが、ボールがこぼれたところを早稲田の選手が辛くもタッチにボールを蹴りだす。大東大はやり直しのラインアウトからボールをオープンに展開しほぼゴール正面の位置でラック。SH小山がボールを持ちだして自分で行くと見せたところに絶妙のタイミングで走り込んで来たのが7番を付けた河野。パスのタイミングのずらしが絶妙だったこともあり、河野は一直線でゴールポスト直下に到達した。小山が3本目のGKも確実に決めて21-0となる。

このトライで大東大が完全に波に乗った。23分、大東大は自陣22m内でのスクラムを起点としてボールを右オープンに展開。右サイドまでボールが回ったところでウラのスペースにキックされたボールをアマトが拾ってそのままゴールラインまで到達する。さほど難しい位置ではなかったが大道のGKは外れて26-0。この失敗がなければ大道のゴールキックはパーフェクト(10/10)だっただけに惜しまれる。強力な追い風だったこともあるが、大東大はクルーガーのロングキックでピンチを逃れる場面もあった。大東大は31分にも川向が1トライを追加して33-0とさらにリードを拡げる。

早稲田は反撃の糸口をなかなか掴むこともなく前半も終盤へ。そして終了間際の37分に大東大ゴール前でのラインアウトを起点としたアタックからCTB中野がようやくゴールラインまでボールを運ぶことに成功。GKは失敗に終わるが、5-33と何とか一矢報いる形で前半が終了した。効率よく5トライを重ねた大東大に対し、殆ど何もできなかった印象が強い前半の早稲田。もっとも、大東大のように絶妙なパス回しでディフェンスを崩すことができる大学チームは殆どないと思う。BKにはSH小山を筆頭に1年生からずっとレギュラーを務めている川向、サウマキ、大道が揃い踏みなことも強み。圧巻はラインブレイクに成功したときで、並のチームなら孤立してしまう場面でも大東大の場合は必ず2人から3人はフォロワーがいる。また、パスにしても際どいオフロードは(禁止されているのか)使わずにタイミングと深さとアングルを使い分けて確実に繋ぐことができる。また、強力なサウマキやアマトばかりに気を取られていると、大道や川向や中川、そして抜け目のない小山に間隙を突かれる。早稲田は相当に戸惑ったに違いない前半の戦いぶりだった。



◆後半の戦い/前半の流れは変わらず、トライの山を築いた大東大

後半は風上に立つ早稲田。何とか先に得点を挙げて挽回したい。そのためにもボール支配率を高めることが先決というファンの気持ちが通じたのか、追い風にも乗って序盤から積極的に攻めてペースを掴む。2分には大東大陣ゴール前のラインアウトで相手ボールのスチールに成功してゴールを目指すが惜しくもドロップアウト。ドロップキックでのリスタートで大東大に反則があり、ゴール正面の位置ながらここも早稲田はスクラムを選択。ここで、今までため込んできたエネルギーを爆発させるかのような怒涛の攻めを見せ、後半から出場した2年生の佐々木がゴールラインを越えた。GKは失敗に終わるが10-33と早稲田が追撃態勢を整えた。早稲田では前半にトライを挙げた中野、たびたびランで魅せたFB梅津のルーキーコンビなど下級生の活躍が目立つ。逆に言うと、上級生が目立たないとも言える。何となくだが、ルーキーコンビのプレーに痺れを切らした様子が見て取れた。

このまま早稲田は得点を重ねて逆転への道筋を作りたいところ。しかし、勢いを感じさせた集中力も長くは続かなかった。勢いに乗りかけた早稲田にどどめを刺したのが大東大のNo.8アマト。11分、早稲田陣22m内での大東大ボールのスクラムとなれば、大東大がやることは決まっている。そして、ファンの思い描くイメージ通りにアマトが8単でタックラーに絡まれることもなくゴール中央までボールを運んだ。わかっていてもタックルにすら入れないランニングのコース取りはビューティフルとしか言いようがない。昨シーズンは不慣れな感じがあったNo.8のポジションもすっかり板に付いてきた感じ。身体も一回り太くなった印象で成長のスピードも速い。ちなみに、この日は早稲田のキックオフでリスタートとなる形が多かったが、アマトがハイボールキャッチを一手に引き受けていた。キャッチングの技術と安定性はサンウルブズのフィルヨーンと比べても遜色がない。やはり、早い段階で上のレベルの経験を積むべき選手だと実感した。



大東大の緩急、剛柔をまじえた組織的なランニングラグビーに早稲田は為す術もなく失点を重ねる。16分には早稲田陣ゴール前のラインアウトを起点としてサウマキがアマトに負けじとトライ。他のチームならサウマキは単独でも強引にディフェンスを破ってゴールを目指すところ。だが、大東大にはサウマキとは全く違った曲者ランナーの大道も居る。カウンターアタックが典型的だが、自陣でボールを持つ場面でも、そして前にディフェンダーが立ち塞がっていても「抜くこと」を最優先に考えているような選手。また、実際に切れ味鋭いというよりは強気の固まりみたいなステップでタックラーをスルスルと交わしていく。おそらく相手の体重移動の瞬間を捉えるのがうまいのだと思う。ステップを切りまくっているように見えて、実際はほぼ直線コースを走っているはずだ。ディフェンダーが左右に振られるのでヨコに派手に動いているように見えるのかも知れない。サウマキが数人を引きつけたところで大道にタイミングよくパスが送られる瞬間は見ていてワクワクする。

早稲田ファンには申し訳ないが、リーグ戦Gウォッチャーであることは差し引いても、殆ど(早稲田について)書けることがない。30分には後半20分にサウマキに代わって登場した岡が、32分にはアマトのキックオフキャッチを起点としてアピサイがトライ。37分にも早稲田陣ゴール前での相手ボールスクラムをプッシュしてこぼれたボールを拾ったLO服部がトライを奪った。そして、特筆すべきは上でも書いた大道のゴールキック。この日大東大が挙げたトライ10本(前後半5本ずつ)に対し、ゴールキックを9本成功させた。それも前半は強い追い風で後半は逆に強い向かい風。角度がないところからも決めている。前線で身体を張ったFWの選手達を含め、大東大の個性的なランナー達が縦横無尽に駆け巡って華を添える形で熊谷ラグビー場の25年の歴史にひとまずピリオドが打たれた。



◆試合終了後の雑感

パス回しが冴え渡った大東大については言うことがない。サウマキやアマトに気を取られて他の個性的なランナー達の突破を許した早稲田のディフェンスの問題はさておいても、私が観た範囲では青柳体制になってからの大東大のベストゲーム。今までのベストは一昨年に同じく春に観た慶應戦だったが、選手達の動きの自由度の高さではこちらに軍配が挙がる。スローフォワードが何本かあったことを除けば、ほぼ完璧と言えるパスラグビーだった。FWの力が未知数とはいえ、このラグビーをされたら止められるチームは限られると思う。メンバーからみても今年がチャンスの大東大が頂点を目指すためには課題のモールディフェンスの強化がカギになると思う。

だからという訳でもないのだが、序盤からスクラムに拘った早稲田の戦術には大きな疑問符が付く。敵陣での反則で得たラインアウト→モールのチャンスを活かせば得点が10点で終わることはおそらく無かったはずだし、ここまで一方的な展開にはならなかったと思う。スクラムに自信を持っていることは判ったが、大東大も十分に対抗できていたし、失点もスクラムの選択から生まれている。もうひとつ気になったのは選手同士のコミュニケーション。大東大はプレーが止まっているときにBKの選手達が頻繁に意見交換をしていたが、早稲田の選手達の間には(声は出ていても)密なコミュニケーションがあるようには見えなかった。さらに、これは明治と流経大の試合でも感じたことだが、明治と同様に有望新人が「痺れを切らして踏ん張る」という場面が散見されたことも気になる。大東大の攻勢が目立ったとは言え、68-10の試合になってしまったことが信じられないというのが率直な感想だ。

◆ピッチに降りたって感慨に浸る

この日は改修工事前の熊谷ラグビー場でのラストゲーム。試合終了後にセレモニーが行われ、その後は観客も参加して記念撮影となった。トライの山を築いての快勝だったこともあり、ピッチ上はまるで大東大のファン感謝デーのような状態と化していた。ここでも人気を集めていたのはアマトとタラウの兄弟とサウマキで、子供達にも愛される好青年たち。小山や大道らの主力選手達もファンの求めに応じて写真に収まっていた。こうして改めてグランドレベルで選手達を観ると、アマトは(俊敏なのに)より大きく感じられ、小山はピッチ上でよりも小さく感じられるから不思議だ。

全員集合での記念撮影の後、ここで観た数多くの試合のことを振り返りながらしばし感慨に耽った。埼玉県民にならなければここを訪れることはなかっただろうし、ここを中心として行われていた関東リーグ戦Gの試合を観なければこうしてブログで観戦記を書くこともなかったと思う。ラグビー観戦が間違いなく生活のエネルギーになっていることを思うと、そんなきっかけを与えてくれた熊谷ラグビー場に対しては感謝あるのみだ。


ラグビーマガジン 2016年 08 月号 [雑誌]
クリエーター情報なし
ベースボールマガジン社
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

専修大学 vs 日本大学(関東大学春季大会グループC-2016.06.05)の感想

2016-06-07 02:20:07 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


スーパーラグビーの「サンウルブズ・ロス」の週末はやはり物足りない。しかし、関東大学ラグビーの春季大会が同時並行で進んでいるので寂しくはない。この大会は優勝したからといって表だって「いいこと」があるわけではない。しかし、だからこそチーム作りには最適の大会と言える。トレーニングマシンを相手の格闘も重要だが、実戦を通じて足りないところを自覚しながら練習に励む方が楽しいはず。この日は遠隔地の試合も含めると全部で8試合が組まれている。さて、何処に行くか?

稲城の日大の試合にするか法政グランドの拓大の試合にするか迷ったが、専修と日大の因縁の対決の方を選んだ。1部復帰を果たしたもののまったく安心できない日大に対し、残念ながら再昇格にチャレンジとなってしまった専修。どちらにとっても対戦相手は春の1つのターゲットといっていい重要な試合を見逃す手はない。専修のセブンズ仕込みのパス回しの巧みさもさることながら、日大もFWゴリゴリではなくパスに活路を開くラグビーを指向しているから、両チームの持ち味が活きればボールが大きく動くラグビーになるはず。そんな期待を胸に、久しぶりとなる稲城の日大グランドに向かった。

日大グランドの最寄り駅は京王線の(稲城ではなく)若葉台。かつては鋼板塀が目立った駅前も整備がすっかり終わり、モダンな街へと変貌を遂げていたことにまずは驚かされた。駅を降りてからは線路沿いに歩いてグランドに向かうが、ここはかつてと同じカントリーロードで一安心。しかし、グランドの入り口に着いたところでまたビックリ。「HURRICANES」のロゴが浮かび上がる立派なクラブハウスはかつてなかったもの。さらにしばらく歩いてグランドに着くと仮設のスタンドも用意されていた。以前は丘の上の木の間から試合を観ていたことを思うとこれも嬉しい。

思い起こせば、このグランドが出来たときのピッチは天然芝だった。大学選手権ベスト4進出も果たし、明るい未来が描けていたのが当時の日大。リーグ戦グループの1部校では関東学院に次いで芝生のグランドを持ったことで大きな飛躍が期待されていたことを思い出す。しかし、そんなこととは裏腹に、その後の日大は苦難の連続でなかなか上位に浮上できずにここまできてしまった感が強い。

新体制になって(何度目かの)再出発を期す日大に対し、12月には再び歓喜の嵐に浸りたい専修。両チームのメンバー表を眺めても正直なところお馴染みの名前は殆どない。日大は昨シーズンが最終学年だったキテを最後に留学生はすべて卒業した。試合前のアップを観ていると専修が纏まって効率的に身体を動かしているのに対し、日大はどちらかと言えば伸び伸びムードと対照的。戦前に頭の中に浮かんだのは、専修のアタックに日大が翻弄される光景だったのだが...



◆前半の戦い/日大の鮮やかな先制パンチの連打に出遅れた専修

初夏にしては涼しめの天候でやや強い風が心地よく感じられる。そして、なんとか雨も上がり安堵。ホームの日大のキックオフで試合が始まった。セブンズ仕込みのパスラグビーを信条とする(おそらく)の専修が自陣から果敢にアタックを試みるが、日大のディフェンスに遭ってノットリリースの反則。日大は専修陣ゴール前のラインアウトからモールを形成してゴールを目指すがアクシデンタルオフサイド。専修はタッチキックでいったんピンチを脱する。

3分、日大は専修陣10m付近のラインアウトからオープンに展開してアタック。9シェイプで接点を順目に移動させながらBKに展開とシンプルなスタイルだが小気味よいアタックで専修を脅かす。ここで早くも日大のキーマンはSH李とわかる。昨シーズンにデビュー(おそらく)を果たした遅咲きのSHでインパクトプレーヤー的な活躍が目立った有久と併用されていたと記憶。テンポよくボールを捌き、ミスがないため確実にボールが前に運ばれる。ここでも日大にスローフォワードがあり専修はピンチを脱するが、本来自分達がやりたいことを日大にやられてしまっている感が強く、防戦一方となる。

5分、日大はスクラムを起点とした相手キックに対するカウンターアタックからラインブレイクに成功して一気に専修陣奥深くへ。ここからしっかりオーバーラップを作って右WTB竹澤がゴール右隅に走り込む。右サイドの難しい位置からのGKをSO金が確実に決めて日大が幸先よく7点を先制した。日大の鮮やかな先制パンチに動揺が走ったのか、専修はキックオフでダイレクトタッチのミス。これはやってはならないミス、トップスリーの筆頭であり、相手のセンタースクラムからのアタックは高い確率で失点に繋がる。日大はエリアを取るキックを選択し、専修陣22mでバウンドしたボールがタッチを割るが、ここでも専修に痛いミス。ラインアウトのボールを日大にスティールされて確実にボールを繋がれ、WTB竹澤が早くも2トライ目を記録。GK成功で日大のリードは14点に拡がる。



勢いに乗る日大が完全にペースを掴んだ。15分には専修陣10m/22mの位置でのラインアウトからモールで前進。今度はFWで確実にボールを前に運び、最後はHO徳田がトライ。SO金の左足によるキックは安定しており、日大のリードは21点となる。日大のFWのキーマンは長身LOの孫(193cm、97kg)。現在サンウルブズで活躍するOBの細田を太めにした感じの選手だが、高さだけでなくフィールドプレーでも光る選手であることがその後分かる。専修はその後もたびたびラインアウトでマイボールをミスしたのも、スローイングが不安定だったことがあったにせよ、孫の高さが効いていたことは間違いない。

このまま日大が突っ走ってしまうかと思われたが、ボールを支配する時間帯が長かった日大の方にオーバーザトップやハンドなどブレイクダウンでの反則が目立ち始める。必然的に専修に日大陣でのラインアウトのチャンスが増えていくが、上で書いたようにマイボールをスティールされたり弾かれたりと殆どチャンスを活かすことができない。また、モールに持ち込んでも日大のモールディフェンスが機能したためゴールは遠い状況が続く。しかし元来BKのパス回しの巧さを持ち味とするのが専修。22分、日大陣10m/22mのラインアウトをクリーンキャッチしてボールを一気にオープンに展開。ここでCTBが絶妙のフェイクを入れてラストパスをWTB夏井に渡す。GKも成功して7-21と専修が一息ついたかっこう。

ゲームがようやく落ち着いたところで、専修が徐々に持ち味を発揮し始める。日大はテンポよく攻めるものの、あと一歩のところで反則を犯してチャンスを潰すが、専修もラインアウトが不調。そのため得点板が動かない拮抗した展開となったとも言えるのだが、前半も終盤に入った32分に専修が1トライを返して点差を縮める。専修はHWL付近のラインアウトからボールをいったんオープンに動かした後、反転してショートサイドを攻めてフリーとなったFB田辺が左サイドを一気に走り抜けてトライ。GKは失敗するが12-21と専修のビハインドは9点となる。このまま専修が後半に望みを繋ぐ形で前半が終了。両チームともBKでのパス回しに活路をひらくチームとはいえ、FWでのゴリゴリが少なくボールが大きく動く試合はやはり観ていて楽しい。



◆後半の戦い/先手を取りたかった専修だが、テンポよく攻める日大優位の展開は変わらず

シンプル・イズ・ベストでテンポよく攻める日大が優位に試合を進めた前半。しかし終わってみれば日大のリードは9点で終わっているのが意外だった。後半に逆転を期す専修としては、先手を取って日大にプレッシャーをかけたいところ。後半は専修のキックオフで開始。専修は日大の蹴り返しに対するカウンターアタックからFB田辺が大きく前進、パスを受けたWTB夏井が日大ゴールに迫る。この日一番というくらいに専修の応援席が盛り上がるが、夏井はあと一歩というところでタッチに押し出されてしまう。ピンチを脱した日大は7分、自陣10m付近のスクラムを起点としていったんショートサイドを攻めた後、SH李からパスを受け取ったPR1の金大毅が一気にゴールまでボールを運ぶ。GKも成功して28-12と日大が専修を引き離す。

試合の流れは完全に日大に傾くかと思われた。しかしながら、専修に起死回生の一撃が生まれる。キックオフされたボールを日大が自陣から蹴り返したところでチャージに成功。SO小田が日大ゴールにあと一歩まで迫ったところで日大に反則。専修は間髪入れずに攻めてPR3古屋主将がトライを奪いGKも成功して19-28。後半も接点での反則が目立つ日大は、一転して自陣22mからなかなか脱出できないピンチの連続となる。専修はFWに拘りをみせてラインアウトからモールを形成してトライを狙うものの、日大の粘り強いディフェンスの前になかなかゴールラインが超えられない。

FW主体で攻める専修に対し、FW8人の結束で堪える日大といった形で日大陣22m内での攻防が続く。あと一歩が超えられない専修の選手達に対し、応援席からの声援は一際高まるものの、ここでも明暗を分けたのがラインアウト。24分、日大陣ゴール前で専修がまたしてもマイボールをスティールされて万事休した。それでも日大のピンチは続く。27分、日大のFL山田が反則のくりかえしによりシンビンを適用されたことで、日大は残りの殆どの時間帯を14人で戦うことになった。

29分、専修は日大ゴール前で得たPKでスクラムを選択し8単からゴールを目指すが惜しくもパイルアップ。やり直しのスクラムで再度ゴールを目指すもののパスが甘くなったところを狙われて痛恨のインターセプト。ボールを確保したWTB星野は快足を飛ばして一気に専修ゴールまで到達。GK成功で35-19となり、残り時間からも日大の勝利がほぼ確定。専修がひとつ取っていれば逆転に繋がるトライだっただけに悔やんでも悔やみきれない。37分、日大はさらに1トライを追加して遂に40-19のダブルスコアとなる。ここまで100%の成功率だったGKは失敗に終わるものの、SO金の安定したGKが日大に勝利に華を添えた。



◆試合終了後の雑感

試合前の私的予想は「専修が日大のディフェンスを翻弄」だったが、始まってみれば主導権を握ったのは戦術を固めて積極果敢に攻めた日大。何となくだが、試合前のアップで自信を持っているように見えたのは専修の方だった。おそらく、専修は「自分達のラグビーができれば勝てる」と踏んでいたのではないだろうか。だから、開始直後から受けに回り防戦一方となってしまったことで選手達は動揺したのかも知れない。そう考えると、先制された後のキックオフのミス(ダイレクトタッチ)が本当に痛かった。

もちろん、ラインアウトの絶不調もあったが、15分間で3連続失トライを喫してしまったことが専修の歯車を狂わせたと言える。また、BKへの展開を持ち味とするチームがFW戦に拘った時間帯があったことも疑問。日大の戦術が一貫していたのとは対照的だった。日大の反則多発(前半5つ、後半8つの計13個)がなければもっと点差が開いたかも知れない。力が拮抗していれば、メンタルの差が明暗を分けるラグビーの怖さを観た想いがした。



◆再スタートに向けて視界良好の日大

新体制となることが伝えられてもなかなかスタッフが発表されないなど、不安を抱かせた日大の(今度こその)再スタート。しかし、この日の溌溂とした戦いぶりを観て、そんな不安は払拭された。突出した選手が居ないことで15人の纏まりで勝負するチームになっていることがプラスに作用していることは間違いない。かといって、組織に縛られたような窮屈さはなく、選手個々が役割を果たす形で伸び伸びとプレー出来ているように感じられた。旧体制の頃とは明らかにチーム内の空気が変わったとみていいと思う。

もちろん、ブレイクダウンでのプレッシャーが強力で、個々の強さもある上位校との対戦を考えた場合、日大はこのラグビーを遂行するにはパワー不足と思われる。しかし、ここまでに観てきた流経大、大東大、法政と比べると実はチームの基盤が一番出来ているが日大という印象を持ったことも事実。まだ潜在能力の段階だが、選手1人1人を見ていると結構個性派揃いという印象も受ける。それと、この日も印象に残ったパス回しは旧体制時代の遺産。選手起用法などいろいろと考えさせられところがあったとはいえ、いい部分もあるはずでそこは活かすべきだと思う。

◆余談ながら

日大の新体制では元監督の阿多氏を支えた人達が「復活」を担うことになるようだ。伊藤武コーチは流経大OBだが、1部昇格2年目の年に主将としてチームを引っ張った選手だったことをよく覚えている。そして、おそらくは対戦相手としての日大の強さを身をもって体験したはず。伝統を重んじるチームほど外部の血を導入することに躊躇があるようだが、チーム再建を考えるなら、チームの強さやいい部分を外から客観的に見てよく知っている外部の人材を活用することを選択肢に入れてもいい。懐かしい人の名前を目にしてふとそんなことを思った。

ラグビーマガジン 2016年 07 月号 [雑誌]
クリエーター情報なし
ベースボールマガジン社
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする