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立正大学 vs 拓殖大学(関東大学ラグビーリーグ戦G2014年度 1-2部入替戦)の感想

2014-12-29 21:36:01 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


専修の13年ぶりの1部復帰と日大の(まさかの)2部降格が決定し、両校のファンが去った後もその余韻が残る熊谷ラグビー場。入替戦の第2試合はリーグ戦を圧倒的な強さで全勝し1位となった拓大が登場するとあって、リーグ戦G史上初となる2校同時入れ替えも現実味を帯びてきた。だから、先ほどまで日大ファンが居たメインスタンドの左サイドに陣取る立正大の応援団も心穏やかではないはず。リーグ戦1部所属校の間でも、万が一入替戦に回ることになっても「絶体に8位にならないこと」は隠れ合い言葉みたいなものだったはずだから。

しかし、立正大は8位になったとはいえ、東海大を崖っぷちまで追い詰めたチームであり、それはけしてフロックではなかった。なかなか結果が出せない中で士気が低下してもおかしくないような状況だったが、シーズン半ばから徐々に調子を上げてきている。圧勝続きの拓大とてけして楽に戦える相手ではない。いや、むしろ拓大サイドから見ると、圧勝続きだった部分が逆に不安材料になるし、立正のように一発のあるチームの方が怖いはず。拓大有利と見ているファンが多い中、どのような戦いが繰り広げられるのだろうか。



◆キックオフ前の雑感

立正大はWTBにエースの早川がようやく復帰し、山梨学院戦を欠場したフィララ・レイモンドもスタメンに名を連ねる。最終戦は何とかベストの陣容で戦えることはファンにとって心強いに違いない。立正、拓大ともにファーストジャージはオレンジのため、本日は立正がオレンジ色(拓大は濃紺のセカンドジャージ)を身に纏う。拓大の選手達が総じて小柄なこともあり、ピッチに登場した両チームの選手達を見比べると、立正大選手達の鮮やかなオレンジ色が一際目立つような状況になっている。

拓大もおそらくベストの陣容と思われる。昨シーズンの入替戦は負傷欠場した安定感抜群のパトリック・ステイリンが13番を付けてピッチに立つのが心強い。SOを務める林は春シーズンにはWTBの位置からチームメイトに檄を飛ばしていたが、司令塔としてBK陣を纏める存在になったようだ。また、ウヴェの卒業で心配された高さとパワー不足もウヴェが再入学したかのような錯覚を起こさせるシオネ・ラベマイ(190cm, 107kg)の加入で解消された模様。しかし、拓大の看板はなんと言ってもジャパンのスクラムを担う存在になることが期待されるPR具を擁するスクラム。拓大の私的注目ポイントは、昨シーズンは決定力不足だったBKの攻撃力がどの程度上がっているかになる。



◆前半の戦い/拓大が先制するも、立正も譲らず拮抗した展開に

殆ど無風状態だった第1試合とはうって変わって、冬の熊谷の名物と言ってもいい赤城おろしの冷たい季節風が吹き始めた中、風下に陣取る立正大のキックオフで熱戦の火ぶたが切って落とされた。序盤は追い風を受けた拓大が立正大陣に攻め込む展開となる。4分、拓大は立正陣22m内で得たPKからゴール前でのラインアウトを選択し、モールを形成して押し込んでFL中嶋がトライを奪う。GKは失敗するものの拓大は幸先よく5点を先制した。

拓大のチャンスは続く。立正大のキックオフに対する蹴り返しが立正大陣22m付近でタッチを割る絶妙のキックとなりラインアウト。ここで立正大にノット1mがありスクラムからNo.8シオネが8単で前進を図るもののノットリリースの反則を犯す。ここから、ピンチを脱した形の立正大の反撃が始まる。HWL付近(右サイド)のラインアウトからいったん左オープンに展開した後、中央から右に大きく展開しパスが大外で待つLOのフィララ・レイモンドに渡る。巨漢で走力もあるフィララがスピードに乗ったらもう誰も止められない。ボールを持った選手がWTBではなかったものの、立正大はリーグ最終戦の山梨学院戦での先制トライと同じ形で5点(GKは失敗)を返す。

鮮やかな逆襲に遭った拓大は動揺が隠せない。リスタートのキックオフがダイレクトタッチとなり、立正大ボールのセンタースクラムとなる。拓大はここでさらにコラプシングの反則を犯す。立正大は再び拓大陣10m付近からのラインアウト(これも右サイド)を起点とするオープン攻撃でボールを左に振った後右に展開。今度は大外に立っていたのが本職のWTB早川。独特のしなやかなランニングで拓大のディフェンダーをスピードで振り切りゴールラインまで到達する。またもGKは外れるが10-5と立正大が逆転に成功する。

キックオフから14分で2発被弾してしまった拓大。押せ押せムードで意気上がる立正大応援席だったが、拓大は落ち着いていた。16分、HWL付近から立正大陣奥深くに蹴ったボールを立正大選手がキャリーバック。立正大は風下に立っていることもあり、なかなか自陣から脱出できない。そして23分、拓大は立正大ゴール前でFWで攻め、密集から抜け出したFB塩倉がインゴールに飛び込んだ。GKも成功し拓大が12-10と再逆転に成功する。ゲームはここから両チームによる一進一退の激しい攻防が繰り広げられる。戦前は不利が予想された立正大だったが、気後れしたようなところはまったく見られない。

セットプレーではスクラムで優位に立つ拓大に分があるものの、全般的にはパワフルな選手が多い立正大がやや押し気味の展開となっていく。33分、立正大は拓大陣22m手前の狙える位置でPKを得るが、拓大ゴール前からのラインアウトを選択。モールを形成して押し込むものの惜しくもパイルアップ。しかし、続く5mスクラムからNo.8の位置にいたフィララが単独でボールを持ち出して一気にゴールまで到達した。GKは失敗するが15-12と立正大が再々逆転に成功とお互いに譲らない、いや譲れない。

しかし、拓大もすかさず反撃。36分、立正大陣10m/22mの位置でのラインアウトからモールを形成してぐいぐい押し込み、No.8シオネが抜け出してゴールラインを超える。拓大はGK成功で19-15とゲームをひっくり返した。前半はお互いに3トライずつを取り合い点差はGK2本分の4点とまったく5分と5分。立正大はおそらくシーズン最高の出来でミスも少なくパワフルに攻めている。ここで言っても仕方ないが、このラグビーがシーズン中にコンスタントにできていたら大学選手権にも届いたに違いない。しかし、そんな立正大の勢いに飲み込まれることなく拓大も落ち着きを見せる。この試合にかける想いは別にしても、拓大は昨シーズンに比べて精神面での成長もできているようだ。



◆後半の戦い/止まらない立正大の勢い、自慢のスクラムが拓大のピンチを救う

前半の内容は5分。むしろ風下に立った立正大が健闘したと言える内容で、拓大ファンはまったく安心できない試合展開となっている。立正大応援席のボルテージが上がる中、風下の拓大のキックオフで後半が始まった。開始早々の2分、拓大が自陣10m付近のスクラムでBKに展開したところでノックオンを犯すが、ボールを拾った立正大選手がウラに蹴ってゴール前へ走る。立正大選手がボールをグラウンディングできればトライというところで拓大ファンは肝を冷やすがインゴールノックオン。ゴール前の5mスクラムも立正大のコラプシングに救われる。この流れで拓大は自陣からの脱出に成功したことから考えれば、この試合のポイントとなった場面と言える。

7分、拓大は立正大陣22m手前左中間でPKを得るが、ゴール前からのラインアウトを選択する。立正大は自陣を背にして耐える時間帯となる。拓大はラインアウトからモールを形成して執拗にゴールに迫るものの、立正大の反則、あるいはボールを持ち込んでもパイルアップとなるなどなかなか得点が奪えない。拓大はようやく12分にスクラムを押し込んでトライを奪い24-15とリードを9点に拡げる。しかし、風下に立っていることを考えれば1T1G+1PGあるいは2Tで逆転可能な点差はまったく安心できない。

果たしてリスタートのキックオフ。拓大選手がノックオンしたボールを前に居た選手が触れてノックオンオフサイドを犯してしまう。立正大は狙わずにゴール前でのラインアウトを選択。ここからモールを形成し、FWでG前までボールを運ぶ。そしてラックから出たボールをWTB立野がインゴールに持ち込みトライ。GKも成功して24-22と拓大のリードは2点差まで縮まる。おそらく拓大ファンは生きた心地がしなかったに違いない。

しかし、ここで拓大を救ったのは決定力を増したBK選手と自慢のスクラムだった。リスタートのキックオフで立正大の蹴り返しに対するカウンターアタックから、No.8シオネがボールを前に力強く運び立正大陣まで前進。ここから拓大はボールを細かく繋ぎ、最後はFB塩倉が立正大のディフェンダーをかわしながらインゴールまでボールを運んだ。前にはタックルに入れる選手が何人も居るような状況の中で、「絶体に決めてやる!」という気迫を感じさせる素晴らしいトライだった。これで31-22と拓大のリードは再び9点となる。カウンターアタックの起爆剤となったシオネだが、1年生当時に観た感覚で比較するとフイットネスに不安があったウヴェを既に超えているように感じられる。どこまで成長するのか楽しみでもあり怖くもある。

さて、前にも書いたように、もちろん9点差はセーフティリードではない。リスタートのキックオフで拓大は自陣22m内でノックオンを犯しピンチに陥る。立正大のスクラムの最後尾にはフィララが満を持して位置する状況で、しかし拓大はスクラムのホイールに成功する。25分にも拓大は自陣10m付近での立正大ボールスクラムで再びホイールに成功。自陣から脱出した拓大は立正大陣で攻勢に転じ、33分にPGを決めて34-22とリードを12点に拡げる。まだまだ安心できない点差ではあるが、逆転のためには少なくとも2トライが必要となる立正大にはプレッシャーがかかったはず。

残り時間が10分を切ったところで1部残留に向けて後がなくなった立正大の怒涛の攻めが続く。しかし、拓大も気迫のディフェンスで耐え凌ぎ時計はどんどん進む。そして、拓大が反則を重ねて立正大のフィララがインゴールに飛び込んだ時、時計は42分になっていた。GKが成功して34-29となったところで立正大にとっては無念のホイッスル。もちろん拓大関係者にとっては歓喜のホイッスルのはずなのだが、拓大応援席の雰囲気は喜びよりも(どちらかと言えば)安堵感で包まれていたように感じられた。下馬評では有利と言われながらも、パワフルな立正大の前に辛くも勝ったという試合内容だったから無理もない。ただ、第一試合と同じく最後までもつれ、点差もほぼ同じ結果となったものの、第一試合とは受けた印象が異なる。奇しくも入替戦だったことでちょっと複雑な気持ちだが、最後に今シーズンのリーグ戦Gのベストゲームを観ることができてよかったと思った。



◆残念な結果となった立正大/攻撃スタイル完成の遅れが惜しまれる

この日の立正大は、今シーズン私が観た中では最高の出来で、おそらく他の試合を入れてもベストの内容だったのではないだろうか。重ね重ね、それが入替戦になってしまったのは残念という他ない。前半に大外勝負で取った2つのトライは、私が今シーズン観た中では山梨学院戦での先制トライも含めてリーグ戦Gでももっとも力強いトライ。確かに早川がフルに出られなかったことは痛かったが、早川が出ている試合でもいい形で彼にボールが渡らなかったことからみて、チーム作りに試行錯誤があったのかも知れない。少なくとも春に観た段階では立正大はFW勝負のチームだったが、FBに新人のアライアサを起用し始めた過程でBK勝負への転換を図ったものの、それがうまく行かなかったことも考えられる。ただ、現有戦力でもリーグ戦中位の力があることは間違いなく、来シーズンも戦力ダウンは殆どないものと思われる。戦術を固めての再チャレンジに強く期待したい。

◆一回り逞しくなって戻ってきた拓大/来シーズンはBKの攻撃力アップに期待

立正大の健闘があったにせよ、拓大にとっては、「上がって当然」というような周囲の期待がプレッシャーになったのかも知れない。ただ、そんな中でも安定した戦いはできていたと思う。おそらくチームの精神的な支柱になったのはスクラムで、これは1部リーグで戦う上でも強力な武器になるはず。そしてシオネのパワーアップも楽しみだ。そうなるとやはり課題はBKの得点力アップではないかと思われる。この試合でも自在なフォーメーションで相手を攪乱する意図が感じられた。来シーズンはSO林の存在感がより増す形で変幻自在のアタックを仕掛けるチームへと成長を遂げることを期待したい。とにかくジェットコースターに乗ったかのようなここ数年間の経験を糧にして、今度こそは上位定着を図って欲しいと願う。

ラグビー「観戦力」が高まる
斉藤健仁
東邦出版
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日本大学 vs 専修大学(関東大学ラグビーリーグ戦G2014年度 1-2部入替戦)の感想

2014-12-23 17:02:02 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


今シーズンもこの日が来てしまった。リーグ戦のシーズン締めくくりとなる入替戦は、一方で一足早く来シーズンに向けたスタートを切る4チームの戦いでもある。メンタル面も含めて文字通りの「入替戦」なのだ。もっともそんなことを言っていられるのは特定のチームに偏らずにゲームを見続けたいリーグ全体を応援するファンだからこそ。関係者にとっては胃が痛くなるような「絶体に負けられない80分間」が始まるのだ。

本日の第一試合では1部リーグ7位の日大に2部リーグ2位の専修が「悲願の復帰」をかけて戦う。専修大学に2部降格したのは2002シーズンのことだったが、正直そんなに時間が経っていたのかという想いを抱いてしまう。その間にも拓大、立正大そして山梨学院が入替戦に勝利しているが、専修は入替戦にも届かない状況が続いていた。永年リーグ戦Gを観てきたファンでさえ、専修が1部リーグで躍動していた姿が記憶の彼方に行きそうな状態。

そんなことを考えながらハンドルを握って熊谷に向かったのだが、まずはスタンドに入ったときに中央席の右サイドを埋めた数多くの専修大学ファンの熱気に圧倒された。専修ファンにとっては千載一遇のチャンスとばかりに居てもたっても居られずやってきたに違いない。リーグの戦績も2位になったとは言え圧倒的な強さを見せた拓大に比べれば何とか手にした入替戦の切符。しかも相手は実力を発揮出来ずに7位になってしまった難敵の日大だ。昇格は難しいことが予想されるような状況だからこそ力一杯応援したい。それに引き替えと言っては失礼だが、キックオフ10分前の段階でも左サイドは閑散としていて寂しい状態。

リーグ戦史上、7位で降格したチームはないという事実はあるにしても、日大が1部復帰を目指してここで戦ったときはOBも含めて多くのファンが駆けつけていたことを覚えている。リーグ戦Gの中でもとくに大人しいのが日大ファンという現実はあるにせよ、国立の大舞台に立った後はずっと芳しい戦績を挙げているとは言い難いチームに対して、ファンの気持ちが離れているのでなければいいのだが。



◆キックオフ前の雑感

日大はFW第1列のPR3伊藤(4年生)以外はリーグ最終戦となった法政戦と同じメンバー。もちろん立正大戦勝利の立役者となったSH有久(3年生)もスタメンで大型SO金(2年生)とHB団を組む。立正大戦の薄氷を踏むような逆転勝利を経てようやくチームになってきた日大。シーズン当初から有久やWTB南波らのベテランを起用していれば、試合は翌日で会場は別だったかも知れないと思うと複雑な気持ちになってしまう。

専修の出場メンバーのことは分からない。ただ、専修に関しては春のYC&ACセブンズでの大健闘が強く印象に残っている。強力な突破役こそ居ないが、ボールをテンポよく動かしていくラグビーで「セブンズに専修有り」をしっかりアピールしていた。リーグ戦では苦戦したとは言え、春に得た自信はチームの支えになっているはずだ。15人のチームでどんな戦いを見せてくれるだろうか。



◆前半の戦い/キックオフから数分にしてラグビーの内容の優劣が明らかに

この時期の熊谷にしては珍しくほぼ無風の状態のなか、メインスタンドから見て右側に陣取った日大のキックオフで試合開始。リーグ戦で不振だったとは言え、日大が1部チームの貫禄を見せて専修を圧倒と誰もが予想しただろう。だが、キックオフから数分にして、ラグビーの内容では専修が日大を圧倒的に上回っていることが明らかとなる。ブレイクダウンで時間をかけずにボールをテンポよく動かしてグランドをワイドに使うラグビーに、日大はディフェンスで対応が遅れて翻弄されるまさかの展開。日大のBKが1対1でしっかり止めていることもあるが、専修に突破役が居たらトライの山が築かれそうな感じすらある。

果たして10分、日大が自陣で反則を犯したところで、専修はSH古川がタップキックから速攻で攻めてインゴールに飛び込み5点を先制(GKは失敗)する。日大の対応が遅れ気味とは言え、ここまでスムースに15人でボールを動かせるチームは1部リーグにもない。入替戦ということは忘れて、すっかり専修のラグビーに魅了されてしまった立ち上がりだった。ここで事の重大さに気づいた日大が反撃に転じる。以後、専修は殆ど自陣での戦いを余儀なくされる苦しい展開となる。しかし、日大はプレーが雑になるなどミスを重ねてなかなか得点を挙げられないままに時計がどんどん進む。

アタックでは魅せる専修もなかなか決めきれない。もし日大FWがSHにしっかりプレッシャーをかけてきたら専修がここまでボールが動かせたかどうか。ここで、何となくだがこんなラグビーができる専修がリーグ戦で他チームを圧倒できなかった理由が分かった。しかし、日大にミスが多いとは言え、自陣ゴールを背負ったような状態になっても日大の前進を許さず粘り強く守る。専修に頼みの13番マイケルは徹底マークに遭っており、マイケルを止められたら攻め手がなくなってしまう日大は苦しい。

テリトリーでは日大が圧倒しながら、ラグビーの内容では専修が上回るというアンバランスな展開の中でようやく31分に日大が一矢報いる。専修陣22m内(右サイド)のラインアウトから鮮やかなオープン展開で左WTB南波がインゴールに飛び込んだ。GKも難なく決まると思われる位置だったが、専修がプレースキッカーにプレッシャーをかけてキックは右側に逸れる。後半の展開を考えれば貴重な2点を阻止した専修のファインプレー、逆に言えば日大にとっては残念なプレーとなった。その後も南波は随所で元気のいいところを見せた。もし日大が勝っていればMOM間違いなしという選手も実はシーズン半ばからの登場。何とも複雑な心境になってしまう。

その後は一進一退の攻防となるが、終了間際の42分に専修がPGで3点を追加し、8-5とリードして前半が終了した。点数だけからなら拮抗した展開が想像されるが、実際に観戦していてよくこの点差で済んだという内容。専修の明快なコンセプト(ボールをテンポよく動かしてゴールを目指す)の前に、アタックがスムーズにいかない日大は個の強さで対抗するしかない。後半の体力勝負にかけるという手もあるが、1部残留に赤に近い黄色信号が点ったような前半の戦いぶりだった。



◆後半の戦い/日大が意地を見せるも専修の勢いは止まらず

このままでは不味いと思った日大ファンに対し、右サイドに陣取った専修の応援団からは「行けるぞ!」の活気ある声が飛ぶ中で後半が始まった。前半の戦いで明らかに自信を掴んだ専修が後半も積極的に攻める。マイボールキックオフのボールを確保に成功してBK展開で前進を図る。しかしWTBで勝負!というところでDFのウラを狙ったキックがチャージに遭い日大に逆襲を許す。入れ替わりのような形で日大がチャンスを掴むが、専修は自陣10m付近でのラックアンプレアブルに救われる。何となくだが、余裕が出てきたところでのミスは得てして相手に流れを渡してしまうもの。

5分、専修は日大のキックに対して自陣から果敢に攻めるものの、パスミスを拾われて日大の左WTB菅沼にインゴールまでボールを運ばれてしまう。金のGKも成功し、日大は12-8と逆転に成功。さらに日大は直後の8分、キックオフに対するカウンターアタックから細かくボールを繋いで前進を図り、ラストパスがこの日絶好調の南波に渡る。GKは失敗するものの日大は17-8とリードをさらに拡げる。誰もがやっぱり結局は日大が1部リーグ所属チームの貫禄を見せて勝利を収めてしまうのかと思っても不思議はない。やはり入替戦は2部の2位チームには高い壁であり、歴史は繰り返される(内容がよくても下部チームが敗れる)のだろうか。

しかし、優位に立っても波に乗れない日大に対し、専修は観客席の後押しを得る形で攻め続ける。日大ゴール前のアタックは実らないものの、まずは16分にPGで3点を返し11-17と1T1Gで逆転可能な点差へとビハインドを縮める。リスタートのキックオフのあと、自陣での日大ボールのラインアウトをスティールに成功して凌ぎ敵陣へ。22分、日大陣10m付近のラインアウトからのオープン展開が鮮やかに決まりライン参加したFB棚橋がインゴールに飛び込む。GK成功で専修が1点差ながら再逆転に成功した。専修応援席がここで一気に活気づいたことは言うまでもない。

再逆転を許しお尻に火が付いた格好の日大も逆襲。26分には専修陣10m/22mのほぼ中央でPKを得るが狙わずにゴール前ラインアウトからトライを取りに行く。ここは1部リーグの底力を見せたいところだったのかもしれないがプライド?は捨てて冷静に狙うべきではなかっただろうか。案の定と言ったら失礼だが、日大はラインアウトでオフサイドの反則を犯し、絶好の得点機を逸する。そして、今度は命拾いした専修の番。日大陣の(PGを)狙える位置で得たPKをタッチに蹴り出し、ゴール前ラインアウトからトライによる追加点を狙う。そして、FWでボールキープしながらゴール前の攻防を制しトライを奪う。GK成功で専修はリードを1T1Gでも届かない8点差に拡げる。

どちらが1部リーグで戦っていたチームなのかが分からなくなってしまうような状況で、終盤になっても専修の勢いは止まらない。36分、HWL付近での日大ボールラインアウトでこぼれ球を拾った専修のFL松土が一気にゴールラインまでボールを運ぶ。GKは失敗するが、30-17と専修のリードは13点に拡がり、夢が現実へと着実に近づいた形の専修応援席のボルテージはさらに上がる。

しかし、実は2T2Gで逆転可能な13点差は、安心してはいけない点差でもある。果たして直後の40分、日大はキックオフから専修陣になだれ込み反則を誘う。ここで、途中出場のSH谷口が間髪入れずタップキックから一気にインゴールへ。GK成功で24-30と日大がラストチャンスを活かせば逆転という展開となり、スタジアムは興奮の坩堝と化す。残留に向けた日大の怒涛のアタックが続き、専修が反則を重ねる展開。インジュリータイムに入り、日大にミスが出れば試合終了という緊迫感の中で試合が進む。しかし、遂に日大が力尽き痛恨のノックオンを犯したところで専修の13シーズンぶりとなる1部復帰が決まった。グランドに崩れ落ちる日大の選手達を尻目に、歓喜に湧く専修関係者。昨シーズン、山梨学院が1部復帰を決めたとき以上の興奮が熊谷を包み込んでいた。



◆専修のラグビーに魅了された至福の80分間/MOMは熱心な声援を送ったファン

1部リーグでもなかなか観ることができないくらいに、ボールを素早く、無駄なく、テンポよく動かし続けた専修のラグビーにすっかり魅了された。1部在籍時もボールを動かすラグビーを指向していた専修だが、より洗練された形で来シーズンは1部に復帰することになる。もちろん、1部リーグのチームでこれだけ自由にボールを動かすことを可能にしてくれるチームはないし、どうしてもパワー勝負で苦しむことになるだろう。しかし、専修はセブンズの延長のようなこのスタイルに磨きをかける形でパワーアップしていけばいいと思う。そういった意味でも、やはり春のYC&ACセブンズで自信を掴んだことは大きかったのではないだろうか。

もちろん、1部復帰を勝ち取ったのはピッチで戦った選手達と村田監督以下のチーム関係者。でも真のMOM(マンではなくマンズ・オブ・ザ・マッチ)はスタンドから熱い声援を送り続けたファンではなかっただろうか。2003シーズンから始まった戦いは予想以上に長くなり、1部在籍時の戦いを知らないファンが増えていく中、選手達が戦い続けることができたのはファンの力が大きいと思った。

◆結局チームを完成できなかった日大/あまりにも残念過ぎる降格

闘志が空回りと言った感じであえなく降格が決まってしまった日大。専修与しやすいと観ていたわけではないと思うが、最後までちぐはぐな今シーズンの戦いぶりを象徴するようなラグビーだった。やはり責めを負うべきは結果を出せなかった選手達ではなく、チームを完成させることなく終わらせてしまった首脳陣ではないだろうか。チームを救ったと言っていい有久や元気いっぱいだった南波らがシーズン当初はベンチにも居なかったことが本当に不思議でならない。

しかし、日大で一番気になることは、結局どんなラグビーを目指し、どこに強みを持とうとしたことが最後まで見えなかったこと。かつての日大であれば、強力スクラムという強力なセールスポイントがあったし、個人で無謀とも言えそうな果敢に攻めるBK先取達がいた。そんなチームの軸のようなものが見当たらない中でどのような形で来シーズンは1部復帰を目指すのだろうか。力及ばすというか準備不足での敗北は仕方ない。来シーズンはトロケや南波がチームを去る中で、明日への展望が見いだしがたい敗北はショックで有り残念で仕方がない。

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2014年度1-2部入替戦/関東大学リーグ戦Gは新たなステージへ

2014-12-15 01:58:15 | 関東大学ラグビー・リーグ戦

大学選手権セカンドステージ開幕戦とほぼ同じ時期に行われることになった入替戦。5位と7位とたった2つ順位が違うだけで天国と地獄になってしまう訳だが、リーグ戦Gにあってはシーズンの締めくくりとなる戦いでもある。普段は1部リーグを観るだけで手一杯だけに、2部リーグの実力を知る上でも貴重な試合。もっとも関係者にとってはそんなことも言っていられない。内容は問われず、とにもかくにも勝つことがすべて。だが、実は中身が濃い試合を観ることができるという私的楽しみがある。1997シーズンからリーグ戦Gの本格的な観戦を始めた中で、入替戦を観ていないのは2シーズンのみ。観戦した試合は心に深く印象を刻んだものが多い。

さて、一昨年の関東学院に続き昨年は拓大が降格した2部リーグは、近年でも希に見るレベルの高さを誇る(と言っては語弊があるが...)リーグになっている。拓大、関東学院、専修、國學院が鎬を削る中で東洋大も躍進と、1部昇格にかける熱き戦いが展開された。最終的には拓大が圧勝で1位という形になっているが、専修もYC&ACセブンズでの奮闘ぶりが強く記憶に残る。その拓大と専修がチャレンジャーとして熊谷に登場。今シーズンは2校同時入替もあるのではと予想していたが、リーグ戦の戦績を見て専修は厳しいかなと思っていた。また、拓大は優位に試合を進めて昇格とも予想していたわけだが、リーグ戦Gの歴史に残る2校同時昇格(2校同時降格)。リーグ戦Gはますます混沌としてきた。



◆第1試合 日本大学(1部7位)vs 専修大学(2部2位)



1部復帰を待ち焦がれている多くの専修大学ファンがスタンドを埋める中、日大のキックオフで始まった試合。誰もが日大が1部仕込みのパワーで専修を圧倒するはずと思ったが、キックオフから数分にして早くも専修のラグビーの質が日大のそれを上回っていることが明確になる。春のYC&ACセブンズでの活躍ぶりを彷彿とさせるようなテンポよい球回しと果敢なアタックに対し、チームが未完成状態の日大はディフェンスの対応が遅れ気味となってプレッシャーをかけられず翻弄される。専修はディフェンスでも低くしっかり刺さるタックルで日大の前進を許さない。10分に専修が先制した後、日大が攻め込む時間帯が続き31分にようやく1トライを返して5-5。しかし専修は前半終了間際にPGによる得点で3点を追加して8-5で折り返す。ラグビーの内容からはよくこの点差で収まったという印象が強い前半の戦いだった。

後半は開始早々に自陣からも展開して攻める専修のミスにつけ込む形で日大が5分に得点。日大はさらに8分、パスを繋ぐアタックで加点して17-8と逆転に成功。日大がこのまま1部リーグの貫禄を見せて勝利を収めるかに見えたが流れを掴みきれない。前半の戦いで自信を深めた専修は果敢に攻め続けて16分にPGを決めた後、22分、32分、36分と3連続トライを奪って悲願の昇格に大きく近づく。ただ、13点リードの30-17は2T2Gで逆転されるので安心できない点差。残り数分となったところから、日大の1部残留に向けた怒涛のアタックが始まる。38分には専修反則に対する速攻からトライ(ゴール成功)により7点を返し、日大のビハインドは6点に縮まった。残り時間が僅かとなったところで日大が攻撃権を保持しながら攻め続ける展開となり場内は騒然となる。しかし、インジュリータイムに入ったところで日大はアタックを全うできずに無念のノックオンで試合終了。スタンドを埋めた専修ファンからは13年ぶりの1部復帰を喜ぶ大きな歓声が沸き起こった。



◆第2試合 立正大学(1部8位)vs 拓殖大学(2部1位)



専修の復帰と日大の降格が決まり興奮冷めやらぬ中で始まった第2試合。リーグ戦2部で圧倒的な力を示して1位となり復帰を目指す拓大に対し、実力を十分に発揮出来ず最下位に沈んだ立正大ということで多くのファンが拓大有利を予想するのも無理はない。しかし、結果が出なかったとは言え、東海大を崖っぷちに追い詰めるなどリーグ戦後半で調子を上げてきた立正大の力は侮れない。4分に拓大がラインアウトからのモール攻撃で幸先よく先制するものの、立正大は10分、14分に2トライを連取してあっさりと逆転に成功する。立正大には大外で決定的な仕事ができるコマ(早川とレイモンド)が揃っており、彼らの持ち味が発揮された形。その後は両チームが交互に得点を挙げるシーソーゲームとなり、前半は19-15と拓大が辛くも4点リードする形で終了した。

第1試合ではほぼ無風状態だった熊谷だったが、第2試合ではいつのもの赤城おろしの強い季節風が吹く状態となっていた。後半は風下に立つ拓大にとって僅か4点のリードでは安心できない。しかし、拓大には強力な武器がある。それはリーグ戦Gでもおそらく最強と思われるPR3に具を擁するスクラム。自陣で立正大ボールスクラムの場面でもことごとくターンオーバーに成功してピンチを救う。拓大は立正の食い下がりを許して一時2点差まで迫られるものの、立正大の終了間際の猛攻を1トライで食い止めて34-29で1部昇格切符を掴み取った。立正大はおそらく今シーズン最高の仕上がりでこの試合に臨んだが、拓大が(観客席はハラハラだったものの)落ち着いて試合を進めることができたのは、スクラムの強さとパワーアップしたBKアタックによるところが大きかったように思われる。入替戦という究極の状態の中で両チームがそれぞれの持ち味を発揮した接戦は、今シーズンに観た試合の中での私的ベストゲームとなった。

◆2014入替戦雑感

1部リーグ7位のチームが入替戦に敗れて2部に降格するのはリーグ戦Gで初めてだそうだ。当然のことながら2校が同時に降格するのも初めてというとこになる。今シーズンは2部のチームの実力が高かったとしても、1部リーグのレベルが問われかねない非常事態と言わざるを得ない。しかし、2試合を振り返ってみれば、1部昇格(復帰)に向けてしっかり準備を整えたチームが順当に勝利を収めたと言っていいと思う。とくに第1試合は専修がほぼ完璧と言えるラグビーを展開したのに対し、日大はチームができあがっていなかったことが大切なところで露呈した妥当な結果と言える。スコアは競った形になっているが、実際に試合を観た人はそんな印象を抱いたのではないだろうか。

1997シーズンからずっと入替戦を観てきて感じることは、総じてラグビーの内容では2部のチームの方が上回っているということ。殆どの場合は選手個々の力の差が反映される形で1部のチームが勝利を収めることになるのだが、ラグビーの宿命的な部分とは言え、理不尽な想いに駆られる。しかし、近年は1部と2部の力の差が縮まっていることもあるかも知れないが、徐々にラグビーの質が勝敗に反映されるようになってきているように思う。昨シーズンの山梨学院に続き、今シーズンは拓大と専修大学が昇格を果たしたことは、偶然が重なったと言えるだろうか。今シーズン、劣勢が予想されながら入替戦回避に成功した山梨学院の戦いぶりからもそんなことを考えてしまう。

◆リーグ戦Gは戦術を競う場へ

ここ3シーズンは必ずチームの入れ替えが起こり、来シーズンはさらにリフレッシュされた陣容となるリーグ戦G。しっかりプランを練ってそれを実行し、おそらくは重点目標だった入替戦回避を果たした山梨学院。「戦術」を意識して試合観戦を始めた今シーズンで、もっとも印象に残る戦いを見せてくれたチームと言って間違いない。上位校を相手にしても、戦術を持つことでゲームコントロールが可能となることを示したくれた山梨学院がリーグ全体に与えたインパクトはけして小さくないと思う。

緻密なサインプレーと果敢なカウンターアタックによる継続という形でリーグ戦Gに新風を吹き込んだのが初昇格を果たした時の流経大。そして、2部への降格を経て組織を見直したのが東海大だった。長期間低迷状態にあった大東大を復活させたのも青柳監督がもたらしたトップリーグ仕込みの戦術と言える。同じく結果がなかなか出せなかった中央大も酒井氏をヘッドコーチに迎えることで組織的な戦いを指向するチームへと生まれ変わった。山梨学院は上に書いたとおり。そこに、降格の憂き目にあったものの戦術を見直すことで復活を果たした拓殖大学と専修大学が加わる。そう考えると、法政の戦術面への取組が遅れ気味に感じられることが気になる。

フレッシュ(というよりは「リフレッシュされた」の方が適切かも知れないが)なメンバーがさらに2つ加わることにより、上で書いたようにリーグ戦Gは「戦術」を意識しないと戦えない集団へと変貌を遂げつつあると感じる。チームカラーを前面に出すことでファンを集めていた大学ラグビーにあって、それに飽き足りないファンの心を掴むような魅力的なラグビーが展開されることを期待したい。

いつもは理不尽さを胸に帰路に着くことが多かった入替戦。日大の降格はショックだったが、すっかり魅了されてしまった専修の戦いぶりと一回り逞しくなって戻ってきた拓大に明るい未来を感じた。この日は気分が天候と同様に晴れやかだったのもそんなところに原因がありそうだ。

ラグビー「観戦力」が高まる
斉藤健仁
東邦出版
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