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東海大学 vs 筑波大学(第3回関東大学春季大会-2014.6.21)の感想

2014-06-26 02:58:34 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


春季大会もいよいよ最終節。ようやく東海大の試合観戦に辿り着いたわけだが、相手の筑波は約2ヶ月前に観た法政戦の対戦相手。東海大の今シーズンを占うとともに、筑波が2ヶ月でどのくらい仕上げてきたかにも興味があるので、楽しみな対戦と言える。

春季大会ができたことで、それまでは大学選手権以外では殆ど生観戦することがなかった対抗戦Gのラグビーをしかもホームグランドで観る機会が増えた。その効果としては、リーグ戦G校では疎かにされがちな部分が見えてきたことなどが挙げられる。百草グランドに何度か足を運べば帝京の強さを産み出した選手をとりまく環境を知ることができるし、上井草や八幡山や日吉のグランドに行けば、普段から熱心に「贔屓チーム」をサポートし続けるファンに支えられた歴史の重みを実感できる。そんな中で、じっくりと観ていきたいと思うようになったチームが筑波だった。その理由は、対抗戦G、リーグ戦Gを通じて他のチームが持っていない「何か」を持っているのがこのチームだということに気付いたから。

筑波の試合で忘れられないのは、去年の東日本大学セブンズ(見事優勝)で見せた精神的なタフネスだった。ファイナルに近づき疲労困憊の中でも沸き上がってくるようなパワーの源泉はどこにあるのだろうかという点に強く惹かれた。対照的にといっては失礼だが、昨年度に行われたいくつかのセブンズ大会で露わになった東海大の精神的な脆さも気になった。本来ならリーグ戦Gの帝京になれるはずのチームに意外とも言える脆さが同居していることがなかなか理解できなかった。そんなこともあり、私的には、この2チームの戦いは勝敗だけに留まらない見どころがいろいろあると思っている。

さて、試合前に三ツ沢グランドのコンビニでレジ待ちをしていたら、思わぬ人から声をかけられた。つい先日、立正グランドでご挨拶したばかりの拓大ファンの方だった。お住まいが近くとのことだったが、それだけではなくて少しでもラグビーファンを増やしたいと思い、友人の方々を誘って観戦に来られたとのこと。そういった意味ではこの試合をセレクトされたことは良かったのではないかと思った。試合場のニッパツ三ツ沢球技場はゲームの観やすさにかけては日本でも指折りの競技場のひとつだし、ピッチの状態も最高。そして、このカードなら心ない野次の応酬がないので、初観戦の人にもラグビーに対する悪い印象を持たれることもないだろう。ぜひリピーターになって頂きたいと願った。



◆今年も試合日程との戦いが待っている筑波/本日のメンバー構成は如何に?

先日、関東大学ラグビーの対抗戦G(A)とリーグ戦G1部の試合日程が発表になった。一番気になることは、やはり今年も筑波にとっては厳しい日程になったということ。緒戦が明治戦(9/14)で、早稲田戦(9/28)、慶應戦(10/11)と続き、中締めが帝京戦(10/18)と、開幕からの4試合を並べてみると、帝京戦まで何人主力選手が(ケガをせずに)残っているのだろうかと考えてしまう。仮に筑波が4連勝したら、対抗戦Gの残り1ヶ月半は気の抜けたものになってしまわないだろうか。実質的には難しいとはいえ、前年度の戦績は関係なく筑波がリーグ戦Gに例えれば5位扱いとなる状況はずっと続くのだろうか。

さて、そのこと(開幕からの1ヶ月半に照準を合わせる必要がある)の影響のためかも知れないが、この日の筑波のメンバー表には主力とみられる選手達の多くの名前が見当たらない。東海大を相手にベストメンバーで臨みたいのはやまやまだが、ケガで万全ではない選手には、あまり負荷をかけたくないということかも知れない。もちろん、バックアップメンバーの強化も大切なのだが、緒戦の法政戦からさらに主力選手が抜けている状態でどこまで戦えるのだろうか?という想いを禁じ得ない。とくにスクラムは筑波にとって重点強化項目と思われるだけに、崩壊も心配されるような状況。もちろん、試合はやってみなければわからないが。

◆ほぼベストに近いメンバーの東海/盤石の形で春を締めくくれるか?

対する東海大は、WTBの石井魁が負傷欠場の他はほぼベストの陣容と思われる。そんな中での驚きは、BKは9番から15番まで(すなわち全員)が東海大仰星高校出身者で占められたこと。FWの2人(ただし1名は東海大相模出身)も加えれば15人中9人が東海大系列校出身となっているが、このようなメンバー構成は(あったかも知れないが)記憶にない。そのような中で目を惹くのは、唯1人1年生でFBに野口竜司が抜擢されたこと。石井の欠場という事情があるにしても、ルーキーながら東海大の最激戦区といっていいバックスリーの一角を担うからには期待も大きい選手のはず。また、SHは4年生の松島が先発で2年生の湯本はリザーブスタート。今シーズンも持ち味の違う2人が併用される形になるのだろうか。

その他にも、FWは100kg超が8人中6人(総重量815kg)の東海大に対し、100kgを越えるのはPR3の1名のみ(総重量730kg)の筑波といった具合に、FWに限っても1人平均で10kg近くの体重差がある。主力選手の数など両チームのメンバー表を見比べただけでも勝敗はほぼ見えてしまうような状況。ただ、この試合には勝ち負けだけではない見どころがたくさんある。端的に言えば、「異文化のぶつかり合い」で、カラーも成り立ちも違うチーム同士の対決から見えてくるものがいろいろあるはず。試合を観ながらじっくりと考えてみた。



◆前半の戦い/重量FWのパワー全開の東海大に対し、筑波は組織ディフェンスで抵抗

メインスタンドから見て手前側にやや強い風(ピッチ上は横風)が吹く中、右側に陣取った筑波のキックオフで試合開始。春季大会の場合は自陣からでもキックを封印してアタックを試みるチームが多いが、序盤戦は相手の様子見も兼ねた蹴り合いが多い展開となる。ただ、両チームともカウンターアタックを得意とする走り自慢のランナーが揃っているため、いずれ継続攻撃のスイッチが入るのは時間の問題。最初に攻勢に出て主導権を握ったのはFWのパワーに勝る東海大だった。

開始から1分にも満たない段階でカウンターアタックから始まった東海大の攻撃が延々と続く。ここで東海大の見せたアタックがちょっと驚きだった。FWで2ユニットを組んでのシェイプ。リーグ戦Gで明確にこの形のアタックを観たのは一昨年の拓大(対立教大戦)だったが、東海大がこの形を使うのは意外。というのも、この戦術はどちらかと言えばFW戦で劣勢を強いられるチームがBKに展開する前にワンクッション入れる、あるいは自陣でボールキープを意図する場合に使われることが多いと感じるから。大東大にしても、SHからのパスの供給先のひとつとして近場にFWの塊があると言った感じになっている。

この試合での東海大の場合は、BKにボールを渡す前に手数を踏むことが、逆にアタックのテンポが遅くしているような印象を受けた。FW1人1人の力を比べたら明らかに東海大の方が上で、決まりごとのような形でFWのユニットでボールキープをする必要性もあまり感じられない。帝京の洗練されたスタイルは別格としても、その他の大学が使っている形に比べると、選手個々が自分の位置を確認しながらユニットを組んでいる感じで、戦術としてはこなれていないような印象も受けた。

ディフェンスする側の筑波にしても、怖いのはむしろ個人個人でガチガチ身体をあててこられる方だと思う。対抗戦Gで帝京他の強いFWとの闘いに慣れている筑波にとって、FWが塊で来てくれる方がディフェンスの的が絞りやすいし、アタックのテンポも上がらないから対応しやすいように思われる。実際に、東海大のFWを中心としたアタックは筑波のディフェンスの組織を乱すまでには至らず、ミスでボールを後ろに下げられたりしながらもボールは保持し続ける状態が続く。

しかし、ホイッスルが吹かれないまま時計が進んだ4分、東海大はモールを起点とした展開からFBの野口竜司が筑波のディフェンスをこじ開けることに成功してゴールラインまで駆け抜ける。CTB井波、両WTBの小原、近藤に混じっても落ち着きはらったプレーぶりでとてもルーキーとは思えない。東海大の強力なFWによるパワフルなアタックが続く。7分のファーストスクラムで筑波の泣き所が露わとなる。ほぼ電車道でスクラムを押し込んだ東海大は、FWを中心として強力なタテ攻撃でボール支配を続ける。そして10分、東海大はゴール前でモールを形成してそのまま押し込みNo.8金堂がトライ。GKも成功して東海大のリードは14点に拡がった。

パワフルな東海大FWのアタックに防戦一方だった筑波だが、14分にカウンターアタックから反撃の糸口を掴む。東海大のPKがノータッチとなったところで、筑波のFB久内が自陣奥深くから蹴らずに前進を図り、ディフェンダーをかわしながら東海大陣10mライン付近まで到達してウラにキック。ここで東海大にレイトチャージの反則があり、以後10分間は筑波大が東海大陣奥深くでゴールを目指す時間帯となる。しかしながら、東海大FWもここはしっかり守り、筑波に得点を許さない。ここまで、お互いにミス(ノックオン)はあってもそれが鋭いカウンターアタックの起点となる形で攻防が続き、あっと言う間に時間が経ってしまう。筑波のディフェンスで予想を上回る頑張りを見せてこともあり、見応えのあるゲームとなった。

ウォーターブレイクの後の25分、筑波は東海大陣10m付近のラインアウトを起点として右オープンに展開。No.8横山が横走りのような形になりながらもキープし続けたボールはさらに右へと展開される。そして、最後は大外で満を持していた竹中にラストパスが渡り、竹中は持ち前のランで東海大のタックラーをかわしながらゴールラインまで到達。GKも成功し筑波が7点を返した。相手が強力なランナーとは言え、東海大のディフェンス面での不安が露呈された形。なお、筑波のFB久内は負傷のため25分にベンチに退き、筑波は貴重な主力級選手のひとりを失うこととなった。

エースのトライで筑波に元気が出たと思わせたのも束の間、東海大FWの勢いは止まらない。東海大は筑波の反則により得た筑波ゴール前でのラインアウトのチャンスからモールを形成し一気に押し込む。両チームのFWで構成された大きな塊は筑波ゴール前に向かってグングン加速していき、崩れれば反則(モールコラプシング)というよりも危険という水準にまで達する。筑波はそのまま後退し続けるしかなく、東海大のPR3平野がトライ。GKも成功で東海大のリードは再び14点に拡がった。東海大の勢いは止まらない。ここで主役になったのはWTBの小原。いい形でボールを持たせたら学生レベルでは止められない。小原はリスタートのキックオフに対するカウンターアタックからタックラーをはね飛ばしながら前進を続けて筑波陣22m手前までボールを運ぶ。ここはノットリリースの反則があり得点に至らないが、筑波に対しては名刺代わりの一撃となった。

33分には東海大にこの日もっとも美しい形でのトライが生まれる。起点はHWL付近左サイドのスクラムで、安定した球出しからCTB井波が絶妙のタメを作りライン参加したFB野口竜司にパス。パスを受けた野口は一気にウラに抜けて完全なオーバーラップを作り、大外に控えたWTB近藤にラストパスを送る。東海大が誇るバックスリーの一角を占めるランナーを遮るものは何もなかった。GKは失敗するが26-7と東海大のリードは19点に拡がった。鮮やかなトライに感嘆するとともに、複雑な気持ちにもなってしまった。東海大が序盤に見せたようなFWで手数をかけたアタックでなくてもセットからのワンプレーで簡単にトライが取れてしまったことに対して。

結論から言うと、東海はFWに固執せず、BKに展開してボールを動かし続けた方がいいのではないかということ。もちろん、いくらFWのセットプレーが安定しているからと言って、一発で取れる保証はない。FWから少し離れたCTBでポイントを作るとか、FWの強さを活かしながら安定したボールをBKに供給し続けることで必ずオーバーラップを作ることができ、強力なWTBでトライが奪える。超強力なFWを持ちながらも、どちらかと言えば彼らを黒子のような形にして判で押したようにWTBで取る形を確立したのが帝京だが、東海にも同じことができる。いや、そうしないと本当に黄金のバックスリーが宝の持ち腐れのようになってしまう。

このまま東海大が優勢のうちに前半が終わるかと思われたが、終了間際に筑波がテンポのいいアタックで反撃を見せる。東海大陣22m付近でのスクラムから8→9を起点として左右に揺さぶりをかけ、最後はタイミング良くパスを受け取ったSO野口がディフェンダーを振り切ってゴール中央に駆け込んだ。GK成功で14-26と、圧勝ムードの中にも課題のディフェンスの不安が露呈した形で前半が終わった。



◆後半の戦い ~東海大が筑波を圧倒するもディフェンスの課題も明らかに~

東海大は後半からSH松島に代えて突破力のある湯本を起用。どちらを正SHにするかで東海大の戦術はかなり変わるが、アタックのバリエーションを増やす意味もあると思う。ただ、ひとつ思うことは、去年と同じで今年の東海大も素早くボールをBKに預けた方が攻撃の破壊力が増すはず。FWでワンクッションあるいはツークッション入れることなど、戦術の幅を拡げることが迷いに繋がっていないだろうか。SHの交代にそんなことを思った。

さて、東海大がFW戦で筑波を圧倒したこともあって点差以上に力の差が感じられた前半。しかし、10点のビハインドなら筑波の健闘と言える試合展開。気持ちを新たにして後半の闘いに臨んだ筑波だったが、開始早々に東海大に追加点を許す。その発端となったのは自陣22m付近でのマイボールラインアウト。モールを形成してボールキープを図ったものの、東海大のLOダラス・タタナに上からボールをもぎ取られてしまう。東海大はダラスが奪取したボールをオープンに展開し、あとは大外に位置した小原がボールを持って走るだけの状況に持ち込む。しかし、ここで小原がまさかのスリップダウンでパスされたボールがそのままタッチラインを割り筑波は命拾いする。ダラスは先輩のリーチのような華はないかも知れないが、FWの核としてしっかり働く仕事人。もっと評価されていいように思う。

ピンチを脱したかに見えた筑波だったが、マイボールラインアウトでノックオンを犯す。東海大は安定したスクラムからボールを左オープンに展開し、ライン参加したFB野口竜司を経てラストパスが左WTB近藤に渡る。前が完全に開いた状況となり近藤は難なくトライラインを越える。前半にFWに拘る形でフェイズを重ね、時間をかけてボールをゴールラインまで持ち込んでいたのがウソのようにセットプレーから一発でトライ。その後、東海大のFWはシェイプを使うこともなくなり、前半とは別のチームになったような感じ。何とも複雑な心境になってしまう。もっとも、前半の序盤で筑波のFWを消耗させたことがノーマークに近い形のトライを生んだとも言える。GKも成功で東海大のリードは19点に拡がった。

後半も早い段階で先に点を取ったことで、東海大の攻撃が爆発するかと思われた。しかしながら、筑波も鋭いタックルを武器としてしぶとく反撃を試みる。東海大のアタックが剛球一本勝負といった感じなのに対し、筑波はコンタクトの前にフェイクを入れるなどしてタックルの芯をずらす変化技で対抗する。ここで、東海大のディフェンスの弱点が露呈する。筑波の選手は前方に立ちふさがる東海大の2人のディフェンダーの間を突こうとするのだが、東海大は2人が譲り合うような形になり、止めることはできても前にボールを運ばれる形になってしまう。筑波としては、とくに東海大を意識したわけではなく、対抗戦Gの試合でやっていることをそのまま実行しているだけと思われるが、東海大にも通用してしまった形。ディフェンスを破られる訳ではないが、ボールを前に運ばれて後退を余儀なくされていたことは確か。ノミネートがしっかりできているのか?とか、相手を捕まえた後の体勢など組織的な連携に不安を感じさせる一コマではあった。

筑波は久内がピッチを去った後は竹中が1人エースの形で奮闘するのだが、東海はなかなか竹中を止められない。もっとも象徴的なシーンは4人のディフェンダーが居ながら、その4人がことごとく「竹中ウォッチャー」になってしまい突破を許したこと。東海大はディフェンスの強化が課題であることはわかっていて、そのための練習も積んでいるはずだが何故だろう。ふと思ったことは、ディフェンスをうまくやることを意識するあまり、複数人での連携が必要となる場面でかえって練習通りの自然な動きができなくなっているのではないかということ。おそらく、この日も試合後にはディフェスミスについて、コーチ陣から選手達が指導を受けたことと思われる。大事な局面で選手達の頭の中にコーチ陣の険しい表情が浮かんでくるようなことはないのだろうかと思ってしまった。

後半もなかなか得点が生まれない状況の中で20分が経過。東海大は筑波陣ゴール前のラインアウトからモールを形成してそのまま押し込みトライを奪いリードを26点に拡げる。勝利が確定したところであとは東海大がいろいろな攻撃パターンを試してもよい時間帯となるが、暑さの中で両チームの選手に疲れが出たためか試合は膠着状態となる。そして、終了間際の39分、筑波が自陣ゴール前でのスクラムを起点として最後の反撃を試みる。しかし、ここでハンドリングエラーがあり、こぼれ球を拾った東海大が難なくゴールラインまでボールを運ぶ。右隅からのGKを後半22分から野口に代わってSOとしてピッチに立った金が成功させ、47-14がファイナルスコアとなった。東海大は春季大会を圧勝という形で終了したが、秋のリーグ戦に向けての課題も見つかった試合だったように思う。一方の筑波はメンバー構成から考えて手応えが掴めた試合と言えそう。秋のシーズンには目崎、山本、松下主将、山下一そして福岡といった主力選手達プラスアルファがメンバーに加わることを考えれば、期待が膨らんだと言ってもよさそうだ。



◆完敗の中にもディフェンスに持ち味を発揮した筑波

やはり平均体重で10kg近く軽いFWのパワーの差は如何ともしがたく、ボールを支配されて強力なバックスリーに翻弄され完敗を喫した筑波。と書きたいところだが、セットプレーは別にして意外なほど筑波はFW戦で健闘を見せたという印象が強い。前半開始直後から続いた東海大FWの波状攻撃にもなかなかゲインライン突破を許さないディフェンスは見応えがあった。1人目のタックラーが芯に低く入って前進を許さず、2人目、3人目がラックにしっかり絡んで攻撃のテンポを遅らせるから組織の破綻が起きない。選手間で意思統一を図り、コミュニケーションをしっかりとることが体格面で劣勢を強いられる筑波の生命線と言える。アタックではボールをテンポ良く動かすことで東海大の組織ディフェンスを乱し、決定力のあるランナーが揃う大外で勝負というコンセプトが明確になっている。今年も秋のシーズン前半が勝負という形になる筑波だが、「4連勝」を目指して頑張って欲しいところ。上で名前を挙げた主力選手が戦列復帰を果たせばそれも夢ではないと思う。



◆圧勝劇の中にも戦術面でのちぐはぐさが垣間見えた東海大

春季大会の最終戦で筑波に圧勝し、順調な仕上がりを示した東海大で間違いないとは思う。しかし、戦術面でちぐはぐな部分が見え、そこが秋のシーズンから冬に向けての不安材料となりそうな予感がする。東海大のセールスポイントは、自他共に認める高い決定力を誇る大学随一とも言えるバックスリー。石井が戦列復帰を果たせば完璧だし、攻守に活躍した新人の野口竜司はレギュラーの座を奪い取ってしまう可能性も感じさせる逸材。しかし、この日の試合ぶりを見る限り、東海大の目指す形は「シンプルにできるだけいい形でバックスリーにボールを渡してフィニッシャーにすること」だけではなさそうだ。看板のバックスリーに負けまいとFWが存在感を見せようとしたことが前半の戦いぶりから伺える。それはそれでいいと思うのだが、少し無理があるように感じたのは気のせいだろうか。

端的に言ってしまうと、東海大の戦術は最終的に誰が決めているのだろうか?というここ数年来抱いている疑問点に行き着く。公式ホームページに掲載されたスタッフの陣容は、木村監督の下にコーチ陣がずらりと並ぶ豪華なもの。さらに東海大仰星高校で実績を挙げた土井氏がテクニカルアドバイザーとしてチームを見ている。しかし、このように多くの目が光っている中で、チームは「船頭多くして」という状況になっていないだろうかと危惧する。例えば、大東大。青柳監督の下でチームを見ているのは山内コーチのみのシンプルな体制となっている。ラグビーマガジンのインタビューで「1人で大変ではないですか?」と問われたときに、山内氏は「自分ひとりで見ることでチームに統一感が生まれる」と答えていたと記憶する。谷崎体制が2年目となった法政にしても、今年は統一感があるチーム作りがなされているように感じるし、流経大も永年の経験を活かしてバランスのとれたチームが出来上がろうとしている。東海大は首脳陣のベクトルが合えば最強のチームになるが、意思疎通の乱れが出ればその影響が選手に及んで十分な力が発揮されなくなることも考えられる。取り越し苦労とは思うものの、この日の筑波との戦いぶりを見てそんなことを思った。
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流通経済大学 vs 法政大学(第24回千葉県ラグビーまつり-2014.6.15)の感想

2014-06-18 03:13:18 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


4月中旬から始まった関東春季大会もいよいよ大詰めで、来週末が最終節。少なくともリーグ戦G所属校については、各チームの試合をひとつは観ることを目標に毎週あちこちのグランドに足を運んでいるのだが、残り2節というところで流経大、東海大、日大の3校が残ってしまった。そんな中で各チームの残りの試合日程を調べていたら、第24回千葉県ラグビーまつりのメインイベントとして流経大と法政の試合が組まれていることがわかった。

もちろん、この試合は、公式戦ではなくてオープン戦のひとつ。しかしながら、両チームにとっては、レギュラーシーズン前に相手の力とプレイヤーについて把握できるチャンスと言える。お互いに手の内は見せたくないが、相手のことは少しでも知っておきたい。また、たとえ練習試合ではあっても、試合内容が良くなければファンは納得しない。それにこの2チームの戦いは因縁の対決といった部分があり、選手達に自然にスイッチが入り、白熱した試合になることは十二分に期待できる。私的にも、15人で戦う(セブンズで猛威を奮った)流経大を春の段階で観ておきたいし、法政は不完全燃焼に終わった感が強い緒戦(筑波戦)の後、どのような形でチーム作りを進めてきたかも気になるところ。

そんな理由を付けるまでもなく、千葉県印西市にある松山下公園陸上競技場に足は向かっていた。競技場のすぐそばの木下(きおろし)街道は昔々仕事で何度も車を走らせたことがあるし、ここは千葉県でラグビーの試合によく使われる競技場だが、試合観戦はこの日が初めて。車で行くには少し遠いのでJR成田線の木下駅から「ふれあいバス」に乗って行くことにした。工事渋滞があったため予定より10分くらい遅れたがキックオフの40分くらい前に試合会場に到着。好天に恵まれたため、強い日差しの下での観戦を強いられるが、少し強めの風が身体に心地よく、熱中症の心配もなさそう。試合観戦を重ねる中で顔なじみとなった(とっても)熱心な法政ファンの方々が陣取るサイドに座ってキックオフを待った。



◆ほぼベストメンバーの両チーム/ガチンコ対決を前に胸は高鳴る

この試合は公式試合ではないので、事前に法政のサイトからメンバー表をプリントアウトし、流経大のメンバーはツイッターで確認した。公式試合でない場合の情報収集もしやすくなった。試合会場にはプログラムも用意されていたが、試合前に脳内シュミレーションを楽しむためにも、少しでも早く出場メンバーは把握しておきたい。

流経大は、HO植村やNo.8高森といった看板スターが抜けるなど、FWの選手が昨年から半分以上入れ替わったフレッシュな陣容となっている。しかしながら、体重3ケタ台の選手が8人中6人で、しかもうち3人は110kgを超える。上背はないが見るからにガッチリ系の選手達の集団は迫力満点。やはりリーグ戦GのNo.1FWは今年も流経大ということになるだろう。そのFWの注目ポイントは学生最強FWのひとり、リサレ・ジョージが今シーズンはNo.8に固定されたこと。強力なFLとして自在に暴れ回っていたイメージの強いリサレだが、No.8となると動き方が違ってくるはずで、どんなプレーを見せてくれるだろうか。

BKの注目点はセブンズの代表メンバーにも招集された合谷弟(明弘)のポジション。合谷は9番から15番までBKならどこでも高いレベルでこなせるユーティリティプレイヤーとしてもピカイチの選手だが、ベストポジションはどこなのだろうかと想像を巡らせるだけでも楽しい。私的にはSHだったら面白いかなとずっと思っているが、今シーズンは12番を背負ってインサイドセンターを担うことが多くなりそうだ。CTBでコンビを組むのはパワー系ながらSOやWTBもできるシオネ・テアウパで、今シーズンの流経大は攪乱系の12番とペネトレータータイプの13番の凸凹コンビを中心とした硬軟織り交ぜたアタックを持ち味とするチームを目指しているのかも知れない。セブンズの活躍でお馴染みのリリダム・ジョセファは欠場だが、合谷兄、桑江、そして本日はベンチスタートの八文字といった魅力的なランナーが揃った陣容になっている。かつてはBKの決定力不足に泣かされ続けていたことが信じられないようなメンバーが揃っているのがここ数年の流経大と言える。

しかしながら、豪華メンバーが揃っているという面では、やはり軍配を法政の方に挙げたくなる。HOの小池は欠場だが、西内(兄)主将に次代を担うLO牧野内、FLの西内弟(いずれも2年生)や堺(3年)の後ろ4人は強力だ。とくに先発で観るのは初めての牧野内のプレーが楽しみ。最近はFWながらプレースキックも任される活躍ぶりだが、距離が出る安定したキックを見たらそれも納得させられてしまう。法政FWの課題は強力なPR陣が卒業したスクラムだろうか。

さて、ここ数年、法政はBKの展開よりもFWで強力にボールを前に運ぶチームへとモデルチェンジした(してしまった)感がある。だが、半井(高速ランナー)、金(強力タックラー)、大塚(強力な突破役)、東川(期待のルーキー)と並べてみると、いよいよ黄金のBKが復活と言いたくなる衝動に駆られる。となると、やはり注目したくなるのは、どうしてもBKアタックの鍵を握るHB団ということになってしまう。SHは当初はスタメンだった大政がベンチスタートとなり、春季大会3戦目からは金子が先発を務めている。SOは井上で固定のようだが、22番を付けた和田もセブンズでの活躍の印象があり捨てがたい魅力がある。おそらくは実戦での最終テストとなるこの試合で彼らがどんな結果を出すのだろうか。



◆前半の戦い ~FWのタテとBKのヨコがかみ合い、アタックに進化を見せた法政~

メインスタンドから見て右から左にやや強い風が吹く中、風上に陣取った流経大のキックオフで試合が始まった。法政は自陣からもキックを封印してアタックを試みる。この段階ですぐに約2ヶ月前の筑波戦で観た法政とは違うことがわかった。簡単に言うと、チームとしてのアタックの形が整ってきたと言うこと。FWのタテとBKのヨコをテンポ良く結びつけたシンプルなアタックではあるのだが、HB団の部分で迷いがなくボールが前に運ばれる。ラインも心持ち狭めて確実にパスを繋いでいく。ただ、流経大も組織的な破綻の少ないDFで対抗できるチームのため、最後はミスで終わってしまうのだが、ここ数年来の法政に対する負のイメージが払拭されたかのようなオープニングだった。

しかし、そんな法政に対抗するかのように流経大も法政のミス(ノックオン)に乗じてBK展開主体の連続攻撃で攻め上がる。直球系の法政に対し、流経大はクセ玉(合谷弟)あり、剛球(シオネ)ありと言った感じなのだが、個人で相手DFをこじ開けることはひとまず封印して堅実に攻めると言った感じ。SH松永(3年)は自分でボールを持ち出すタイプではないが、際どいボールもしっかりと捌けるため、アタックにいいリズムができている。流経大が法政陣22m付近までボールを運んだところで法政に反則があり、流経大がPKのチャンスを得る。

ここで流経大はショットでもラインアウトでもなくスクラムを選択。流経大FWが法政FWをぐいっと押し込んだところでNo.8リサレが8単でゴールを目指すが、法政はFWが強力なプレッシャーを受けたこともあり、殆ど抵抗できずにあっさりとトライを許してしまった。合谷のGKも成功して流経大が7点を先制。この段階でスクラムの劣勢が明らかとなり、一番警戒すべき形で取られてしまった法政はショックが大きかったに違いない。ちなみにリサレのNo.8としての動きはこの日の注目点のひとつだったが、とくに目立ったのはこの場面くらい。自由に暴れ回ることができたFLとは違い、No.8は最後尾からFWをまとめる役割も担っていることから、リサレは考え方を変えたのかも知れない。もっともこの日の流経大はFWでゴリゴリは封印してBK展開指向だったからエイトが目立たなかった面もありそう。いずれにせよリサレがエイトの感覚に慣れれば怖い選手になることは間違いないだろう。

リスタートのキックオフで法政はこぼれ球の確保に成功して流経大陣に攻め込む。法政が22m付近までボールを持ち込んだところで流経大にノットロールアウェイの反則。PKの位置はゴール正面だったが、法政はゴール前でのラインアウトを選択する。ここでロングスローからピールオフの形でボールを受け取ったLO牧野内が一気にゴールラインまで到達し法政が1トライを返す。ここで牧野内がそのままプレースキッカーを務め7点をゲットした。牧野内はHWL付近からでもGKを決めることができるスーパーブーツだが、その後も本職のLOの方で大活躍する。もちろん法政FWの看板スターは西内主将なのだが、既に牧野内があたかも中心選手になったかのような存在感を示している。性格的にも周囲の人間を引きつけるような魅力ありそうで、次代(とりあえずは2019)を担うスター誕生といったところだろうか。

あっさり1本返されてしまった流経大だが、再び強力なスクラムを起点としてトライを奪う。11分、法政陣10m/22m右サイドのスクラムから左オープンに展開。まずCTB12の合谷がDFを攪乱する形で前進を図り、パスを受けたCTB13のシオネがタテを突き安定したラック。ここからボールはさらに左へと展開されたところで法政DFにできたギャップを突く形でライン参加したFB桑江がトライラインを越えた。GK成功で流経大が再び14-7とリードを7点に拡げるが、流経大にとっては1次攻撃で意図したプレーができたと言えそうだ。フェイズを重ねられたときに、体勢を崩さずに守れるかどうかの違いが明暗を分ける形はその後も続く。

流経大が7点をリードしたところで試合は膠着状態となるが、18分に法政がHWLを起点として怒涛の攻めを見せて流経大陣22m付近まで攻め上がったところで流経大に反則。法政はここもショットを選択せずゴール前のラインアウトから今度はモールを形成して押し込みトライ。ボールをグラウンディングしたのは何とWTBの半井だった。スピードを活かす彼本来の形ではないもののトライはトライ。牧野内のGKも決まり再び14-14とゲームは振り出しに戻る。法政はこのまま波に乗りたいところだがリスタートのキックオフで痛いミスを犯す。ハイボールの競り合いで危険なタックルの反則を犯し、流経大はPKから法政陣22mでのラインアウトを選択。流経大はここでもFWには拘らずにオープン展開で攻め、最後はCTBシオネがトライラインを越えた。GKは失敗するが19-14と流経大が再度リードを奪う。

試合は再度膠着状態に陥るが、優勢だったのは牧野内らのタテ突破が活きた法政の方。ただ、法政はあと一本が決められずに流経大の白い壁に押し返される。そんな中で前半も終了間際となった39分、流経大は法政陣10m/22m右サイドのスクラムを起点としてBKに展開し左WTB杉森がトライ。GKは失敗するが、流経大は24-14とリードを10点に拡げた。44分には流経大が自陣HWL付近で反則を犯したところで、法政は牧野内が右サイドから50m近い距離のPGを狙うが、ボールはゴール手前で落ちる。結局、前半はこのままのスコアで終了。暑い天候の中、両チームが40分を通してキックをほぼ封印してBK展開で攻め合うラグビーは暑さを忘れさせるくらい見応えがあった。



◆後半の戦い ~手堅くまとめた流経大が順当に勝利/選手交代で課題が明確になった法政~

ハーフタイムのときに法政ファンの方から「今年はどうですか?」と声をかけられた。去年の今頃と比べたらチーム状態がいいのは明らかだし、2ヶ月前に観戦した筑波戦に比べてもチームが出来上がってきていると感じたので、「東海を観てからになりますが、(上位は)行けると思います。」とお答えした。法政ファンの方の顔に一瞬安堵の表情が浮かんだものの、「本当ですか?」と今一歩信じきれない様子だった。無理もない。ここ数年、法政ファンにとって安心して観ていられる試合は少なかったはずだから。

さて、後半。流経大がいきなりチャンスを掴む。1分、法政が反則を重ねてゴール前で得たPKで流経大はスクラムを選択。前半の勢いから行けば、問題なくプッシュオーバートライのはずだった。しかしながら、流経大の選手のがボールを足に当ててキック?してしまい、グラウンディングする前にボールはゴールラインを越えてしまった。珍プレーのような形のドロップアウトで法政が命拾いする。リスタートのドロップキックに対するカウンターアタックから流経大は再び法政ゴールを脅かすがオフサイド。法政はピンチを脱したかに見えた。

今度は法政が流経大陣10m付近でのラインアウトから反撃の機会を窺う。ここで、法政はSH金子に代えて大政、FB小澤に代えて和田(ポジションはSO)を投入。ここのところ2番手のSHとして後半の早い時間帯に登場する形になっている大政にとっては、先発に戻るためのラストチャンスということかも知れない。当然気合が入っているはず。しかし、間が悪いとしかいいようのないタイミングで法政が失点してしまう。ラインアウトから順目に2回オープンに展開したところでゴロパントが流経大のディフェンダーに引っ掛かる。流経大の左WTB杉森がこぼれ球を拾って一気に50mを駆け抜けてゴール中央へ。流経大は相手にプレゼントしてもらった形で難なく7点を追加して31-14となる。

それにしても、せっかくピンチを脱して押せ押せムードになりかけていたのに、法政にとっては何とも残念としか言いようのないプレー。ディフェンダーがアンブレラ気味に前に詰めて来たところで後ろが開いたのが見えたから蹴ったのだろうが、この状況のキックが上手くいったのを観たことは殆どない。というか、逆に前掛かりになっているため大ピンチとなり、一発でゴールラインまで走られてしまうことの方が多い。右サイドは開いていたが、左側にはフォロー可能な味方選手が居る状況でリスキーなプレーに走る必要はまったくなかった。

しかし、追加点を奪われてもどちらかと言えばペースを握っていたのはFWが頑張る法政だった。後半から登場した大政がアピールの機会を逃すまいとボールを持ち出すプレーが増えてくる。だが、この意気込みが裏目に出てしまう。ここで、前半はスムースにボールが動いていたのは、金子が小細工をせずに地味なパッサーに徹していたためとわかる。FWにもBKにも突破役が揃っている今の法政に必要なSHは(目立つ必要はなく)テンポ良くボールを確実に捌ける選手。

能力の高い選手に余裕を持たせることで個の力が活かされるのが才能集団の持ち味と言うべきか。スタメン復帰を目指して頑張っている選手には酷かも知れないが、そんなことを思った。逆に言えば、大政は前半の金子のプレーを参考にすることで自分の持ち味を活かすこと可能になるとも言える。リーグ戦Gの看板スターになった大東大の小山や中央大の住吉といった「隙あらばウラへ」が売り物のSH達にしても、まずは球裁きに徹するスタンスだからこそ、ここ一発で卓越したランニング能力が活きる形になっている。

両チームとも得点を挙げられないまま時計はどんどん進む。試合が終盤にさしかかった29分、法政にまたしても残念な形で失点する。流経大陣10m/22mの位置でのスクラムからのオープン展開でノックオンしたボールを流経大のCTBシオネに拾われてそのまま約60m走られてしまった。GKは失敗するものの36-14と残り時間から見ても勝負ありとなってしまった。39分に法政がPKからの速攻で一矢報いるものの、終了間際の43分に流経大がこの日の戦いぶりを象徴するようなBK展開を見せてFB桑江がトライ。最終スコアは43-21の流経大の圧勝という形となった。



◆手堅いラグビーに徹した流経大/合谷のベストポジションは?

ここ数年来の流経大のラグビーは、イシレリであったり、高森であったり、リリダムであったり、リサレであったり、合谷であったりといったように固有名詞で語られることが多かったように思う。1部リーグ昇格時のように、全員ラグビーでゴールを目指すスタイルからは大きく様変わりしたとも言える。緻密な組織力からスタートしたラグビーがいつしか個人能力頼みに近いラグビーへと変貌を遂げるももの、なかなか結果が出せないジレンマに陥っていたとも言えそう。

そう思うと、この日の流経大が見せたラグビーはいい意味で固有名詞を書く必要が殆どないラグビーだったと言える。リサレにしても合谷にしても、強引に突破を図るようなシーンは少なく、流経大はBK展開で確実に繋ぐラグビーに徹していたことが強く印象に残った。個の力が突出するラグビーはややもすればバランスの悪い安定感を欠いたラグビーになりがち。流経大が春シーズンを締めくくるにあたって、自分達のラグビーを見直すことにしたというのは穿ち過ぎだろうか。対戦相手はリーグ戦の強力なライバル校だが、手の内を見せない(隠してもすぐにわかってしまうが)というような意図はなかったと思う。攻守ともシステマチックなバランスのいいラグビーを80分間やり通せたのは大きな収穫だったかも知れない。

さて、合谷のベストポジションだが、私的結論は12番ということになった。「な~んだ」と言われてしまいそうだが、合谷のユニフォームに付いている12番は特別な番号だ。それは状況に応じて9番から15番までめまぐるしく変わる誰も付けることができない番号。偶然かも知れないが、12番は9番から数えても15番から数えても4番目の番号。冗談はさておき、シオネを13番に固定することでBKラインの骨格ができ、合谷が自由自在に動き回ることを可能にしたとは言えないだろうか。合谷はSHのようなFWに近いところよりも少し後ろから全体を見る形でより高い能力を発揮出来そうな気がする。流経大のアタックがレギュラーシーズンにどのような形になっているかが楽しみになってきた。



◆法政ファンは元気を取り戻せるか?/才能集団のチームの創り方

法政の試合を観ていてずっと気になっていたことがある。それは熱心なファンの方々が年々元気をなくしていくように見えること。原因ははっきりしている。選手達は頑張っているにもかかわらず、ずっと結果を出せないで来ていること。リーグ戦Gウォッチャーとしては、何とか法政ファンに元気(自信)を取り戻して欲しいと願っている。対抗戦G上位校との実力差が顕著となっていく中でリーグ戦Gを活性化させるためには、高いレベルでの争いが求められる。そのためにも法政が本来の力を発揮することが必須だと思うのだ。

さて、今年こそは法政ファンは元気を取り戻せるだろうか? 結論から言うとその確率は高いと予想する。首脳陣の考え方次第の部分もあるのであえて70%としておくが本当は100%と言いたい。確かにこの試合はダブルスコアの完敗に終わっている。しかし、どうすればチームがうまく機能するか(機能しないか)がはっきりしたと言う意味で、価値がある戦いだったように思う。今まで観た中ではリーグ戦Gで一番伸びしろを感じたことも確か。それでなくても、法政は他校もうらやむような才能集団。流経大のようなシステマチックなラグビーよりも、多少ぎくしゃくはしていても、個々が活き活きとしてプレー出来るようなラグビーが一番似合う。そのためにも(小細工はせずに)シンプルに剛球勝負に徹したらいいと思う。変化技はここぞと言うときに使えばいいのだから。

内容から言えばベストゲームではないが、両チームの対照的な戦いぶりに強いインパクトを受けたことは確か。秋の本シーズンがかなり楽しみになってきた。
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立正大学 vs 拓殖大学(第3回関東大学春季大会-2014.6.1)の感想

2014-06-10 02:24:33 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


今年で3回目を迎える関東大学の春季大会。去年からはA、B、Cの3つのグループにカテゴライズされて総当たりのリーグ戦方式となった。3つのカテゴリーを比較してみると、どうしても話題は帝京や早稲田を中心としたA、そして今年はリーグ戦Gの伝統校(東海、日大、法政)がひしめく形となったBに集中しがち。それに引き替え、リーグ戦Gと対抗戦Gの格差(Aの戦績から考えたら逆格差とも言える)が残酷なくらい明確になっているCは、もともと下部リーグに所属するチームをひとつ含むリーグ戦Gと対抗戦Gの下位校を集めたグループだからどうしても注目度は低くなってしまう。

だからといってCは面白くないだろうか? いやそんなことはけしてない。少なくともリーグ戦G校を中心にラグビーを観ているウォッチャーにとっては、実質的にリーグ戦G3チームに立教を加えた4チームの争いになっている現状でも十分に楽しめる。昨シーズンには入替戦を経験し、上位進出に向けてチームの建て直し(あるいは戦力アップ)を目指す2チームと1部昇格(あるいは復帰)を目指す1チームによる「熱き戦い」が繰り広げられるという点では、AやBより白熱した戦いになる場合もありえる。

ちなみに、一昨年だとチーム改革に成功して3位にまで上り詰めるきっかけを掴んだ拓大の試合(対立教大)、昨年なら、首脳陣交替を機に、革命的とも言えるチーム改革を断行して3位に浮上した大東大(対立正大)の試合は、いずれも私的には強烈なインパクトを残している。試合を観るにあたって、個人としてもチームとしても上を目指して頑張っている選手達の真剣な眼差しから伝わってくるものがたくさんあるのがCの戦いの面白さと言えるのではないだろうか。



◆熱い試合を期待して暑い立正グランドへ

この日は、東海vs法政、流経vs大東といったリーグ戦G所属校同士の直接対決など、観たいカードが目白押しの中でどこに行くか迷う状況だった。しかし、秋のレギュラーシーズンのことを考えると、2部に落ちた拓大の試合を観るチャンスはどうしても減ってしまう。一度は惚れ込んだチームのことを思うと何だか寂しくなり、足は立正グランドに向かった。今回は熊谷駅からバスで行くことにしたのだが、日曜日なのにバスは15分に1本の間隔で運行されている。ちょうど駅の反対側にある熊谷ラグビー場へのアクセスのことを考えたら、大学のキャンパスがあるお陰で地域住民も利便性の面で恩恵を受けているように思ったりもした。

熊谷駅から10分あまりで終点の大学構内にあるバス停に到着。ここからキャンパスの建物を眺めながら真っ直ぐにラグビー場に向かう。ゲスト(拓大サイド)の応援席は手前側だが、スタンドにはいつも熱心に拓大を応援しているご夫妻が来ておられて早速挨拶を交わした。私がこのブログの作者であることを見破って下さったことが縁で、以来拓大の試合観戦の都度にいろいろと情報面でのサポートを頂いている。このご夫妻に限らず、拓大の応援席に座っている方々は、熱心な応援団であることは当然として、過度に熱くなることもなく冷静にラグビーを観ておられる方が多いと常々感じる。私自身も一番気持ちよくラグビーを観ることが出来るのは、実は拓大サイドの応援席に座ったときなのだ。やっぱり来てよかったと思った。



◆真夏を想わせる猛暑の中でメンバーを確認

もはや春シーズンとは言えないような真夏の日差しが照りつけるグラウンド。人工芝の上は照り返しで熱中症が心配されるような状態になっていないだろうか。しかし、両チームの選手達はそんな環境をものともせずアップに励んでいる。ホームの立正大はBKの要だったフンガバカ・ツトネが卒業し、この日出場する留学生はLOプライス・テビタ・エドウィンとFLフィララ・レイモンド(いずれも2年生)のコンビとなった。(ちなみに1年生にもうひとりSOの選手が居る。)

立正大も拓大もリーグ戦全体で見れば小柄な選手が多いチームだが、2人の100kg超の選手が居ることで立正大の方がどうしても大きく見えてしまう。また、ファーストジャージがオレンジ色のチーム同士の対戦のため拓大が黒のセカンドジャージを身に纏っているのだが、立正大の鮮やかなオレンジの方が明るい陽光に一際映えて見えることも確か。BKにセブンズで大活躍し、リーグ戦G屈指のエースに成長したWTB早川の名前が(春シーズンはずっとだが)リザーブにも見当たらないのが気になるが、立正大はまずはFWのパワーで勝負ということなのかも知れない。

拓大の新戦力はチームの大黒柱として4年間活躍したウヴェ・タウアテ・ヴァル・ヘルのあとを継ぐ形でチームに加わったシオネ・ラベマイ(190cm, 107kg)。体格面ではガリバーのような存在だったとウヴェと比べても遜色はなく、また、リーグ戦Gセブンズでは強烈なハンドオフでディフェンダーを吹っ飛ばすなどパワーがあるところを見せた。遠目にはウヴェとほとんど変わらない、というか、もし誰かが「ウヴェは留年してもう1年チームで頑張ることにしたそうだ。」とウソの情報を流しても疑う人はほとんど居そうにもないくらいに雰囲気がよく似ている。

拓大のもうひとりの注目選手は、スクラムの強さを評価されてU20メンバーに加わり、JWC昇格に貢献した右PRの具智元(2年)。しかし、具の陰に隠れては居るが左PR岡部、HO川俣主将は2年生からずっと拓大のFW第1列を担ってきた「ベテラン」であり、この3人で組むスクラムはリーグ戦G最強といっても良さそう。BKでは当初SHに茂野が予定されていたが、アクシデントがあったのか大崎が先発した。4年生ながら過去にAで出場したことが記憶にない選手で、BK展開指向の拓大にあってキーポジションとなっているSHとして機能できるかが気になるところ。

さて、拓大は今年も戦力面の上積みが望めない中、リザーブに前節に引き続きパトリック・ステイリンの名前があるのは明るい材料と言える。昨秋末から怪我で長く戦列を離れていたのだが、ずっとリザーブに登録されることもなかったので気を揉んでいた。そんなわけで、拓大の留学生にありがちな「もしや...」ではなくて胸をなで下ろした。そして、実は、スタメンの中に拓大には今後キーマンとしてチームの中心となって活躍することになりそうな選手が潜んでいたのだが、それは試合が始まってからすぐにわかることになる。



◆前半の戦い ~パワフルな留学生2人に翻弄されながらも持ちこたえた拓大~

キックオフ早々から、強力な留学生2人(エドウィンとレイモンド)を軸にした立正大FWのパワーが炸裂する。ある程度予想されたこととはいえ、2人でボールを運ぶだけで拓大はじりじりと後退を余儀なくされる。そこに走力のあるHO増田のタテ突破が絡むアタックはリーグ戦G屈指と言えるくらいパワフル。開始早々の3分、立正大は拓大陣10m付近のラインアウトを起点としてFWで力強くボールを前に運び、絶妙のタイミングでパスを受けたHO増田が一気にゴールラインまで駆け抜けた。GK成功で立正大が幸先良く先制する。続く6分、キックオフからの蹴り合いの後、立正大がカウンターアタックからまたしても「2人」を軸としたFWでボールを強力に前に運ぶ。ここでもHO増田が大きくゲインしLOエドウィンにフィニッシュを託した。おそらく、立正はこの形を武器とすべく準備(練習)を重ねてきたに違いない。わかっていても止められないアタックはリーグ戦Gの他チームも要警戒と言うことになるだろう。開始数分にして14-0とした立正大はこのまま得点を重ねて圧勝してしまいそうな凄みを感じさせた。

強烈な先制パンチを2発浴びてしまい0-14といきなり劣勢に立たされた拓大。だが、12月に再戦することになるかも知れないチームを相手として、このまま引き下がるわけにはいかない。リスタートのキックオフで立正が反則を犯したところをすかさずタップキックで攻め上がる。ウヴェの番号だった7番を引き継いだFLシオネが強力にボールを前に運び、前が開いて自分でも行けそうな状況が生まれる。しかしシオネは外側にフォローした左WTB林謙太に慎重にパスを渡してフィニッシュを託す。林は相手ディフェンダーをかわしながら左サイドを駆け抜けてゴールラインを越えた。GKは失敗するが、5-14と拓大が一矢報い、反撃への足がかりをつかむ。実はこの11番を付けた選手こそが、拓大のキーマンになることを確信させた選手だったのだ。

話をキックオフ前に戻す。拓大の応援席からは、ちょうど左サイドに位置した11番の選手(林謙太)が目の前に見えた。林はピッチに登場したときからチームメイトに指示を与えるなど、ひとかどの存在感を示していた。メンバー表を確認したら日大高校出身の2年生。ジャージがはち切れそうな引き締まった肉体を持ち、とても2年生とは思えない立ち居振る舞いに「どこか違う」と予感させるものが確かにあった。ちなみに、林は昨年もSOやFBでスタメン出場しているし、その試合は観ているのだがプレーは印象に残っていない。1年間で急成長を遂げたのかも知れない。

拓大が早い段階で1トライを返したことで(2発被弾して浮き足だってもおかしくなかった)拓大に落ち着きがでてくる。と同時になぜか血気盛んだった立正大も落ち着いてしまう。その原因として考えられるのが、11分に組まれたファーストスクラム。ここで拓大が立正大FWを電車道で押し込む。(もちろん立正も押されることは予想していて球出しには工夫をしていた。) 両チームとも体勢が崩れない中で真っ直ぐに押し込まれるスクラムにはなかなかお目にかかれない。それだけに強烈な印象が残った。普通ならスクラムは押し込む方が無理をして体勢を崩しがちなのだが、8人が1枚岩となって押し込んでしまったところに拓大のスクラムに対するこだわりを感じた。こんなきれいなスクラムを見たのは、リーグ戦Gでは阿多監督の日大以来だろうか。関西リーグなら全盛期の京産大のスクラムが思い浮かぶ。

教科書にもあるが、「自分の体重は自分で支えること」がスクラムの基本のはず。だが、最近のスクラムの傾向は、むしろ相手に寄りかかる形で、いかに自分達が有利な体勢で組めるかが勝負のようになっていると感じる。大きな事故に繋がりかねない危険と紙一重のスクラムとも言えそうなのだが、崩れても大事に至らないのは鍛えられたもの同士が組み合っているから。また、スクラムが強い方のチームが相手に差し込まれたときには、必ずと言っていいほど組み直しになることも不思議。相手に有利な状況が生じたら組み直しになるようにすることも高度な駆け引きになるのだろうか。そう考えると、スクラムの組み方のルール改正は、拓大のように8人で低くパックを固めて1枚岩で組む練習を積んでいるチームには有利に作用するものと考えたい。

さて、ファーストスクラムで「圧勝」したことが、拓大のFWだけでなくBKメンバーに安心感をもたらしたに違いない。序盤にペースを握られたとはいえ、拓大のビハインドは9点に過ぎない。ここから拓大のBK展開指向の早いテンポのアタックが機能するようになる。そのキープレーヤーとなったのはSHの大崎。ブレイクダウンの局面では相手に絡まれる前に素早くボールをBKに供給し続ける。自身で突破することはあまり考えず、ボールを捌くことに徹している感があるが、これが「シンプル・イズ・ベスト」を信条とする拓大の攻撃のリズムを生み出している。また、拓大では小柄(163cm)ながら、しばしば重心の低いランでビッグゲインを見せたCTB松崎もアタックにアクセントをもたらす。パトリックが完全復帰を果たしたら、拓大の攻撃力は去年よりも確実に上がるはず。ボールがテンポ良く動く中で、立正大はディフェンスに追われる展開となり、攻勢から一転して守勢の受け身に立たされることになってしまった。

ゲームの流れが拓大ペースに傾く中で、20分には拓大に伝統を受け継ぐようなトライが生まれる。立正陣ゴール前でのラインアウトから拓大はモールを形成。その最後尾にはボールを持ったシオネが前を伺いながら位置する。そのままゴールまでモールが押し込まれるかと思わせた瞬間、シオネがモールから離れてゴールラインへ。飛び出しのタイミングといい、走るコース(少しヨコに開いてからタテを突く)といい、まるでウヴェがシオネに乗り移ったかのようなトライだった。風貌だけでなく、性格的にもシオネはウヴェと似たところがありそうだ。少なくとも、むらっ気が多くて自滅と隣り合わせのタイプではなさそう。拓大の得意とする形はさらに4年間継承されることになった。

GK成功で12-14と拓大のビハインドは2点に縮まる。守勢に立たされたとはいえ、ホームの立正大もこのままずるずると失点を重ねるわけには行かない。真夏を想わせる日差しの中で、両チームがそれぞれ持ち味を活かした一進一退の攻防が繰り広げられる。25分、立正大は拓大陣22m付近でのラインアウトを起点としてオープン展開で攻めるもののノットリリースの反則。テンポ良くボールを展開する拓大に対し、立正大はブレイクダウンでプレッシャーを受けて反則を犯す場面が目立つようになってくる。

時計が30分を回る頃からは拓大の時間帯。立正大は自陣ゴールを背に耐える状況となるが、拓大も決め手を欠きなかなか逆転のためのトライが奪えない。逆に35分を過ぎると、追加点を奪って突き放したい立正大が猛攻を仕掛け、拓大は自陣ゴールを背にひたすら耐える展開となる。ここは拓大が粘り強いディフェンスで凌ぎきった。2トライを先行した立正大が一方的に押し切るかと思わせた序盤戦だったが、拓大が2トライを返して巻き返しに成功。以後は拮抗した展開となるものの、拓大がやや優位に立つ形で前半が終了した。



◆後半の戦い ~パトリックが復帰し、新エースが活躍した拓大が逆転で勝利を掴む~

僅か2点とは言え、リードしているのは立正大。後半も先に得点して試合を優位に進めたいところ。だが、拓大は後半からCTB具智允に代えてパト(パトリック・ステイリン)を投入し反撃体制を整える。キックオフから蹴り合いとなる中でそのパトがカウンターアタックから力強くボールを前に運ぶ。そしてボールは左サイドに位置した林に渡る。林はそのまま立正大のディフェンダーをかわしてゴールラインまでボールを運びノーホイッスルトライが成立。前半とは違ってスタンドからは遠いサイドでのプレーだが、林が自信を持って走っている様子はよくわかる。GKは失敗するが拓大が17-12と遂に逆転に成功。

時計の針が1分を指す前に拓大に逆転を許したことで立正大がヒートアップし、暑さを忘れさせるような激しいバトルとなる。3分、拓大が立正陣10mでのスクラムを起点としてオープン展開で攻め上がるも22mまで前進したところでノットロールアウェイ。立正大がPKで拓大陣に入ってラインアウトからBKでアタックを試みるがノックオン。拓大が自陣でのスクラムからNo.8に位置したシオネがウラに抜けるもラックでターンオーバー。立正大のエリア獲得を目指したキックがゴールラインを越えてドロップアウト、と攻守がめまぐるしく変わりボールが右に左にと大きく動く。

しかし、8分のリスタートで拓大に痛恨のミス。ドロップアウトからのキックがダイレクトタッチとなり、立正大は拓大陣22mでスクラムの絶好のチャンスを掴む。スクラムは劣勢だった立正大だが、ボールは失わず、FWでタテ攻撃を2回繰り返して最後はFLレイモンドがゴールにボールをねじ込む。GKも成功し21-17と立正大が再逆転に成功し試合の行方はわからなくなる。再びゲームは膠着状態となるが、暑さもあり、拓大の素早い展開に振り回された形の立正大選手の足が止まり始める。14分、拓大は立正陣22m付近のラインアウトからモールを形成し、シオネがゴールを目指すも一歩届かず。リスタートのドロップアウトからボールの確保に成功したレイモンドが左タッチライン沿いを力強く前進するもののHWL付近でタッチに押し出された。

拓大はHWL付近でのラインアウトからオープン展開で攻め上がり、フォローしたシオネがトライ。GKは失敗するが22-21と再々逆転に成功。リスタートのキックオフからカウンターアタックでボールを繋ぎ、またも林が左サイドを駆け抜け、この日3つめトライを奪いハットトリックを達成。頼りがいのあるエースの活躍で29-21(GK成功)と、拓大が一気にスパートする。拓大はオープン展開でボールを細かく繋ぎ、最後は左ストレート(WTB林のラン)で決めるという得点パターンを完成させた。立正も直後にSO原嶋主将が正面約30mのPGを決めて24-29と食い下がりを見せるがここまでだった。見た目にもFWの選手達の足が止まってきているのがわかる。リスタートのキックオフで林に4トライ目が生まれ、34-24と拓大のリードが10点に拡がった。せっかく得点しても、直後に失点、しかもノーホイッスルトライを奪われてしまうことで立正は波に乗れない。

残り時間が少なくなっていく中で、立正大に疲労の色が濃くなっていく。自陣での戦いを強いられ、反撃の糸口を掴めないまま時計が進む。そして迎えた39分、立正大が自陣10m/22mでのラインアウトからのオープン展開でミスを犯し、こぼれたボールを拾った拓大が逆襲。最後はステイリンがゴールまでボールを持ち込み、これがとどめのトライとなる。GKも成功し、41-24で拓大が勝利を掴み取った。とくに前半は立正大の2人の留学生らを軸としたパワフルなアタックが目立ったものの、全般的にゲームを支配したのはキックをほぼ封印してシンプルに素速くパスを繋ぐラグビーに徹した拓大。戦力が拮抗する中で勝敗を分けたのは、終始一貫した形で攻め続けることができたかどうかだったような印象を受けた。



◆幸先良くスタートを切った立正大だったが

立正大の協力かつ鮮やかな1、2パンチは見事だった。さらに連続でもう一発決めることができれば立正大が勝利を掴むことができたかも知れない。もちろん、本日はエースのWTB早川が不在だったこともあり、BKで取る形が作れなかったこともFW戦以外に攻め手を欠いた理由となりそう。しかしながら、根本的な問題として、立正大の積年の課題はゲームコントロールにあることをこの日も感じた。相手に攻め込まれると受けてしまいがちになるということ。過去のチーム比べれば立正大は積極的にアタックが仕掛けられるチームにはなっている。あとは、前後半の計80分をどう戦い抜くかをピッチ上に立つ選手達が全員で共有することが重要と思われる。あと、この試合の反省点はノーホイッスルトライを4つ献上したこと。とくに前後半にひとつずつ、得点を挙げた直後に失点したことが大きな反省点。集中力を切らさないことも上位浮上を果たす上での目標となるだろう。



◆ゼロ・リグレッツ~拓大は「後悔しない」~

今シーズンは1部復帰を目指して戦うことになった拓大が掲げるスローガンは「ゼロ・リグレッツ」(後悔しない)。逆に言えば、昨シーズンは悔やんでも悔やみきれないシーズンになってしまったということ。去年も春の段階ではチームの調子は悪くなかった。主力が欠けていたとはいえ帝京をあわやと言うところまで追い詰め、明治にも惜敗。その拓大が、よもやレギュラーシーズン中に1勝も挙げることができず、2部に降格するとは誰も思わなかったはず。原因として考えられることは、戦力の上積みが殆どない中でひとつ上のラグビーにチャレンジしたことだと思う。その過程で、一昨年のシーズンに1試合ごとに丁寧に積み上げていったものが殆ど失われてしまったように見えたのだ。昨年は「畏れを知らない挑戦」よりも「我慢」が必要だったのではないだろうか。今更言っても仕方ないが、そんな気がしてならない。

ただ、拓大は一昨年以前までのチームと比べて着実に進化したところがあるし、そのことは(幸いにも)去年も失われることはなかった。拓大は、80分間集中を切らさずに全員が一丸となって戦えるチームになっている。かつての拓大と言えば、横山兄弟や茂野、大松といった強力なトライゲッター達による得点力を持ち味とするチームだった。しかしながら、個の得点力に頼ったラグビーは安定性に欠けたことも事実。そして、試合中には必ずエアポケットに落ちて凡ミスを犯し、そのことが原因で勝てる試合を落としたことも多かった。個に頼るラグビーと決別し、全員ラグビーへの転換を図ったのが2012シーズンだったと言える。

昨シーズンの拓大の不振の要因としては、上の話と矛盾するかも知れないが、絶対的なエースが不在だったことも挙げられる。この「エース」が意味するところは、卓越した個人能力で局面の打開を図る選手という意味ではなく、決めるべきところで確実に決められる信頼度の高い選手ということ。そういった意味で、今シーズンの拓大は待望のエースを得たと言えそうだ。何度も書いているように、この日4トライを挙げて逆転勝利に貢献したWTBの林謙太がその人。奪った4つのトライはいずれも踏ん張りどころ(5分5分の勝負)で頑張り、気迫でディフェンダーを振り切って奪い取った価値あるトライだったように見えた。この活躍でチームメイトの信頼はより厚くなったことだろう。後で日大ファンの方に教えて頂いたのだが、彼は2年生まで日大に所属していた選手だった。だから今年は年齢的には4年生ということになる。リーダーシップがありそうなこととプレーの落ち着きの理由もよくわかった。私的なラグビーを観る楽しみ方のひとつは、試合会場で予期せぬ形でいい選手を発見することなのだが、この日の最大の発見は拓大の11番を付けた選手で間違いない。

この日立正大を破り、あとは山梨学院に勝てば拓大にとって1部復帰に向けての大きな励みになる。しかしながら、今年の2部リーグは復活基調の関東学院やセブンズでの好成績で自信を掴んだ専修、そして昨シーズンは入替戦まであと一歩だった國學院、さらには虎視眈々と上位を狙う東洋大など難敵がひしめいている状況にある。拓大といえども2位以内になれる保証は何処にもない。ただ、順位(1位か2位か)は関係なく、入替戦出場を果たせば、1部リーグのチームにとってもっとも怖い相手は拓大と言って間違いない。スクラムは強力でウヴェの後継者も居るし、パトリックが中心となるBKの得点力も確実にアップ。さらには頼りがいのあるエースが誕生。早過ぎるかも知れないが、拓大とあたることになったチームは泣きを見ることになりそうな予感がする。
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大東文化大学 vs 慶應義塾大学(第3回関東大学春季大会-2014.5.25)の感想

2014-06-01 19:39:48 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


関東大学のリーグ戦グループを中心に大学ラグビーを観るようになって今年で18シーズン目。秋にはラグビーマガジンの選手名鑑の18冊目が本棚に加わるはず。ちょっとタイムスリップして1997シーズンの頃のことを振り返ってみた。今から思えば、当時のリーグ戦グループは関東学院、法政、日大と個性派チームが鎬を削り、そこに中央や専修が割って入るような形で活気に溢れていた。ちょうど流経大が1部昇格を果たし、緻密なサインプレーを特徴とした組織的なラグビーで大学ラグビーに新風を吹き込んだのもこのシーズン。

そんな中にあって、大学選手権優勝3回を誇る大東大は長い低迷状態の入り口付近に居るような状態だった。強力なトンガ出身の選手達を中心に、FW、BK関係なく自由奔放にボールを繋ぎまくるプレースタイルは魅力十分だったものの、むらっ気の多い選手達によるラグビーは安定感を欠いていた。今でもはっきり覚えているショッキングなシーンがある。スクラムからボールが出た後、フロントローの3人が「俺たちの仕事は終わり」と言わんばかりに次のポイントに向かって悠然と歩くのを見たときは、正直このチーム、大丈夫なんだろうかと思った。

現在とは違い、FWの第1列には運動量が求められていなかったとはいえ、流経大の選手達は第1列の選手も(パワー不足をカバーする形で)例外なく必死に走っていた。当時、「大東大のFWはバックギアが付いていない。」と言われていたし、首脳からして「ウチのFWは寝たら豚になる。」と公言してはばからなかったくらいだから、とても彼らにディフェンスは期待出来ない。そんな選手達も、いざアタック!となるとスイッチが入ったように急に元気になるから見ていて何だが可笑しかった。はっきり言ってしまうと、ハマれば面白い反面、勢いがあった関東学院や法政や日大と並べてみると、「昔の名前で」的なチームになっていたのが当時の大東大だったと思う。

下克上もある戦国リーグと言われながらも、いつも観客で溢れている対抗戦Gの試合会場とは違ったどこか牧歌的なムードが漂っていたのが、廻りに田園風景が拡がる熊谷ラグビー場を主戦場としていた当時の関東リーグ戦G。そんな中で気を吐いていた選手の1人が現在の大東大で唯1人コーチの肩書きを持って奮闘している山内氏だった。サイズはなくてもボールをもらったら高い確率でディフェンダーをかわしてゴールラインまで駆け抜ける力を持った大学生屈指のWTBは、斜め後方からFWの選手達のプレーをどんな気持ちで見ていたのだろうか。



◆強豪チームをホームに迎えて/不安の中に期待も抱かせたキックオフ前のひととき

本日の試合は大東大が東松山のホームグランドに慶應義塾大学を迎える。そして、その慶應は、相手の中央大のディフェンスに大きな問題があったとは言え、昨年度のリーグ戦G2位チームを撃破して乗り込んできた。慶應も万全の状態ではないように見えたのだが、CTBコンビを中心とした大型の選手達が並ぶBKラインのアタックは威圧感がある。この日は左CTBが中央戦の石橋から下川に代わったが184cm、86kgだからサイズはさらに大きくなっている。サウマキを除けば小柄な選手が多い大東大のBK陣は耐えられるのだろうか?と戦う前から不安を抱いてしまう。選手達のアップの表情を見ても余裕が感じられるのは慶應の方。

しかし、大東大にもそんな不安を打ち消しそうなメンバーが新たに参加/復帰を果たしている。復帰組は昨シーズン、SH小山、SO川向とともに驚異のルーキーとしてリーグ戦G関係者をアッと言わせたFB大道。でも、この日最大のトピックスは11番を付けて颯爽と登場してきたクルーガー・ラトゥその人をおいていない。そう、大東大OBで日本代表としても大活躍し、2002年から2008年まで6シーズンに渡って母校の監督を務めていたシナリ・ラトゥの息子さん。4月に東日本大学セブンズでデビューを果たし、大器の片鱗を見せたクルーガーではあるが、本格デビューとなるこの試合ではどんなプレーを見せてくれるのだろうか。FWは左LO(本日は1年生の大島が先発)を除きほぼ盤石。春からレギュラーがほぼ固定できる点は大東大が大きな進化を遂げた点と言える。とくに今季はテビタが足を引きずるシーンがないのは大東ファンにとって明るい材料だ。



◆前半の戦い ~序盤から白熱した攻防戦となるも、冴えを見せる大東大のアタック~

メインストリートの道路から見下ろす形になる大東大グランド。折りたたみ式のベンチを並べて試合開始を待つ多くの大東大ファンが見守る中、慶應のキックオフで試合が始まった。ここで慶應にノックオンがあり、大東大ボールスクラム。大東大は左オープンに展開して(背番号は11だがポジションはアウトサイドのCTBの)クルーガーからパスを受けたSH小山がボールを前に運び慶應ゴールに迫る。しかしここは慶應が持ち前のディフェンスで一端ボールを押し戻すが、大東大がリセットの形でボールをオープンに展開し今度は右WTBに位置したクルーガーにパスが渡る。

大東大の11番といえばホセア(サウマキ)の番号なのだが、サウマキは22番を付けてベンチスタート。なのに、なぜかサウマキにボールが渡ったかのような錯覚を起こしてしまう。クルーガーはサウマキと身長が殆ど変わらないのだが、体重が10kgほど軽いためスリムに見える。CTBというよりもウィンガーのような軽やかにステップを刻んで慶應DFを翻弄し、2人を抜いてゴールポスト直下まで到達。やはりこの選手は「持っている」というべきか。デビュー早々にして、名刺代わりに鮮やかなトライを記録してしまった。GKも成功し、2分にして大東大が7点を先制した。

しかし、慶應にとっては開始直後の一瞬の隙を突かれたような失点。気を取り直してリスタートのキックオフに臨む。実は大東大にとって相手ボールキックオフが鬼門だった。浅めに高く蹴り込まれたボールに対して慶應FWがチャレンジのため走り込んできてことごとく奪取に成功。この日は大東大がトライを重ねたため慶應キックオフでのリスタートが多かったのだが、大東大のボール獲得率は3割にも達していなかったはずだ。慶應としては、この試合のために特別に用意したプレーではなかったと思うが、マイボール獲得の有効な手段となっていたことは確か。もっとも、相手にボールをプレゼントしてもらっても、これだけキックオフの機会(失トライを重ねる)があること自体が不思議ではあるのだが。

話が逸れるが、この点で帝京のFWの立ち位置は絶妙と言える。少し深めの位置取りで相手に深く蹴り込まざるを得ない状況をうまく作っている。浅めに蹴ればボールを取られた時にFWで一気にボールを前に持って行かれる。FWがイージーに取れる位置ならチャレンジは難しく確実にボールキープされてしまう。ならばFWの後ろに深めにとなるのだが、ここが帝京の狙い所。素早いカウンターアタックで強力にボールを前に運び、そのまま継続してノーホイッスルトライまで持ち込むことができる。大東大も秋のシーズンまでにボール獲得率を上げるような対策を考える必要がある。

慶應と大東大はタイプこそ違え、前に出て勝負することをモットーとするチーム。ディフェンス面では低いタックルで前進を許さない慶應に対し、昨シーズンからの大東大は青柳監督の意向(タックルできる選手を選ぶ)で守備の堅いチームへと変貌を遂げている。そんな2チームが、自陣からはエリアを取る必要がある場合を除きキックを封印して攻め合う。時計が進むのを忘れて白熱した攻防に見入っているうちに、ちょうど1週間前に日吉グランドで観た試合とは明らかに空気が違うということに気付いた。端的に言ってしまうと、キックオフからまったくといっていいくらいディフェンスが機能しなかった中央は何かがおかしかったと結論づけざるを得ない。

慶應はFWのタテとBKへの展開の組立で堅実にボールを前に運ぶのに対し、大東大はSH小山がまず後方に陣取ったFWの選手達にボールを渡してからオープンに展開するスタイル。どちらも組織的にボールを動かすことを目指しているチームだが(突破役の鈴木、長谷川、テビタではなく)、FW第1列の選手が前線で積極的にボールを持つ機会を増やすことで徹底されている大東大の方が攻撃の意図が明確な印象を受ける。ただ、慶應もフェイズを重ねて前にボールを運ぶ面では鍛えられているチーム。とくにWTBに決定力があるため、大東大はしばしば背走を余儀なくされる展開となる。しかし、ここは大東大の伝統技とも言える懐の深いディフェンスで後一歩の手前で止める。あるいは大きくボールを動かされる前にブレイクダウンで絡んで慶應の反則を誘う。中央大戦でも課題のひとつになっていたが、慶應は1人が抜けた後にノットリリースなどの反則が多いのはこの試合も同じ。そういった意味では大東大は助かった面が大きかったと言える。

慶應に反則が多ければ必然的に大東大にラインアウトのチャンスが増える。しかしながら、このラインアウトも大東大には鬼門だった。長谷川へのスローをことごとく慶應の長身LO大塚(190cm)にはたかれてなかなかマイボールが確保出来ない。もちろんスローイングの問題もあるのだろうが、相手キックオフの処理も含めてハイボールをイーブンボールにしない対策を徹底することが大東大にとって今後取り組むべき課題。逆に言うと、慶應はFWのハイボールに対する強さが強力な武器ということになる。通常なら、これだけFWのイーブンボールに対する獲得率が違ったら慶應がどんどん得点を重ねる展開になってもおかしくない。

しかし、大東大には慶應にはない強力な武器がある。身体は小さくても相手にタックルの間合いを与えずに抜き去る力がある選手が2人(SH小山とFB大道)居ること。とくに大道は前に2人居ても指一本触らせずに抜ける切れ味鋭いステップの持ち主。慶應がやや押し気味の拮抗した展開の中で16分の大東大の追加点はその大道の持ち味が活きたk形で記録された。起点は慶應陣22m手前のラインアウトだったが、ここでも大東大にミス。しかしボールが後ろにこぼれたことがフェイントのような状態になり、オープン展開からライン参加した大道がパスを受けてゴールラインを越えた。GK成功で大東大のリードは14点に拡がる。直後の17分にも大東大はキックオフのリターンから長谷川の突破を起点として大きく前進し、PR3の江口に確実にパスが渡ればトライという場面があったが絵に描いたようなPRのノックオン...。場内はため息に包まれるがこの日のFW1列3人の奮闘を象徴するようなランニングだった。

大東大はリードを拡げてから徐々にペースを掴む。慶應はブレイクダウンで反則を犯す悪い流れを止めることが出来ない。27分には大道が正面約20mのPGを決めて大東大はさらに3点を追加した。その後、前半終了までの時間帯は大東大が殆ど慶應陣22m内で攻め続ける一方的な展開となる。ただ、大東大はラインアウトの不調が響き、なかなかゴール前に迫ってもタイガージャージの厚い壁を越えることができない。SH小山を起点としてボールを停滞させることなく動かし続けるラグビーは見応えがあるものの肝心なところでミスが出るのが残念。38分のラインアウトを起点としたオープン展開での「決まれば100%トライ」のロングパスは惜しくもスローフォワードとなる。終盤は慶應が殆ど自陣か22m付近から脱出することができない状態だったものの17-0の大東大リードのまま前半が終了した。内容から見たら、よく慶應は17失点に留まったといえる前半の戦いぶりだった。



◆後半の戦い ~大東大のパスラグビーが全開となる中で反撃の糸口が掴めなかった慶應~

対抗戦Gの強豪チームの強みは、前半が不調でも後半にしっかり立て直してくること。リーグ戦G校が対抗戦G校と戦うときに一番畏れている部分でもある。しかしながら、後半開始早々にそんな慶應の心意気を挫くようなトライがあっけなく記録される。大東大がカウンターアタックを起点としてSH小山がウラに抜ける。前半は自嘲気味?でステディにボールをFWに渡していた感が強い小山だったが、前方に開いた穴は絶体に見逃さない。こんなに簡単に抜けていいのかというくらいに2人以上いたディフェンダーを手玉に取る形で小山は一気にゴールラインまで到達。もっとも警戒すべき選手に決められてしまった慶應のショックは大きかったに違いない。

さて、後半から大東大はクルーガーと岡を下げてCTBに梶本、WTBにホセアを投入する。また、前半はFWへの供給が主だったSH小山からのパスが、同じタイミングでダイレクトにBKに渡る形も混じるようになる。もちろん最終ターゲットは大外で待ち構えるリーグ戦G最強WTBの1人サウマキなのだが、無理に外まで展開することはせず、CTBでFWにボールを渡すオプションも加わる。ディフェンス側の慶應にとっては同時にFWとBKを見なければならなくなり、この時点で徐々にターゲットが絞りづらくなって戸惑いが増えてきたはず。小山はFW、BKどちらを選択しても良い形になっている。

もちろん、小山は自分でも行けるし、廻りには長谷川、テビタにLO鈴木を加えた強力なランナー達が控える。どうやら大東大はSH小山を起点としたパスの受け手が何人もいる攻撃スタイルを完成しつつあるように見える。もし、エキストラでパスの受ける選手が(帝京のように)トップスピードになれば攻撃の破壊力はさらに上がるだろう。(スピードは80%くらいと言った感じでタイミングも完全には合っていない。)ディフェンスに戸惑い始めた慶應を尻目に、いろいろなバリエーションを見せてくれたのが後半の大東大だった。4分のトライはLO鈴木の強力なタテ突破により生まれた。あっと言う間に大東大のリードは29点に拡がる。

相手に翻弄されつつ点差を広げられていく慶應に焦りが出てくる。せっかくFW並の大型BKラインを持ちながら、パスミスなどで反撃の糸口すら掴めない状態。小山の球裁きが(ちょっと浮き気味だったものの)冴え渡り、FWもBKも活き活きとパス主体で攻める大東大のラグビーは本当に見ていて楽しい。20分にはカウンターアタックからサウマキが大きくゲイン。そのまま1人でも行ける状態だが十分に間合いを見計らってディフェンダーを引きつけ、慎重にラストパスを梶本に送る。パスを受けた梶本はゴールを目指して真っ直ぐ走るだけで良かった。

大東大は26分にPGで3点を加点(39-0)した後、いよいよサウマキのトライショーが始まる。29分、スクラムからのオープン展開で大東大が珍しく飛ばしパス(それも2連発)を使い、2パスでボールはWTBのサウマキへ。こうなれば大学生レベルではもう誰も止められない。スピードに乗った相手にタックルを挑んでも強烈なハンドオフで弾かれるだけだ。32分にもさらにサウマキ。今度ははラインアウトからのオープン展開でゴールラインを駆け抜ける。大東大の得点はいつの間にか51点に達していた。あとは無失点で戦い終えることができれば最高の幕切れとなる。

36分、大東大は慶應陣22m内で相手ボールのターンオーバーに成功し、パスを受けたSO川向がゴールラインを越えた。タックルでの貢献度は高いものの、アタックでは突破役達に活躍の場を譲っているような感がある川向だが、決めるべき時は決める。大東大の得点は56点となり、このまま残り時間をうまく使えばゼロ封も達成というところだったが、終了間際にアクシデントが起こる。残り時間を確認した上で篠原主将が自信を持ってタッチにボールを蹴りだし、そこで終了のホイッスルと誰もが思った。しかしながら、レフリーは慶應ボールのラインアウトを指示。あと1プレーの時間が残っていた。大東大は一端切れた緊張の糸を繋ぎ直す訳にもいかず、ラインアウトから慶應はゴールを目指して怒涛のアタックを見せ1トライをねじ込むことに成功する。ちょっと気に抜けた終わり方になってしまったが、大東大がファンの期待をも裏切るような圧勝劇を演じる形で試合が終わった。



◆慶應の敗因/重なった3つのアンラッキー

大東大ファンですら信じられないようなスコアでの圧勝劇。試合を観ていない慶應ファンにとってはショック以外の何物でもないはずだ。力の差を超えた、しかも大東大にラインアウトなどのミスがなければさらに点差が開いた可能性がある試合になってしまったのは何故か? 単に強い方が勝っただけでは説明が付かないので、自分なりに慶應の敗因(大東の勝因)を振り返ってみた。そこには慶應にとって3つのアンラッキーがあったとみる。

まず1つめは対戦相手が早明帝筑といった戦い慣れた対抗戦Gの強豪チームではなかったこと。普段、大東大のラグビーを観ることはないだろうし、また、研究する必要もない。去年の大東大の躍進にしても殆どノーマークのルーキー達の活躍によってもたらされたものだから、強力な留学生達がいたころのような名前負けもないはず。そして2つめは、1週間前に昨年度リーグ戦G2位の中央大と対戦して撃破していること。中央に元気がなかったにせよ、リーグ戦Gの2位チームの力から3位チームの力を推し量ってしまうことになった可能性が高いと見る。

しかし、もっと重要だと思う要因(3つめ)として別の要因を挙げたい。それは慶應のディフェンスが大東の戦術に翻弄され対応できなかったこと。後半の戦いのところでも書いたように、大東大はこの試合でSH小山を軸にした選択肢の多いアタック、言い換えればディフェンス側には的を絞りにくいアタックで慶應のディフェンスを攪乱することに成功したというのがこの試合を観た1ファンの感想ということになる。慶應はディフェンスがしっかりしたチーム。それだけに、FWで来るのか、BK展開なのか、あるいはSH自身なのかといった同時多発的な対応を迫られるアタックに対応仕切れなくなったのではないだろうか。そうでなければこんなに点差が付く一方的な試合にはならなかったはず。

もちろん、大東のアタックは帝京のより組織化されパターン化されたアタックに比べたら、完成度もスピードもまだまだ十分とは言えない。ただ、大東のアタックには帝京にはない個人の閃きと能力に根ざした柔軟性があり、精度とスピードが上がったら面白いアタックになるだろう。この試合も、帝京や早稲田と言った強豪との戦いを経て、満を持して大東大が戦術を試すことになったのではないかと思う。だから、もし慶應が大学選手権で大東大と再戦することになったら、大東大は苦戦することになるかもしれない。おそらく慶應はこのまま終わらないはずで、自分達の持ち味を存分に発揮したラグビーで対抗してくることになるだろう。



◆大東大の勝因/戦術が大学ラグビーを変える、そして救う

昨年出版された『ラグビー「観戦力」が高まる』は、日本のラグビーファンにとってエポックメイキングな観戦本だと思う。ただ、そこで語られる世界はトップリーグレベルのものだと思っていた。もちろん、大学レベルでも「戦術」の考え方を取り入れているチームはあると思うが、まだまだ中途半端という印象をぬぐえない。そういった意味では、この試合は「戦術ありき」を意識させてくれた点でしっかりと記憶に残ることになりそうだ。「大東大の勝因は実は戦術にあった。」と声を大にして言いたいところなのだが、まだまだ「シェイプ」や「ポッド」という言葉を使って大東大が用いた(意図した)戦術をうまく説明する自信がない。ただ、ひとつ想うことだが、FWのボールキープ/サイドアタックをシェイプに置き換え、BKのオープン展開をポッドに置き換えれば、戦術に対する理解はかなり進むように思う。

さて、大東大の勝因としてもうひとつ挙げたいのは、FW第1列3人の攻守にわたる頑張り。最前線で常に身体を張り続け、自分達のやれる方法でチームの勝利に貢献したと言えるだろう。昨シーズンまでは第1列は高橋の孤軍奮闘の感もあったが、今年は3人が1枚岩になって戦える体制が整ったと言えそう。もちろん、大東大がほぼ自分達の思い通りのラグビーができたのは、FW戦で互角以上に戦えたことが大きい。そしてひとつ気がついた事がある。チームが戦術的に鍛えられているかを判断したいと思ったら、FW第1列の選手がどんな動きをしているかを見ることがいいのではないかということ。必要なスペースを迷いなく埋めているか、それともどう動いていいか迷っているか。些細なことかも知れないが、戦術という切り口でラグビーを観る場合には重要なファクターになると思う。

今後のことだが、FWが強力で小山がプレッシャーを受ける中で同じラグビーが出来るかが大東大のさらなる躍進に向けてのポイントになると思う。そのような場合には、SH(9)だけが起点ではなく、SO(10)、あるいはCTB(12)が起点となるようなアタックを仕掛けることになるかも知れない。そこでキーマンとなるのは、おそらくこの日に地味ながらも堅実なプレーを見せた4年生の久保田。大東大の戦術がどのような形で進化していくのかに注目していきたい。

余談ながら...もし、この試合を10数年前にインプレー中でも歩いていたOBのFW第1列の選手達が見ていたらどんな感想を漏らしただろうか。ふと、そんなことも考えてしまった。
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