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小話   良寛さんと、貞心尼の語らい

2022-12-10 18:59:45 | 小説

越後は出雲崎、海の向こうは佐渡、荒海は続く。
海を見て独りごとを言った、何と言ったのか、波に消えた・・・・

この善に生きた僧は、無を求め、それを貫き通した一生だった。
唄はあふれ出た、手は追っつかず、筆は自由のままに流れた。
わらべの様になりたい、心は綺麗がいい、何時までもそれがいい。
天はその褒美を与えたのか、見目美しい女性を遣わした。
齢七十にして、貞信尼と出会う。唄返しの日々始まる。師弟愛は四年続いた。
母を天明飢饉のさ中に失ってからというもの、心に穴が開いていた。
それが、救われたのである。この尼僧は母の再来か、また、海を見た・・・・

・・・・佐渡が見えらあ、カカの国じゃ、飛ぶ鳥ならばひとっ飛びかや。
・・・・会いてえのう。オラを産んでくれて、ありがとのう。
・・・・あの貞心尼はカカではねえねか、そんだ、出て来てくれたんだ。

ここからは、物語りとなる。
良寛と貞心尼との出会いから、最期の日までの儚くも美しい日々のこと。
よくと耳を傾けてみよう、聞こえて来る・・・・

良寛 「あいゃー、こいはこいは、また、長岡から来てもろうて、わるいですな」
貞心尼「いや、なも、あん時は急にやって来たすけ、和尚さん出てましたのう」
   「そんで、手毬と和歌を置いて帰りましたわ」
良寛 「お前さん、ええ唄読みする。そんでオラは返し唄を書き送ったんだて」
   「あの意味わかりましたな、そんで、こうしてのう、えかったわい」
貞心尼「なあ、和尚さんや、アテんこつ弟子にしてけろ、お願いや」
   「昔から本が好きでのう、唄作ってたて、教えてな、ええやろ」
良寛 「今まで何があったん、心に何かがねえと、唄作ろうなんてしねえ」
貞心尼「ん、んだな、アテはカカさん知らね。三つん時、亡くなった」
   「トトの後釜には邪見にされた、家を出たくて十五で嫁いだ」
   「したけんど、嫁ぎ先に馴染めず、また子が出来ねえすけ、五年で離縁だて」
   「そっからと言うもの、尼になりたくてのう、こうして来ましたて」
良寛 「ああ、わかったわい、心が唄を欲しておるんやな、なら唄ったらええ」
   「そばに居てええど、このオラと唄返しの日々、送ろうて」
貞心尼「ええかいや、和尚さん、ずっと一緒だえ、よろしゅうな、ええわ」
良寛 「こっちこそ、オラん世話たのむて、もみじ散るまでな、な・・・・」

こうして、最晩年の四年間を送る事となる。貞心尼は三十路になったばかり。
良寛さんはひねもすのたり、わらべと手毬、かくれんぼ、唄読み、筆書き。
背中をさするは貞心尼、長生きしてくれ、してくれって・・・・

天保二年 正月六日、雪降る夕方、冬なのにもみじは舞った。
・・・・うらを見せ おもてを見せて 散るもみじ・・・・  良寛

明治五年、貞心尼は、くしくも良寛みたいに齢七十五で、もみじとなった。
こう思ったのかもしれない、「同じ齢んころ、土んなりて」と、その願いは叶った。
・・・・散る桜 残る桜も 散る桜・・・・  良寛 

コメント
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