★ 音楽はバビロンで言語が混乱する前にもあって、今日でも唯一の普遍的なコミュニケーションのメディアであるがゆえに、それは言語の混乱に勝利した力とみることもできる。それとも結びついて、音楽がわれわれの意識の作り出した他のすべてのものよりも存在に近いという考えも、太古からある。オルぺウスやピタゴラスの教えの根底にも音楽がある。ケプラーは音楽に導かれて遊星の軌道を計算したという。音楽は宇宙の言語、音で表わされた意味とみなされ、ショーペンハウアーでは世界意志の直接的表現とされた。
★ 音楽は至る所に、あらゆる関係の中に、あらゆる窪みの中に入り込んでいく。それは音の絨毯であり、雰囲気であり、環境である。それはその後われわれの実存の基本のざわめきになった。ウォークマンのイヤホーンで音楽を聞きながら地下鉄に乗っていたり、公園でジョギングしている者は、二つの世界に生きている。地下鉄で行くときやジョギングのときの彼はアポロ的世界にあり、聞いているのはディオニュソス的世界である。
★ 音楽は意識の層に社会的な深層の統一を可能にする。これは昔は「神話的」と呼ばれたものである。
<リュディガー・ザフランスキー;『ニーチェ その思考の伝記』(法政大学出版局・叢書ウニベルシタス2001>
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