Don't Let Me Down

日々の雑感、引用。
言葉とイメージと音から喚起されるもの。

タイタニック脱出;勇気の出る本

2014-12-02 13:17:12 | 日記



(大澤真幸発言)

★ もし人文書というものを書く、あるいは読むことの意味があるとしたら、その一つは、「この船を放棄しても大丈夫だ」という確信をもてるようになること。この船を放棄しうる、別の船がありうる、別の可能性を示唆する。そういう希望を抱かせることが人文書の使命だと思うんですよ。

★ ただ今、人文書のほうも力を失いかけていて、そこまでのことができないんですよ。今ある大抵の本は「船のどの部分を修繕しましょうか」という本なんですね。「少し修繕すると、沈むまでの時間が一分延びる」とかね。あるいは「沈む時に怪我の率がちょっと下がる」とか。人文書に限らず今出ている全ての本は、「こういう時でも鬱病にならないためにはどうしたらいいか」というような問題にすり替わっていて、つまりこの船自体が問題だという対応になっていないんですね。

★ しかし僕らがかつて読んだ人文書に感激したのは、その書物を通じて、この世界の「外」がありうる、ということを示された、という実感をもてたからじゃないですか。

★ この沈みそうなタイタニックの外に行きうるということに、どのように我々の感受性や思考を触発していくか。今、そういうことが本に求められていると思うし、僕らだって書くとなれば究極的にはそういうことが目標になってくるわけじゃないですか。

★ 「外」を示唆するというのは、このタイタニック号とは別の船はこうなっていますよと描くこととは違うのです。つまり、この社会の外にある「ユートピア」みたいな別の社会を具体的に提示することとは違う。そうではなくて、読んでいるうちに、われわれは、この船を棄てる自由をもっているということへの勇気のようなものが自然に出てくる本ということです。

<小林康夫+大澤真幸『「知の技法」入門』河出書房新社2014>





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