Don't Let Me Down

日々の雑感、引用。
言葉とイメージと音から喚起されるもの。

COSMOS

2013-07-28 13:58:31 | 日記


晴れた夜空を見上げると、無数の星々をちりばめた真黒な天球が、あなたを中心に広々とドームのようにひろがっている。ドームのような天球の半径は無限に大きく、あなたに見えるどの星までの距離よりも天球の半径は大きい。

地球の中心から延びる一本の直線が、地表の一点に立って空を見上げるあなたの足の裏から頭へ突きぬけてどこまでもどこまでも延びて行き、無限のかなたで天球を貫く一点、天の頂、天頂。

地球を南極から北極へ突き通る地軸の延長線がどこまでもどこまでも延びて行き、無限のかなたで天球を貫く一点、天の北極。

遠く地平の北から大空へ昇って遥かに天の北極をかすめ遥かに天頂をよぎって遠く地平の南へ降る(くだる)無限の一線を、仰いで大宇宙の虚空に描きたまえ。

大空に跨って眼には見えぬその天の子午線が虚空に描く大円を三八万四四〇〇キロのかなた、角速度毎時十四度三〇分で月がいま通過するとき月の引力は、あなたの足の裏がいま踏む地表に最も強く作用する。

そのときその足の裏が踏む地表がもし海面であれば、あたりの水はその地点へ向かって引き寄せられやがて盛り上がり、やがてみなぎりわたって満々とひろがりひろがる満ち潮の海面に、あなたはすっくと立っている。

<木下順二『子午線の祀り』―『子午線の祀り・沖縄 他一篇』(岩波文庫1999)>