Don't Let Me Down

日々の雑感、引用。
言葉とイメージと音から喚起されるもの。

箱舟を造る

2013-07-16 14:13:21 | 日記


(……)
そんなところにあるわが家のなか、貧しい平和のうちに
わたしは歌う、あなたたち
見知らぬひとたちに、(わたしの
聞き苦しくぶざまな音にとって
歌が燃えあがる冠毛を飾った行為であり、
回転する世界の森に棲む
鳥たちの火であろうとも)、
木々の葉のように
舞いあがり、落ち、そしてすぐに
土用の夜のなかへ
崩れては不死となりゆくだろう
海がめくりよごしたいくまいもの言の葉のなかから。
しゃぶられた鮭の太陽は静かに海に沈み、
唖の白鳥たちは鰈のいるわたしたちの入江の
夕暮を 棒で叩いて青くする、
わたしがさまざまの形の騒音を切り刻み、
わたし、きりきり旋るひとりの男が、
鳥にどなられ海から生まれ人間に引き裂かれ
血に祝福されながら、この星をもいかに誇りにしているかを
あなたたちに知っていただこうとするときに。
聞け。
魚から踊りあがる丘にいたるまで
わたしは高らかに土地を讃える。見よ。
洪水がはじまるとき、
できるかぎりの愛をこめて
わたしは怒号する箱舟を造る、
その洪水は恐怖の泉を源とし
真紅に怒り、人間のように生気に溢れ、
溶けて山のように盛りあがり、流れてゆく、
傷が眠り
羊で真白になっている凹地の農場をこえ
(……)

<ディラン・トマス“序詩”;松田幸雄訳(部分)―『オーデン・スペンダー・トマス詩集』(新潮社世界詩人全集19:1969)>