気ままにフィギュアスケート!

男子シングルが好きです。

氷の国の物語 10 (イラスト付き)

2010-02-04 20:24:19 | 氷の国の物語
きりのいい回数で終わることができました。最終回です。

<氷の国の物語 10>

剣の試合であるからには、無論どちらかが死に至ることも時として起こる。しかし、それはあくまで相手を打ち負かすために起きた事故であり、相手の命を狙っての攻撃によるものではなかった。
「dai王子、今のうちです!」
そんな叫び声が遠くから響いているのを耳にしたが、narが自分にしたのと同じように、無防備な姿を攻撃するにはなれなかった。相手は幼い頃から共に育った従弟だ。敵や野獣が相手ではない。
こんなところが自分の弱さなのかもしれないな、切羽詰った状況にも関らずつい冷静に分析した。次にnarが本気で打ち掛かってきたならば、自分はもうよけられないかもしれない。そう思いながらも体は動かなかった。
腹を押さえていたnarが立ち上がった。

kumはnar王子がdai王子の腕に切り付け怪我をさせた瞬間に、異常を悟った。daiの心が驚きと猜疑心で揺れている。dai王子の左腕の鋭い切り傷。nar王子が発する異常な殺気。明らかに何かがおかしかった。
はっとして思わず柵の反対側のnor姫の後ろに立っているnikに目を遣った。nikはnor姫の座る椅子の背に手を掛けて前屈みに身を乗り出し、視線をnar王子に固定したまま、何かをつぶやき続けていた。呪文だった。
人の心を操る魔法は、操っている間中呪文を唱え、自分の意識を相手の中に流し込まなければならない。昔医術を習った魔法使いから教わって、kumはそれを知っていた。「人の心に魔法をかけ続けることはできない」と、地の割れ目の縁でdai王子に語ったのも、そのためだった。
何とかしなければ。kumはnikの元へと急いだが、その間にもdai王子は雪の上に倒され必死で防いでいた。何とか起き上がったdai王子の心は、従弟に命を狙われたことに傷付いていた。nar王子も立ち上がり、nikの呪文は続いている。
nar王子が再び剣を構えてdai王子に襲いかかろうとした刹那、kumはnikがdai王子の剣の指南役や相談役の魔法使いたちともみ合っているのを目にした。
「魔法使いnikが神聖な勝負に魔法を使ったぞ!」
「魔法でdai王子の命を狙ったぞ!」
「nar王子は失格だ!」
nikを取り押さえながら、指南役と相談役の魔法使いたちが次々と叫ぶ。さすがのnikももう呪文を唱えることはできなかった。kumはほっとしてその場から再びdai王子を見守った。

daiはそれまで自分に憎悪を向けていたnarの目の焦点が合わなくなったかと思うと、見る見るうちに表情が変わり、目が覚めたばかりのように呆然とするのを目の辺りにした。narは剣をだらりと垂れて突っ立っている。
narは操られていた間の記憶が抜け落ちているのだろう。状況がよくわかってないらしいが、ふとdaiの腕の切り傷に目を留めた。次に自分の剣に視線を落とし、指の腹を剣の刃に滑らせる。切れ味に驚愕し、再びdaiの腕の傷に目を戻した。この剣はnarが選んだときは普通の練習用の剣だった。nikは剣にも魔法をかけたのだろう。
そのとき柵の内側に武官が入ってきて告げた。
「魔法使いnikの妨害により、nar王子は失格となります」
柵の外の騒ぎには王子たちも気が付いている。narは全てを悟り、諦めの表情で立ち去ろうとした。
「待ってくれ!narは操られただけだ。頼むから最後まで勝負を続けさせてくれ!」
daiは思わず叫んでいた。narのためではなかった。このままでは終われない。このままでは自分は勝ったとはいえない。こんな気持ちのまま王になるわけにはいかなかった。
「頼む、nar。最後まで戦ってくれ」
「dai」
narはつぶやいて振り返った。
「dai王子がよろしいのであれば、試合の続行を認めましょう」
この勝負の判定を任されている武官は鷹揚だったが、narは再び柵に向かって歩いて行った。daiはそんなnarを胸の痛みを感じながら見ていた。王になる喜びは感じず、ただ苦い後味だけが胸に広がっていた。

nar王子は柵まで行くと武官に他の剣を出させ、交換させた。新しく手にした剣の刃を確かめてから、daiのほうに戻ってくる。
「dai、もう一度やろう。負けないからな」
「ああ、望むところだ」
daiはほっとすると同時に、立っているのがやっとでまともに戦うだけの体力が残っていない自分を笑いたい気持ちになった。何を格好付けているのだろう。しかしnarの顔にも疲労が色濃く出ている。ここまできたら、あとはお互いに気力だけだった。
二人の王子は再び剣を交えた。冬だというのに肌が上気し、体力は限界を超えているはずなのに、苦しい中にも不思議な爽快感があった。やめたくもあり、このままずっと続けていたくもあり、そんな相反する感覚の中でdaiはnarの剣を跳ね飛ばした。拾うように促したが、narは苦しげな表情で両膝を地面に付くと言った。
「daiの勝ちだ」
dai王子は剣を持っている右手を高々と掲げた。柵の周囲では王の一族までが立ち上がり、大きな歓声を上げている。勝利の喜びに浸りながら、daiはこれまで支えてくれた一人一人の顔に感謝の眼差しを送った。

戴冠式の日、すっかり傷も癒えたdaiは、王の正装を纏って式が行われる広間に現れた。短期間に顔付きが変わり、全身から自信と風格が漂っている。
王のマントの製作者として、新しい王にマントを着せ掛ける栄誉をkumは賜っていた。王の一族や貴族、重臣たちが集まる前で、kumはdaiの背後からそっとマントを肩に掛け、前に回って金具を止め、豪華な房飾りの付いた紐を結んだ。
結び終わり視線を上げると、daiと目が合った。優しい眼差しと柔らかな笑顔には何の変わりもない。
「おめでとうございます」
「今までありがとう、kum」
daiは片手を上げ、kumの頬にそっと触れた。頬に掌の温もりを残したまま、daiは王冠を戴くために、壇を登って行った。
その背に輝くマントには、新しい王の健康と安全を願ったkumの祈りが織り込められている。結局、織っている間にdaiを想って込められた祈りは、然るべき場所に届いたのだ。

壇上でdaiは大魔法使いの前にひざまずき、頭上に冠を受ける。続けて祖父である前王から国宝の剣を譲り受けた。daiはこの瞬間、名実共に王となった。
人々のほうに向き直って、王として堂々たる姿で祝福を受けるdaiを見ながら、kumは涙が止まらず、そっと人の後ろに身を忍ばせた。
思い出が胸に溢れ繰る。幼い頃の泣き顔。心を癒してやったときの愛らしい笑顔。成長してからの精悍な姿。傷つき悩む日々。全てが結実し、少年の日からの夢を叶えたdaiは、これまでのどの瞬間よりも輝いていた。
新王の前にnarやtakたち、5人の王子が進み出て忠誠を誓う。彼らは成長に応じて国の要職に付けられ、daiと共にこの国を率いていくことだろう。
他の王族も忠誠を誓い祝辞を述べる。その中にはnor姫の姿もあった。nikはいない。神聖な王の試練を妨害した罪を問われ、国外へ追放された。

王になったとはいえ、列強諸国に取り囲まれたこの小さな国を率いていかねばならぬdaiの行く手には、これからも困難が待ち受けていることだろう。しかし彼ならば、どんな困難も乗り越えていけるはずだ。それこそは彼が王になって成し遂げようとしていたことなのだから。そして彼にはいかなるときも彼を支持する多くの人が付いている。
daiには自分の特別な癒しの力は必要なかった、彼は内側から自分で輝いていける人なのだから。kumはそんなdaiを見守っていられることを、何よりも幸せだと感じていた。

「二人で紡いだ心」 by ゆゆんさん
(このイラストの掲載はゆゆんさんの許可を頂いています。転載・使用・コピーはご遠慮下さい。)

<おわり>

結びの部分が納得いかないので、もっといい文を考え付くことができたら手直しするかもです。
kumさん、長らくお待たせしました。そして読んでくださった皆様、ありがとうございました!
細部がいい加減で書いている本人も納得いかない部分がたくさんあるお話ですが、感想など頂けると嬉しく思います。