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男子シングルが好きです。

氷の国の物語 9

2010-02-03 23:54:53 | 氷の国の物語
1月中に完成させたかったのに、2月に入ってしまいました。(汗)

<氷の国の物語 9>

第三の試練の日の朝、daiは指南役に見守られながら軽く剣を振っていた。第二の試練で打ち身と軽い凍傷を負ったが、kumの手当てを受け丸一日ゆっくりと休んだことで、体は本調子とは言えないがそれほど酷いわけではない。
軽く足を引きずりながらtakがやってきた。daiは体調を理由に部屋に食事を運ばせていたので、takと顔を合わせるのは試練の最中に離宮近くで会ったきりだった。daiは剣を鞘に収め、指南役に休憩にすると声を掛けると、takに歩み寄った。
「調子はどうだ?」
「いいとは言えないな。daiは穴に落ちたんだって?」
takの頬は窪み表情が険しく、元々細面立ちの顔が一層細く見える。苦悩の跡のにじむ目元が、これまでの少年らしさを払拭している。takの無念を思うとdaiは胸が詰まった。これは自分の姿だったかもしれないのだ。
「ああ、何とか出られたが。takは樹の下敷きになったと聞いたが」
「帰りに樹の下で休んでいたら、突然倒れてきて足を挟まれた。枯れ木でもないのに、普通そんなことが起こるか?足はそのときは無事だったが、無理に引き抜こうとして痛めた。足を切り落としでもしない限り、抜け出す方法はないと思ってのろし玉を使った。daiが穴に落ちたことといい、おかしいだろう?二人とも魔法で嵌められたんだ。証拠がないからと大魔法使いにも取り合ってもらえなかったが、他に考えられない。narの奴、汚い手を使ってでも王になろうとするとは許せない」
「いや、違う。恐らくnarは何も知らない。叔母上とnikが勝手にしたことだろう」
「そうだとしても、知らないで済まされるのか?自分のために母親と教育係の魔法使いがしたことだ。そんなことにも気付かぬ者が、人の上に立ち、一国の王となることが許されるのか?知らないこと、気付かぬこと、ただそれだけでも罪になることがあるのだ。私はnarが王になるのは認めない。あいつが王になったなら、この国を捨てる」
「tak、何もそこまで。母上がお泣きになるぞ」
「そう言うのなら、daiが王になれ。今日の試練であいつを打ち負かして、王になってくれ」
daiは目の前の従弟を見つめた。takの瞳には苦悩だけではなく、炎のような強い光が残っていた。daiはtakの肩に手を置いた。
「わかった。お前の分まで力を尽くす。それで私が王になることができたなら、国のために力を貸してくれるな?」
「言うまでもない」
二人はがっしりと手を握り合った。そのままもう片方の手で背中を叩き合い、一旦別れる。
またひとつ、自分は人の想いを乗せて進んでいく。それは時には重たく感じたが、今は自分の中でひとつに合わさり力となっている。戦っているのは自分だけではない。daiは足を引きずりながら城に入っていくtakを見送った。

定められた時間にdai王子は城の正面の広場に行った。通常、冬季に人が集まるときには雪がどけられ中央が開いているのに対し、今日は中央に雪が盛られ、踏み固められている。雪と氷の上で新しい王は決められると、この国では決まっている。
その周囲には簡易な柵が張り巡らされ、その外にはすでに人垣ができている。柵のすぐ外には椅子が並べられて王の一族が座り、その後ろには仕える者たちが立っている。daiはその中に母や姉やkumやtak王子の姿を認めた。
nar王子とともに椅子に座った王の前で一礼し、武官の持ってきた数本の剣の中から扱いやすいものをそれぞれが選ぶ。剣は刃をつぶした練習用のものだ。
nar王子と顔を合わせるのも離宮以来、三日振りのことだ。試練に向けて気が昂ぶってはいるが、対戦相手のnarに対しての特別な感情は起きなかった。恐らく、対戦相手がnarではなくtakだとしても、今の自分は同じ心持ちだろう。
先程のtakだけではなく家族や身近な者たちと話していても、皆narとその背後にいる者たちを非難するが、daiはnarたちに憎しみも腹立たしさも感じなかった。ただ負けたくはない、王にふさわしく正々堂々と勝負して勝ちたい、それだけが心の中にあった。
汚い手で妨害されたことが何だというのだ。自分の心の中にも汚い弱さはある。地の割れ目の底でそれを嫌というほど味わった。そんな自分が他人を非難できるのか。今はただ自分の中の弱さや迷いに対して戦いを挑み、自己に打ち克って再び誇りを取り戻したかった。
見返したい、きっとそんな気持ちもあるのだろうとは思うが。daiは一度も視線を当てようとはしなかったが、nikの姿が人垣の中にあることを意識していた。

柵の内側に入っていくと雪は凍り付いている。急ごしらえの白い闘技場は周囲から切り離されていて、遠くを多くの人に囲まれながらも、もう頼れるものは自分しかないのだと身が引き締まる。応援の声だけが響くが、騒々しさの中、孤独をより一層強く感じる。
二人の王子は距離を保って向かい合って立ち、武官の合図で剣を構えた。幼い頃より何度も剣を交えた相手だ。互いに相手の手の内は知り尽くしている。
nar王子は背はdai王子とほぼ同じながら、細身で身が軽い。その分腕力ではdai王子に劣るものの、身のこなしの軽さ、素早さを活かして的確に相手の急所を攻め、また相手の攻撃を機敏によけるのを得意としていた。
対してdai王子の剣は力強い正統派の剣。正面から激しく切り込み、相手を力で押していく。
しかし体が本調子ではないdaiは、体力でも俊敏さでも今日はnarに劣ることを自覚していた。無駄な体力の消耗は避けたかったが、長引かせても不利だ。構えたままnarの動きを注視し、打ち込んでくるのを待つ。
痛いほどの緊張が破られて、narが打ち込んできたときには剣筋を読み、受け止めていた。そのまま剣を返し、短時間で勝負を付けようとこちらから激しく打ち込んでいく。幾度も切り結び、互いに攻防を繰り広げた末に、daiがnarの剣の手元に近い部分に加えた一撃に、narがよろめき氷と化した雪に足をとられて転んだ。
daiは油断なく剣を構えたままnarが起き上がるのを待ったが、予想していた以上に息が切れて体力が落ちているのを感じていた。

起き上がったnarはそれまでとは形相が変わっていた。うなり声ともつかぬ声を低く漏らすと、体ごとぶつかるように鋭く切り込んでくる。とっさにdaiはよけたが、次の一撃をよけ損なった。narの剣がdaiの左腕をかすり、服の布地が破れて血が流れた。
narの剣は刃が研がれている、確かにnarも武官の持ってきた刃をつぶした剣を使っていたはずなのに。
daiは痛みよりも驚きで動きが一瞬止まり、次にnarが打ち込んできた一撃にも対応が遅れた。何とか剣で受けたものの、衝撃で雪の上に転がる。さらに覆いかぶさるように頭を狙って打ち込んできたnarの剣を寝転んだまま下からすくい上げるように受け止め、血走った目で迫ってくるnarの力を渾身を振り絞って防いだまま、何とか腹を蹴り上げた。
narがうずくまったその隙に這い出すように起き上がり、距離を取って小刻みに震える腕で剣を構えた。荒い呼吸を繰り返しながら立つ、daiの受けた衝撃は大きかった。narは今、自分を殺すつもりだった。   <つづく>

次回完結します。ほぼ書けているので、明日アップできると思います。
しかし、私ってアクションシーンが好きだよね。お話って自由に書けるせいか、まともに性格が出ます。(笑)