俳優、歌手、タレント、声優など希望する若者は多い。
今も名古屋から電話があった。声を使う仕事がしたい、それが夢だった。最近、親元を離れ一人住まいを始めた。これを機会に声を磨き、長年の夢を実現させたい。
仕事はアルバイトである。家賃や食事代、光熱費・電話代、交通費などを差し引けば殆ど手元にお金は残らない。
それでも習い事を始めたい。しかも東京へ通うと言う。名古屋から東京までは深夜バスなどで片道5,000円ぐらいで通える。しかし習い事の月謝などはレベルが高い所だとかなりの金額になる。
そんなに無理しても果たして満足が得られる先生に出会えるのか。
私は兼ねがね、本物の先生・トレナーは5%に満たないと公言している。
もし偽者、それに近い先生しか選べなかったとすれば、全てを投げ打つ覚悟はどうなるのか。
多くの若者は本物のトレナーは100%近いと漠然と信じている。だから誰でも門を叩けば自分の夢に近ずけさせてくれると、漠然と思っている。
ここが不幸の始まりだ。
昔、W大学の政経学部の学生が4年生で演劇にのめり込み大学を止めた。俗にアングラと言う、理解に苦しむ脚本・演技・演出の世界に飛び込んだ。当初は元気で生き生きしていた。しかし1年も経たないうちにボロボロになり生活も演技も荒れた。異性と酒に溺れ「世界を征服するような」大言を吐き散らし始めた。仲間の女性からお金たかり飢えをしのぎ、家賃も払えず、友人の住処を渡り歩いた。食事は極端に悪くなり、仲間の食べ物を奪いはじめた。
芝居の稽古でアルバイトは出来ない。精神的にもまともな所で働く気持ちはない。
時々、わけの分からない言葉を吐き始める。何にしろ自分が総理大臣みたいな大きな発言もある。
そして半年後、板橋の6階建てのビルから飛び降り自殺して、一生を終えた、20代の若さで。
この話は10年以上前のものだ。しかし状況はより悪くなっていると思える。