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日々の体験や思ったことを綴ります(by 涼風)。

“Built to Last” by J. C. Collins, J. I. Porras 1

2006年11月27日 | Audiobook

             “Abelia in the sun”


経営学者のジェームス・C・コリンズとジェリー・I・ポラスによる“Good To Great: Why Some Companies Make The Leap...and Other's Don't”(邦訳『ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則』)を以前に取り上げましたg、その著者たちが“Good To Great”よりも先に出版しベストセラーとなった“Built to Last: Successful Habits of Visionary Companies”(邦訳『ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則』)のオーディオ版を聴きました。

この二つの著作はアマゾンのレビューでも多くの方が絶賛されていますし、本屋に行けば今でも平積みされているので、かなり高い人気を得ているようです。

この二つの著作の関係は、今回聴いたCDでも触れられています。このCDは原文をそのまま朗読しただけではなく、90年代前半に“Built to Last”を出した後になぜ“Good to Great”を90年代後半に出したのかということも踏まえて、あらためて近年に収録したもののようです。ですので、所々に、本来は後で出版した“Good to Great”についても触れられています。

最初に出版した“Built to Last”では、20世紀を代表するアメリカの大企業を取り上げ、その中でも特別すぐれた業績を収め、かつアメリカを代表するようになった企業=“Visionary Companies”と、同じく20世紀を代表する大企業となりながら、トップに上り詰める企業とはならず、また人々の心に強い印象を残すことはできていない企業=“Comparison Companies”を比較し、“Visionary Companies”に共通する要素は何かを探っています。

こう書いていて面白いのは、この本は必ずしも「どうすれば競争の中で生き残れる企業になれるのか」を探求する普通のビジネス書とは違うということ。

たとえば“Visionary Companies”と“Comparison Companies”の対比例として、GEとウェスティングハウス、ソニーとケンウッド、ヒューレット・パッカードとテキサス・インダストリー、ウォルト・ディズニーとコロンビア・ピクチャーなどが挙げられています(前者が“Visionary Companies”、後者が“Comparison Companies”)。

こう見ると、ウェスティングハウス、ケンウッド、テキサス・インダストリー、コロンビア・ピクチャーといった“Comparison Companies”も、倒産したわけではないし、長い期間にわたって産業界で確固たる地位を築いているわけです。

しかし著者たちリサーチ集団から見れば、これら“Comparison Companies”は、収益の面でも社会的な影響力という点でもイメージの面でも、社会全体に強い影響力を与える企業とはなりえていないと判断されます。

企業の目的を、利益を上げ組織を存続させること《だけ》に置くならば、これら“Comparison Companies”は十分合格点を与えられるのですが、著者たちはこれらの企業には何かが足りないゆえに、トップにはなれないのだと見なします。


“Clock Building”と“Time Telling”

著者たちが“Visionary Companies”と“Comparison Companies”の違いとして挙げる点の一つが、それが“Clock Building”な企業か“Time Telling”な企業かということ。

これは持続性と散発性として対比できるでしょうか。

それは理念と戦術の違いとしても言い換えられるかもしれません。

実際、著者たちが何度も強調することの一つが、“Visionary Companies”には理念があること。それも抽象的なものではなく、現実の問題にぶち当たったときに何を基準に考えればいいかを教えてくれる指針です。

その指針自体は、理念ですから、直接的には現実の問題に答えてくれるわけではないかもしれない。しかしその理念を思い出すと、自然と採るべき方向が見えてくるような、そういうものです。

例えば著者が挙げる例の一つがソニーの設立趣意書。これは有名なものですが、当時は安かろう悪かろうというイメージを世界中にもたれていた日本の製造技術を、高品質なものとして世界中に示そうという理念を創業者の井深大さんは掲げました。つまり、利益を上げるためではなく、まだ日本のエレクトロニクス・メーカーが未発達だった時代に、自分たちがなすべきことは何かを考えて、井深さんは日本の製造技術を世界のトップに高めるという理念を掲げたわけです。

このような創業時のソニーのスピリットについては、最近ソニーを退職した天外司朗さん(「天外伺朗こと土井利忠さんの生前葬」 『船井幸雄.com』)の対談CD『「フロー経営」の極意』でも述べられています。

そのような理念を持つゆえに、ソニーは時代の変化に対応できたのだとも言えます。ウォークマンにせよ、コンパクト・ディスク(これはソニーが開発した)にせよ、またはアイボにせよ、技術の進化をリードするという目的がブレていないがゆえに、何をすべきかが社員にもハッキリしたのでしょう。

逆に言えば、映画や音楽事業の買収による事業拡大は、ソニーが「自分は何をすればいいのか」という当初の理念を忘れているがゆえに起こした迷走とも言えます。映画や音楽といったソフトに関しては、どういうものを自分たちは作るのかという理念をもっているわけではありません。もしそうだとしたら、結局は時代の流れに場足り的にしか対応する他ないからです。そうすることで散発的に大ヒットを飛ばし“時の人”=“Time Teller”にはなれるかもしれません。しかし時代の変化に対してどう対応するかという指針をもっていない場合には、“Clock Builder”にはなれません。

ソフトに関する理念とは、例えばディズニー(あるいはピクサー)のように、どういう映像を作りたいのかという明確なビジョンがあること。それゆえにディズニーは、いろいろな作品を作りながらも、それらすべてが「ディズニー」というブランドをイメージさせるものになります。それは全盛期のジブリにも、あるいは少し前の映画会社ミラマックスにも共通するかもしれません。

ディズニーにしてもミラマックスにしても、その作風への批判があります。ディズニーはあまりにも大衆受けするレディ・メイドな作風で、例えばエリックス・ザルテンの『バンビ』のような生きることの厳しさ・優しさを胸を鋭く衝く形で伝える作品を、徹底的に“ディズニー的”に分かりやすく変えてしまいます(「私はディズニー・アニメが好きだけれど、『バンビ』のような作品を観ると、たしかにディズニーという人は罪な人なのだ」江国香織『泣かない子供』)。またミラマックスも、そのあまりにもオスカー狙いの作風が批判されているそうです。

しかしそれらが批判されるのは、一つ一つの映画だけではなくて、それらを作る会社が確固としたイメージをもつからであり、それはつまりその会社が「どういう映像を作るのか」という理念をもっているからです。

それに対して、「どういう映像を作るのか」という基本理念を持たない場合、その時々にいい作品を作ったり作らなかったりするだけで、結局持続的にブランド・イメージを打ち出すことはできません。そのような映像のブランドを作っていないと著者たちが指摘するのが、コロンビア・ピクチャーズです。

中谷彰宏さんは対談『「まわりの人を一瞬でファンにする方法」』の中で、ブランドとはロゴではなく信用だと言います。つまり、顧客との信頼関係ですね。「この企業であればこうしてくれる」とお客が信頼感をもつことで、その企業はブランドを初めて作ることができます。

コンサルタントの神田昌典さんは、おそらくその対談を受けて「ブランドとは、いかに熱狂的なファンが多いかどうかを示すもの。それだけシンプル。芸術的なロゴやトレードマークは本質的には必要ではない。小さな会社がブランドをつくるには、ファンづくりにエネルギーを注ぐ」と述べています(『┃--「仕事のヒント」神田昌典365日語録-- No.107』)。

「お客の信用」「ファン」ということを、ポラスとコリンズの議論の文脈に置くと、要するに顧客が「この会社は何をしてくれるのか」ということをイメージしやすく、またそのイメージを思い浮かべた際に、お客さんたちがどこか胸にワクワクするものを感じたり、ホッとしたりといった、どこか肯定的な感情を感じることが、「ブランド」だということではないでしょうか。分かりやすく言えば、何か“夢”を与えてくれるような。

この本ではウォルマートも取り上げられていますが、ウォルマートはすべての販売商品に関して返品を受け付けたことで有名です。徹底的に安い商品を提供し、消費者のサービスに応え続けると言う同社の姿勢には影の側面もあるかもしれませんが(例えば「ウォルマート、好きですか?」 『裸のニュー・ヨーク』)。

しかし、ともかくも「ウォルマートは…してくれる」という期待を顧客に植え付けることには同社は成功しました。あるいはユニクロであれば「安くてわるくないデザインの服を作ってくれる」。スタバやドトールなら「安くてくつろげる場所を街の中に作ってくれている」。「この会社は…をしてくれる」という明確な期待を顧客がもてるようにすることができています。このような期待がブランドへとつながります。

そのように顧客の中に期待を作らせるのが企業の基本理念だと言えるし、企業が時代の変化を先取りして行動できる時というのは、時代の変化の中でその理念を生かすにはどうすればいいかを考えるからかもしれません。

理念があるからと言って、同じものを売り続けるわけではないし、同じことをし続けるわけではない。むしろ時代の変化の中で、その理念はどのように適用できるかを考えることができる、そのような普遍的な理念をもつことが大事なのかもしれません。

(だから、安さだけを追求するような理念は、顧客の人件費の圧縮→従業員の士気と生活水準の低下→社会の格差化へとマイナスの影響を社会全体に及ぼすため、これからも残り続ける企業を生むかどうかは分かりません)

ウォークマンやCDは、人類の技術の進化の流れを人より早く先取りしたもので、それはソニーの発明であると同時に人類の発明です。“Clock Builder”とは意味は違うかもしれませんが、人類の時計に自然に身を任せたがゆえに、誰よりも早く人類の時計の動きを読むことができたわけです。それは、技術の改善・進歩を体現するという理念をもっていたがゆえに実現できたことです。

しかし、そのような理念を忘れてしまった場合、人類の時計の動きが読めないので、HDD全盛の携帯オーディオの流れを読めなかったり、映画事業で持続的な成功を収められなかったりします。


“Built to Last” by J. C. Collins, J. I. Porras 2 に続く)


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