山田洋次監督、渥美清主演の松竹映画「男はつらいよ」シリーズは、とても大好きな映画で、結局全作観ちゃったけれど、渥美清演じるフーテンの寅の独特のキャラクターや、毎回変わる女優陣の素晴らしさもさることながら、僕が特に印象に残っているのは、寅さんが旅先で立ち寄る、寂れた古旅館で夕食を独り淋しく採るシーンだ。
その中でも特に秀抜だったのは、独り旅館の部屋で迎える大晦日の夜のシーンだろう。
こういう場面を撮らせたら、山田洋次は抜群に上手い。
ひっそりとした田舎町の寂れた旅館。大晦日の夜を迎えていて、下の階からはテレビの紅白歌合戦が微かに流れている。ほかに泊り客はいない。
寅さんは、独り晩酌をしながらふと淋しそうに笑っている。遠くから、哀しそうな夜行列車の汽笛が聞こえてくる・・・。今夜は、何処の家でも年に一度の楽しい一家団欒が始まっているのだ。
映画を観てからもうだいぶ経つから、詳細な部分の記憶までは定かでないけれど、今でもこのシーンは胸の奥に刻まれている。別に、映画の主軸となる箇所ではないものの、いつまでも忘れることが出来ない、切なくて哀しいシーンである。
竹中直人主演の映画「男はソレを我慢できない」は、主人公をDJタイガー(トラ)と呼んでいるように、フーテンの寅さんを下敷きにした作りとなっている。
おいちゃんとおばちゃんも出てくるし、可愛い一人の妹さえもいて、DJ稼業で旅から旅を続けているという設定自体がもう「男はつらいよ」のパロディだ。
7年ぶりに下北沢の実家の団子屋へ帰ってきたDJタイガー(竹中直人)。店を経営するおばちゃんやおいちゃん(ベンガル)、愛する妹(小池栄子)と久しぶりに再会し、幼なじみであるマドンナのさつき(鈴木京香)が離婚して下北沢に戻ってきたことを知って有頂天。
何もやることがなく暇を持て余しているタイガーは、下北沢の街の一風変わった仲間たちと、さつきが経営する和風喫茶に入り浸るようになる。
そしてそんなある日、平和な下北沢に突如としてソープランドの建設計画が持ち上がる。さつきに懇願されたタイガーは、仲間たちをこぞって、ソープランド反対運動を始めることになるのだが・・・。
でもこの映画に「男はつらいよ」の味付けを期待してはいけない。それを期待して映画を観るとたぶん失望するだろう。
「男はソレを我慢できない」は、単に基本的な設定を「男はつらいよ」から借りてきたに過ぎない。だから、コメディではあるものの、まったく別の種類の映画として観るべきだ。笑いのツボも全然違う。
この映画に乗れるか乗れないかは、監督である信藤三雄のバイブレーションに乗れるか乗れないかに掛かっている。
監督である信藤三雄は、日本音楽界におけるクリエーターの中の最高峰の一人である。サザン・オールスターズの桑田のソロ、「東京」のビデオ・クリップも彼の作品だ。今回も、YMOの「ライディーン」をバックに使ったり、高橋幸宏や彼の人脈で得たアーティストたちをたくさん起用していることでも、そのことがよく解る。
でもなあ。
笑いがスベるんだよねえ。
竹中直人は好演しているし、他の配役陣もそれなりに楽しめる。でも随所に散りばめられている「笑い」が、ことごとく滑る。つまり、面白くない。シラける。特にラストの辺りは、ちょっとキツイ。
コメディ映画は難しい。シリアスな映画なら、演出が悪くても、あるいは脚本がメチャメチャでも、そのテーマだけで見せることも案外可能かもしれない。でも、コメディ・喜劇映画がスベると、悲惨な事態に陥ってしまう。
ただ、この「男はソレを我慢できない」。確かにいい雰囲気は持っている。どこか、ふわーっとした奇妙な心地よさがあるのだ。
だから、そこをもっと強調したほうがよかったのかも。次回作に期待だね。
その中でも特に秀抜だったのは、独り旅館の部屋で迎える大晦日の夜のシーンだろう。
こういう場面を撮らせたら、山田洋次は抜群に上手い。
ひっそりとした田舎町の寂れた旅館。大晦日の夜を迎えていて、下の階からはテレビの紅白歌合戦が微かに流れている。ほかに泊り客はいない。
寅さんは、独り晩酌をしながらふと淋しそうに笑っている。遠くから、哀しそうな夜行列車の汽笛が聞こえてくる・・・。今夜は、何処の家でも年に一度の楽しい一家団欒が始まっているのだ。
映画を観てからもうだいぶ経つから、詳細な部分の記憶までは定かでないけれど、今でもこのシーンは胸の奥に刻まれている。別に、映画の主軸となる箇所ではないものの、いつまでも忘れることが出来ない、切なくて哀しいシーンである。
竹中直人主演の映画「男はソレを我慢できない」は、主人公をDJタイガー(トラ)と呼んでいるように、フーテンの寅さんを下敷きにした作りとなっている。
おいちゃんとおばちゃんも出てくるし、可愛い一人の妹さえもいて、DJ稼業で旅から旅を続けているという設定自体がもう「男はつらいよ」のパロディだ。
7年ぶりに下北沢の実家の団子屋へ帰ってきたDJタイガー(竹中直人)。店を経営するおばちゃんやおいちゃん(ベンガル)、愛する妹(小池栄子)と久しぶりに再会し、幼なじみであるマドンナのさつき(鈴木京香)が離婚して下北沢に戻ってきたことを知って有頂天。
何もやることがなく暇を持て余しているタイガーは、下北沢の街の一風変わった仲間たちと、さつきが経営する和風喫茶に入り浸るようになる。
そしてそんなある日、平和な下北沢に突如としてソープランドの建設計画が持ち上がる。さつきに懇願されたタイガーは、仲間たちをこぞって、ソープランド反対運動を始めることになるのだが・・・。
でもこの映画に「男はつらいよ」の味付けを期待してはいけない。それを期待して映画を観るとたぶん失望するだろう。
「男はソレを我慢できない」は、単に基本的な設定を「男はつらいよ」から借りてきたに過ぎない。だから、コメディではあるものの、まったく別の種類の映画として観るべきだ。笑いのツボも全然違う。
この映画に乗れるか乗れないかは、監督である信藤三雄のバイブレーションに乗れるか乗れないかに掛かっている。
監督である信藤三雄は、日本音楽界におけるクリエーターの中の最高峰の一人である。サザン・オールスターズの桑田のソロ、「東京」のビデオ・クリップも彼の作品だ。今回も、YMOの「ライディーン」をバックに使ったり、高橋幸宏や彼の人脈で得たアーティストたちをたくさん起用していることでも、そのことがよく解る。
でもなあ。
笑いがスベるんだよねえ。
竹中直人は好演しているし、他の配役陣もそれなりに楽しめる。でも随所に散りばめられている「笑い」が、ことごとく滑る。つまり、面白くない。シラける。特にラストの辺りは、ちょっとキツイ。
コメディ映画は難しい。シリアスな映画なら、演出が悪くても、あるいは脚本がメチャメチャでも、そのテーマだけで見せることも案外可能かもしれない。でも、コメディ・喜劇映画がスベると、悲惨な事態に陥ってしまう。
ただ、この「男はソレを我慢できない」。確かにいい雰囲気は持っている。どこか、ふわーっとした奇妙な心地よさがあるのだ。
だから、そこをもっと強調したほうがよかったのかも。次回作に期待だね。