木曜日の夕方、東京からの新幹線で「新青森駅」に着き、金曜日一日「青森」で仕事をこなし、翌日の土曜日の朝、またまた自宅から歩いて「青森駅」、そしてそこから2両編成の電車に乗って「新青森駅」、改札を抜けて午前9時台の新幹線へと乗り込んだ。
約40時間ぶりの東京だ。
新幹線の中では、びっちり3時間、溜まった新聞と「週刊文春」「週刊新潮」の最新号を読んで過ごした。
東京駅には午後1時過ぎに到着。
プラットホームに降りたら、まるで初夏のような暑さ。ちょっと歩いただけで汗が滲んでくる。
今回は、都内板橋区にあるD大学へと赴き、Y教授との打ち合わせのための上京で、共同研究に関する綿密な日程協議と、D大ゼミとのコラボ授業等の調整をするためのものだ。
疲れてないと言ったら噓になる。くたくただ。でも走るしかない。一度休んだらもう前には進めない気がする・・・。
目的地に向かおうと「都営三田線」に乗った。
土曜日の午後の街は、明るい太陽の光に丸っと包まれていて、何処も彼処もひかり輝いている。
下りの電車ということもあるのだろうか、車内はガラガラだった。
ぼんやりと物思いに耽ながら車窓の外を眺めていたら、電車が止まってドアが開き、3人連れの男女が乗り込んできた。
初老の男女と、もう一人の男性はなにかの障がいを持つ青年のように見える。座席に座った途端、大声で「うおおおおお! うおおおおお!」と震えながら怖がっている様子だ。隣に座っている初老の男性にしがみついて顔を埋めたり、そうかと思えば頭を上げて周囲を、恐る恐るキョロキョロ見ている。
でも、初老の男性はまったく動じる様子もなく、その隣に座った初老の女性と一緒に、怯えて大声を出している青年の背中をただ優しくポンポンと叩いていた。
初老の男性は見る限りでは70代後半だろうか。真っ白な長髪で、顔がジョン・レノンにそっくりだった。本当に似ていた。女性のほうは、小太りの優しい顔立ちをした人で、気品がある。
2人は毅然とした態度をまったく崩さず、だからといって威圧的でも深刻ぶってもおらず、卑下もせず、堂々と、ひたすら怯えて奇声を張り上げる青年(お孫さんなんだろうか)を優しく労わっているのである。
まるで、腹を括った武士のような佇まいだった。
ただ、そういう光景を目にしたというだけの、そんな単なる些細な話に過ぎない。
人間はみな、大きな荷物を背負っている。
もちろん、この障がいを持つ青年が重い荷物だと言っているわけでは決してない。生きとし生けるすべての人間が、それぞれ抱える大きな思い荷物を背負っているという意味だ。
それでも、5月の休日の空は何処までも高く青く、地上で起こりうるあらゆる事象を、何も発せず沈黙のままで眺めてる・・・。