淳一の「キース・リチャーズになりたいっ!!」

俺好き、映画好き、音楽好き、ゲーム好き。止まったら死ぬ回遊魚・淳一が、酸欠の日々を語りつくす。

素晴らしい日本映画を観た。映画のタイトルは「37セカンズ」。出生時、37秒間呼吸ができなかったために脳性麻痺となったある女性の再生物語である。

2021年04月28日 | Weblog
 見逃してきた映画は星の数ほどある。たぶんその中には、まだ観ぬ名作たちもたくさん埋もれてるはずだ。
 日本映画「37セカンズ」もまた、前からずっと気にはなっていたものの、これまで長い間見逃してきた映画の一本だった。

 映画「37セカンズ」、映画誌「キネマ旬報」年間ベストテンにも選ばれていたので観ようとは思っていたのだけれど、ここまで引っ張ってしまった。それを昨日の夜、やっと観ることが出来たのだ。
 「37セカンズ」、期待通りの素晴らしい映画だった。

 生まれた時、たった37秒間呼吸ができなかったただそれだけで、手足が動かない脳性麻痺となった若い一人の女性、夢馬(ユマ)の物語だ。
 脳性麻痺の夢馬(ユマ)は、離婚した母親とたった2人、同年代の人気女性漫画家の覆面ライターを引き受けながら、車椅子での孤独な生活を強いられている。
 女性漫画家は、たんに夢馬(ユマ)を漫画の作成に利用しているだけに過ぎず、彼女が漫画のほとんどを書いていることも外に隠し続け、その存在をおおやけに明かそうとはしないでいる。

 夢馬(ユマ)はある日、自分の書いた漫画を評価してもらおうと、車椅子に乗ってマイナーなアダルト・エロ漫画雑誌の編集者の元を訪ねるのだが、彼女の漫画を読んだ女性編集長は下半身が不自由なその姿を見て、「性体験をしたことがないのはアダルト漫画にとって致命的。セックスをちゃんと経験してからまた来なさい」と、彼女を無情にも突き放す。

 ここから、俄然、映画は動き出す。
 夢馬(ユマ)は、パソコンで過激なアダルトビデオを観て女性の喘ぎを模写し、自らも指を使って性の深淵を探ろうと試みる・・・。

 ややもすれば、障がい者に対する蔑視や健常者目線になるところを、女性でこれが長編処女作となるHIKARI監督、「私は障害のある方と普通に接してきて、健常者との差が分からない人間だった。女性はどうなのかと考え、脚本でウソはつきたくないと思いどこまでリアルに近づけるかが勝負だった」とインタビューでも答えているように、正々堂々、ハンディキャップのある女性に対しても、分け隔てなく真正面から切り込んでゆく。
 そこが清々しい。

 そして、現実社会でも脳性麻痺を抱えているという、主人公役の佳山明の演技がまた驚嘆に値する。初々しくてピュアな表情に観ていて唖然とさせられる。
 脇役の俳優たちもみんな魅力的だ。

 映画の後半、夢馬(ユマ)は強くなってゆく。生きることに前向きになる。綺麗になる。
 セックスを経験しようと、一人で車椅子に乗り、猥雑な歌舞伎町の街へと繰り出し、男娼を買い、ホテルへと入る。
 夢馬(ユマ)は、キスの経験すら一度もない。だから、リアルなアダルト漫画を描くために、恥ずかしさを押し殺して若い男娼にこう嘆願する。「キスしてもらえませんか」と。
 このシーンがまた素晴らしい。
 その男は夢馬(ユマ)の胸を貪りながら醒めた物言いで囁くのだ、「ごめんね、口と口のキスは出来ない決まりになってんだよね」。

 映画「37セカンズ」、上映されてから世界の映画賞を総なめにした。第69回ベルリン国際映画祭パノラマ部門で観客賞とCICAEアートシネマ賞、それから第69回ベルリン国際映画祭パノラマ部門でも栄えある2冠に輝いた。
 この映画の成功で、HIKARI監督はアメリカのユニバーサルの新作映画の演出が決まって、ハリウッドへの本格進出を果たすことになったらしい。

 映画のラストがまたいいんだなあ。

 この映画は、ある一人の女性の、成長の物語である。
 観た人間は誰もみな、月並みな言い方だけれど、勇気と希望を貰えるに違いない。

 参りました!







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