渡辺茂「漢字と図形」によれば、漢字でも千分の一秒の提示でも読み取れるということですが、これは知っている漢字の場合です。
知らない漢字であれば千分の一秒示されてそれを書くということは出来ません。
知っている漢字つまり記憶されている漢字であれば、ごく短時間見ただけで分かるということです。
知っている漢字であっても、書き方を覚えていないか、鮮明なイメージとして覚えていなければ、千分の一秒見せられたからといって、正確に書くことは出来ません。
千分の一秒見るだけで読み取れるといっても、一秒間に1000文字の漢字が読み取れるということではありません。
一つの文字を見せて、千分の一秒後に別の文字を千分の一秒間見せたとすると二つの文字を思い出すのは困難です。
最初の文字をと記憶とを照合し終わらないうちに次の文字が見えて、これを記憶と照合しなければならないからです。
百分の一秒ぐらいの提示でも次々に文字を見せられると、最初の一文字は分かっても後の文字はほとんど分からなくなります。
図のAは12文字の漢字がありますが、百分の一秒の提示でも分かる場合があります。
あまり瞬間視が得意でなくても四文字ぐらいは読み取れるのではないでしょうか。
これが一文字づつ百分の一秒見せられた場合は、四文字でも読み取ることが難しくなります。
12文字あるといっても四字熟語が三つあるので、四字をひとかたまりのものとして見れば、三つの語を見るということで、百分の一秒でも読み取れたりするのです。
この場合でも一語づつ百分の一秒間見るより、同時に三つの語を見るほうが読み取りやすくなるので、百分の一秒以下では見た語の記憶処理が出来ないのでしょう。
Bのように熟語の文字配列が変更されていると、四つの文字はひとかたまりであるといっても、記憶されている文字の配列と違うので、記憶と照合しようとするのに時間がかかり、百分の一秒では三つの語はもちろん一つの語でも難しくなります。
Cの場合はAと同じ三つの語なのですが、同じ文字数でも百分の一秒程度の提示ではAよりもかえって読み取りにくかったりします。
ひらがなの場合は四文字が集まってひとかたまりのものとして記憶されていないからです。
Dのように文字配列が変更されると、瞬間的表示では文字を四字語としてまとめてとらえられず、一文字づつをばらばらに記憶してしまいます。
このようにしてみると、日本語の漢字かな交じり文の場合は、素早く読み取れるためには漢字語が大きな役割を果たしていることが分かります。
といっても記憶されていない漢字語では逆効果ですから、あまり難しい漢字や、特殊な漢字語は出来るだけないほうが読みやすいのです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます