図はチンパンジーの言語訓練に使われた図形文字の例です。
一番上はSランボーがチンパンジーのシャーマンとオースチンの言語訓練に使ったもの、真ん中はピグミーチンパンジーのカンジに使わせたもので、一番下は京大の霊長類研究所でチンパンジーのアイに使わせたものです。
人間の場合は文字の始まりは、シュメール文字にしてもエジプトのヒエログリフ、中国の漢字にしても、象形文字から始まっています。
初期段階の文字は、ものの形を象った象形文字だというのが常識で、象形文字が一番わかりやすいという感覚がありますから、チンパンジーに文字を教える場合も当然象形文字であろうと普通は考えます。
ところが、図の例で見るようにチンパンジーに使わせた文字はどれも象形文字ではありません。
チンパンジーには人間の音声言語は理解できないので、視覚に訴える形で言葉を覚えさせようということになります。
そこで図形文字のようなものを考案して覚えさせようということになるのですが、ものの形を象った象形文字のほうが理解しやすく、また記憶もしやすいと普通ならば考えるのですが、専門家の考えは別のようです。
象形文字が見ればすぐ意味が分かるのであれば、なにもこのようなわけのわからない図形文字を作って苦労して覚えさせることはありませんから、象形文字を遣わない理由があるのでしょう。
一つ考えられるのは、象形文字といってもかなり抽象化されたものですから、文字を習った人には分かりやすくても、チンパンジーにとっては案外わかりにくいかもしれないということです。
抽象化されてわかりにくいからといって、写真のように特定のものに似せた図形にしてしまうと、見かけが同じでないものが排除されてしまうので不便です。
たとえば犬の写真を見れば、犬だということはチンパンジーもわかるでしょうが、それを犬の代表とは思わないでしょうから、写真の犬と違う犬を見れば違うと判断してしまいます。
普通名詞としての「犬」を表わす記号なら、具体的な犬に似ていないほうがよいのです。
チンパンジーがものを表す記号として、図のような図形を学習することができるということは、人間でも可能なはずです。
となれば漢字だけでなく、アルファベットで表された単語であっても訓練されれば見るだけで、音声化しなくても意味を理解できるはずです。
漢字は表意文字で、アルファベットは表音文字といわれますが、アルファベットの文字を綴った単語は音声と同時に意味を表わしています。
したがって単語は音声を伝えると同時に意味をも伝えますから、単語を見て音声を介さず意味を理解することが可能です。
速読というのはアメリカで最初に開発されたものですが、単語を見て音読をしないで意味を理解する訓練をするようになっています。
アルファベットといえば表音文字とされていますが、現実の読書行動の中では単語は表意語となっていて、見れば即理解されているのです。
実際脳損傷などでアルファベットの文字の理解が失われても、単語の意味は失われていないという例があるそうですから、単語を文字つづりとして出なく、意味として記憶している場合があるのです。
ちょうど日本語の場合、脳損傷によってカナが読めなくなったのに、漢字は覚えている場合があるのと同じ現象です。
記号を意味と結びつけて記憶しているということ自体は、右脳の働きかもしれませんが、だからといって漢字だけの高度な機能だというわけではないのです。
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