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多義語と書き分け

2008-07-28 22:43:24 | 言葉とイメージ
 国語辞典で「あげる」という言葉を引くと「上げる、揚げる、挙げる」などと書き分けるように示されています。
 書き分けというようなことをするのは、日本語ぐらいのもので、中国語では上、揚、挙は発音が違い、別の語ですから書き分けるなどとは言いません。
 また「上」、「挙」などはそれぞれいくつかの意味を持つのですが、意味の違いに応じて書き分けのようなことをするわけではありません。
 日本語の「あげる」という言葉を書き分けようとする理由は、多義的なので「上、揚、挙」などと書き分けようとするのだと漠然と考えられています。
 
 多義的といえば英語の場合も日本語に劣らず多義的です。
 「あげる」という日本語に対応する語としてはraiseとかliftといった言葉がありますが、raiseだけを取り上げてみても、図に示すように多くの意味があります(詳しい辞典ではもっと載っています)。
 これを見ると「上げる、揚げる、挙げる」のすべてをカバーしていますから、何らかの形で書き分けをしてもよさそうなものですが、英語では書き分けというものはありません。
 raiseという単語を聞いたり見たりしたとき、発音も文字も同じなのですから、どの意味なのかは文脈で判断するしかありません。
 だからといって、漢字のようなものを使って書き分けるべきだというようなことは、英語については言われません(他の言語でもたぶん)。
 どの言語であっても、単語が一つの意味にしか対応していなければ、ものすごく多くの単語が出来てしまって、覚えきれないだけでなく、意味にふくらみのないぎこちない言葉になってしまいます。
 したがって多義語が多いというのはどの言語でも当然で、だからといって書き分けをしなければならないということはないのです。
 
 漢字の上、揚、挙などを使って書き分けしようとすると、これらの漢字に含まれていない意味の場合もありますから、ムリに漢字の意味を拡張させなければならなくなります。
 たとえば「費用を**円であげる」とか「酔ってあげる」「得点をあげる」「叫びをあげる」「**をしてあげる」について漢字化しようとすると戸惑います。
 「上、揚、挙」などを漢和辞典で引いても適当する例が見当たらないからです。
 言葉は元の基本的な意味から派生した意味が出来、さらにそこからも意味が派生しますが、日本語と中国語では意味の派生の仕方が違うので、もとの意味での一致点が多くても、派生した部分では一致するとは限りません。
 漢字の訓読みというのは、漢字の日本語への置き換えで、翻訳ですから、文脈によって一つの漢字について訓読みが幾とおりもありえます。
 逆に日本語を漢字で書いた場合は、日本語の漢訳となりますから、幾とおりもあるのですが、簡単に訳せないこともあります。
 その場合は、日本人向けの文章であればすべて訳さなくても、訳しにくければ日本語のままにすればよいのです。