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線と点の見きわめ

2008-07-19 22:39:59 | 視角と判断

 図はミュラー.リヤーの錯視図に一部描き加えたものです。
 矢羽に挟まれた軸線の長さが、矢羽が外向きのほうが内向きの場合より短く見えるというものです。
 図でいえば上の図の軸線abのほうが下の軸線uvよりも短く見えるというもので、確かに上の軸線のほうが短く見えるでしょう。
 なぜ上の軸線のほうが短く見えるかという説明として、上の図は建物の角を連想させ、手前にあるように見えるから短く見え、下のほうは部屋の墨を連想させるので、奥にあるように見えるから長く見えるというのがあります。
 いわゆる遠近法によって説明するもので、まだかなり広く信じられているようです。
 
 ところでこの図形を棒や針金で模型を作り、目隠しをして手で触って長さを判定させると、やはりabのほうが短く感じられるそうです。
 目隠しをして手で触った場合は遠近感を感じるということはありませんから、abのほうが短く感じるのは遠近法とは関係ないだろうと予想されます。
 どちらが短く感じられるかという問題であれば、判断は視覚によるとは限らず、触覚による方法もありますから、最初に触覚で判断しようとしたら、遠近法による説明は出てこなかったでしょう。
 触覚で判断しようとした場合は、軸線の先端がabの場合は内側にあるように感じ、uvの場合は外側にあるように感じますから、abのほうが短く感じるというのは、矢羽と軸線の線端が接することで、線端があいまいに感じられるためだろうと思うでしょう。

 そこで視覚の場合も、軸線の線端のあいまいさによるのだということを示すために、描き加えたのが赤線mnとxyです。
 もし線abとuvが全体としてabのほうが短く見えるというのであれば、同じ長さでもmnのほうがxyより短く見えるはずです。
 ところが線mnとxyは同じ長さに見えますから、abのほうが全体としてuvよりも短く見えるのではなく、先端の部分に原因があるだろうと考えるようになるはずです。
 実際abからmnの部分を除いたam,nbとuvからxyを除いたux,yvを比べてみると、am、nbはux,ybより短く見えます。
 このことはmn、xyの長さを、長くしたり短くしたりしても同じように確かめることが出来ます。

 こうしてみると、abのほうがuvよりも短く見える主な原因は線端があいまいにみえるためだということが分るのですが、このことは幼児や高齢者のほうがよりこの錯視をする傾向があるという事実を裏付けるように思われます。
 幼児はものを見る力がまだ発達していないため、矢羽から軸線を切り離して見ることが出来ず、高齢者は視覚が衰えてきて切り離して見ることが困難になっているからなのです。