ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

国際比較が困難な研究者数、でも分析する方法はあった(国大協報告書草案13)

2014年05月29日 | 高等教育

 前回は、研究者数の国際比較はたいへん困難であることをお話しました。でも、困難であると言っているだけでは埒があかないので、なんとか説得力のあるデータを出せないのか?ということでしたね。僕のとった解決策は、増加率で国際比較をすることです。研究者数の絶対値は、定義や計測方法の違いで大きくばらつきますが、増加率にすると、定義の違いや計測方法の違いが一部打ち消されてデータのばらつきが小さくなりますからね。

**********************************************************
3)主要国における時系列を考慮に入れた大学研究従事者数と論文数の相関分析

 次に、時系列を考慮に入れた大学研究従事者数増加率と論文数増加率との相関分析を行なった。基本的には2000年の数値を基点とする2009年値9年間の増加率)を用いて相関分析を行なったが、各国の時系列データにいくつかの問題点があり、今回の分析にあたっては表20に示した対応をとった。

 例えば、図51に示すようにスウェーデンの大学研究者数および従事者数の推移は、2005年から2006年にかけて急激に減少しており、前年度との継続性が損なわれていると判断される。このような場合、急激な段差の部分を除いて増加率を補正したデータを分析に用いることも可能と考えられるが、補正処理の信頼性の観点から今回は分析から除外するという対応をとった。

 なお、日本の大学研究者数(FTE)については図44に示したように、2002年と2008年にFTE係数を変えたために段差が生じているが、今回は2000年を基点とした2009年値を用いて分析した。

 

 表19.に大学研究従事者数増加率と論文数増加率および大学への各種研究開発資金との相関を示したが、増加率で相関をとった場合には、大学研究者数、大学研究支援者数、大学研究従事者数ともに、人口当りの場合に比較して相関係数が高くなり、特に大学研究従事者数増加率は、大学への公的研究開発資金と同程度の良好な相関係数となった。相関係数が改善する一つの理由としては、増加率をとることにより、研究者数の各国間の定義や測定方法の違いによる影響の一部が相殺されて、ばらつきが小さくなることが考えられる。

 図52に、大学研究者数増加率と論文数増加率の散布図、図53に大学研究支援者増加率と論文数増加率、図54に大学研究従事者数増加率と論文数増加率の散布図を示したが、大学研究者数と研究支援者数におけるプロットのばらつきが、両者を合わせた研究従事者数のプロットでは収束されて、強い正相関が得られた。しかも、概ね45度線に近い回帰直線が得られ、1対1の対応関係にあることが示唆される。

 また、今回のデータから研究者だけではなく研究支援者の増も論文数増に大きく寄与することが示唆される。特に韓国は、研究者のみならず研究支援者を急速に増加させており、それが、最も高い論文数増加率をもたらしていると考えられる。

 図55には、大学への公的研究開発資金(政府および非営利団体から大学への研究開発資金)増加率と大学研究従事者数増加率との散布図、図56には大学への公的研究開発資金増加率と論文数増加率の散布図も示した。両図ともに、良好な正の相関関係が認められ、概ね45度線に近い回帰直線が得られた。

 以上、主要各国間の大学への公的研究開発資金、大学の研究従事者数、論文数の3者には、この10年ほどの間の増加率に、概ね1対1に対応する強い正の相関関係(決定係数が約0.9)が認められた。つまり、大学への公的研究開発資金を2倍に増やした国は、大学の研究従事者数も2倍増え、論文数も2倍に増えた、ということを意味している。

 日本の大学への公的研究開発資金の増加率は主要国の中で最低であり、その結果大学の研究従事者数の増加率も最低となり、論文数の増加率も最低となってしまったと考えられる。

 

**********************************************************

  今回のOECDのデータによる研究者数についての分析は正直たいへんでした。データを分析し始めた時は、こんなにばらついているデータで果たしてまともな結果が得られるのだろうかと不安だったのですが、最終的には納得のいく結論が得られて幸いでした。

 当たり前の結論だ、と言われればそれまでなんですけどね。この”当たり前”を証明するのがなかなか難しいんですよね。

 ブログで以前から

 論文数=f(研究者の頭数、研究時間、狭義の研究費、研究者の能力)

 というようなことを言わせていただいて、国立大学法人化後の日本の大学における論文数の停滞~減少は、国立大学運営費交付金の削減によって、教員数(研究者数)の減少と研究時間の減少、つまり、FTE教員数(研究者数)が減少したことが主因である、と、何年も主張してきたのですが、それが、OECDのデータによる国際比較の分析でかなり裏付けられたことになりますね。ただし、狭義の研究費がどうであったのか、についても調べないことには、完全な裏付けになりませんね。次回のブログでは、研究開発費の内訳、つまり人件費、消耗品費、施設設備費と論文数の分析をOECDのデータを使って分析してみます。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 研究者の国際比較は難しい(... | トップ | OECDデータとの格闘終わる・... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

高等教育」カテゴリの最新記事