ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

研究者の国際比較は難しい(国大協報告書草案12)

2014年05月28日 | 高等教育

 さて、国大協報告書草案の論文シリーズの次の分析は、大学の研究者数と論文数の関係性の国際比較です。実は、研究者数の国際比較は、たいへん難しい問題を抱えているんです。総務省の公表している日本の研究者数からすれば、日本には、世界に比べて非常にたくさんの研究者がいることになっています。しかし、学術論文数では、どんどんと国際競争力を失っています。単純に考えれば、日本の研究者はたいへん生産性が低いことになりますね。そうすると、研究者数を増やさずに、競争を激しくして、評価を厳しくして、選択と集中(重点化)をいっそう極端にして、日本の研究者の生産性を上げようとする政策がどんどんと極端に進められることになりかねません。

 でも、果たして、日本には世界に比較して、ほんとうに研究者が多すぎるのでしょうか?そんなことが、今回の分析のテーマです。

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(3)大学の研究従事者数と学術論文数の関係性についての国際比較

 前項で、世界各国の学術論文数は、大学への研究開発資金、特に政府を中心とする公的な大学への研究開発資金が大きな役割を担っており、最近10年間で世界主要国の学術論文数に生じた差の9割程度は、大学への公的研究資金供給の差で説明できることを述べたが、次に、大学の研究開発人材と学術論文数の関係性について検討する。


1)研究従事者数の国際比較をする上での問題点

 研究従事者数の国際比較をする場合にも、研究開発費と同様に、いくつかの問題点が存在する。科学技術指標2013の「第2章 研究開発人材」の冒頭には、「研究者数に関する現存のデータには、各国の研究者の定義や計測方法が一致していないなどの問題点があり、厳密な国際比較には適していないとも言えるが、各国の研究者の対象範囲やレベルなどの差異を把握した上で各国の状況を知ることができる。」との記載がある。

 また、同章の2.2.3の「大学部門の研究者」の項は、「大学部門は研究者の国際比較を行う際に、困難を伴う。」という記載から始まっている。そして、困難を伴う理由として、①調査方法が違うこと(例えば研究開発統計調査を行わず、他の教育統計などのデータを用いる国があることなど)、②測定方法が違うこと(研究開発統計ならばFTE(フルタイム換算)計測をした研究者数を測定できるが、日本ではFTE計測がなされていないことなど)、③調査対象が違うこと(博士課程在籍者の扱いの国による違いなど)、が挙げられている。

 表17に、科学技術指標2013図表2-1-1.各国の部門別研究者の定義及び測定方法、より、大学研究者の部分を抜粋して示した。これらの定義を比較すると、日本の研究者の計測方法は、他の諸国に比較して、研究者を過剰に計数しやすいことが示唆される。

 

 科学技術指標2013の研究者データの元となっているOECD・StatExtractsのデータに基づき、図44に日本とドイツの研究者数(FTEおよびHC)の推移を示した。HC(Head count)とは研究者の頭数であり、研究時間を考慮していない研究者数である。ドイツでは2003年から計測されている。


 日本の研究者の頭数(head count: HC)は微増しているが、FTE(フルタイム換算)研究者数は、2002年と2008年に階段状に減少している。これは、日本のFTE研究者数のデータは、HC研究者数の計測値に、2002年と2008年に文部科学省・科学技術学術政策研究所が行った研究者の研究時間についてのデータに基づき、それぞれ一定のFTE係数を掛けているためである。

 また、日本以外の国においても、計測方法の変更等による階段状の推移等、継続性が保たれていないと考えられるデータが一部にある。

 以上のように、研究者数には、国際的な比較を困難にする定義や計測上の問題点があるために、学術論文数との相関を分析する場合にも、良好な相関関係が得られにくい傾向にあり、それらの問題点を考慮したデータの取捨選択および適切な解釈を行う必要がある。


2)主要国における研究従事者数と論文数の相関分析

 科学技術指標2013の研究者データの元となっているOECD・StatExtractsの研究従事者数のデータには、残念ながら米国の2000年以降のデータが欠損しており、また、中国のデータについては、研究支援者の数が極端に少ない年があるなど、信頼性に問題が感じられる。米国および中国を分析から除くことによる統計学的分析の信頼性の低下をカバーするために、ベルギー、スウェーデン、スイスの3か国を加え、14か国で検討した。また、HC研究者数のデータがそろっている国が少ないため、FTE研究者数についてのみ分析を行なった。研究支援者には、テクニシャン(研究補助者)と、それ以外の支援者とに分けて欄が設けられているが、記載している国が少ないため、研究者数、研究支援者数、研究者と研究支援者を合わせた数(研究従事者数)の3つの指標と論文数の相関を検討した。

 

 まず、主要国のOECDによるFTE研究従事者数を図45に、人口当りの人数を図46に示す。

 日本は米国と中国を除けば、研究従事者(FTE)の数が最も多い国となっている。ただし、研究者数では、イギリスが日本よりも多い。次に、人口当りの研究従事者数を見ると、オーストラリア、スイス、イギリスの順となっており、日本は台湾に次いで11番目である。ただし、人口当りの研究者数では、日本は12番目である。この順位については、上に述べたように、研究従事者の定義や計測法の違いによる各国間のデータのばらつきがあるため、大略の傾向として解釈するべきである。特に日本の研究従事者数は過剰計数になりやすい可能性があり、人口当りの研究従事者数は実際には最下位である可能性がある。

 次に、大学研究従事者数と論文数との相関を検討した。合わせて、大学への研究資金との相関についても検討した(表18)。

 前節の研究開発資金と論文数の相関分析と同様に、政府および外部からの大学への研究開発資金(自己負担分を除く大学研究開発資金)、および、政府および非営利団体からの研究開発資金(大学への公的研究開発資金)が論文数と最も強い正相関を示した。大学研究者数、大学研究従事者数、政府から大学への研究開発資金は、相関係数0.9以上の正相関を示した。

 大学研究者数(FTE)と論文数、大学研究従事者数(FTE)と論文数の散布図を図47,図48に示す。図47には、参考までに日本のHCによる大学研究者数のプロットを▲で示した。FTE係数を掛けた大学研究者数と大きくずれていることがわかる。

 図48に示す大学研究従事者数と論文数との散布図においては、日本はこの14か国の中では最も大学研究従事者数が多いにも関わらず、論文数は3位となっている。これは、日本の大学の研究従事者一人当たりの論文生産性が低い可能性、または、総務省の計数(HC)にFTE係数を掛けてもなお、日本の研究従事者数が過剰計数されている可能性を示唆するが、次項で説明する時系列を考慮した相関分析の結果を合わせると、日本の研究従事者数が過剰計数である可能性が高いと考える。

 

 次に人口当りの大学研究従事者数および研究開発資金と論文数の相関を検討した(表18)。

 各種大学の研究開発資金については相関係数0.9前後の良好な正相関が得られたが、大学研究者数については0.624、大学総研究従事者数については、0.6764と、相関係数が低下した。ただし、統計学的には有意の正相関であった。図49に人口当りの大学研究者数と人口当り論文数の散布図、図50に人口当りの大学研究従事者数と人口当り論文数の散布図を示す。

 人口当りの場合に、研究開発資金に比較して、研究者数および研究従事者数の相関係数が低下する要因としては、先にも説明したように、研究者の定義や計測方法の各国間の違いが、より大きなデータのばらつきとして反映されたものと考える。

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  研究者の国際比較が難しいことがおわかりいただけましたでしょうか?でも、国際比較が難しいとだけ言っているだけでは解決になりませんね。財務担当者に対しては、もっと説得力のあるデータが必要です。果たしてこのばらつきの多いデータをなんとかすることができるのでしょうか?

 次回のブログをお楽しみに。

 

 

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