ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

日本再生戦略の重要な数値目標(大学改革の行方その11)

2012年10月04日 | 高等教育

 今日は、三重大学のマネジメントのお話の続きに戻るということにしていたのですが、すみません、再度インターミッションです。

 昨日、総合科学技術会議の下にある「基礎研究及び人材育成部会」に委員として出席しました。前回のブログでは、10月1日に開かれた、科学技術政策研究所(NISTEP)の研究論文に着目した日本の大学のベンチマーキングについてのシンポジウムについてご紹介しましたね。実はこの部会に、NISTEPの桑原輝隆所長が招かれてベンチマークデータついて説明をされ、意見交換が行われました。

 それで、僕も、10月1日の発表と同じような調子で、かなり思い切った発言をさせていただきました。

 特に、桑原先生がご発表の中で紹介された、「日本再生戦略」(2012年7月31日閣議決定)の政策目標

・〔2020年までの目標〕 特定分野での世界トップ50に入る研究・教育拠点を100以上構築

・〔2015年までの目標〕 被引用数トップ10%の論文数の国別ランキング向上

の2番目の目標が重要であることを桑原先生がほのめかされたのですが、僕も強くセカンドしておきました。

 考えてみればこの指標は、文科省科学技術政策研究所が論文数のカーブとして出している指標ですし、僕が日本全体の目標にすべきと言っている「人口あたりの被引用数トップ10%論文数のポジショニング(ランキング)」とほとんど同じですね。

 何が重要かと言うと、この指標は注目度の高い論文の「数」ですから、「質」だけではなく「量」が入っていることです。つまり、論文の「質×量」の指標なんですね。

 そうすると、この目標を達成するためには、科学研究費総額を確保していただくことがどうしても必要になります。だって、質の高い論文をたくさん書こうと思えば、それだけお金も人も時間もかかりますからね。

 僕が主張している「人口あたりのトップ10%論文数のランキング」で日本は21位、韓国が20位、台湾が19位で、韓国は日本とちょぼちょぼ、台湾は日本の1.5倍ということなので、1.5倍の台湾を目指すということになると思いますが、1.5倍はとってもむりなんじゃないか、というご意見もあります。

 人口あたりにしない場合は、トップ10%論文数(2008-2010)を並べると日本は7番目で、6番目がカナダ、5番目がフランスになり、論文数は日本が6375、カナダが6622、フランスが7892なので、まずはカナダを目標にしてがんばろうか、ということになるんでしょうか?

 でも、人口が高々3400万人の国の論文数(絶対数)を、人口がその3.5倍もある日本が目標にせざるを得ないなんて、なんともはやなさけない話です。

 僕としては、やはり、日本列島に住む1億2千万人の人々を食べさせるというミッションを反映させるために、人口あたりの指標にして、1.5倍の台湾を目指してほしいですね。もっともたとえ1.5倍にしても、絶対数でフランスを抜くことができますが、米、英、独、中には及びません。

 いずれにせよ、日本再生戦略で、この数値目標をかかげることをお決めになられた方は、非常に見識のあられる方だと思います。

 それから、指標としてトップ10%論文がいいのか、トップ1%論文がいいのか、という質問が会議の席上で出たのですが、結論はでませんでした。どちらでもいいと言えばどちらでもいいのかも知れませんが、この点については以下のような考え方はできないでしょうかね。

 純然たる基礎研究にはあてはまらないかもしれませんが、もし、日本列島に住む1億2千万人を食べさせる、というミッションを設定するとしたなら、論文数と特許件数とのリンケージが一つの指標になるのではないかと思います。NISTEPの調査資料203にはトップ1%論文を産生した研究プロジェクトと、通常群の研究プロジェクトを比較した調査が載っており、特許出願はそれぞれ39%、22%でした。

 これをみると、トップ1%を生み出した研究プロジェクトの方が特許にたくさん結びつくということになります。ただし、その傾斜は、トップ1%と10%の傾斜、つまり10倍よりも、大きくないようにも思われます。つまり、トップ1%でなくても、特許に貢献できる論文はけっこうたくさんあるのではないでしょうか?

 また、研究プロジェクトに費やした人×月は約1.5倍近くかかっており、研究費がたくさんかかっているわけです。つまり、研究費あたりの特許件数にはあまり大きな違いがないかもしれません。

 特許にも「経済規模」という「質」があると思うので、さらに緻密な研究が必要かもしれませんが、特許の量の必要性も考慮に入れると、現時点ではあえてトップ1%を指標にする必要はなく、トップ10%くらいが丁度いいころあいなのではないかという感じがします。

 トップ1%を指標にすると、あとの99%の論文は「ムダ」であるという誤解を招く恐れもありますしね。もっとも、トップ10%でも、あとの90%の論文が「ムダ」であるという誤解を招く恐れがあるわけですが、誤解としては、まだましなのではないでしょうか?

(このブログは豊田の個人的な感想を述べたものであり、豊田の所属する機関の見解ではない。)

 

 

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