ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

国大協報告書草案(10)「公的機関と大学への研究開発資金と論文数の関係性」

2014年05月20日 | 高等教育

 前回のブログをアップさせていただいた直後に、フランスのデータがおかしいことに気づきました。原因をさかのぼっていくと、OECDのデータベースのフランスのデータの一部を転記ミスしていたことがわかり、関連する計算を全部やりなおし、グラフを全部書き直しました。若干数値が変わっているところがありますが、結論は変わっていません。

 さて、今日の論文シリーズのブログでは、前回の分析に関連して、公的(政府)研究機関と大学との関係性について、少し掘り下げてみます。

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3)公的機関と大学への研究開発資金と論文数の関係性

 この分析に用いた論文数は大学セクターだけの論文数ではなく、それぞれの国全体の論文数であり、公的(政府)研究機関や企業が産生する論文数も含まれている。そうであるにもかかららず、大学への公的資金注入額が、その国全体の論文数と強い相関関係があることは、それだけ大学というセクターがその国全体の論文産生において重要な役割を果たしていることを示唆している。

 日本の場合、文部科学省科学技術・学術政策研究所のデータによれば、図35に示すように、大学は日本全体の論文数の80%を産生している主要な論文産生機関であり、大学の論文産生能力如何が、日本全体の論文数産生を大きく左右することもうなづける。

 日本の公的機関については、図35に示すように、政府からの研究開発資金の供給額は大学よりも多いが、日本全体の論文数産生への寄与は約10%と小さい。仮に論文の生産性を「論文数/国からの研究開発資金」として計算すると、大学と公的機関の間には約10.7倍の開きがある。これは、公的機関の研究開発には、宇宙や原子力開発など、また、国によっては防衛関係の研究など、多額の研究開発費を必要とするが論文の産生にはそれほど結びつかない分野が含まれていることが一因であると考えられる。 

 先の表15に示したように、政府から大学への研究開発資金供給額は論文数と強く相関するが、政府から公的機関への研究開発資金供給額(対GDP比)は論文数(対GDP比)と有意に相関せず、むしろ相関係数は負となった。政府供給研究開発資金の公的機関と大学の比率をとるとGDP当り論文数との間に、統計学的に有意の負の相関関係が認められた(図36)。

 つまり、大学に比べて公的機関への研究開発資金の供給に熱心な国ほど、論文数が少ない傾向にあり、逆に、公的機関への研究開発資金を絞って、大学に手厚く研究開発資金を供給している国ほど論文数が多い傾向にある。

 このような結果から、まず、日本の大学と公的機関における論文の生産性の違いは、他国においても同様の状況であることが推測される。そして、その国の論文数は、主として大学への公的研究開発資金供給額の多寡によって左右されるが、その背景として、その国の科学技術予算や研究開発予算の中で、どれだけ大学に研究開発資金を振り向けるかという、予算配分政策も反映された結果の数値であると見ることができる。

 日本の場合は、政府が供給する研究開発資金(GDP当り)は先進国の中で低い順位にあるが、その状況の中で公的機関には上位先進国並みの研究開発資金を投入している分、大学への研究開発資金が少なくなって、その結果論文数(GDP当り)の順位が先進国の中で最低となっていると考えられる。

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 誤解のないように、申し添えますと、公的機関の中には、理化学研究所なども含まれていると思いますが、このような研究所については、大学と同様に研究開発資金と論文数は強い相関をするはずです。

 次回のブログでは、時系列的な分析も加えて、研究開発費と学術論文数の関係性について、結論をまとめたいと思っています。

 

 

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