ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

台湾に学ぶ(その4):台湾の大学が日本の大学を圧倒した理由は?

2012年06月02日 | 高等教育

 さて、もう6月になってしまいました。5月の私のブログの更新回数はちょっと低調でしたね。月も替わったので、なんとか、がんばって書くことにしましょう。

 先のブログでは臨床医学の論文数で、台湾の大学が日本の大学を急速に追い抜いていることをお示ししました。そして、3月14,15日に台湾の国立成功大学と国立台湾大学を訪問する機会があったので、今回は、その印象を簡単にお話することをしましょう。詳細は、後日報告書にまとめる予定で、ブログでも追々ご報告していきたいと思います。

 台南市にある国立成功大学は日本の地方国立大学のモデル、台北市にある国立台湾大学は日本のトップレベルの大学のモデルになると思います。両大学とも医学部および附属病院を中心に訪問し、幹部の方にインタビューをしました。今日は日本の国立大学と大きく違うと感じたポイントをとりあえずあげておくに留めます。

1)台湾の国立大学は法人化されていませんが、日本の国立大学法人と同様に、剰余金の繰り越しが条件付きで認められているようです。特に大学病院の剰余金は無条件に繰り越しが認められているとのことです。

 法人化されていない国立の制度のままで留保金が認められるとは、私にとってはほんとうに驚きでしたね。日本では、さしずめ“埋蔵金”として、財務省がただちに巻き上げてしまいそうです。

 実は、台湾でも国立大学の法人化が検討されているようですが、日本の国立大学法人化が、思ったよりも成果が上がっていないようなので、どうも躊躇しているようです。

 国立のままでも留保金が認められるのであれば、わざわざ法人化する必要なないとも思われますが、法人化によって、いっそう各大学の自由裁量権が大きくなるのであれば、台湾の大学のパフォーマンスはさらに上がるかもしれませんね。ただし、日本の国立大学法人化のように、予算の削減と抱合せをされ、研究者×研究時間が減るような制度では、自由裁量の効果は打ち消されてしまうでしょうね。

2)大学病院の財務・会計は、大学から完全に独立しているようです。また、国立大学のままでも剰余金の無条件留保が認められていることは、上にも触れました。病院は財務的に大学から完全に独立しているので、予算計画は大学に提出する必要はなく、直接的に教育省に提出しているとのことでした。

 大学病院が財務的に大学から完全に独立するべきであることは、2004年の国立大学法人化当初から、私が主張してきたことです。当時、私は国立大学協会の病院経営小委員会の委員長をしており、病院を財務的に大学から完全に区別して“自己完結的経営”をするべきであると主張しました。“自己完結的経営”と表現したのは、私の主張が “独立採算”と誤解されると困るという意見があったからです。台湾の国立大学が、私の主張とまったく同じスキームを採用していることを知り、私のかねてからの主張に自信を得ました。

 台湾の国立大学病院の再開発は、基本的には留保金で行うようです。国立成功大学では、自己の留保金5割、国からの支援金5割で、病院再開発を行ったとのことでした。日本の自治体病院並みの支援ですね。日本の国立大学病院では再開発のうちの病院建設費の10%しか支援金がいただけないいので、なんともうらやましい話ですね。

 このような、法人化をしない国立の制度の枠組みの中で、剰余金を無条件に留保できる仕組みがどうしてできたのか聞いてみたところ、国立台湾大学の副病院長は、これは、そうしてもわらないととてもやっていけないと政府に強く訴えて、自分たちが勝ち取った制度なんだと、力強くおっしゃっていました。

 日本の政府は、とても台湾政府のような柔軟な対応はできないでしょうね。「そんなことはできるはずはないでしょう。」と一蹴されそうです。

3)大学の評価制度はトムソン・ロイター社に依頼しているようです。日本の国立大学では、中期目標・計画を各大学から提出させ、大学評価学位授与機構や法人評価委員会が目標管理によって評価していますが、台湾の割り切り方はすごいですね。トムソン・ロイター社の評価制度がどのようなものなのか、一度調べてみる必要がありますが、大学評価学位授与機構の教育・研究評価委員会に出席していますと、日本ではとてもトムソン・ロイター社の評価を使うことはできないような雰囲気を感じます。

 ただし、国立成功大学の医学部では、教員に対して4半期毎に論文のチェックがなされているとのことで、すさまじいことがなされているようです。医学部長も、果たしてこんなことがいいのかどうかわからないが・・・、とおっしゃっていました。

4)なぜ、台湾の大学の論文数が増えているのかお聞きしたところ、大方の意見は、政府が研究費を増額したことをあげておられました。台湾政府の支出する研究費が急速に増えていることは、前のブログでもご紹介しましたね。特に10大学には重点的に配分したようで、これは、日本の大学に当てはめると50大学を重点化したことになりますね。やはり、日本も台湾のように研究費総額を増やさないことには、海外と戦えないということを強く認識させられました。

 また、国立台湾大学では、同規模の日本の九州大学をベンチマークして目標に掲げて頑張ったとのことです。前のブログでお示ししたトムソン・ロイター社のデータベースによる臨床医学の論文数をみると、国立台湾大学は九州大学を2004までに追い抜いており、また、ついに東京大学までも追い抜いてしまったわけです。

 以上、ごくごく簡単にまとめてみますと、台湾の国立大学では国立という枠組み中にありながら、各大学に最大限の裁量を与えて、研究費も増額。そして、国においてはトムソン・ロイター社に評価を依頼し、各大学においても明確な数値目標を掲げて頑張り、論文数で日本の大学をどんどん追い抜いているということになります。

 一方日本の国立大学では、法人化によりある程度の裁量が大学に与えられたことまでは良かったと思いますが、台湾の国立大学に比較するとまだ改善する余地があり、研究費は減額され(基盤的運営費交付金の削減は実質上の研究費減額として作用している)、国においても各大学においても明確な数値目標が設定されずに、研究者×研究時間という研究の人的なインフラがダメージを受けました。その結果、上位大学では論文数は維持されていますが、大学間格差が拡大し、余力の小さい地方国立大学から論文数が減少し、海外の大学との差はどんどん広がっています。

 これでは、台湾の大学が日本の大学を圧倒するのは当然の結果ですね。

 

 

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