日本史の教科書にも登場する内村鑑三。1908年、今から100年前、英語で執筆され、その後各国で翻訳された氏の代表作が本書です。日本を代表する5人を外国に紹介したものです。
新渡戸稲造の 『武士道』、岡倉天心『茶の本』 と同様、日本人が英語で自国の文化・思想を西欧社会に紹介した著作ですね。
そういえば新渡戸稲造も敬虔なキリスト教徒ですが、内村鑑三の場合はキリスト教徒であることがより重要です。二人とも札幌農学校で、“少年よ大志をいだけ” のクラーク博士などに教わっており、その影響力の強さが伺えます。
ところが内村はアメリカに行ってみて、あこがれのキリスト教国の拝金主義と人種差別を目の当たりにし大いに落胆したそうです。アマゾンの紹介文の一節にも
“自分はイエスキリストに従う者である。と同時に金銭に対する執着や狡猾な駆け引きを嫌うサムライの子である。”
とあります。日本におけるキリスト教というのは、『キリスト教と日本人(井上章一)』や『沈黙(遠藤周作)』 『塩狩峠(三浦綾子)』 のどれを読んでも、やはりすんなりと根をおろすまではいかないなぁと実感します。
内村も渡米後、二つの J (キリストのJ【Jesus】 と 日本のJ 【Japan】)を信じる独自のキリスト教観を持つに至るわけですね。本書で内村が紹介している5人にはキリスト教徒どころか、日蓮上人が入っています。
西洋的な宗教観とは異なる日本人の伝統文化や道徳観を示すために、5人の偉人たちを取り上げて、その生涯と実績を書き綴ったものです。
取り上げられている5人です。
1 西郷隆盛―新日本の創設者(一八六八年の日本の維新;誕生、教育、啓示 ほか)
2 上杉鷹山―封建領主(封建制;人と事業 ほか)
3 二宮尊徳―農民聖者(今世紀初頭の日本農業;少年時代 ほか)
4 中江藤樹―村の先生(昔の日本の教育;少年時代と自覚 ほか)
5 日蓮上人―仏僧(日本の仏教;生誕と出家 ほか)
翻訳も読み易くなっていますから中学生が読んでも大丈夫でしょう。簡単な伝記として読むこともできますから、興味を持ったらそれらの人物についてさらに深く調べたり本を読んだりしたら理想的ですね。
1の西郷隆盛は小学生でも知っていますね。2の上杉鷹山、実は故ケネディー大統領がもっとも尊敬する日本人だと語っています。その時、それを直接聞いた日本人記者の中の誰も上杉のことを知らなかったというエピソードが残っています。
ケネディーが上杉を知っていたのは本書を読んでいたからではないかと指摘されています。上杉のことを知らない人も
『為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり』
という言葉なら聞いたことがあるでしょう。それを残した米沢藩主です。
3の二宮尊徳(金次郎)は薪を背負って本を読みながら歩く銅像が、日本のあちらこちらにありましたが、今は撤去されているものも多いそうで、子供たちは見たことが無いかもしれませんね。
4の中江藤樹は難しいのですが、“陽明学” という学問を日本で広めた学者で、最後の日蓮上人は鎌倉時代の僧。知っていますよね。
新渡戸稲造の 『武士道』 もそうですが、こういう本を読みますと、きっと自分が当たり前に持っている日本人的なものを再確認できるのではないでしょうか。日本人で良かったと。
そして、それぞれが自分の考える “代表的日本人” を挙げられるようになったら言うことありません。私なら、聖徳太子、徳川家康がすぐに思い浮かんで、あとは誰にしようという感じ(笑)。多くの生徒に読んでもらいたい一冊です。
P.S. 本書はありませんが、内村鑑三の著作のいくつかは青空文庫で無料で読めます。
⇒ 青空文庫(内村鑑三リスト)
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そういえば、南無阿弥陀仏と唱えるだけでよいというのは、この上なく簡潔な日本的宗教なのかもしれませんね。
別の本では、アメリカのキリスト教徒にも教会に出かけていかなかったりすることに罪の意識を感じていて、怠けものだということが心の重荷になっている人がたくさんいると書いてありました。
二宮尊徳像、昔は多くの学校にあったのに戦後壊されちゃったようですね。勤勉の象徴として残しても良かったのに・・・。
内村氏の「あこがれのキリスト教国の拝金主義と人種差別を目の当たりにし大いに落胆した」というのは、なるほど、うなずけます。拝金主義はともかく、人種差別は、本当にそうですね。私も大昔憧れのアメリカに行った時に、それを感じました。そういうこともあって、私にはキリスト教がなじめなかったのかもしれません。