『・・・1945年8月6日には広島、9日には長崎にアメリカ軍は、原子ばくだんを落としました。1発のばくだんでいっしゅんにして数万人もの人々がなくなりました。ソビエト連邦軍も満州にせめこんできました。日本は8月15日、ついに降伏しました。こうして、アジア、太平洋を戦場とした15年にもわたる戦争が、ようやく終わりました。・・・』
これは東京書籍の小6社会の教科書の記述だそうです。自分で確認したわけではないのですが、ポツダム宣言という言葉がありません。また小6にしては、やたらとひらがなが目に付いて、かえって読みにくいと思うのですが、どうでしょうか。
別の教科書を見てみました。教育出版の小学社会6上です。
『アメリカ軍は、8月6日に広島、9日には長崎に原子爆弾(げんしばくだん)を投下しました。地上1万mまできのこ雲が立ち、熱線と爆風で、建物はくずれ、人々は体を焼かれて、まるで地獄(じごく)のようなありさまでした。原子爆弾によって、広島・長崎の両市では30万以上の尊(とうと)い命がうばわれました。現在でも、その後遺症(こういしょう)に苦しむ人々がたくさんいます。
満州(まんしゅう)や樺太(からふと)(サハリン)南部にはソ連軍がせめこみ、多くの日本人がぎせいになりました。こうした中で、8月15日、昭和天皇(てんのう)がラジオで日本のこうふくを伝え、15年にわたる戦争はようやく終わりました。同時に、、朝鮮(ちょうせん)や台湾(たいわん)は日本の支配から解放されました。』
こちらもありませんね、ポツダム宣言。原爆の死者に関して、前者が数万で、後者は30万以上となっています。また漢字の使いかたも違います。片方では、“ばくだん”で、もう一方では“爆弾”。逆に片方が“降伏” と漢字なのに一方で “こうふく” となっていますね。細かいことはともかく、ある程度統一しておく必要はないのでしょうかね。
私は高校英語の講師ですので、小学校社会の細かな規定やこれが“ゆとり教育”以降のことなのかは知りませんが、さすがに歴史を教える教科書からポツダム宣言を省くのはまずいし、死者の数も違いすぎると思います。
(ちょうどタイミングよく genio先生が、第二次戦争に関して、小泉首相の談話から出された開成中学の過去問を紹介しています。それと教科書を比べるのはどうかと思いますが、みなさんぜひチャレンジしてみてください。
genio先生のブログ ⇒ 『試験に出る!時事ネタ日記!』 )
『習った漢字:ゆとり教育の成果は』で指摘したように、分かり易くしようとして、長い説明を省いたり、漢字をさけたりすると逆に頭に残りにくいと思うのですが…。“日本のこうふくを”⇒ 幸福 と思わないかな~とちょっと心配。
本書は、中学生が使う歴史教科書を比較したものですが、その前に、もうひとつ…。
テレビのニュースで、中国の温家宝首相が代々木公園で一般の人に混じってジョギングをして、言葉を交わすシーンが流れましたが、その時のあいさつで、温家宝首相が 『○○○』 と中国語で名乗りました。すかさず通訳の女性(おそらく中国人)が 『オ・ン・カ・ホ・ウです』 と言いました。あっ、日本語読みで良いんだと思ったわけです。
朝日新聞のサイトでは “温家宝” 首相の読み方は、オンカホウではなく “ウェン・チアパオ”首相と書いてあって、混乱しますが、実は東京書籍の中学の歴史教科書では、本書によると、“蒋介石” は人名索引で引いても「ショウカイセキ」のところに出ておらず、中国読みの「チャンチェシー」のところで引かなければならないそうです。
歴史教科書の検定のおり、扶桑社の教科書があれだけ批判されたために、どんなすごい本なんだろうかと思って自分で読んでみました。拍子抜けするくらい、普通の本でしたね。
手元にあった他の教科書一冊と比べても、扶桑社の方が読みやすい教科書だと思いましたので、いったいどうしてこんなに批判されるのか、批判されない教科書と何が違うのでしょう。全部で八種類あるそうですが、私が読んでいない他の教科書はどうなっているのかを知りたくて本書を読んだわけです。
非常におもしろい一冊で、“徹底検証する” の名に恥じないと思います。さまざまな観点から比較検討されています。まず、教科書がどんな人物に光を当ててコラムなどで大きく取り上げているか、それに偏りがないかを見てゆきます。そこからは時代順に検討を加えます。
目次です。
総論―人物・文化
古代(古代史と大和朝廷;中華秩序と聖徳太子;神話と伝承)
中世(鎌倉幕府の成立(武家政治の特色);元寇と倭寇;農村と一揆)
近世(朝鮮出兵;百姓一揆;琉球とアイヌ;江戸時代像の再評価)
近代(明治維新と近代国家の建設;大日本帝国憲法の制定;日清・日露戦争;条約改正;アジア諸国との関係、及び昭和期の政治・外交;満州事変・日中戦争と大東亜戦争(太平洋戦争))
現代(戦後日本の評価;共産主義の総括)
まとめ「まえがき」「あとがき」を比較・検証する
三浦朱門氏自身は、曽野綾子氏の夫で、文化庁長官などをされていましたのでご存知でしょう。キリスト教徒であっても、靖国神社には参拝するというお考えのようですからよくわかりません(笑)。扶桑社の教科書を推しているのだろうと感じました。
それはともかく、他にも興味深い違いが次々に出てきます。社会の先生に限らず、ぜひお読みいただきたい一冊です。
全「歴史教科書」を徹底検証する―教科書改善白書〈2006年版〉 小学館 詳 細 |
P.S. 他に教科書に関する書籍をこれまでもいくつか取り上げました。よろしければご覧下さい。二つ目はかなり激しいことばで相手を罵倒し、感情的な印象ですが、他は興味深い内容でした。
●扶桑社の『新しい歴史教科書』 の採択がほぼゼロに決まったあと、どういうことがあったかを取り上げたもの:『教科書採択の真相』(藤岡信勝)
教科書採択の真相 かくして歴史は歪められる PHP研究所 詳 細 |
●同じ保守系の論客と思われた谷沢永一氏が、↑の本の著者藤岡氏ら、またその教科書を激しく批判したもの: 『「新しい歴史教科書」の絶版を勧告する』
「新しい歴史教科書」の絶版を勧告する ビジネス社 詳 細 |
●アメリカを中心に、歴史教科書がどう扱われているかを紹介したもの: 『アメリカの歴史教科書が教える日本の戦争』 (高濱賛)
アメリカの歴史教科書が教える日本の戦争 アスコム 詳 細 |
●韓国政府が日本政府に対し教科書の修正を要求した時のやりとり、具体的な指摘箇所や、事実関係を考察したもの :『親日派のための弁明2』 金完燮(キムワンソプ)
親日派のための弁明2 扶桑社 詳 細 |
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『全「歴史教科書』」徹底検証する』三浦朱門
小学館:239P:1260円
今もこの本は本棚に置いてありますが、時々、息子の歴史の勉強のときに、引っ張り出して読み返しています。
三浦朱門氏に関しては、ゆとり教育での例の発言以来、どうも印象が悪くて、この人の本は読もうという気がおこらないのですが、VIVAさんが取り上げてくださったので、図書館にあったら、読んでみようと思います。(購入予定はなしです。)
ついでに言うと、この方の奥様の曽野綾子氏も非常に印象が悪いんですよね。あくまでも個人的見解ですけど。
ずっと以前に勘違いして、「氷点」や「塩狩峠」の三浦綾子さんが、朱門氏の奥様だと思って、な~んで、こんな素敵な作品をかかれる方が、朱門氏の奥方なんだろう?と不思議に思いました。
ところで文藝春秋五月号読みました?P370に日垣隆が、
矢部正秋『プロ弁護士の思考術』(PHP新書756円)
を大絶賛してました。是非VIVAさんの感想を聞きたい。それで面白そうだったら私も読みます(笑)。じゃあねえ。
なぜ教科書が近隣諸国に媚びたものになるのか、その顛末の一部始終が書かれています。
「進出」を「侵略」に書き換えたという事実が無かったにもかかわらず、日本のマスコミの誤報で中・韓が日本を攻撃し始め、マスコミもそれに同調。根拠が曖昧なまま日本政府が謝り「近隣条項」を受け入れてしまった。・・・何かに似ていませんか?そうです、慰安婦問題にそっくりです。
朱門氏の発言が念頭にあり、2002年の元旦に書いたコラムがあります。よろしければご覧ください。
『ゆとりより夢を』
http://blog.goo.ne.jp/tokkun-book/e/9b94fd6977cb1122370517a60bc03c02
そうそう、三浦綾子さんです(笑)。同じ勘違いしてました。ちょうどそれも記事にしました。『塩狩峠』
http://blog.goo.ne.jp/tokkun-book/e/53b1e87ebbd6b3fb64230a407ff16cd3
ついでに曽野綾子さんの本も取り上げました。怖そうな方ですが、筋を通している印象で、だいぶ前に自民党の国会議員を前にした演説を見てすばらしいと思ったのですが…。こちらのことを書いております。
『沈船検死』
http://blog.goo.ne.jp/tokkun-book/e/cf3dcc18ed760fe4ff6c8aa6385c10c9
渡部氏は記事で挙げた、谷沢永一氏ととても仲が良いのですが、谷沢氏があまりにも強烈な言葉で『新しい歴史教科書』を批判していたので、どうなっているのか知りたかったんですね。
その後に読んだ、渡部氏と小林よしのり氏の対談で、小林氏が、どうなっているんだ、わけがわからないと渡部氏にぶつけていましたが、何も答えはなく、本の最後に谷沢氏について触れた部分は、小林氏の独白であると断りまで付いていました。
保守の世界もいろいろあるんだなぁ~と思った次第です。
保守同士の齟齬はよくわかりませんね。イデオロギーに寄っていないから、一枚岩にはなりきれず、見解の相違があるのかしら?
中国首脳来日!というようなビッグニュースの時にはすかさず生徒に興味を持ってもらえるように、本が紹介できれば理想です。
権力闘争というようなドロドロしたものというより、大物のメンツの問題のような気がします。まったくのあてずっぽうですが。
それは、別として、この小6の教科書の問題。いろいろな意味で、もう少し、レベルの高いバランスの取れたものでも良いのではないかと思いました。genio先生の開成ほどでないにしてもね。
その後、息子に「日独伊三国同盟もないって事だよね。」と聞いたら「当然じゃん。」要は、ポツダム宣言を入れると日独伊に対する連合国の概念、ポツダム宣言の内容、と話を展開する必要が出てくるカラデハ・・・と思った次第です。
早速、ありがとうございました。謝謝。
私が社会の先生だったら、きっとそうすると思いますが、校長先生に怒られるかな。でも、原爆の死者がこんなに違っていたり(もちろん南京も)したら、義務教育の意味をもう一度整理する必要があるのではないでしょうか。
そして、いずれにしろ教える時間が少なすぎます、残念ながら。
学習塾をやっていてこう申し上げるのも気が引けますが、小学校の教科書がここまで単純化されてしまうと、正直、中学受験をする生徒が、小学校の教科書あるいは授業を見向きもしなくなってしまうのも理解できます。
受験を考えない生徒でも、やはり知識欲のある生徒にはどことなく魅力に欠けないかと心配です。教科書を百科事典にしろとは言いませんが、できればなるべく詳しくして欲しい。あるいは詳しい資料集的なものを、配って欲しいです。
それさえあれば知識欲のある生徒は社会に限らず、塾に行かずとも勉強できますから。
とにかく学校に政治を持ち込まないでいただきたい。そう思います。
いろいろ教えていただきありがとうございます。