玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

こども観察会

2017-01-06 01:24:18 | 観察会
こども観察会

写真はすべて被撮影者の了解を得て公開しています。

<子供にも見せようか>
 3月から始めた玉川上水の観察会も12月まで続け、並行して進めた調査でいろいろなことがわかってきました。中でも津田塾大学のタヌキについては意外なこともわかってきたし、その調査そのものの楽しみも共有してきました。そんなとき、この活動の中心的存在であるリー智子さんから、津田塾大学のタヌキについて子供に体験させることはできないだろうかという相談を受けました。私は半生を動植物を調べることに費やしてきましたが、それを通じて覚えたことや考えたことを子供たちに伝えたいという思いがあるので、よろこんで引き受けることにしました。津田塾大学にお願いしたらありがたいことにご快諾を得ることができました。そして次のような案内文を作りました。



 子供たちに声をかけたのが遅かったためにあまり集まりがよくなかったので、私自身の孫やその友達などにも声をかけてなんとか観察会ができそうな人数になりました。

<観察会の日>
  1月6日、就学前から6年生までの17人の子供たちと、保護者とスタッフ21名もの予想以上の人数が集まりました。ちょっと寒かったのですが、快晴の気持ちよい天気になりました。初めて出会う人が多いので、白いガムテープに名前を書いて胸に貼ってもらいました。
 津田塾大学は正面に古い様式の本館があり、その前に広々とした芝生があります。はじめにそこでタヌキについての説明をしました。
「こんにちは。今日はこの津田塾大学でタヌキのことを調べます。私は高槻先生といいますが、タヌキの糞を調べているので、今日は「タヌフン博士」という名前にします。」

 


タヌキの説明をする(撮影:高野)

 正月に紙粘土で作ったタヌキのお面も使って少し説明をすることにしました。
「みなさんの家ではイヌやネコ飼っているかもしれません。イヌやネコは食べものを人がくれますが、タヌキは自分で探して生きています。こういう動物を野生動物といいます。野生動物はふつう山などにすんでいますが、実はこの大学の中にもすんでいることがわかりました。
 どうしてわかったかというと2つのことを調べたからです。ひとつはカメラを置いておくと、前を通った動物が写るので、それで確認しました。もうひとつは、タヌキはトイレのように決まった場所でウンチをするのですが、それがこの大学の中にあったんです。
 なぜかというと、ちょっと見てください。この大学には大きな木がたくさんあって林になっています。まわりには道路があったり、家がたくさんありますから、タヌキにとっては暮らしにくいのです。でも、この大学の中は気が多いタヌキがくらすのにつごうがよいところみたいなんです。」
 そういう説明をしたあと、記念撮影をしました。


集合写真(高野)

 それから、キャンパス内を歩いて移動しました。正月休みなので大学はひっそりしていました。グランドを経由してタメフン場に向かいました。


タメフンを目ざしてグランドを横切る(高野)

<タメフンを見る>
 タメフン場はわかりやすいように赤いビニールテープをつけてあります。そこに案内すると、子供たちは初めて見るタヌキの糞を興味深げに見ていました。


タメフンを説明する(高野)

 分析用に糞を拾うことにしました。私はいつもするように、ゴム手袋をし、それからポリ袋を取り出しました。
「大きい子にお願いだけど、ポリ袋にこのペンで2017.1.6と書いて、その下に1と書いてくれる?動物や植物を拾ったりするときは、必ずいつ、どこで拾ったかがわかるように、書いておくんだよ。今日はここでしか拾わないから場所は書かなくていいよ。それから山を歩いていると、ほかの動物の糞を拾うこともあるから、そのときは動物の名前も書いておかないといけないね。」
 ポリ袋に必要情報を書いてもらい、中に糞を入れました。


フンを拾う(高野)

 それからセンサーカメラのデータをノートパソコンでチェックしたら、たくさんのタヌキが写っていました。子供たちも強く反応していました。
「たしかにここに来ていたんだ」
という感覚は、いつも見ているテレビの映像などとは違うものを与えたと思います。
 その後、津田梅子の墓所を見てから、もう一カ所のタメフン場に向かいました。途中にマンリョウの実がなっていたので、説明しました。
「ここに赤い実がなってます。緑の中に赤い実があると目立つでしょう。植物はタネを動物に運んでもらうために「ここにおいしい実がありますよ」と宣伝してるんだよ。鳥はこれを見つけておいしいと思って食べるけど、植物はサービスしてるわけはなくて、おいしい実で鳥をひきつけて中にあるタネを運んでもらうのが目的なんだね。これはマンリョウというんだけど、ほかにも赤くてこれくらいの実があって、みんな鳥に運んでもらってタネを広げているんだ。ほかんも紫色や黒などの実もあるんだよ。」



マンリョウの果実の説明(豊口)

<もう一箇所のタメフン場>
 タメフン場にアクセスする前に笹薮を進みました。ここのササはクマザサといい高さが大人の腰くらいなので、大人は先を見ながら進めますが、子供にとっては自分の背丈くらいあるので、景色は見通せません。私たち大人もチシマザサ(ネマガリダケ)のように高さが2メートルを超えるようなササの中を進むときは、気持ちが全然違って圧迫されたような気持ちになります。子供たちにとっては藪の中を進むのは、ふだんあまり経験しない感覚だったと思います。宮崎駿の「トトロ」に藪の中を進んで不思議な世界に入る場面がありますが、ちょっとあの感じだったかもしれません。


笹薮を進む(高野)

 そこのタメフン場にも新しい糞があり、いくつか採集しました。ここでもカメラの確認をしたところ、何度かタヌキが来ていました。パソコンを開いて映像を見ると、子供たちが自分も見たくて、パソコンを覗き込んでいました。


センサーカメラのデータを確認する(高野)

 このときの映像が印象的だったようで、とてもじょうすな絵を描いた子がいました。


木にとりつけたカメラと糞をするタヌキ (1年生 あかね)


 そこでも何個かの糞を拾ってポリ袋に入れました。それから、水撒きに使うホースのついた水道があるので、その水を借りて2個の糞をふるいの上で水洗しました。ホースは子供にもってもらいました。いつもはシャワー型のものを使うので、少しやりにくさがありました。フンを歯ブラシでほぐすと中身が出てきましたが、今はあまり果実を食べていないようで、小さなイネ科の種子しか確認できませんでした。種子が出ないときは、哺乳類の毛や鳥の羽毛が出ることが多いのですが、それも見当たりませんでした。糞の中身を見せるにはよくないタイミングだったようです。


糞を水洗する(高野)

<公民館へ移動>
  それから津田公民館に移動しました。広い部屋でこの人数だから、机がコの字型に並べてありましたが、やや広くて距離感がありました。
「タヌキはこのお面のように丸顔の印象があって、とくに漫画みたいに書くときはまん丸の顔に描かれます。実際こういう印象がありはすが、実はそれは頰にある毛が長くて「毛ぶくれ」しているからで、実は細長いんです。」
 と言って本物のタヌキの頭骨を取り出しました。
「タヌキは果実をよく食べますが、タヌキの糞からは、夏には昆虫、冬にはネズミや鳥などの骨や毛などが出てきます。だから雑食ですが、オオカミやライオンなどと同じ「食肉目」の仲間です、だからほら見てください、とても鋭くとがった歯が並んでるでしょう?実はもうひとつ骨の標本を持ってきました。シカです。シカは草食獣なので、葉をすりつぶすように、上が波打つようになっていて、これで顎を左右に動かします。ではタヌキとシカの頭を回すのでよくみてください。」
 といって頭骨標本を見てもらいました。目を丸くして眺めている子もいたし、デジカメを持参して写している子もいて、時代は変わったものだと思いました。

 
タヌキの頭骨を観察する(左:豊口、右:高野)


シカの頭骨を観察する(高野)

 津田塾大で水洗した糞から取り出したイネ科の種子と輪ゴムの切れ端をルーペで見てもらいました。同時に、これまで検出したカキやムクノキの種子、ゴム手袋の破片、チョコレートの包装紙なども見せた。子供たちはルーペを覗くのがおもしろいようすでした。

 
検出物の説明(高野)


ルーペを覗く(豊口)

 私はこれまで各地のタヌキの糞を分析して、輪ゴムやポロ袋などが出てくることを珍しいこととも思わなくなっていますが、あとで子供からの感想を読むと、このことに強く印象づけられたようです。考えてみれば人にとって食べ物とは清潔でおいしいものに決まっています。残飯や地面に落ちて汚れたものを食べるということが子供たちにとってはショックだったのかもしれません。
 プロジェクタを使ってセンサーカメラの結果を見なおすと、タヌキが来て糞をしているところが何枚も写っていました。ほかにもハクビシン、ネコも写っていましたし、朝にはシロハラやキジバトも来ていました。どうやらタヌキが運んだ種子を食べに来ているようで、もしそうならタヌキが母樹の下から移動させたものを、鳥がさらに拡散させるということで、おもしろい現象だと思いました。
 スライドを使っての解説も準備していたのですが、それよりも「ほんもの」を見てもらうことのほうが大切だと思い、時間も来たので、切り上げることにしました。
 終わる前に温めていたアイデアを披瀝することにしました。参加してくれる子供たちに何か思い出になるものを準備したいと思い、「認定証」と小さい子供用にタヌキの人形を作っておいたので、それを贈呈することにしました。「認定証」にはタヌフン博士から「タヌフン・ミニ博士を認めます」という文章を書きました。タヌキの人形は初めての試みだったのですが、今は軽くて質のよい紙粘土があるので、彩色もでき、作るのはなかなか楽しい作業でした。手でこねるので、もちろんひとつひとつ形が違うし、絵の具の塗り方も違います。底にはひとりひとりの名前を書いておきました。そのほうが「自分がもらったもの」という感じがすると思ったからです。


ミニ博士の認定証とタヌキの人形

 少し横道にそれますが、認定証の縁取りについて書いておきます。私は認定証の文章とイラストを決めたあと、縁取りをどうしようかと考えました。もともとパロディーのようなものですから、よくある賞状のように金色の鳳凰などの模様にすることもできないわけではないのですが、ああいう「できるだけ豪華らしくみせたい」というものでなく、感じのよいものにしたいと思いました。それで濃い青と薄いミルクコーヒーのような色を組み合わせた渋めのものにしました。
 私は「子供だまし」ということばが嫌いです。そこには「子供は単純で微妙なことはわかるはずがない」という見下しがあります。また子供は子供らしく原色のピンクや水色を組み合わせるというものよく見ます。書店で児童書のコーナーに行くと、気持ちが悪くなるようなどぎつい黄色に真っ赤な文字の本が並んでいます。目立てばよいといわんばかりです。
 これらに通底するのは、子供は色彩感覚も単純であり、目立つものに反応するに違いないという、やはり見下した精神です。だが、私はむしろ逆だと思います。大人なら茶碗の色など違っても食べ物の味が変わるわけでなしと考えますが、子供にとってはお気に入りの茶碗以外では食べたくない、あるいは食べられないと感じるものです。色や音に対する感性も鋭いものです。そのよい証拠に、子供は大人が勝手に「そうであろう」と思って作る子供だましのおもちゃより、本当に大人が使う道具で遊びたがるものです。それは子供たちが本物を見通す鋭い目を持っているからにほかならなりません。だからこそ、私は子供には本当によいものを見せるべきだと思うのです。そういう気持ちもあって「認定証」の枠の色はよく考えて選びました。

  さて、会場で「認定証」とタヌキのお人形を手渡すと、名前を呼ばれた子供は少し緊張気味に受け取っていました。大人からは暖かい拍手が沸き起こりました。


「認定証」を授与する(高野)

<まとめ>
 大学生を相手にしてきた私には小さい子供たちにどう接してよいのか自信がありませんでした。実際、今回の観察会ではタヌキそのものは見えないのですから、それほど劇的な「発見劇」があるわけでもなく、子供がどれほど興味をもったかも測り難いところがありました。ただ、フンを覗くところ、撮影結果をパソコンで確認するときなどには明らかに興味を示していたし、糞を拾うところや水洗するところは「へえ、こういうことをするんだ」という顔をしていたのは確かです。それに私が子供にする説明を聞く大人が興味を示してくださったので、そのことが子供に「なんだかおもしろがっているみたいだ」と感じさせたように思います。
 後述する参加者の感想を読むと、タヌキそのものが見られなくても十分に学ぶものがあったこと、その要素として本物を見せることが力を発揮すること、大人の「配慮」よりも本物に接すれば子供は「通訳なし」に直接感じ取るということ、大人が本気で取り組んでいる姿勢を見せることがよい、というようなことがうかがえました。大いにほっとしたのは、子供に接する技術的なことを知らなくても、生き物に向き合って来た私の半生そのものが子供に与えるものがあると言ってもらえたことで、ちょっと自信を持てたように思います。
 なんといっても、東京の市街地の中の緑地に野生動物のタヌキがいるということは驚くべきことであり、よろこばしいことでもあります。子供たちにそのことを直接話すことはしませんでしたが、子供たちの心に小さな種子を残せたら、とても価値のあることだと思いました。

 帰り道、いつもの観察会とは違うほっこりした気持ちが私の胸を充たしていました。


付記:参加者の感想はこちら
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