玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

玉川上水4月の観察会

2016-04-01 04:32:22 | 観察会

4月10日の観察会。つい2週間前に見たときとは緑の量がまったく違い、木々の命が溢れているという感じだ。今回は参加者が10人以内でややベテランの人が多かったので、ゆっくり歩くことができた。

<明るい場所の植物>
 鷹の台のところにある鷹の橋から下(しも)つまり東に向かって歩いた。この辺りは木の状態がよく、緑地の幅も広いので、林内に生える植物がわりあいよく残っている。シュンランは盛りをすぎていたが、チゴユリが咲き始めていた。これらも林内に生える植物で、都市化すると消えてしまう植物のひとつだ。フデリンドウも愛らしい花を開いていた。

 
チゴユリ(左、棚橋さん撮影)とフデリンドウ

 そこから府中街道を横切ると左手(北側)に津田塾大学があるが、玉川上水沿いでは上の木が刈られていて、明るい一角がある。ここで次のような話をした。
 「そこにケヤキの切り株があります。ここはもともとさっき歩いてきたところのような薄暗い場所だったはずですが、この木を切ったので、明るくなったようです。今まであったチゴユリやシュンランなどとは違い、ハルジョオン、オオアラセイトウ、ノカンゾウ、タンポポなど、直射日光が当たるようなところに生える植物がびっしり生えています。」


明るい場所の植物(棚橋さん撮影)

「これはなんですか」
「あ、オニタビラコです。キク科です。こちらはノゲシで、これもキク科。」
「植物は一般に明るいほうが光合成ができますから、つごうがよいわけですが、植物によって違いがあり、「暗くても大丈夫」か「暗いとだめ」かがあります。こういうところに生えているのは「暗いとだめ」のほうで、ここにあるものではタチツボスミレなどはどちらにもありますが、ほかのものは林内にはありません。道端や空き地、草地などにしかないものです。林内にある植物は明るいとだめということはないのですが、こういう連中は生長がいいので、土地を占拠してしまい、林内の植物は入り込む余地がないというわけです。


タチツボスミレ(棚橋さん撮影)

 「逆に林内の植物は弱い光でも有効に利用できる能力があり、草地の植物が育つことができないところで、ゆうゆうと生きるという選択をしているということになります。」
 「玉川上水の価値はこういう林があるために林内種が温存されているとことにありますが、でもところどころにこういう明るいスポットがあることで、違う性質の植物群があり、全体として生物多様性が高くなっているといえます。さっきからキチョウがチラチラと飛んでいますが、こういうチョウは林にはいません。これから昆虫がいろいろ出てくると、花に訪れて受粉をしますが、花と昆虫の結びつきという点でもこういう明るい場所があることは重要です。」

<ムラサキケマンの花の作り>
 昆虫の受粉の話が出たところで、ムラサキケマンの話をした。
「ムラサキケマンの花をよく見ると、茎から柄が出て、その先に花がついていますが、先端という感じではなく、細長い花の途中を支え、かたかなの「イ」の字のように花が柄を軸にして斜めについている感じです。花の正面には模様があって、昆虫はここから蜜を吸いに入るのですが、蜜は柄の奥にある筒の奥にあります。この筒を「距」といいます。スミレやツリフネソウなどにもあります。」


ムラサキケマンの花。右側の距の手前部分をピンセットで取り除いたら、中に蜜があり、舐めたら甘かった。


スミレ(左, 2016.4.13 津田塾大学)とツリフネソウ(2008.9 富士山麓)の花。距がある。

「だから、細長い口をもつチョウやハチでなければ蜜が吸えません。ハエやアブは棍棒のような口で舐めるだけですから、こういう花からは蜜が吸えませんから、キンポウゲとかミツバツチグリのような皿のような花によく行きます。」


キンポウゲ(2015.6.14 乙女高原)、ミツバツチグリ(2015.5.22乙女高原)

 こういう説明をすると、学生の多くは、そういういろいろな花があるものだ、この人はいろいろ知ってるなあ、という顔をしてメモをとる。そして「暗記」をしようとする。理科とはそういう雑多な知識を覚えるもので、暗記する生徒がよい点をとるのだから、そういう感覚が育つのは当然だ。だが、今日の参加者はちょっと歳を食った人が多かった。私の説明を聞いて納得はしながらも、少し考えて、
「なんのためにそういう意地悪なことをするんですか。そうすると来られる昆虫が限定されて、よくないんじゃないですか。」
これはたいへんまっとうな質問だ。確かにそうである。
「そこがおもしろいところで、皿型の花は「誰でもいらっしゃい」ですから、ハエやアブは来るが、彼らは次になんの花に行くかわからない、いわば頼り切れない花粉運び屋です。せっかくの花粉がほかの花に運ばれるのは困るわけです。その点、たとえばマルハナバアチは記憶力がよいらしく、その日、ムラサキケマンに行くとなると、ほかの花があってもスルーしてムラサキケマンばかりを訪問するそうです。そうして一頭のハチをずっと追っかけた人がいるんですね。その人にも驚きますが(笑)。だから、特定の昆虫しか来させないが、来た昆虫は信頼できるスペシャルゲストなわけで、距をもつ植物はそういう選択をしたというわけです。」
「へえー」
「でね、これを私は一杯飲み屋と高級バーにたとえました。客数は多いが、たらふく飲んでも3000円くらいという一杯飲み屋は、客数をこなして稼ぎます。それに対して高級バーは客数は少なく、ゆっくり、ちょっとだけ飲んでも1万円(もっと高いか)。特定の客にしっかり払ってもらいます。仕事は楽(なにが楽なんだかよくわからんが)だが、設備費や人件費がかかる。どちらがよい商売かは別として、そういう違いがあるということです。これを高級フランス料理レストランとファストフード店にたとえた人もいます。」
「おもしろーい!」

<合弁花と離弁花>
「ついでにここで花の作りのことを話しておきます。花を合弁花と離弁花に分けることがあります。」
「どういう字?」
ノートに字を書く。
「なんだか音だけ聞いても字がわかんなくて。」
「合弁花の代表はアサガオです。ラッパみたいで花びらが別れていませんね、これが合弁花、花弁が合わさっているということです。これに対してサクラの花はハラハラと散りますが、これは花びらが別れているからです。これが離弁花です。」
うなずく人が多い。けっこう植物がわかる人もいる。
「で、さっきみたタンポポやノゲシなどのキク科はどっちでしょう?」
「どっち?離弁じゃない?」
「キクといえば、野菊とかコスモス、フランスギクなど、真ん中に黄色い丸いところがあって、外側に花びらが開いているというのがあります。こういうのを見るとサクラなどと同じように別れた花びらがあるように思えます。」
「そうだよね」
「でも、あれは花の集合なんです。」
といってノートに絵を描く。
「実は中央の黄色い部分には細い筒状の花がたくさんありますが、このひとつひとつが独立した花なんです。筒みたいだから「筒状花」といいます。それをとりかこむように外側にある花だけが上の部分にベロみたいな花びらをもつので、これを「舌状花」といいます。キクの花はこうして花の集まり全体でひとつの花のようにして昆虫を引きつけるわけです。だから、キク科はパッと目と違って合弁花なんです。」
「そうだったんだ。」

<植物の利用など>
 この日、少し思いがけない話題展開もあった。アケビが花を咲かせていたので、だいたいそのあたりを指差しながら
「このあたりにいいものがあります。なんでしょう?」
と言ったが、なかなか見つからない。私は視力はよくないのだが、自然の中から花とか虫とかを見つける目はかなりよくて、なにかそちらから信号を出しているような感覚がある。誰も見つけないので、
「はい、あれがアケビです。」
「アケビって、あの大きな実なるやつ?」
「そうです、あのアケビで、ちょうど向かいが津田塾大ですが、このキャンパスにいるタヌキの秋のフンからアケビの種子が出てくる可能性大です。」
「こんな花してるんだ、けっこうきれいかも。」


アケビ

「きれいですよ。それと葉が5枚に別れていますが、これで一枚の葉、複葉です。」
と説明していたら、ウコギがあったので、これも同じように5枚に別れた複葉だが、小葉に柄があるかないかが違うと説明した。


アケビとウコギの葉

「ウコギって材を筆みたいに使うんです。」
と美術関係者らしい発言があった。カマツカがつぼみをつけていたので説明をしていたら、
「カマツカって、ウシコロシでしょう。」
「そう、よく知ってますね。叩いてウシが殺せるほど硬いっていうことだそうですよ。」
「私は石彫をしてたんだけど、そのときのハンマーの柄がカマツカだと聞きました。」
「カマツカって、鎌の柄(つか)ってことじゃない?」
「あっそうか。硬いってことね。」
「そういえば、ナナカマドという名前も、材が硬いので7回かまどに入れて焼いても燃え尽きないということらしい。」
「それにしても、この木は硬い、これは硬くないって、昔の人はいろいろ試して見つけていったんだよね、すごいもんだ。」
「だから年寄りが尊敬されたわけだ。人生の経験が知恵として伝わったんだから、年寄りが若造は知らないことをたくさん知っていたわけだ。いまは、スマホとかタブレットとか新しいものがどんどん出てくるから、若者のほうが物知りみたいになって年寄りが尊敬されなくなってしまってる。困ったもんだ。」
 こういうふうに、植物学的な話題よりも人による植物の利用とか、名前の由来に興味をもつ人もいる。
「先生、食べられる植物と食べられない植物の見分け方ってないんですか?」
という人もいた。
「それは無理です。キノコなんかいかにも食べられそうでも毒のもあるし、ハデハデで毒キノコみたいでも食べられるのもあるし。」
「そっか。」
「でも、野生の植物を食べられるかどうかっていう目で見る感覚は重要だよね。いまは食材というものはスーパーで買うものっていうことになってしまってるでしょう。それが極端になりすぎている。本来は自然の中から探したわけで、日本だって少し前までは、野草を食べたり、魚をとって食べたりしてたわけだから。」
「関野先生の「一からカレー」プロジェクトはそういうことに挑戦しようってわけでしょ。いまはカレーを「作る」というのが米と肉とカレーのもとを買ってきて、炊いて、加熱することになっているけど、本当に作るっていうことの意味を考えると、米を育て、鶏を飼い、カレーのもとはどこまで遡るか知らないけど、そういうことをしてみる。それによって、食べることの根本に立ち戻るというのが、いかにたいへんなことであるかを実感しようというものでしょ、大事なことですよ。」
 植物をきっかけに話題が拡散、深化する。急ぎ足で通り過ぎる人が多いが、こういう時間の過ごし方もいいものだと思った。


解説をする(棚橋さん撮影)

あとでリーさんから参加者に向けてメールが届いた。
<リーさんより>
棚橋様
 写真とても綺麗に撮れてますね。送って頂き、有り難うございます。今日、もう一フデリンドウが見たくて、いってみました。でもみつかりませんでした。何度も往復したのですが見当たらず、がっかりして帰りました。玉川上水に、このような花が存在していること、全く知りませんでした。あの日は、とても貴重な一日でした。リー智子

<高槻より>
リー様、皆様
 フデリンドウは曇っていると花を閉じます。今日は晴れたり曇ったりだったから閉じていたために見つからなかったのではないでしょうか。現地でも言いましたが、あの独特のさわやかな薄紫色はカメラでなかなか再現できないのですが、棚橋さんの写真はよく出ていました。

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