破戒
<其時一生の戒を思出した。あの父の言葉を思出した。『たとへいかなる目を見ようと、いかなる人に邂逅(めぐりあ)はうと、決して其とは自白(うちあ)けるな、一旦の憤怒(いかり)悲哀(かなしみ)に是戒(このいましめ)を忘れたら、其時こそ社会(よのなか)から捨てられたものと思へ。』斯う父は教へたのであつた。『隠せ』――其を守る為には今日迄何程(どれほど)の苦心を重ねたらう。『忘れるな』――其を繰返す度 . . . 本文を読む
<「ジム、あなたはいい子、よく私(わたくし)の言ったことがわかってくれましたね。ジムはもうあなたからあやまって貰(もら)わなくってもいいと言っています。二人は今からいいお友達になればそれでいいんです。二人とも上手(じょうず)に握手をなさい。」と先生はにこにこしながら僕達を向い合せました。僕はでもあんまり勝手過ぎるようでもじもじしていますと、ジムはいそいそとぶら下げている僕の手を引張り出して堅く握っ . . . 本文を読む