「たしかに飼ってみなければ知ることのできない事もあるし、これから犬を飼おうとしているむつきからしてみれば、お父さんは弱虫とうつるかもしれない。でもね・・・。」
「うん。」
「生き物を飼うということはどういうことなのか、よく考えてほしかったんだ。」
僕はようやくお父さんがどうしてこんな難しい問題を出したのかが分かった。
「犬を飼いたければ、ペットショップに行ってお金を払えば好きな犬を飼う事が出来るし、子犬が出来て飼えないからというお宅から貰い受ける事も出来る。」
「うん。」
「僕達からしてみれば、それはとても簡単な事だけれど、犬にとっては重大な事なんじゃないかな。大事にされるか、粗末に扱われるかが決まるんだから犬にとってはとても不安なんじゃないかと思うんだよ。」
「不安? 」
「うん。不安だよ。それが如月先生の言っていた気持ちというものだよ。」
「ああっ。そういうことなんだ。」
「気持ちと言ってもね、僕達人間は、自分の都合のいい事だけを見ようとして、都合の悪い事は気がつかないようしてしまう所がある。だから、犬が抱く怒りや不安、恐怖といった気持ちはわからないようにしようとするし、犬は人の言葉を持たないから、いっそう理解しようとしないんだと思うんだ。」
「・・・。」
「本当に飼い犬の事を家族の一員のように想い何を考えているのか理解しようと努めている人もいるけれど、そこまで考えている人は少ないんじゃないかなと思う。」
「そうなの? でも、犬を飼っている家っていっぱいあるよ。」
「むつき。毎年、保健所に持ち込まれる犬の数ってどれくらいか知ってる? 」
「えっ。そんなのしらない。保健所って何? 」
「保健所って言う所はね、家で飼えなくなった犬や猫を処分する所なんだよ。」
「処分!!」
「おどろいた? 処分というんだよ。お父さんはこの響きがとても嫌いです。でも、年に8万匹の犬がこの日本という国で処分として扱われているんだよ。」
「・・・・。」
「でも、処分される命は僕達と同じ命だと思うんだ。」
「うん。」
「それでね。どうして保健所に持ち込まれるのかは分からないけれど、持ち込むのは人間なんだね。」
「・・・。」
「それは、少なくとも8万人の人が犬の気持ちや生き方を考えていないという事でもある。」
「・・・生き方? 」
「うん。生き方。まず、人と犬は時間の流れ方が違う。そこをよくわかっていなければいけないと思うんだよ。」
「うん。」
「犬も人と同じで、次第に年をとって体が動かなくなってゆくけれど、人よりもうんと早い。だから子犬の時のように動かなくなった愛犬は受け入れがたいかもしれないし、そんな姿を見ていて辛くなるから、目をそらしたいと思う気持ちもわいてくるかもしれない。でも、犬からしてみれば、最後まで一緒に過ごしてきた人たちのそばに居続けたいと思っているんじゃないかなと思うんだ。」
「うん。」
「その気持ちが分かるのなら、その先に待つ死というものも飼い主が背負わなければいけないという事でもあると思う・・・。ちがうかな。」
「うん。」
「犬は飼い主との思い出を、僕たちが思っている以上に大切に思っているかもしれない。だから、命が絶えるまで、共に生きてゆかなければいけないと思うんだよ。そして、死を迎えても悲しまず、苦しまずに受け入れることが家族の役割だと思うんだ。」
「・・・。」
「もちろん、居なくなった時の淋しさはあるけれど、それにとらわれずに僕たちは生きていかなければいけない。そう言う事をきちんとわかった上で犬と共生してゆく、それが犬と人との正しい関係だと思うんだ。」
「う~ん。よくわからないよ。」
すると、それまで話を聞き入っていたお母さんが
「犬は犬であるという事を忘れない事。そして寿命は人より短いと言うこと。命があると言うことは僕達と一緒。犬は私達みたいに話せないけれど、犬にも気持ちがあると言うことを忘れて、僕達の都合で飼ってはいけないと言うことよ。」
「そういうことなんだ。考えもつかなかった。」
「お母さん正解です。」
「へへっ。どんなもんですか。」
お母さんが笑っている。お父さんもうれしそうです。
「いいかい。犬はおもちゃとはちがうんだ。ほしくなったら、お金を出して買えるかもしれないけれど、いらなくなったからといって、粗大ごみに出すことはできない。もしできるとしたら、それは命と言うものを考えていない。命は捨てられない物。尊いものなんだ。それはわかるね? 」
「うん。」
「今の僕たちは奇跡的に豊かな世の中で生きているから、犬を飼う事が出来るんだよ。でもね、豊かであれば豊かであるほど、命もお金で買えるという、とてもひどい考え方をする人がでてくるんだよ。でも、それは特別な感情ではなくて、誰でもどこかに持っている気持ちでとても危険な事なものなんだ。その事をわかっていてほしいのです。それがわかったうえで、犬が飼いたいと思うのなら、お父さんもお母さんも賛成です。」
僕はすこしうれしくなった。先生の言っていた事も少し分かるような気がした。
「で、むつき。どうしますか?」
「・・・少し考えさせて。」
「いいよ。待っているよ。」
「ところで、お父さんは如月先生と知り合いなの。」
「おおっ。どうしてそれを。」
お母さんがまた笑っている。
「ほらほら、お父さん。大変な質問だわねぇ。」
「いやだなぁお母さん。如月先生はね。大学生の時の後輩です。一緒に勉強したんだよ。」
「へぇぇ。じゃあお父さんも先生なの?」
「はははっ。先生じゃないよ。」
少し弱った顔してまたお茶を飲んでいる。その様子を見てお母さんも笑っている。
「参ったなぁ。それはまたいずれ説明するよ。」
お父さんは困っていたけれど、なんだかとても嬉しそうだった。
「うん。」
「生き物を飼うということはどういうことなのか、よく考えてほしかったんだ。」
僕はようやくお父さんがどうしてこんな難しい問題を出したのかが分かった。
「犬を飼いたければ、ペットショップに行ってお金を払えば好きな犬を飼う事が出来るし、子犬が出来て飼えないからというお宅から貰い受ける事も出来る。」
「うん。」
「僕達からしてみれば、それはとても簡単な事だけれど、犬にとっては重大な事なんじゃないかな。大事にされるか、粗末に扱われるかが決まるんだから犬にとってはとても不安なんじゃないかと思うんだよ。」
「不安? 」
「うん。不安だよ。それが如月先生の言っていた気持ちというものだよ。」
「ああっ。そういうことなんだ。」
「気持ちと言ってもね、僕達人間は、自分の都合のいい事だけを見ようとして、都合の悪い事は気がつかないようしてしまう所がある。だから、犬が抱く怒りや不安、恐怖といった気持ちはわからないようにしようとするし、犬は人の言葉を持たないから、いっそう理解しようとしないんだと思うんだ。」
「・・・。」
「本当に飼い犬の事を家族の一員のように想い何を考えているのか理解しようと努めている人もいるけれど、そこまで考えている人は少ないんじゃないかなと思う。」
「そうなの? でも、犬を飼っている家っていっぱいあるよ。」
「むつき。毎年、保健所に持ち込まれる犬の数ってどれくらいか知ってる? 」
「えっ。そんなのしらない。保健所って何? 」
「保健所って言う所はね、家で飼えなくなった犬や猫を処分する所なんだよ。」
「処分!!」
「おどろいた? 処分というんだよ。お父さんはこの響きがとても嫌いです。でも、年に8万匹の犬がこの日本という国で処分として扱われているんだよ。」
「・・・・。」
「でも、処分される命は僕達と同じ命だと思うんだ。」
「うん。」
「それでね。どうして保健所に持ち込まれるのかは分からないけれど、持ち込むのは人間なんだね。」
「・・・。」
「それは、少なくとも8万人の人が犬の気持ちや生き方を考えていないという事でもある。」
「・・・生き方? 」
「うん。生き方。まず、人と犬は時間の流れ方が違う。そこをよくわかっていなければいけないと思うんだよ。」
「うん。」
「犬も人と同じで、次第に年をとって体が動かなくなってゆくけれど、人よりもうんと早い。だから子犬の時のように動かなくなった愛犬は受け入れがたいかもしれないし、そんな姿を見ていて辛くなるから、目をそらしたいと思う気持ちもわいてくるかもしれない。でも、犬からしてみれば、最後まで一緒に過ごしてきた人たちのそばに居続けたいと思っているんじゃないかなと思うんだ。」
「うん。」
「その気持ちが分かるのなら、その先に待つ死というものも飼い主が背負わなければいけないという事でもあると思う・・・。ちがうかな。」
「うん。」
「犬は飼い主との思い出を、僕たちが思っている以上に大切に思っているかもしれない。だから、命が絶えるまで、共に生きてゆかなければいけないと思うんだよ。そして、死を迎えても悲しまず、苦しまずに受け入れることが家族の役割だと思うんだ。」
「・・・。」
「もちろん、居なくなった時の淋しさはあるけれど、それにとらわれずに僕たちは生きていかなければいけない。そう言う事をきちんとわかった上で犬と共生してゆく、それが犬と人との正しい関係だと思うんだ。」
「う~ん。よくわからないよ。」
すると、それまで話を聞き入っていたお母さんが
「犬は犬であるという事を忘れない事。そして寿命は人より短いと言うこと。命があると言うことは僕達と一緒。犬は私達みたいに話せないけれど、犬にも気持ちがあると言うことを忘れて、僕達の都合で飼ってはいけないと言うことよ。」
「そういうことなんだ。考えもつかなかった。」
「お母さん正解です。」
「へへっ。どんなもんですか。」
お母さんが笑っている。お父さんもうれしそうです。
「いいかい。犬はおもちゃとはちがうんだ。ほしくなったら、お金を出して買えるかもしれないけれど、いらなくなったからといって、粗大ごみに出すことはできない。もしできるとしたら、それは命と言うものを考えていない。命は捨てられない物。尊いものなんだ。それはわかるね? 」
「うん。」
「今の僕たちは奇跡的に豊かな世の中で生きているから、犬を飼う事が出来るんだよ。でもね、豊かであれば豊かであるほど、命もお金で買えるという、とてもひどい考え方をする人がでてくるんだよ。でも、それは特別な感情ではなくて、誰でもどこかに持っている気持ちでとても危険な事なものなんだ。その事をわかっていてほしいのです。それがわかったうえで、犬が飼いたいと思うのなら、お父さんもお母さんも賛成です。」
僕はすこしうれしくなった。先生の言っていた事も少し分かるような気がした。
「で、むつき。どうしますか?」
「・・・少し考えさせて。」
「いいよ。待っているよ。」
「ところで、お父さんは如月先生と知り合いなの。」
「おおっ。どうしてそれを。」
お母さんがまた笑っている。
「ほらほら、お父さん。大変な質問だわねぇ。」
「いやだなぁお母さん。如月先生はね。大学生の時の後輩です。一緒に勉強したんだよ。」
「へぇぇ。じゃあお父さんも先生なの?」
「はははっ。先生じゃないよ。」
少し弱った顔してまたお茶を飲んでいる。その様子を見てお母さんも笑っている。
「参ったなぁ。それはまたいずれ説明するよ。」
お父さんは困っていたけれど、なんだかとても嬉しそうだった。