田中雄二の「映画の王様」

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『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』

2021-03-13 07:32:57 | 新作映画を見てみた

シュールで不条理な風刺寓話を日本の土壌で展開

 国際的に高く評価されているという池田暁監督作を初めて見た。

 舞台は、いつの時代でもない、古びた架空の街。この街では、川の向こう岸の街と、目的も分からないまま、何十年も戦争を続けている。毎日、朝9時から夕方5時までが戦争の時間だ。

 兵隊として暮らす露木(前原滉)は、ある日、向こう岸から聴こえてきた音楽に心を引かれる中、音楽隊へ転属するが、街に新しい兵器と部隊が来るという噂が広まる。

 独特の間と抑揚のないセリフ回しに最初は大いに戸惑うが、慣れてくると、まるで泥沼にはまるように、ずるずるとその不思議な世界に引きずり込まれていく。

 こういうタイプの映画は、例えば、ルネ・クレールの『最後の億萬長者』(34)、フィリップ・ド・ブロカ『まぼろしの市街戦』(66)、オタール・イオセリアーニの『皆さま、ごきげんよう』(15)などがあるが、最も雰囲気が似ているのはロイ・アンダーソンの『さよなら、人類』(14)だろうか。

 そうしたシュールで不条理な風刺寓話を日本の土壌で展開させた点が新しいと感じた。もっとも、池田監督自身は、つげ義春や水木しげるの世界を目指したらしいのだが。

 脇役も、片桐はいり、嶋田久作、きたろう、竹中直人、石橋蓮司とくせ者揃い。正直なところ、こんな人たちがいる街には絶対に住みたくないと思わされた。露木がトランペットで吹く「美しき青きドナウ」が印象に残る。

【インタビュー】『皆さま、ごきげんよう』オタール・イオセリアーニ監督
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/5b0742adc7505c9303c87445ad518d92

『さよなら、人類』ロイ・アンダーソン
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/3f70605b7fd92d3d1be4c97dd30bc01b


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