田中雄二の「映画の王様」

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『リコリス・ピザ』

2022-07-21 14:51:39 | 新作映画を見てみた

『リコリス・ピザ』(2022.7.20.TOHOシネマズ錦糸町)

 ポール・トーマス・アンダーソン(通称P.T.A)監督が、1973年のアメリカ、サンフェルナンド・バレーを舞台に描いた青春物語。

 カメラアシスタントで25歳のアラナ(アラナ・ハイム)と高校生俳優のゲイリー(クーパー・ホフマン)の恋模様を描く。ハイムは姉妹バンドの一員、クーパーは、P.T.A映画の常連だったフィリップ・シーモア・ホフマンの息子だそうだ。

 他にショーン・ペン、ブラッドリー・クーパー、ベニー・サフディらが出演。音楽は全てのP.T.A作品を担当しているレディオヘッドのジョニー・グリーンウッド。アカデミー賞で作品、監督、脚本の3部門にノミネートされた。

 P.T.Aの映画では、『インヒアレント・ヴァイス』(14)を見た際に、「登場人物は皆変人とくる。さすがにこれを2時間半近くも見せられると毒気に当てられたような気分になるが、見終わった後は妙に後を引く。この不思議な感覚こそがP.T.A映画の魅力なのか…」と書いた。

 この映画からも似たような印象を受けたが、決して見た目のよくない2人の煮え切らない恋模様の話で2時間以上も持たせてしまう不思議なパワーには恐れ入った。

 さて、この趣味趣味映画の落穂拾いをしてみよう。全編に73年の流行や音楽がちりばめられているのだが、当時、日本から憧れて見ていたアメリカと、実際のアメリカとではこんなに違ったのか…ということがよく分かった。

 そもそも、タイトルの「リコリス・ピザ」とは、アナログレコードを表すスラングなのだとか。これがまず分からなかった。で、主人公のゲイリーのモデルは実在のプロデューサーのゲイリー・ゴーツマンだという。

 ショーン・ペンが演じた俳優のジャック・ホールデンのモデルはウィリアム・ホールデンで、トム・ウェイツが演じた彼のなじみの監督のモデルはサム・ペキンパーか。2人が酔って叫ぶ「トコ=サンの橋」は、ホールデンが主演した『トコリの橋』(54)のこと。ホールデンはペキンパー監督の『ワイルドバンチ』(69)に出演しているから実際も旧知の間柄。これは分かった。

 川本三郎氏は、ペキンパーではなく、『トコリの橋』を監督したマーク・ロブソンだと書いている。どちらなのかP.T.Aに聞いてみたい。

 ブラッドリー・クーパーが怪演したジョン・ピータースはバーブラ・ストライサンド主演の『スター誕生』(76)のプロデューサー。で、クーパーは、レディ・ガガ主演の『アリー/スター誕生』(18)を監督し、出演もしたから、これは二重のパロディか。それにしても、いろいろと恥ずかしいこともバラされてバーブラは怒らなかったのだろうか。

 アラナがボランティアとして手伝う市長候補(ベニー・サフディ)の選挙事務所を見つめる謎の男のモデルは、『タクシードライバー』(76)のトラビス(ロバート・デ・ニーロ)だろう。

 で、ポール・マッカートニー&ウイングスのアルバム『バンド・オン・ザ・ラン』(73)から「レット・ミー・ロール・イット」が流れるが、最後に映る映画館の上映作品は、ポールが音楽を担当した『007/死ぬのは奴らだ』(73)とチャールズ・ブロンソン主演の『メカニック』(72)だった。

 他にもまだいろいろとあるだろう。こうしたディテールを見付けるのも、P.T.A映画の楽しみ方の一つではある。


『インヒアレント・ヴァイス』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/7a141eba995e331d06829cb00347cc86


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