『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』(2023.5.2.東宝東和試写室)
1980年、ニューヨーク。公立学校に通う12歳の少年ポール(バンクス・レペタ)は、PTA会長を務める教育熱心な母エスター(アン・ハサウェイ)、働き者で厳格な父アービング(ジェレミー・ストロング)、私立学校に通う優秀な兄テッドと共に何不自由なく暮らしていた。
だが、近頃ポールは家族に対していら立ちと居心地の悪さを感じており、良き理解者である祖父のアーロン(アンソニー・ホプキンス)だけが心を許せる存在だった。
想像力豊かで芸術に関心を持つポールは学校での集団生活にもなじめず、クラスの問題児である黒人のジョニー(ジェイリン・ウェッブ)と仲良くなる。ところがある日、ポールとジョニーが犯したささいな悪事がきっかけで、2人の運命は大きく分かれることになる。
ジェームズ・グレイ監督が80年代初頭に通っていたキーフォレスト校での体験を基に描いた半自伝的映画。内省的な、少年の成長物語で、ユダヤ人移民や黒人への差別の様子を盛り込み、人生とは不公平で不条理なものだと結論付ける。全体的に苦くつらい印象を受けるが、同時に飾り気のないとても真面目な映画だとも思う。
最近、ケネス・ブラナーが『ベルファスト』(21)で、スピルバーグも『フェイブルマンズ』(22)で、自身の少年時代を描いたが、この映画同様、決して美化せず、甘いノスタルジーにも終始せず、自身の心の屈折、家族や身内の恥部、差別などもきちんと描き込んでいた。
これは、ある意味、自伝映画を撮ることで自己解放をしているようにも思えるが、それに付き合わされる観客は、どう反応したらいいのか、戸惑うところがある。この映画にもそれを感じた。
80年らしい小ネタを三つ。
テレビでロナルド・レーガンが大統領になるところが映り(ポールの家族は反対の態度を示す)、ポールが転校した私立学校の関係者としてドナルド・トランプの父と姉も嫌味な形で登場する。この辺り、グレイ監督の政治心情が反映されているようで面白かった。
ポールとジョニーの会話の中に、ビートルズ再結成の話題が出たが、この年の暮れにジョンが射殺されるのだから、この会話もグレイ監督が意図的に入れたものだろう。
ポールが壁にボールをぶつけながら言う名は、当時のニューヨーク・ヤンキースのエースで、ルイジアナ・ライトニングと呼ばれた左腕ロン・ギドリー。