田中雄二の「映画の王様」

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『ラストナイト・イン・ソーホー』

2021-10-18 09:22:09 | 新作映画を見てみた

『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021.10.14.TOHOシネマズ日本橋)

 『ベイビー・ドライバー』(17)のエドガー・ライト監督によるタイムリープ・ファンタジーホラー。全編に、1960年代のブリティッシュ・ポップスが流れる。

 60年代に憧れ、ファッションデザイナーを夢見て、ロンドンのソーホーのデザイン専門学校に入学したエロイーズ(トーマシン・マッケンジー)は、寮生活になじめずアパートで一人暮らしを始める。

 だが、夢の中で60年代のソーホーで歌手を目指すサンディ(アニヤ・テイラー=ジョイ)に出会い、その姿に魅了されたエロイーズは、夜ごと夢の中でサンディの後を追うが、やがて体も感覚もサンディとシンクロし始め、次第に精神をむしばまれていく。

 ライト監督は、主人公が幻覚に惑わされるロマン・ポランスキー監督の『反撥』(65)や、霊媒師が登場するニコラス・ローグ監督の『赤い影』(73)の影響を口にしているようだが、それよりも、アルフレッド・ヒッチコックやブライアン・デ・パルマの諸作を思い起こさせるところがある。

 ちなみに、『赤い影』の音楽は、デ・バルマ作品でよく音楽を担当したピノ・ドナジオ。彼はダスティ・スプリングフィールドやエルビス・プレスリーがカバーして有名になった「この胸のときめきを」の作者でもある。

 ついでに、『赤い影』の原作はダフネ・デュ・モーリアで、ヒッチコックの『レベッカ』(40)『鳥』(63)の原作も彼女。というわけで、ぐるぐる回ると、この映画はヒッチコックやデ・パルマともつながる。

 パラレルワールドへのタイムトラベル、ファンタジー、ホラー、ミュージカルといった要素と、対照的な光と闇、懐かしさと新しさが混在する摩訶不思議な世界が現出するこの映画。

 それを彩るのは、60年代の音楽とファッションであり、実際に60年から活躍していたダイアナ・リグ、リタ・トゥシンハム、テレンス・スタンプも姿を見せるのだから念が入っているのだが、ただ60年代のロンドンをひたすら懐かしみ、礼賛するのではなく、その恥部や醜さもきちんと入れ込んでいる点が目を引く。

 さて、登場する曲は、ピーター&ゴードン(ポール・マッカートニー作)「愛なき世界」、ダスティ・スプリングフィールド(バート・バカラック作)「ウイッシン・アンド・ホーピン」、シラ・ブラック「ユーアー・マイ・ワールド」「恋するハート」(バカラック作)、ペトラ・クラーク「恋のダウンタウン」、ザ・フー「ヒート・ウェーブ」(後にリンダ・ロンシュタットがカバー)、ジェームズ・レイ「セット・オン・ユー」(後にジョージ・ハリスンがカバー)、サンディ・ショー「パリのあやつり人形」「恋のウェイト・リフティング」、ウォーカー・ブラザース「ダンス天国」、デイブ・ディー・グループ「ソーホーの夜」…。

 『ベイビー・ドライバー』の選曲もマニアックだったが、その点では、今回もまたすごかった。日本では比較的地味な存在だが、ビートルズ伝説にも登場するブラックをはじめ、スプリングフィールド、ショー、クラークら、当時イギリスで活躍した女性シンガーたちの人気の高さを垣間見た気がして、興味深いものがあった。

【インタビュー】『ベイビー・ドライバー』アンセル・エルゴート
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/0b9f5eafe953a153033b33693b34ca2d

カーチェイス版の『ラ・ラ・ランド』か!?『ベイビー・ドライバー』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/82de3be5a6111f03c215dec48cdc4fd3


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