田中雄二の「映画の王様」

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『カツベン!』

2019-08-31 12:24:18 | 新作映画を見てみた


 周防正行監督が、映画がサイレント(無声)のモノクロで、まだ活動写真と呼ばれていた大正時代を舞台に、活動弁士と呼ばれる映画説明者に憧れる染谷俊太郎(成田陵)の夢や恋を描く。活動弁士とは何ぞや、という観点から見れば、周防監督お得意のハウツー物の一種と言えなくもない。
 
 俊太郎の他、彼の幼なじみで後に女優になる梅子(黒島結菜)、弁士(永瀬正敏、高良健吾)、映画館主夫婦(竹中直人、渡辺えり)、映写技師(成河)、楽士(徳井優、田口浩正)、ライバル館主のやくざ(小日向文世)、その娘(井上真央)、その子分(音尾琢真)、活動写真好きの刑事(竹野内豊)など、多彩な人物が登場する。竹中の役名は今回も青木富夫だった。

 一方、実在の人物としては、「日本映画の父」と呼ばれる監督の牧野省三(山本耕史)、彼とコンビを組んでスターとなった目玉のまっちゃんこと尾上松之助、阪東妻三郎主演の『雄呂血』(25)を監督する二川文太郎(池松壮亮)らが登場し、『金色夜叉』『不如帰』『国定忠治』『椿姫』『十誡』『ノートルダムのせむし男』などの無声映画を再現するほか、オリジナルの映画も挿入される。
 
 ただ、弁士の語りの部分は口調やテンポをまねれば再現可能だが、笑いを取るべきドタバタのシーンは、サイレントのスラップスティックコメディを意識し過ぎた感があり、山田洋次の『キネマの天地』(86)で斎藤虎次郎の映画を再現した場面と同様の違和感を抱かされた。チャップリンやキートン、ロイドのような体技のまねができない上に、今の映画とはリズムもテンポも全くの別物なのだから、変な話、ただのコントのように映ってしまう。そういえば、ピーター・ボグダノビッチの『ニッケル・オデオン』(76)も成功作とは言い難かった。スラップスティックコメディの再現は難しいのだ。
 
 ラスト近く、窮余の一策で作られたフィルムのつきはぎ映画は『ニュー・シネマ・パラダイス』(88)のラストを思わせ、映画好きの心をくすぐられるところはあった。とは言え、そもそも、なぜ今、活動弁士を主人公にした映画を撮ろうと考えたのだろうか、とは思う。

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